骰子の眼

cinema

2014-06-05 12:20


『スター・ウォーズ』の元ネタ!?『ホドロフスキーのDUNE』

カンヌ国際映画祭のプレミア上映でホドロフスキーを泣かせたドキュメンタリ―!
『スター・ウォーズ』の元ネタ!?『ホドロフスキーのDUNE』
写真:荒牧耕司

webDICEで大特集中のホドロフスキー監督関連作、『ホドロフスキーのDUNE』がいよいよ今月6月14日(土)に公開となる。公開まで毎月発行されている"ホドロフスキー新聞"の最終号vol.3も本日より配布開始、こちらは紙での配布と並行してPDFでもダウンロードできるので是非チェックしてほしい。

『スター・ウォーズ』『エイリアン』など後のSF映画に多大な影響を与えたとされるアレハンドロ・ホドロフスキー版『DUNE』。一部のファンに伝説として語りづがれていたこの作品に再びスポットをあて、一本のドキュメンタリーとして未完の映画をある意味で"完成"させたのはアメリカ人監督、フランク・パヴィッチ。2013年の東京国際映画祭で上映された際に来日した監督のインタビューを掲載する。

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いろいろなバージョンの『DUNE』を無限に想像できるようにしたかった

── まずはこの映画を作るプロセスについて聞かせてください。

もともとホドロフスキーの映画のファンなんだけど、あるとき、彼が撮るはずだった『DUNE』のことを知って驚いた。ミック・ジャガー!?ダリ!?ピンク・フロイド!?これはドキュメンタリーを作らなきゃ!と思ったよ。それで、2010年の1月、ホドロフスキーのエージェントにメールをしたんだ。『DUNE』についてのドキュメンタリーを作りたい、ってね。しばらくしたら、なんと本人から返信が来たんだ!びっくりしたよ!でも、もし悪い返事だったら……と怖くて1週間くらいメールを開けなかった(笑)。やっと勇気を振り絞ってメッセージを開いたら、短いメッセージが書いてあった。「パリにおいで。話をしよう」と。それですぐにホドロフスキーの自宅に会いに行ったんだ。10分ほどの短いミーティングだったけど、ぼくの企画を話したんだ。彼はとてもオープンに話をしてくれたよ。「いいアイデアだ」と言ってくれて、この映画の制作についてOKをくれたんだ。

『ホドロフスキーのDUNE』
アレハンドロ・ホドロフスキー監督、映画『ホドロフスキーのDUNE』より

── ホドロフスキー作品との出会いは?

90年代前半だったと思うけど、当時アメリカでは、ホドロフスキーの作品は観られなかったんだ。彼がプロデューサーと喧嘩をしたからね。それでもどうしても観てみたくて、コピーのコピーのコピーの……6代目くらいのVHSを入手したんだけど、映像が汚すぎて観られなかった(笑)。その後、日本版のレーザーディスクを入手して、やっと『エル・トポ』を観たんだけど、今度は日本語字幕だしスペイン語もわからないから、何を言ってるかわからない……(笑)。とにかく、そんな風にして苦労してやっと彼の作品にたどり着いたんだ。

── 撮影はどんな感じで進んだのですか?ホドロフスキーは協力的でしたか?

初めて彼の家に行ったときは、オープンに話をしてくれたものの、とても物静かな感じだったよ。例の、『DUNE』のストーリーボード集が僕の前に置いてあって、すごく見たかったんだけど、「見ていいよ」とも言ってくれないし、どうしようかな…、と戸惑ったよ(笑)。しかし撮影を初めて、『DUNE』の話になると、それはそれはもう情熱的なんだ。彼はマイムをやっていたこともあって、やはり役者なんだよね。手の動きや表情を見てもらえばわかると思うけど。

『ホドロフスキーのDUNE』
自宅で『DUNE』についてインタビューに答えるアレハンドロ・ホドロフスキー

── ホドロフスキー的なキャラクターを演じていた部分もある?

そう思うよ。ただ、偽っているわけではなく、自然にパフォーマンスしているんだ。この映画の撮影中、ちょうどホドロフスキーは自身の新作『リアリティのダンス』の脚本を執筆中だったんだ。あるとき、ホドロフスキーの家に行くと、彼は机に向かって脚本を書いていた。それで、「撮影を始めます」と言ってインタビューを始めたら、とても情熱的に『DUNE』について話し始めた。パフォーマーとしてのホドロフスキーだね。そして、撮影が終わったらまた、机に向かって脚本を書く監督の顔に戻ったんだ。このように、切り替えがすぐできる人だったよ。

『ホドロフスキーのDUNE』
『DUNE』のストーリーボード表紙

メビウスの絵コンテはホドロフスキーのカメラなんだ

── 『DUNE』のストーリーボードを見て、どう思いましたか?

結局そのあと、ストーリーボードを全て見せてもらったんだけど(笑)、もう本当にすばらしい。感動したよ。シーン1から90まで、すべて詳細が書き込んであるんだ。カメラワークから人の動きまで、全て。ドキュメンタリーの中でホドロフスキーが言っていたけど、メビウスの絵コンテはホドロフスキーのカメラなんだ。

── この作品は、失敗の物語ではなく、勇気をもらえる映画になっていますね。

ホドロフスキーが大志についてハートとソウルに満ちた、力強い言葉で語っているのを聞くと、これを締めくくりにしなきゃという感じがしたんだ。このドキュメンタリーを失敗についての物語にしてしまったら、ホドロフスキーはとても怒ったと思う。『DUNE』は失敗ではない。ホドロフスキーがやったことは成功だし、大きな勝利だった。"映画として完成はしなかった"という部分には意味がない。すべての仕事は成され、クリエイティブな部分は全部でき、美しい本が作られた。すべての"ウォーリアーズ"たちはキャリアを伸ばし、成長し、転換点を迎えた。みんながホドロフスキーの刻印を受けたんだ。彼らが共有した、濃厚でクリエイティブな時間は糧になった。

その後、キューブリックや大勢のすごい人たちと、たくさん映画を作ってきたクリス・フォスですら、「映画人生における最高の経験は、今に至るまで『DUNE』だ」と言っている。「最初に組んだのがホドロフスキーだったのは不運だった」ともね。なぜなら、「監督ってみんなこうなんだ、好きなようにやらせてくれるし、すごいインスピレーションを与えてくれる、素晴らしい人なんだ」と思ってしまったから。でも、同じ経験は二度となかった。ホドロフスキーは特別なんだよ。監督としても、人間としてもね。

ホドロフスキーは、大志を持てと伝えた。うまくいかなくてもね。大切なのはやってみること、それが人生だ。つまり、映画作りは旅なんだ。旅をしながら人々に出会う。僕はまだその旅の途上にいるんだ。できてしまえば終わりではなく、まだ続きがあって、映画から与えられ続け、映画の影響で自分が変わり続ける。人間としてね。とても感謝しているよ。この圧倒的な物語、彼の人生における、最も大切な物語のうちの1つ、今まで語られなかった物語を、託してもらえたことにとても感謝している。永遠に感謝し続けると思う。

『ホドロフスキーのDUNE』
アレハンドロ・ホドロフスキーとメビウス

みんなの想像の中にそれぞれの『DUNE』があるというのがベストな形かもしれない

── このドキュメンタリーで、みんながそれぞれの『DUNE』を心の中に描くことができました。『DUNE』は完成されていないけれど、プロジェクトとして生き続けていく作品、完成されないことによって完成する作品なのかもしれないですね。

そう、それが僕が伝えたかったことの1つだ。物語としての『DUNE』は壮大な、とてつもなくスケールの大きい作品であり、映画として完成してしまうのはほとんど不可能な感じがする。みんなの想像の中にそれぞれの『DUNE』があるというのがベストな形かもしれない。それが、この映画の最後の部分でやろうとしたことだ。紙の上に描かれた画に少しだけ命を吹き込む。やりすぎずに、観客がそこから映画全体を想像できるような、かすかな命を吹き込んだ。観客はそこから、ホドロフスキーの『DUNE』や、ホドロフスキーと観客自身による『DUNE』など、いろいろなバージョンを無限に想像できる。アニメ版や、もう1つの実写版『DUNE』が完成されたら、限界が設けられてしまうかもしれない。『DUNE』は想像の中、空気の中に生きるべき物語かもしれないね。

── 完成した映画を観てホドロフスキー監督はどういう反応だったのでしょうか?

彼が初めてこの映画を観たのはカンヌ国際映画祭のプレミア上映だったんだ。僕の隣が奥様でその隣がホドロフスキー監督だった。緊張したよ。上映中も彼がどんなリアクションをするか、視界の端でずっと気にしていたんだ。そうしたら、映画の最後のほうで涙を拭いていたんだ!自分のイメージが映像化されていくことを見て感動したのかもしれないし、何十年と会っていないクリス・フォスやH.R.ギーガーが彼を讃えているのを聞いて感動したのかもしれない。とにかく、とても嬉しかった。そして上映が終わってから、彼に「どうでしたか?」と聞いたところ、一言こう言ってくれたんだ。「パーフェクト!」

── 東京国際映画祭での上映時には、泣いているお客さんもいましたね。

カンヌで初上映するまで、どう受け取られるか全く分からなかった。いい作品ができたという思いはあったよ。カンヌの審査も通ったし、自分でも気に入っていたからね。でもナーバスだった。実際の観客に観てもらうまでは何も分からない。でも上映が始まるとすぐ、観客がホドロフスキーにすっかり引き込まれてしまったのを感じたよ。みんな大笑いしたり、手をたたいたりしてた。初めて目にする光景だった。ダリのエピソードではわっと拍手が起こった。あんな光景は初めてだった。しかも、僕の映画でそういうことが起きて……。確か、全部で4回拍手が起きたと思う。最高だった。エンドロールが始まって拍手に包まれた時、我を忘れてしまった。魔法をかけられたような、本当に素晴らしい経験だった。でも最初の観客に観せるまで、ここまで特別なものになるということは分からなかった。

『ホドロフスキーのDUNE』
『DUNE』ストーリーボードを撮影するフランク・パヴィッチ監督

『リアリティのダンス』には、初めて明かされる彼のパーソナルな物語がある

── あなたの映画によってミシェル・セドゥーとホドロフスキーが再会し、『リアリティのダンス』ができました。生みの親として観た『リアリティのダンス』の感想を聞かせてください。

もう何というか……。ずば抜けた、驚くべき作品だと思う。今まで観た中で最高傑作の1つだった。ホドロフスキーがあんなにパーソナルな物語を撮ったのも驚きだった。僕の大好きな『ホーリー・マウンテン』も『エル・トポ』も人生を変えるような映画だ。彼の映画は人々を変える。そういう驚くべきパワーが今回の作品にもあったし、しかも、初めて明かされる彼のパーソナルな物語がそこにあるというところに引き込まれたよ。

── セドゥーとホドロフスキーが再会するシーンが印象的でした。

あの二人は、ずっとお互いがお互いのことを怒っている、と思っていたんだ。でもね、初めてセドゥーのオフィスを訪れて驚いた。だってセドゥーのオフィスの廊下には『DUNE』の制作時に描かれた絵がいくつも飾ってあって、さらに、ホドロフスキーのサイン入りの『ホーリー・マウンテン』のポスターまで飾ってあったんだ!セドゥーは毎日、『DUNE』やホドロフスキーと生活や仕事をともにしていたんだよ。それで、二人が再会するシーンの撮影前に、ホドロフスキーに「ミシェルはあなたを嫌っていない」と伝えていたんだけど、撮影当日、ホドロフスキーは約束の15分前にやってきて、そわそわ落ち着かない様子だった。何度も時計を見ては、「来ないからもう帰ろう」と言っていた。そうしたら、セドゥーが時間ぴったりに現れたんだ。二人は黙って抱き合い、そのあと、公園をずっと二人で話しながら歩いていたよ。35年間も会っていなかったなんて嘘みたいにね。

『ホドロフスキーのDUNE』
ミシェル・セドゥーとアレハンドロ・ホドロフスキー



フランク・パヴィッチ / Frank Pavich

1973年、ニューヨーク生まれ。現在はスイス・ジュネーブ在住。1995年、ニューヨーク・ハードコアシーンを追ったドキュメンタリー『N.Y.H.C.』を監督。その後、映画やテレビのプロジェクトに携わる。『ホドロフスキーのDUNE』は彼の初の劇場上映作品であり、2013年カンヌ国際映画祭の監督週間でワールド・プレミア上映され、その後も多くの映画賞を受賞している。




ホドロフスキー新聞
THIS IS ALEXANDRO JODOROWSKY

多くのクリエイターに衝撃と影響を与えた映画監督、アレハンドロ・ホドロフスキーの魅力に迫るフリーペーパー、通称"ホドロフスキー新聞"は、全国にて配布中。PDFでもダウンロードすることができます。
http://www.uplink.co.jp/jodorowsky/

ホドロフスキー新聞vol.3



『ホドロフスキーのDUNE』
2014年6月14日(土)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷アップリンクほか、全国順次公開

監督:フランク・パヴィッチ
出演:アレハンドロ・ホドロフスキー、ミシェル・セドゥー、H.R.ギーガー、クリス・フォス、ニコラス・ウィンディング・レフン
(2013年/アメリカ/90分/英語・フランス語・ドイツ語・スペイン語/カラー/16:9/DCP)
配給:アップリンク/パルコ
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/dune/





『リアリティのダンス』
2014年7月12日(土)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷アップリンクほか、全国順次公開

監督・脚本:アレハンドロ・ホドロフスキー
出演:ブロンティス・ホドロフスキー(『エル・トポ』)、パメラ・フローレス、クリストバル・ホドロフスキー、アダン・ホドロフスキー
音楽:アダン・ホドロフスキー
原作:アレハンドロ・ホドロフスキー『リアリティのダンス』(文遊社)
原題:La Danza de la Realidad(The Dance Of Reality)
(2013年/チリ・フランス/130分/スペイン語/カラー/1:1.85/DCP)
配給:アップリンク/パルコ
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/dance/


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