2014年7月12日(土)より公開される、『リアリティのダンス』のプロモーションの為、来日したアレハンドロ・ホドロフスキー監督が4月26日(土)、東京・世田谷区の龍雲寺で、1,000人近い応募の中からで選ばれた100人と坐禅会を行った。
はじめに龍雲寺の住職、細川晋輔氏によって「坐禅とは、何かを得る為のものではなく、何かを捨てる為のもの。人生を文章に例えたならば句読点のようなもの」という坐禅の説明があり、その後ホドロフスキー監督による説法に続き、15分間の坐禅が行われた。
webDICEでは、メキシコで高田慧穣という日本人禅僧に5年間師事したホドロフスキー監督による説法の全文を掲載する。
東京・世田谷区、龍雲寺
皆さんこんにちは。
今、私はこの本堂で皆さんにこれからするお話が、どのようなものになるのかわかりません。なぜなら私は師ではないからです。唯一、私を師だと言えるのは、私自身だけであるということです。ですから実は今私は、とても恐怖を感じています。
私はメキシコで、高田慧穣という禅の師に5年間師事しました。彼は私の人生の中で出会った最も誠実な5人のうちの1人でした。彼は日本から1ドル札だけを持って2,000万人の人口を持つメキシコシティにやって来たのです。当時、彼はなにも持っていませんでしたが、確信を持っていました。
メキシコで、精神分析医のエーリヒ・フロムが、偶然道で高田先生をみつけました。高田先生はひとつの小さな箱をもっていました。そこには服が入っていました。一着は夏服、一着は冬服です。彼は二着しか洋服を持っていなかったのです。そしてフロムの弟子の医者たちに迎えられて、メキシコで暮らし始めました。彼らはそこでいつも、坐禅を組んでいました。
ある日、フロムの弟子たちの一人が瞑想するために、麻薬を使っていたことがわかりました。高田先生は、それを知ると怒ってみんなを追放しました。彼はそのことによって家を失くしましたが、私はメキシコに小さな家を持っていたので、瞑想ができるよう、その家を高田先生に貸しました。その後、高田先生にはたくさんの弟子ができ、弟子たちが彼に住む場所を提供し、彼はそこを転々としました。なにを食べていたかというと、市場でみんなが捨てるものを食べていました。彼は、一度もお金を持ったことがありませんでした。
彼はメキシコの田舎で、メキシコ人たちに大豆の植え方を教えました。そして大豆から300もの製品を作れるよう指導しました。草で草履を作れるように教えました。そして、とても貧乏だったメキシコ人を豊かにした伝説の人になりました。
彼が死ぬ前に唯一希望したことは、メキシコに仏教徒の地をつくることでした。でもその願いはかなえられませんでした。
私は彼と会って人生が変わりました。『エル・トポ』には彼の影響が大きく表れています。ここにこうしていると、彼のことを思い出します。
彼は一度私に、禅の師の話をしてくれました。禅の師というのは、説法をしなくてはなりません。ある日、説法の前に一羽の小鳥が鳴きました。そして彼は、そのまま黙って小鳥の歌声を聞いていました。そして小鳥が鳴くのをやめると「これが私の説法だ」と言って立ち去りました。
今日ここに小鳥の歌声は聞こえてきません。もし歌ってくれれば私はここから立ち去れるのに、と思います。ですから私が歌わなければならないのだと思います。高田先生にこの話を聞いたとき、これはいったいどういう意味なのだろうと考えました。小鳥はなにも言いません。自然に歌っただけです。ですから私も歌います。今、私は歌っています。今、私が歌えるように歌っています。皆さんはどのように歌うのでしょうか。
まず、言葉の黒い雲が風によって流れていって、その中の静寂の中で皆さんは歌うのです。言葉の中には知性があります。私の思考の中に言葉が浮かばない時は、私の精神は歌っているのだと言えます。私の心に否定的な感情がない時、私の心は歌っています。私に性的な欲望がない時、私の性は歌っています。私の肉体に不必要な動きがない時、私の肉体は歌っています。私は思考であり、心であり、性であり、肉体であり、カルマです。魂も歌います。自由な時に。名前がない時、年齢がない時、国籍がない時、定義がない時に。これが私の魂が語る小鳥の歌です。
私の思考は、もっと知りたいと思っています。なぜなら全ては常に変化しているからです。私の心は、もっとなにかに属したいと思っています。現実と共につながりたいと心は思っています。そして私の性的活力は、もっと創造したいと思っています。創るということは与えるということです。私の肉体はもっと生きたいと思っています。
小鳥が歌う歌の美しさや楽しさは、皆さんを良い気持ちにします。そしてその小鳥が木にいると、そこに木があるということがわかります。もしそこに木がなければどこにも木はありません。皆さんがここにいるとき、皆さんの完璧な全体はここに存在するのです。今、皆さんはどこでもない、ここにいます。ですからここにはむき出しの感性と思考があります。そしてなにも批判しない心があります。創造的な芽があります。そして、無駄なことをしない肉体があります。私たちの中で最も無駄なことは期待と恐怖です。今持っていないものを欲しいと思う時、今持っているものを失いたくないと恐怖します。ここに座って、希望も恐怖も持たなければ、皆さんは良い気持ちでいられるのです。
今日、神とはなんでしょう。それはお金です。エホバやキリストやマホメットや、神というのはいろんな名前をもっています。お金もそうです。ドルや円やペソや、たくさんの名前をもっています。でも、みな同じです。それが私たちの社会で生き残るために必要なものなのです。今、お金は私たちの科学技術が支える社会の中で生き残るためのものです。でも幸せというものは、小鳥が歌う幸せは、お金でも科学技術でもありません。そして現在は、お金も科学技術もなければ幸せもないのです。
人生は一本の川のようなものです。何の希望も、恐れも持たず、その川に飛び込むということです。お金を稼ぐために働くこと。でもお金を稼ぐのは物を持つためではありません。稼いだお金は、皆さんの魂をよりよくするためのものです。ですから、生きるのに必要なだけ稼げばいいのです。それで十分なのです。そうすれば皆さんの恐れはとても少なくなると思います。そして、必要なものだけを持っているということで、期待を抱かなくても済むようになります。
そして、お金というものは分かち合うものだということがわかります。もし私がお金を持っていて、あなたが持っていないのなら私も持っていないということです。私が食べているものも、分かち合わなければ、それは食べていないのと等しいのです。私が自分の中に閉じこもっていると、それは私は生きているとは言えないのです。ですから、外に向かって開かなければなりません。そして、愛で結びつく人を探さねばなりません。私個人の人生の目標は、普遍的な人生そのものの目標と同じであるべきなのです。もし全ての人たちがみんな自分の殻の中に閉じこもってしまえば、それは、自分たちが住む地球を破壊していることと同じことです。ひとつの名前の中に閉じ込めたり、年齢の中に閉じ込めたり、国籍の中に閉じ込めたり、古くて間違っている偏見や考えの中に自分を閉じ込めてしまうこと。それは地球を破壊することです。
今日、ここで私が話せる事はこれが全てです。私は師ではありません。もし師であれば、腕もなく、皆さんと今こうしてここにいないでしょう。なぜかというと、達磨大師の最初の弟子は、達磨大師の元に入門するために腕を落としました。彼は片腕だけで坐禅を組んで、悟りを開いたのです。私も常に両腕両脚を落としたらどうなるか考え続けています。もし頭を落としたら、私の顔は笑ったまま落ちるでしょう。私にとって禅とはそういうものです。
どうもありがとうございました。
ホドロフスキー監督と妻のパスカル・モンタンドン=ホドロフスキー
写真:西岡浩記、菊池茂夫
2014年4月26日(土)東京・世田谷区、龍雲寺
『リアリティのダンス』
2014年7月12日(土)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷アップリンクほか、全国順次公開
監督・脚本:アレハンドロ・ホドロフスキー
出演:ブロンティス・ホドロフスキー、パメラ・フローレス、クリストバル・ホドロフスキー、アダン・ホドロフスキー
音楽:アダン・ホドロフスキー
原作:アレハンドロ・ホドロフスキー『リアリティのダンス』(文遊社)
原題:La Danza de la Realidad(The Dance Of Reality)
(2013年/チリ・フランス/130分/スペイン語/カラー/1:1.85/DCP)
配給:アップリンク/パルコ
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/dance/
(c) "LE SOLEIL FILMS" CHILE・"CAMERA ONE" FRANCE 2013
『リアリティのダンス』より
『ホドロフスキーのDUNE』
2014年6月14日(土)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷アップリンクほか、全国順次公開
監督:フランク・パヴィッチ
出演:アレハンドロ・ホドロフスキー、ミシェル・セドゥー、H.R.ギーガー、クリス・フォス、ニコラス・ウィンディング・レフン
(2013年/アメリカ/90分/英語・フランス語・ドイツ語・スペイン語/カラー/16:9/DCP)
配給:アップリンク/パルコ
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/dune/