毎年3月上旬にアメリカ、テキサス州オースティンにて開催されるフェスティバル、SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)をご存じだろうか。1987年に音楽の見本市としてはじまり、1994年からは映画、1998年にはインタラクティブのセクションが追加された。2007年には、Twitterが賞を受賞し世界的に注目を集めた。
今年は3月7日から10日間にわたり開催されたSXSW。webDICEスタッフ・大場が編集長・浅井と映画のセクションに参加してきたのでレポートをお届けする。
SXSW参加バッヂと宿泊先について
SXSWは音楽・映画・インタラクティブのフェスティバル。バッヂさえあれば誰でも参加可能だ。すべての情報はSXSW.comで随時更新されていく。とにかく情報量が多いが、流石インタラクティブのセクションを持つフェスティバルだけあって、丁寧に作られている。会期が迫るとリリースされるAPPもかなり優秀だ。
バッヂにはセクション単体のものと横断できるものがあり、それぞれ料金が違う。販売は例年、前年の9月からはじまり会期が迫るごとに値上がりしていく。バッヂによっては売り出し時の価格と最終価格に500ドル程度差が出るので早めの購入がお得だ。
2014年のSXSW料金表
そして、宿泊先。バッヂを購入するとSXSWが紹介するホテルもオンラインでブックすることができる。例年、会場となるダウンタウン周辺の宿泊施設はかなり早い段階で満室となるのでご注意を。今回、我々も昨年の年末にバッヂを購入。その時すでに公式案内されているホテルの空室はなかった。しかもホテルとなると料金が高い。
そんな時、便利なのがHomeAwayやAirbnbなどの部屋を借りたい人と貸したい人のためのプラットフォームサービス。食事などのサービスが無いので比較的リーズナブルな価格で宿泊することができる。
家主とのメールでのやり取りが必要になるので英語が必要だが注意深くレビューなどを読み部屋を選択すれば問題ないと思う。突然キャンセルされた時の保障もオプションで付けることが可能な物件もある。
今回は、オースティンに本社があるHomeAwayを利用した。料金と利便性から選んだ一軒家は、ダウンタウンからバス(1ドル)で20分。このくらい離れると1泊1人130ドル~180ドル程度で宿泊可能だ。
現地で通りかかったHomeAway社
滞在先は閑静な住宅街の平屋
急成長中のテキサス州オースティン
日本からアメリカのテキサス州オースティンまで飛行機でおよそ14時間。直行便はないので、アメリカ国内で乗継ぐことになる。今回は、往路は美しいロッキー山脈に囲まれたコロラド州デンバー国際空港で国内線に乗り換え、オースチン・バーグストロム国際空港へ。空港からオースティン中心部まではバスで20分程度。
デル、インテルをはじめとしたIT系や、食料品スーパーマーケットチェーンのホールフーズ・マーケットが本拠地を置くオースティンは滞在先の夫人曰く、ここ5年で人口が25パーセント増とのこと。なるほど見渡せば街の中心部では高層ビルが4-5塔、郊外には集合住宅が建築中であった。
オースティン、ダウンタウン周辺は建築ラッシュ
ホールフーズ・マーケット外観
ホールフーズ・マーケットには、多くの新鮮な果物や野菜が並んでいた
ノウハウを共有し積極的な交流を促すセッション
SXSWのメイン会場となるコンベンションセンターではパネルセッションが多く企画されており、様々なトピックスについて話される。今年は、音楽ではレディー・ガガ。映画ではアレハンドロ・ホドロフスキー監督、ティルダ・スウィントン、レナ・ダナム。インタラクティブではジュリアン・アサンジ、エドワード・スノーデンなどが登壇した。
【CNN】米情報暴露のスノーデン元職員、SXSWに中継で登場
【NHKニュース WEB特集】変貌するメディア 最前線を見る~ネット報道の新潮流 SXSW取材記~
▼YOUTUBE - SXSW 2014 Music Keynote: Lady Gaga
女優のティルダ・スウィントンは、今年没後20周年を迎えたデレク・ジャーマン監督について、彼の作品のような挑戦的な映画は現在ではつくることが難しくなってることを示唆し「デレクが亡くなってから20年間、私たちは彼の作品のようなアートフィルムをこの映画業界でどう作り続けるのかという事で闘っています」と熱く語った。
【theguardian.com】SXSW 2014: Tilda Swinton on Derek Jarman: 'He wrapped the centre around him'
映画のセクションでは、著名人によるセッションの他にも映画配給会社、制作会社、映画製作者、映画館のスタッフによるパネルセッションや、ワークショップやディスカッションも多く用意されている。ノウハウを共有し積極的な交流を促すプログラムだ。
メイン会場、コンベンションセンター
センター内の柱にはあらかじめビニールが貼ってあり、宣伝張り紙OK
アレハンドロ・ホドロフスキー監督によるカンバセーション&『リアリティのダンス』USプレミア上映
アレハンドロ・ホドロフスキー監督の新作『リアリティのダンス』が、5月23日からの全米公開に先駆けプレミア上映され、ホドロフスキー監督はカンバセーションも行った。観客の前に登場したホドロフスキー監督は、映画を制作する理由について「人々の感受性を豊かにするために、内面の別世界へ誘いたい。私の鼓動を一緒に聞いて、そして何かを感じてもらいたい。そうすればきっと、あなた自身を発見することができるでしょう。現代社会は病んでいます。世界を変えることは途方もなく困難ですが、アーティストはわずかでもそれをすることができます」と述べ、『ホドロフスキーのDUNE』の中でも語られている、「映画は人間の魂を深く探求するアートである」という彼の考えを語った。
アレハンドロ・ホドロフスキー監督によるカンバセーションの様子
『リアリティのダンス』USプレミア上映ではスタンディングオベーションも
全席テーブル&サーブ付の映画館
SXSWの映画スクリーニングは特設会場とダウンタウン周辺を中心とした映画館で行われる。バッヂを持たない地元の人なども映画が観れるように各回でのチケットも販売されており、早めに並ぶことで映画を観ることができるシステムだった。
また、日本ではお目にかかれない珍しい形態の映画館にも出会った。全席テーブルとサーブ付の映画館で、オースティンをはじめNYにも進出しているというAlamo Drafthouse Cinema。ホドロフスキー監督の『リアリティのダンス』のUSプレミアも行われたAlamo THE RITZは、両方にひじ掛けのあるゆったりとした席、テーブルにはドリンク、軽食の豊富なメニュー表が置いてある。各座席列の後ろに通路が確保されており、オーダーを紙に書いておくとウェイターさんが通路を早足で駆け抜け回収。映画がスタート後、真っ暗のなかドリンクやフードが到着し映画のエンドクレジットまでには会計も完了してしまう。ホットコーヒーがお高めの6ドル程度だったので映画館の商売としてはなかなか画期的だと思った。
SXSW前半はあいにくの雨、アメリカは異常気象でテキサスなのに凍えるほど寒かった
ウェイターさんはこの通路でサーブする
メキシコに近いテキサス、どこに行ってもタコス推しだったが、Alamoのオーナーさん宅のパーティでいただいた料理(?)がとても美味しかったのでご紹介したい。素材そのままザリガニのスパイシーボイル!これが最高にビールにあう。聞けばオースティン魚介類はかなり美味しいらしく。ホールフーズ・マーケットのお魚コーナーでは素材を買ってそのまま焼いてくれるサービスもあるとか。
全体に辛いオイルがかかっているが、さらに溶かしバターつけて食べる
映画とインタラクティブの会期後に音楽のセクションがスタートするSXSWだが、街は映画、インタラクティブの期間から既に音楽フェス状態。Alamo THE RITZのある6番ストリートは、両側にバンドがフルセットで演奏できるステージを持つ店が軒を連ねている。防音?何それ?と開け放たれた店からは爆音の演奏が聴こえてくる。SXSWの公式プログラムとは別のライヴも多く開催されており、企業スポンサーの無料イベントも多い。週末はテキサス郊外から遊びに来ているティーン達の姿も。「カウボーイのとこから来たのよ!東京から来たの!クール!」と。
映画に並んでいると、さすらいのバイオリン弾きが
音楽の日程が近づいてくるにつれて路上ライヴも増えてくる
クラシックなお店が立ち並ぶ
開け放たれたバーではバンドが演奏している
SXSW Interactive:展示会(トレードショー)
メイン会場であるコンベンションセンターで行われている展示会(トレードショー)では多くのブースが自分たちの技術を発表している。今年、目立ったのは3Dプリンターとヘッドマウントディスプレイ。早くも3Dプリンターの歴史を追ったドキュメンタリー映画『Print the Legend』も上映され、3Dプリンターの実機も多く展示されていた。どのような形で私たちの生活の中に浸透していくのか興味深い。
SXSWの映画のセクションはインタラクティブ、音楽のドキュメンタリーが多いのも特徴だ。今年のインタラクティブ系映画では、インターネットの自由を訴える活動家として知られ、昨年自殺したアーロン・シュワルツのドキュメンタリー映画『The Internet's Own Boy: The Story of Aaron Swartz』が上映された。音楽系の映画の変わりダネとしては、シアトルのバンドが日本での成功を目指すコメディ『Big In Japan』が上映されアメリカ人の笑いをとっていた。(日本人の私には苦笑いだったが…)
【WIRED.jp】「3Dプリント業界」がドキュメンタリー映画に
【CNET News】グーグル、ウェアラブル機器向け「Android」SDKを公開へ-SXSWで明らかに
【マイナビニュース】魔法のようなデモで話題に、日本発の指輪型ウエアラブルデバイス「Ring」って?
【スーパーソフトウエア東京 広報ブログ】SXSWのメイン会場、トレードショーで行われていること
【MSDN オンライン チームブログ】SXSW Interactive 2014 展示会(トレードショー)の出展企業の歩き方 #MSVJP
▼YOUTUBE - 映画『Print the Legend』予告編
▼YOUTUBE - 映画『The Internet's Own Boy』ティーザー映像
▼YOUTUBE - 映画『Big In Japan』予告編
展示会(トレードショー)の様子
3DプリンタCubeの実機(日本のAmazonでも買えます)
インタラクティブの他にも各国の音楽をプロモーションするブースも
映画作品、セッション企画は誰でも応募が可能
毎年規模を拡大しながら開催されているSXSW。オースティンの街中が音楽、インタラクティブ、映画で溢れるお祭りであるが、その年の流行をガッチリとらえたセッションなどは情報交換、学びの場、出会いの場として有効に機能していると感じた。映画作品のエントリーも可能で、締切によって料金が異なる。音楽ドキュメンタリー映画など制作してる方は早めのエントリーがお得だ。セッションの企画、パネリストはPanel Pickerと呼ばれる選出システムで公募され、ユーザーの投票、スタッフのレビューによって実施が決定する。日本からの応募も可能なので気になる方は応募してみてはいかがだろうか。
(文:大場小麦 写真:浅井隆、大場小麦)
『ホドロフスキーのDUNE』
2014年6月14日(土)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷アップリンクほか、全国順次公開
監督:フランク・パヴィッチ
出演:アレハンドロ・ホドロフスキー、ミシェル・セドゥー、H.R.ギーガー、クリス・フォス、ニコラス・ウィンディング・レフン
(2013年/アメリカ/90分/英語・フランス語・ドイツ語・スペイン語/カラー/16:9/DCP)
配給:アップリンク/パルコ
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/dune/
『ホドロフスキーのDUNE』より
『リアリティのダンス』
2014年7月12日(土)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷アップリンクほか、全国順次公開
監督・脚本:アレハンドロ・ホドロフスキー
出演:ブロンティス・ホドロフスキー(『エル・トポ』)、パメラ・フローレス、クリストバル・ホドロフスキー、アダン・ホドロフスキー
音楽:アダン・ホドロフスキー
原作:アレハンドロ・ホドロフスキー『リアリティのダンス』(文遊社)
原題:La Danza de la Realidad(The Dance Of Reality)
(2013年/チリ・フランス/130分/スペイン語/カラー/1:1.85/DCP)
配給:アップリンク/パルコ
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/dance/