映画『あなたを抱きしめる日まで』より © 2013 PHILOMENA LEE LIMITED, PATHE PRODUCTIONS LIMITED, BRITISH FILM INSTITUTE AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED
俳優/コメディアンのスティーヴ・クーガンがプロデュースと共同脚本を務め、50年間に渡り息子を捜し続けた実在のアイルランド人の主婦と彼を取材するジャーナリストの関係を描き、本年度アカデミー賞の作品賞、主演女優賞など4部門にノミネートされた『あなたを抱きしめる日まで』が3月15日(土)より公開される。『マイ・ビューティフル・ランドレッド』『危険な関係』のスティーヴン・フリアーズを監督に、ベテラン女優ジュディ・デンチを主演に迎え、2009年にジャーナリストのマーティン・シックスミスがイギリスで出版しベストセラーとなったノンフィクションを映画化しようと思った理由について、自身もマーティン役で出演したスティーヴ・クーガンが語った。
この作品のテーマは「忍耐と協調
──最初に、原作との出会いについて教えてください。
2010年、ガーディアン紙の記事に「カトリック教会が私の子供を売った」というものがあったんです。本の著者マーティン・シックススミス氏へのインタビューや物語の詳細が書かれたその記事を読んで、心を動かされたのがこの作品との出会いでした。プロデューサーのガブリエルにこの記事の話をしたところ、「すばらしい物語。私が共同製作しましょうか?」と言ってくれたので、すぐにマーティン本人に連絡を取りました。
映画『あなたを抱きしめる日まで』でプロデューサーも務めたスティーヴ・クーガン © 2013 PHILOMENA LEE LIMITED, PATHE PRODUCTIONS LIMITED, BRITISH FILM INSTITUTE AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED
──マーティン・シックスミスは英国メディアではとても有名ですが、以前から知り合いだったのでしょうか?
ジェフと脚本を書き始める前に会ったのが最初の出会いでした。彼の本は、アンソニーとマイケル・ヘスの人生を描くにあたって、かなりの部分で脚本のベースとなる予定だったので、会いにいくことにしました。
──共同脚本にもクレジットされていますが、どのくらい脚本には携わったのでしょうか?
脚本には最初の段階から関わっていました。脚本は本とかなり違っていて、別の物語と言ってもいいかもしれない。本の主人公はジャーナリストで、彼と主婦フィロミナの体験談と生き別れた息子が基本的なテーマとして描かれている。しかし、僕たちは老人の女性と中年のジャーナリストという2人の旅をメインにしたかった。そんな2人が旅を通じてお互いを知っていく様子を描きたかったんです。教養があって皮肉的な中年の男と、労働者階級で皮肉とはかけ離れた性格のアイルランド人女性の人生の物語に。ジャーナリストで、インテリの中流階級で名門大学卒のマーティンが、労働者階級の退職したアイルランド人看護婦と出会う、この二人の関係はとても面白いと思いましたね。
僕は、マーティンに「映画は本とは少し違う方向性になる」と包み隠さず話しましたが、それでもマーティンはとても協力的で、インタビューにも応じてくれました。政府に解雇され、苦しい立場に追いやられたことについてどう感じていたかとかね。また、撮影していくにつれて、ドラマチックにするために脚色されていくということについてもマーティンは理解してくれました。彼自身もクリエイティブな世界に生きていますから。本当に彼は協力的で、彼の話は大いに役に立ちました。
映画『あなたを抱きしめる日まで』より © 2013 PHILOMENA LEE LIMITED, PATHE PRODUCTIONS LIMITED, BRITISH FILM INSTITUTE AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED
──10代で未婚のまま妊娠したフィロミナが家を追い出され、修道院に入れられるところから彼女の物語ははじまります。彼女の人生のどんなところに惹かれたのでしょうか?
僕はいつもはコメディ作品が多いですが、その狭間でできるようなことを探していたんです。この物語に心打たれたのは、僕自身がカトリック教徒として育ったからというのが大きいとは思いますが、同時に普遍的な物語でもあると思いました。母親、赤ん坊、子供たちといった、誰もが自分と結びつけることができる物語ではないでしょうか。
──マーティンに加え、フィロミナにも実際に会ったそうですね、どんな印象でしたか?
少し大げさな言い方になりますが、この作品のテーマは「忍耐と協調」だと思っています。それと同時に「直観 vs 知性」の物語にもしたかったんです。僕とジェフ・ポープ(共同脚本)は、脚本を執筆するのにあたり、実際のフィロミナとマーティンに何度か会いました。劇中のやり取りの多くは、この時の二人の会話の会話が基になっているんです。
映画『あなたを抱きしめる日まで』より © 2013 PHILOMENA LEE LIMITED, PATHE PRODUCTIONS LIMITED, BRITISH FILM INSTITUTE AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED
──製作と共同脚本のみならず、出演に至った経緯を教えてください。
当時、正直なところ僕は行き詰まっていたんです。コメディをやるのは好きですが、もうやり尽くしたようにも感じていて、クリエイティブで挑戦的なことがしたかったんです。どうしたらシリアスなテーマの物語を、楽しく、勇気を与えるものにできるだろう?というところから、僕の持っているコメディ要素をこの作品で活かしたいと思いました。ちなみに現場にはよくマーティン本人が来てくれていたので、彼に演技のチェックを頼んだりしていて、それを僕らは“本人チェック”と呼んでいましたね(笑)。
映画『あなたを抱きしめる日まで』より © 2013 PHILOMENA LEE LIMITED, PATHE PRODUCTIONS LIMITED, BRITISH FILM INSTITUTE AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED
悲しいお話だからこそ、コメディにする必要があった
──フェロミナ役にジュディ・デンチを起用した理由は?
脚本を書いていた時、ジェフに「ジュディ・デンチが演じてくれたら最高だな。望みは高く持とう」と言っていたんです。実際に彼女が主演を承諾してくれたときは夢が叶った感じでしたね。なんといっても、世界で活躍し多くの人が尊敬の念を抱く、アイコン的存在のデイム(ナイトの称号を授与された女性に用いるサーに相当する表現)・ジュディ・デンチと共演できたんですから。だけど同時に少し怖くもありました。自分とは全く正反対のところにいる人だったから。それでも、背伸びをしてよかったと思っています。それはもう最高でした。未だに、嘘じゃなかったよなって体をつねらずにはいられないくらい。尊敬している人と一緒に映画を作り上げられたこと、そして彼女と親しくなれたことは、本当にスリリングでした。彼女ほどアイコニックな人と共演することに対して、怖いと思う気持ちもあったけど、ジュディは僕にリラックスできるような環境を作ってくれました。それは本当に居心地よくて、光栄なことでした。
──撮影気現場では、彼女とは会話を多く交わしたのでしょうか?
僕が彼女に対して指示できることなんて全然ありませんでした。1回か2回、いや、数回かな、今のどうだった?と聞かれたことはありましたが……。テイクの間は、笑わせてばかりいました。キャラクターについて深く話し合うことはあまりしませんでした。彼女には彼女のやり方がありますから。でも彼女から学ばなければいけないことはたくさんありました。いわばテニスの試合のようなものです。彼女はすごくいい選手だからこそ、僕は試合を盛り上げなくちゃいけない。僕はできる限りの最高の演技をして、彼女のレベルに届く、いや近づけるように心がけました。
映画『あなたを抱きしめる日まで』より © 2013 PHILOMENA LEE LIMITED, PATHE PRODUCTIONS LIMITED, BRITISH FILM INSTITUTE AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED
──コメディアンとしても活躍されていますが、映画の中で実在する人物を演じることについてはいかがでしたか?
確かに僕が普段やっているのはコメディですから、今回はいつもとは少し違うと感じていました。マイケル・ウィンターボトム監督と『スティーヴとロブのグルメトリップ』(2010年)で仕事をしたとき、彼の作品はコメディでありつつもドラマ的な要素もあるので、本作で演じるにあたってとても勉強になりました。でも一口に言っても、今回はちょっとテイストが違います。作品が持つシリアスな部分を和らげるためのコメディ要素であって、僕はそれが本作の良さだと思っています。コメディを取り入れたことで観客は見やすくなる。ですから、いわゆるコメディとはちょっと違います。この役に挑戦できたことはとてもエキサイティングでした。
──スティーヴン・フリアーズは素晴らしい監督ですよね。どういった部分で、彼は特別だと感じていますか?
『クィーン』など多くの名作を手掛けてきた監督ですから、最初は少し戸惑いましたが、この物語は悲劇であると同時にコミカルでもあるということを何度も話し理解してもらいました。脚本についても活発な議論をすることができましたね。彼はとても協力的でした。現場では割と淡々としていますが、間違いなく直観的な才能がある。どうするべきなのか、肌で感じているんです。別に壮大なプランだとか大きなヴィジョンがあるわけではなくて、明らかに直観なんです。彼が下す判断は、いつだって間違っていないし、絶妙なんです。技術とか形式にとらわれていなくて、全てが自然でした。
映画『あなたを抱きしめる日まで』より © 2013 PHILOMENA LEE LIMITED, PATHE PRODUCTIONS LIMITED, BRITISH FILM INSTITUTE AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED
──この作品はコメディ要素が強いように思いますが、物語にあるシリアスなテーマをどのようにお考えだったのでしょうか?
物語自体がとても悲しいお話だからこそ、コメディにする必要があったんです。何か慰めになるものが必要でした。そうでなければ、ただの気が滅入る悲劇的な話で終わってしまいますから。一方で、やりすぎてもいけないと思っていました。自分のコメディアンとしてのバックグラウンドが個人的に心配だったんです。だから、スティーヴンに、僕がやりすぎていないかどうか見張っていてくれと頼みました。「もし僕が大げさな表情をしていたり、アニメっぽい顔つきをしていたら撮り直しをさせてくれ」ってね。スティーヴンが僕に指示する時は決まって、部屋の端から「スティーヴ!」って僕を呼ぶんです。で、僕が反応すると、(ちょっと抑えろ、というジェスチャーをしながら)手でこんな風にする。まぁ、とにかくバランスを取ることが大切で、コメディタッチにしたことで不謹慎になることだけは避けなければいけませんでした。
──ひねりの効いたセリフが多く登場することがとても印象的でした。この作品にはカトリック主義への批判といった側面はどれくらい盛り込まれているのでしょうか?
これはとても重要なことですが、カトリックを攻撃する作品にしようとは全く思っていないんです。修道院が過去に行った行為については批判的に描いているけれど、それは作品のテーマではありません。この映画で描いているのは、人間性であって、どういう風にお互いを知っていくかという部分なんです。確かに、カトリック教会の修道院を批判はしているけれど、同時に純粋に信仰を持っている人々や、信念を行動に移している素晴らしい人々の尊厳も描いている。この作品ではそういった人々に敬意を示したかった。物語には白と黒の面があるということを示すために、態度の悪い修道女と優しい修道女を両方登場させ、どちらも描くことが重要だったんです。
批判することは昨今ではいとも簡単なことだけれど、僕たちがしたかったことはそういうことではないし、そうしなかったことがとても大切だと思っています。一連の出来事を見ていると、修道院にいる人が信仰を失ってしまったと勘違いしてしまう人もいるかもしれないから、フィロミナを通じて信仰を持つ人々の威厳を表したかったんです。
フェロミーナに実際に会ったときに、修道女たちを赦すと聞いたとき、娘のジェーンが言った一言が「私は赦せない」でした。僕は、その意見を反映させることは大切だと思ったんです。劇中ではマーティンが、つまり僕が「赦せない」って言うのですが、そのあとに怒りの感情だったと気づく。でもどちらのリアクションも大切でした。人間らしいリアクションですし、だからこそそこに尊厳を持たせたかったんです。
(オフィシャル・インタビューより)
スティーヴ・クーガン プロフィール
1965年10月14日、イギリス・グレーター・マンチェスター生まれ。コメディアン、そしてコメディ作家として知られ、映画俳優としてのキャリアはおよそ20年近くある。映画デビュー作は1995年の『リトル・ヒーロー』〈未〉(95)であり、続いて『たのしい川べ』〈未〉(96)ではモグラ役に扮した。マイケル・ウィンターボトム監督とコンビを組むことが多く、『24アワー・パーティ・ピープル』(02)、『トリストラム・シャンディの生涯と意見』〈未〉(05)、『The Look of Love』〈未〉(13)などで主演を演じている。『ナイト・ミュージアムシリーズ(06・09)、『ルビー・スパークス』(12)、『メイジーの瞳』(12)などにも出演。
映画『あなたを抱きしめる日まで』より © 2013 PHILOMENA LEE LIMITED, PATHE PRODUCTIONS LIMITED, BRITISH FILM INSTITUTE AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED
映画『あなたを抱きしめる日まで』
2014年3月15日(土)より全国公開
その日、フィロミナは、50年間かくし続けてきた秘密を娘のジェーンに打ち明けた。1952年、アイルランド。10代で未婚のまま妊娠したフィロミナは家を追い出され、修道院に入れられる。そこでは同じ境遇の少女たちが、保護と引き換えにタダ働きさせられていた。フィロミナは男の子を出産、アンソニーと名付けるが、面会は1日1時間しか許されない。そして修道院は、3歳になったアンソニーを金銭と引き換えにアメリカへ養子に出してしまう。以来わが子のことを一瞬たりとも忘れたことのない母のために、ジェーンはBBCの政府の広報担当をクビになった元ジャーナリストのマーティンに話を持ちかける。愛する息子にひと目会いたいフィロミナと、その記事に再起をかけたマーティン、全く別の世界に住む二人の旅が始まる──。
監督:スティーヴン・フリアーズ
出演:ジュディ・デンチ、スティーヴ・クーガン、ソフィ・ケネディ・クラーク、アンナ・マックスウェル・マーティン、ミシェル・フェアリー、バーバラ・ジェフォード、ルース・マッケイブ
製作:ガブリエル・ターナ、スティーヴ・クーガン、トレイシー・シーウォード
製作総指揮:ヘンリー・ノーマル、クリスティーン・ランガン、フランソワ・イベルネル、キャメロン・マクラッケン、キャロリン・マークス・ブラックウッド
脚本:スティーヴ・クーガン、ジェフ・ポープ
撮影:ロビー・ライアン
編集:バレリオ・ボネッリ
音楽:アレクサンドル・デプラ
原題:Philomena
配給:ファントム・フィルム
2013年/イギリス・アメリカ・フランス/98分
© 2013 PHILOMENA LEE LIMITED, PATHE PRODUCTIONS LIMITED, BRITISH FILM INSTITUTE AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:http://www.mother-son.jp/
公式Facebook:https://www.facebook.com/pages/あなたを抱きしめる日まで/530650340356121
公式Twitter:https://twitter.com/philomena_movie