骰子の眼

cinema

東京都 中央区

2014-03-04 23:16


奴隷制度というアメリカ史の一部を、観客にベルト・コンベアに乗ったように見てほしかった

本年度アカデミー賞作品賞受賞『それでも夜は明ける』スティーヴ・マックィーン監督インタビュー
奴隷制度というアメリカ史の一部を、観客にベルト・コンベアに乗ったように見てほしかった
映画『それでも夜は明ける』より キウェテル・イジョフォー(左)、ベネディクト・カンバーバッチ(中)、ポール・ダノ(右)© 2013 Bass Films, LLC and Monarchy Enterprises S.a.r.l. in the rest of the World. All Rights Reserved.

奴隷制度廃止前の19世紀中頃、アメリカ南部を舞台に、突然身柄を拘束され奴隷として生きることを余儀なくされた黒人ヴァイオリニストが、再び再び妻子と会うまでの壮絶な12年間を描いた『それでも夜が明ける』が3月7日(金)より公開される。主演を務めたキウェテル・イジョフォーのほか、マイケル・ファスベンダー、ベネディクト・カンバーバッチ、ポール・ダノ、ポール・ジアマッティ、ブラッド・ピットといった俳優陣が集結し、実在したアフリカ系アメリカ人ソロモン・ノーサップの自伝を映画化。本年度アカデミー賞の作品賞、助演女優賞(ルピタ・ニョンゴ)、脚色賞(ジョン・リドリー)を受賞した今作について、スティーブ・マックィーン監督が語った。

ホロコーストについての映画はあるのに、奴隷制度についての映画はない

──とてもパワフルな映画した。奴隷制度という問題についてここまでストレートに描いた作品ということで、制作には困難が伴ったのではないですか。

奴隷制度についての映画を作るべきか止めるべきか悩んだが、最終的に映画を作る必要があると決断した。自分が何をしようとしているのか、目的は何かを決める必要があった。僕の目的は、映画のために、そして実在したソロモン・ノーサップのために僕ができる限りの最善を尽くすことだった。

webDICE_スティーヴマックイーン監督
映画『それでも夜は明ける』のスティーヴ・マックィーン監督

──以前から奴隷制度についての映画を作りたいと思っていたのですね。

その通りだ。奴隷制度についての物語を語りたいと思っていたし、面白いアングルから語る方法を見つけたかった。北部の自由民の男についての物語を考えていた。男は家族をもちながら誘拐されて南部に連れ去られる。そういうアングルを選んだ理由は、その人間を観客全員が自分の中に感じ取り、観客を奴隷制という不幸なベルト・コンベアの上に連れ出したかったからだ。奴隷制度を通して不運な立場に置かれた人々は何百万人といる。そんなことを考えていたら、妻が「それなら、奴隷制の実話を探してみたら?」とこの「12 YEARS A SLAVE」という本を見つけて、勧めてくれた。手にした途端に、僕の夢が叶った気持ちだった。突然、数年間考えてきたことが、僕の手の中にやってきたんだ。最高に興奮したよ。本を開いた瞬間から、止まらなかった。「ピノキオ」や「グリム童話」のように読める、暗いおとぎ話のような物語だった。

──この本を読んで、一番驚き、一番ショッキングだったのはどのようなことでしたか?

ソロモン・ノーサップの生き残ろうとする意志だ。ボリュームのある本だが、ページをめくるたびに、これで彼は生き延びることができたが、今度こそダメだろうと思った。でも違う、彼は最終的に生き残ったんだ。そこがとてもエキサイティングな驚きだった。

──主人公のソロモン・ノーサップに、キウェテル・イジョフォーを起用した理由を教えてください。

この役にはキウェテルしかないと思っていた。長い間彼を見てきた。彼ならこの難しい役を演じきる演技に到達できると感じたし、彼ならできるとわかっていた。僕たちはたくさん話し合った。彼をそういう心境に追い込み、指導した。いや指導ではないな。ボクシングの試合のように毎ラウンド、彼はコーナーに戻ってきた。だからいくつかアドバイスし、また彼をリングに追いやったんだ。それは彼に能力があり、カメラとこの映画全体を一つにまとめる気高さがあったからだ。

webDICE_メイン(軽)
映画『それでも夜は明ける』より、キウェテル・イジョフォー(左)、マイケル・ファスベンダー(右)© 2013 Bass Films, LLC and Monarchy Enterprises S.a.r.l. in the rest of the World. All Rights Reserved.

──今作のプロデュースを務めたブラッド・ピットは、あなたが『SHAME -シェイム-』(11)を作る前からアプローチしたようですが、彼はあなたと仕事をしたいと思っていたのですか?

僕がデビュー作となる映画『ハンガー』(08)を作った頃から、彼の会社が僕との仕事に興味を持っていた。とても熱心だったから、奴隷制度の映画を作りたいというアイデアを話したんだ。

──ピットの反応はどうでしたか?奴隷制度についての映画は、ハリウッドではあまり人気のある題材とはいえません。

人気はわからないが、以前に一度も作られていないと思っただけだ。彼の反応は「どうして奴隷制度についての映画がなかったのだろう?ホロコーストについての映画はあるのに、奴隷制度についての映画はない」というものだった。そして彼は「やりましょう」と言ったよ。

webDICE_slaveサブ2
映画『それでも夜は明ける』より ブラッド・ピット © 2013 Bass Films, LLC and Monarchy Enterprises S.a.r.l. in the rest of the World. All Rights Reserved.

──冷酷な奴隷主エップスを演じるマイケル・ファスベンダーとは『ハンガー』『SHAME -シェイム-』に続き3度目の仕事になります。

マイケルは僕の大の親友だし、素晴らしい俳優だ。だからこの映画で役を演じる必要があった。僕が作るどの映画も、彼と一緒に作ってきたし、それにエップスは彼にぴったりの役柄だった。彼には感謝しているよ。彼への演出については、どうなるかはわからないし、問い掛けもしなかった。ただやってみたんだ。多くの場合、何か言おうと彼に近づくと、彼は「ええ、わかってます。そう思っていました」と言う。でも率直に誠実になるべき場合もある。そしてどうあってほしいかを率直に伝えるべき時がある。彼自身素晴らしい俳優だが、演出を非常にうまく受け止める。セットでクレイジーになったり、解放し過ぎたりしない。完璧なプロだ。スクリーン上で見るものは全て、彼が追求した結果なんだ。

webDICE_slaveファスベンダー
映画『それでも夜は明ける』より マイケル・ファスベンダー © 2013 Bass Films, LLC and Monarchy Enterprises S.a.r.l. in the rest of the World. All Rights Reserved.

──雇い主からの凄まじい暴力に耐えながらソロモンとともに綿花畑で働く若い黒人女性パッツィーを演じたルピタ・ニョンゴを起用した経緯は?そして彼女の中に何を見たのでしょう?

パッツィー役のために1000人を超える少女をオーディションし、ついにルピタを見つけた。キャスティングのフランシーン・マイスラーが最初に見つけて、僕に彼女のテープを見せてくれた。そのテープを見て彼女だと思ったんだ。それからフランシーンは彼女をニューオリンズまで連れてきてくれた。素晴らしい女優だ。当時彼女はイェール大学の学生で卒業していなかった。僕はこの役をオファーし、彼女は両手でそのチャンスをつかんだ。ルピタにはもろさと、途轍もない強さ、パワー、力がみなぎっていた。そこに驚いた。彼女には僕をとても謙虚にさせる存在感がある。驚くべき女優だ。

webDICE_slaveルピタ・ニョンゴ(軽)
映画『それでも夜は明ける』より ルピタ・ニョンゴ © 2013 Bass Films, LLC and Monarchy Enterprises S.a.r.l. in the rest of the World. All Rights Reserved.

──音楽は、これまで数々の大作を手がけてきたハンス・ジマーが担当しています。彼との仕事については?

彼がこの映画に関わりたいと思ってくれるなんて、嬉しかったよ。彼とは知り合ったばかりだった。彼はロンドンで多くの時間を過ごし、僕たちにはある意味阿吽の呼吸があった。彼も僕もロンドン子だからね。彼の仕事ぶりを見られるなんて最高だったよ。彼は驚くほど寛大で、驚くほど辛抱強い人だ。たくさんの人に囲まれて仕事をしている。一緒に仕事ができたのは喜びだった。彼は芸術家だ。

人々はこの映画を受け入れる準備ができていると思う

──今作の制作において、あなたが乗り越えねばならなかった一番の困難はどのようなことでしたか?

人々をまとめ続けることだ。撮影の現場は強烈な暑さだった。実在の大農園で、凄まじい暑さの中、毎日20時間、綿を摘む仕事をしていた人々のことを考えた。凄いことだ。同様に、全員をまとめ、グループを一つにし、撮影の間中彼らの正気を保つ。良い時も悪い時も、全員を一つにまとめることが必要だった。

webDICE_slaveカンバーバッチ
映画『それでも夜は明ける』より ベネディクト・カンバーバッチ © 2013 Bass Films, LLC and Monarchy Enterprises S.a.r.l. in the rest of the World. All Rights Reserved.

──なぜこの物語が今語られねばならないと思いますか?観客として我々は何を心に留めるべきなのでしょうか?

人々はこの映画を受け入れる準備ができていると思う。トレイヴォン・マーティン君のような不幸な事件もあるし(※2013年2月、10代の黒人少年トレイヴォン・マーティン君が自警団を自称する近隣の若者に射殺された。マーティン君はコンビニで買ったキャンディーとアイスティを両手に持ち、フード・スウェットを着て、電話をしながら家に帰る途中だった。容疑者の若者は正当防衛を主張し、地元警察は彼の証言を認め放免。その後、大きな抗議活動に発展した)、今は黒人のオバマ大統領の時代でもある。多くのイベントや記念日、奴隷制度の廃止記念、ワシントン大行進記念もある。だから人々はこれまでになく黒人の差別の問題に関して活気づいていると思う。我々がこの映画にその活気を生かし、人々が反応してくれることを願っている。

──今作は奴隷に対する残酷な仕打ちがリアルに描写されていますが、同時に希望についてもはっきりと描いていると思います。

できる限り多くの人にこの映画を届けたいと思う。この映画を受け入れてほしい。これはアメリカ映画だからだ。そしてアメリカの歴史の一部分、アメリカ史のある側面であって、それはもはやそこには存在しない。アメリカは驚くべき方法でそれを乗り越えてきた。それにこの原作自体が重要なアメリカ史の一部なんだこの映画もまたアメリカ史の一つであって、人々にこの映画を受け入れ、起こったままを見てもらい、そして前進してほしいと思っている。

(オフィシャル・インタビューより)



スティーヴ・マックィーン プロフィール

1969年、イギリス・ロンドン生まれ。 ロンドンのチェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインとゴールドスミス・カレッジで学び、在学中に映画を作り始める。卒業後は、彫刻家、写真家としても活動する。99年にはロンドンの現代芸術複合センターICAなどでエキシビションを行い、イギリスの美術賞ターナー賞を受賞。作品はテート美術館、MoMA、ポンピドゥ・センターなど世界中の美術館に所蔵されている。02年に大英帝国勲章4位、11年には3位を与えられる一方で、03年にはロンドンの帝国戦争博物館よりイラク戦争の公式戦争アーティストに任命される。 長編映画デビューは、脚本も務めた08年の『ハンガー』でカンヌ国際映画祭カメラ・ドールなど、数多くの賞に輝く。長編第2作となる『SHAME -シェイム-』(11)でヴェネチア国際映画祭の男優賞と国際批評家連盟賞を受賞、英国アカデミー賞、英国インディペンデント映画賞、インディペンデント・スピリット賞、サテライト賞など多くの賞にノミネートされた。今作『それでも夜は明ける』は第71回ゴールデン・グローブ賞で作品賞(ドラマ部門)を受賞、第86回アカデミー賞では主要9部門でノミネート、作品賞、助演男優賞、脚色賞の3部門受賞など数々の映画賞に輝いている。




webDICE_slaveサブ3(軽)
映画『それでも夜は明ける』より マイケル・ファスベンダー(左)、キウェテル・イジョフォー(中)、キウェテル・イジョフォー(右)© 2013 Bass Films, LLC and Monarchy Enterprises S.a.r.l. in the rest of the World. All Rights Reserved.

映画『それでも夜は明ける』
2014年3月7日(金)TOHOシネマズ みゆき座他 全国順次公開

1841年、アメリカ・ニューヨーク州サラトガ。バイオリニストのソロモン・ノーサップは、生まれた時から自由証明書で認められた自由黒人で、愛する妻と娘と息子とともに幸せな暮らしを送っていた。ある時彼は、知人の紹介で、ワシントンで開催されるショーでの演奏を頼まれる。契約の2週間を終え、興行主と祝杯をあげたソロモンは、いつになく酔いつぶれてしまう。翌朝目が覚めると、ソロモンは小屋の中で、手と足を重い鎖につながれていた。「おまえは南部から逃げてきた奴隷だ」と宣告され、ニューオーリンズの奴隷市場に運ばれ、奴隷商人から無理やり“ソロモン”という名前すら奪われる。ソロモンは、大農園主のフォードに買われていく。

監督:スティーヴ・マックィーン
出演:キウェテル・イジョフォー、マイケル・ファスベンダー、ベネディクト・カンバーバッチ、ポール・ダノ、ポール・ジアマッティ、ルピタ・ニョンゴ、サラ・ポールソン、ブラッド・ピット、アルフレ・ウッダード
製作:ブラッド・ピット、デデ・ガードナー、ジェレミー・クライナー、ビル・ポーラッド、スティーヴ・マックィーン、アーノン・ミルチャン、アンソニー・カタガス
製作総指揮:テッサ・ロス、ジョン・リドリー
脚本:ジョン・リドリー
撮影:ショーン・ボビット
プロダクションデザイン:アダム・ストックハウゼン
衣装デザイン:パトリシア・ノリス 編集:ジョー・ウォーカー
音楽:ハンス・ジマー
原題:12 YEARS A SLAVE
配給:ギャガ
2013年/アメリカ、イギリス/シネマスコープ/134分
© 2013 Bass Films, LLC and Monarchy Enterprises S.a.r.l. in the rest of the World. All Rights Reserved.

公式サイト:http://yo-akeru.gaga.ne.jp
公式Facebook:https://www.facebook.com/gagajapan
公式Twitter:https://twitter.com/gagamovie


▼映画『それでも夜は明ける』予告編


レビュー(0)


コメント(0)