骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2014-02-28 13:00


デモに参加する人がプラカードにスローガンを書くように、私はスクリーンにスローガンを書き込む

スペイン22万人のデモを生々しく捉えた映画『怒れ!憤れ!-ステファン・エセルの遺言-』ガトリフ監督語る
デモに参加する人がプラカードにスローガンを書くように、私はスクリーンにスローガンを書き込む
映画『怒れ!憤れ!-ステファン・エセルの遺言-』より ©Prince Production

『ガッジョ・ディーロ』『愛より強い旅』のトニー・ガトリフ監督が、「ウォール街を占拠せよ」に代表されるデモのバイブルとしてベストセラーとなったステファン・エセルの『怒れ!憤れ!』を映像化した『怒れ!憤れ!-ステファン・エセルの遺言-』が3月1日(土)より公開となる。2011年5月、22万人が集結したスペインから火がついた大衆運動〈INDIGNADOS(怒れる者たち)〉の現場を、移民の少女の物語を挟みながら、生々しく捉えている。ガトリフ監督が制作の経緯などを語った。

移民やロマの人々の強制退去に対して、私には映画をつくる以外に何ができるのかと思った

──この映画を製作するきっかけは何だったのですか?

すべての始まりは、2010年7月の終わりだった。7月30日にサルコジ(仏大統領 *当時)がグルノーブルで行った発言は、移民の人権を差別し、またロマの人々を傷つけるものだった。しかもこの発言は、数人のサルコジ内閣の大臣によってその後繰り返された。本当に恥ずかしい発言だった。これまでも十分に苦しんでいる人々に、なぜそんな事が言えるのだろう。怒りを感じた。発言の後、政府はすぐに動き、彼らがした事は「虐殺」と言ってもかまわないやり方だった。移民やロマが暮らすキャンプが焼き討ちされ、キャンピングカーに手榴弾が投げ込まれた。そしてついに死者さえ出たんだ。そして移民やロマの人々は強制退去させられた。私は考えた。こんな状況に対して、私には映画をつくる以外に何ができるのか。私はメッセージを持った映画をつくろうと決意した。

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映画『怒れ!憤れ!-ステファン・エセルの遺言-』のトニー・ガトリフ監督(左)とステファン・エセル(右)

──映画は2011年2月に死去した振付師のジャン=ポール・ドレに捧げられていますね。それはなぜですか?

2010年の秋にステファン・エセルの「怒れ!憤れ!」を読んだ時、彼の言うところの“平和的な暴動”にまったく共感した。だが当初は、別に脚本を書くつもりだったんだ。私は、哲学者で、エセルと同じ思想を持つジャン=ポール・ドレと週2回、映画の脚本のための打合せをしていた。それはまだヨーロッパで〈INDIGNADOS運動〉(*スペインの首都マドリッドの市街中心地、プエルタ・デル・ソル広場から2011年5月15日にスタート、世界を動かしている金融・経済・政治システムに疑問を投げかける運動)がおこる前のことだ。2011年の2月にジャン=ポールが亡くなり、私は映画をあきらめようかとも考えた。しかし、エセルの本に立ち戻り、彼の言葉を映像化するというやり方で製作を続けることにしたんだ。そしてエセル本人、出版に関わったシルヴィ・クロスマンやジャン=ピエール・バルーは、直ちに私に映画化権を許可してくれた。

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映画『怒れ!憤れ!-ステファン・エセルの遺言-』より ©Prince Production

不法移民の視点を持ち込む

──映画の主人公は、アフリカからヨーロッパへと生きるためのお金を稼ぎにやってくる少女です。彼女は、ヨーロッパに夢と希望を抱いてやってくる多くの移民たちの象徴ですね。

私はエセルが考える人間の権利に賛成する。だからこそ映画の構成を考える際に、この若いアフリカの少女の存在がとても重要だと感じた。この映画には、ヨーロッパにおいて「拒絶される者」の結晶化した存在として、不法移民の視点を持ち込まなくてはいけないと考えたんだ。労働許可を得られない者、路上で暮らさざるを得ない者、等しい権利を与えられない者たちの象徴として。

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映画『怒れ!憤れ!-ステファン・エセルの遺言-』より ©Prince Production

──撮影はどのように行われましたか?

2011年5月に〈INDIGNADOS運動〉がスペインで始まった時、私は緊急に、ごく少ないクルーともに駆けつけた。すぐさま映画を撮らなくてはならないと考えた。しかし、望遠レンズで遠くからデモの様子を撮影するようなドキュメンタリーを撮るつもりはなかった。そこで不法移民のアフリカの少女の物語を語るのだ。だが、近距離での撮影となると、運動の参加者の誰もが歓迎する訳ではないだろうから、私はまず、〈INDIGNADOS運動〉のスポークスマンに会い、撮影の許可を得た。さらにカメラの前の人々に、撮影の目的や、エセルについて、自分自身について説明した。彼らはその場でインターネットを使ってエセルや私ことを調べ、そして撮影を受け入れてくれたんだ。

──この映画のタイポグラフィは、ゴダールやクリス・マルケルを思い起こさせますね。

タイポグラフィは〈INDIGNADOS運動〉がいかに実践されたかという事実から来ている。彼らがプラカードや壁にスローガンを書くように、私はスクリーンにスローガンを書き込みたかった。

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映画『怒れ!憤れ!-ステファン・エセルの遺言-』より ©Prince Production

──オレンジが転がるシーンに目を奪われました。

オレンジは、“アラブの春”のきっかけともなった、2010年12月17日にチュニジアで焼身自殺をした青果商人モハメド・ブアジジを象徴するものでもあるんだ。彼は野菜や果物を乗せた重いカートを引っ張って商売をしていたが、いつかピックアップ・トラックを買いたいと夢見ていた。カートが道路のでこぼこに引っかかりバランスを崩すと、果実は路上に転がり落ちた。オレンジはどんどんと転がっていく。「貧乏人には生きる権利がない」と発言する者にも、このオレンジを止めることはできないんだ。

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映画『怒れ!憤れ!-ステファン・エセルの遺言-』より ©Prince Production

──最近では、運動に参加している人々から「いくら叫んでも、誰も聞いてくれない」という言葉をよく聞きます。また映画の中に、「民主主義とカメラは一緒に行動するわけではない」という言葉もあります。こうした状況に対するあなたのお考えは?

私は、フィクションの形式で現実を映す映画が好きなんだ。そして、この映画は、現実のドラマ化ではないが、現実のためにフィクションが機能する映画になっている。ギリシャでの撮影で、「民主主義とカメラは一緒に行動するわけではない」と書かれたバナーを撮ったが、それは間違いでもあると、それを書いた人に伝えたかった。たしかにすべてのカメラが民主的であるとは言えないが、映画製作者が人々の視点を捉えた多くの民主的なカメラも存在するんだ。
この映画を見てくれた人たちが、アフリカからの不法移民であるベティや、スペインで〈INDIGNADOS運動〉をするイサベルや、すべての怒れる者たちの瞳の輝きやプロテストソングの歓喜を感じ取ってくれることを願っている。

(オフィシャル・インタビューより)



トニー・ガトリフ プロフィール

1948年生まれ。フランス人の父、ロマの母の間に生まれる。舞台で俳優として活動を始め、75年に初めての映画短編を監督。90年『ガスパール/君と過ごした季節(とき)』がスマッシュヒットし、人気監督となる。2004年の『愛より強い旅』で第57回カンヌ国際映画祭監督賞を受賞。2009年の『Korkoro』(日本未公開)ではモントリオール世界映画祭最優秀作品賞などを受賞。自身の出自であるロマを題材にした秀作を数多く発表している。自ら作曲も手掛けるなど音楽の造詣も深く、映像・音楽に秀でた感覚を持つ。




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映画『怒れ!憤れ!-ステファン・エセルの遺言-』より ©Prince Production

映画『怒れ!憤れ!-ステファン・エセルの遺言-』
2014年3月1日(土)よりK's cinemaほか全国順次公開!

家族へ。ヨーロッパから良い報せを送ります。アフリカからヨーロッパにやってきた少女。たどり着いたのはギリシャ、アテネ。仕事を探すものの、仕事どころか眠る場所にさえありつけず、警察に拘束されて強制退去させられる。少女はフランスにたどりつく。パリ。市民や観光客の目の届かない裏通りには、多くの不法移民や差別され追放された者たちが路上に暮らす。バスティーユ広場には「真の民主主義を」と訴える若者たちが集まっていた。少女は再び、警察に捕らえら、アテネへと送り返される。その街で声をかけてきた少年の手配で、少女は1ユーロで水を売るが、何の足しにもならない。少女はよりよい場所を求めて、密航する。スペイン。世界に絶望しかけた彼女の前に、世の不正義に反対する若者たちの声が聞こえてくる……。

監督:トニー・ガトリフ
原案:ステファン・エセル著「怒れ!憤れ!」(日経BP刊)よりの自由な翻案による
撮影:コリン・オウベン、セバスティアン・サドゥン
編集:ステファニー・ペデラク
出演:ベティ
言語:ウォロフ語、フランス語、ギリシャ語、スペイン語、ポルトガル語、英語ほか
原題:INDIGNADOS
2012年/フランス/88分/カラー/1:1.85/DOLBY SRD
配給:ムヴィオラ

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▼映画『怒れ!憤れ!-ステファン・エセルの遺言-』予告編


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