映画『ラヴレース』より ©2012 LOVELACE PRODUCTIONS,INC.ALL RIGHTS RESERVED
アマンダ・セイフライドを主演に迎え、1972年公開の『ディープ・スロート』でアメリカの社会現象となった伝説のポルノ女優リンダ・ラヴレースの数奇な半生を描く映画『ラヴレース』が公開される。ドキュメンタリー『ハーヴェイ・ミルク』や『セルロイド・クローゼット』などで知られるロバート・エプスタインとジェフリー・フリードマン監督 にラヴレースについて、そして舞台となる70年代の美的感覚ついて聞いた。
『ディープ・スロート』はたった17日間の撮影だった
──なぜ今回リンダ・ラヴレースをフィーチャーした映画を制作しようと思ったのですか?このテーマに興味を持った経緯を教えてください。
ロブ・エプスタイン:実際のところは、企画が既にあったうえで監督として声がかかりました。プロデューサーと打ち合わせをする前に、脚本の初稿とあわせてできるだけ多くリンダに関する資料を読み、僕たちのビジョンを持ったうえで打ち合わせに臨みました。それが功を奏して晴れて監督として選ばれたわけです。そんなに簡単で単純なことでもなかったのですが、ざっくばらんにご説明するとそのような流れでこのプロジェクトに関わることになりました。
映画『ラヴレース』のロバート・エプスタイン(右)とジェフリー・フリードマン(左)監督
──プロデューサーから依頼を受けた際、どのような印象を持ちましたか。
ジェフリー・フリードマン:異性愛者の女性ポルノスターを題材とした映画の監督として僕たちにオファーをしてきたのは面白い選択だと思いました。なかなか思いつかない選択肢ですよね。過去の僕たちの作品を見て、プロデューサーが僕たちにきちんとリンダの物語を伝えることができると、信頼してもらえたことが嬉しかったです。
──前作『Howl』は、ジェームズ・フランコがアレン・ギンズバーグを演じ、ビートニク詩人たちの活躍を描いた作品でしたが、それに続く実在の人物をベースにしたドラマですね。
ジェフリー・フリードマン:『ラヴレース』は僕たちの前作の延長線上にあります。実話に基づくストーリー、時代背景は僕たちが実際に経験した時代、そして文化に多大なるインパクトを与えた人物が主役。撮影スタイルとしてはたくさんの動きや派手なシーンなど自由に撮らせてもらうことができました。でも何よりも楽しかったのは登場人物たちが暮らす世界を創り上げ、そして俳優たちとともに物語に命を吹き込む作業でした。
映画『ラヴレース』より ©2012 LOVELACE PRODUCTIONS,INC.ALL RIGHTS RESERVED
──今作はリンダ・ラヴレースが時代の寵児となったその裏で、夫でありマネージャーのチャックから家庭内暴力を受けていたという事実を捉えています。
ロブ・エプスタイン:彼女については、何年かかけてリサーチしました。記事や写真や文献を集めファイルが何冊にもなり、美術や衣装、撮影のロケーションを選ぶときにとても役立ちました。リサーチしてもっとも驚いたことは、リンダが実際ポルノを撮影したのはたったの17日間だったということです。
──ストーリーはラヴレースのデビュー前から脚光を浴びた17日間の後、自伝を書くという段階でチャックとの出来事がフラッシュバックするという構成になっています。このような構成にした理由を教えてください。
ジェフリー・フリードマン:誰でも自分たちの物語を語るとき、時代が変われば物語も変わってくるものです。今僕が20代のころを思い出すと、その当時とは全く違った見方をするでしょう。僕はバカで、冒険好きで、賢かったけれど混乱していた。過去は常に当時思っていたよりも複雑なんです。
──1970年代末から1980年代にかけてのポルノ業界を描く映画といえば、どうしてもポール・トーマス・アンダーソン監督の『ブギーナイツ』を思い出してしまいますが、今作は『ブギーナイツ』よりもよりシリアスで、ラヴレースの人生に寄り添った作品になっていると思います。制作にあたって『ブギーナイツ』の存在は意識しましたか?
ジェフリー・フリードマン:もちろん明らかな類似点はありますが、物語は全く違ったものです。『ブギーナイツ』は男性ポルノスターで『ラヴレース』は女性。それだけで全く違った観点になります。『ブギーナイツ』は大作で、僕たちはそれにインスパイアされることはあっても全く違う物語です(製作費も格段に多いです!)。
──『Howl』では脚本も手がけていましたが、今回は『チャット~罠に堕ちた美少女~』のアンディ・ベリンが脚本を担当しています。彼とのコラボレーションはいかがでしたか。
ロブ・エプスタイン監督:僕たちはお互いのことを良き共同制作者だと思っていますが、それは映画製作にあたって絶対に必要な条件です。アンディとの仕事はとても楽しく、作品の世界観に浸ることができました。
映画『ラヴレース』より ©2012 LOVELACE PRODUCTIONS,INC.ALL RIGHTS RESERVED
あの時代を表現するために16mmで撮影
──主演のアマンダ・セイフライド、そして夫役のピーター・サースガードとは撮影にあたり、どのようなディスカッションを行ないましたか。
ジェフリー・フリードマン:ラッキーなことにアマンダとピーターとのリハーサルの時間を一週間もらえました。僕たちはその時間を二人のキャストが互いに慣れて親しい関係を築くのに費やしました。二人の関係がスクリーンの上でも必ず影響してくるからです。二人の相性は素晴らしく、互いに全面的に信頼し合い能力を最大限に引き出しあっていました。
ロブ・エプスタイン監督:どんな役者にも、演じるキャラクターに忠実であることが求められます。アマンダはリンダと彼女のストーリーを信頼し、ありのままを表現しようとしていました。
──今作は70年代の映画が持っている華やかさや猥雑さや自由さ、その反対の保守的な部分をストーリーだけでなく、映像の質感でも再現しています。
ジェフリー・フリードマン:70年代はとても独特で派手な美学があった時代で、その美学を追求するために色々と調べました。あの時代のきめの粗いフィルムの質感を表現するために、16mmのフィルムで撮影し(もしかすると16mmで撮った最後の作品かもしれません)自分たちが記憶している表情豊かで鮮やかな色彩を再現したかったのです。
映画『ラヴレース』より ©2012 LOVELACE PRODUCTIONS,INC.ALL RIGHTS RESERVED
──リンダ・ラヴレースの存在や、彼女の出演した映画が、現在の映画界にいまだ与え続けている影響について、どのように考えますか?
ロブ・エプスタイン:映画製作の観点から言うと、『ディープ・スロート』は一般受けを狙った俗な部分があると思います。しかしリンダ・ラヴレースという人物から僕たちが学ぶべきは、「自分を守るために私生活でもエージェントを雇うべき」ということ。そのことほうが重要な意味があると思います。
──これまでドキュメンタリーを撮り続けてきた監督にとって、今作は2作目のフィクション・ドラマとなりますが、ドキュメンタリーとフィクションの境界について、あらためて思うところがあれば教えてください。
ロブ・エプスタイン:ドキュメンタリーの出身だからこそ題材の真実や細かい事実を追求するようにしており、この姿勢は僕たちのフィクション作品に対するアプローチを大きく特徴付けています。しかし広義で言えばドキュメンタリーも映画ですし、ストーリーテリングをするという意味に置いて大きな違いはありません。
──『ディープ・スロート』公開時の記憶もあると思いますが、本作を撮られる前と後でのリンダ・ラヴレースに対する印象の変化を教えてください。
ロブ・エプスタイン:普段映画を観るときに、スクリーンに映るキャストたちが撮影時にどんな様子だったか―どんな生活だったかなんて考えることはほとんどないですよね。でも『ディープ・スロート』では撮影当時の彼女に何が起こっていたのか考えずにはいられません。
(インタビュー・文:駒井憲嗣)
ロバート・エプスタイン ジェフリー・フリードマン プロフィール
ロブ・エプスタインは、1955年生まれ。70年代後半にサンフランシスコを拠点にドキュメンタリー映画を作り始め、84年の監督作『ハーヴェイ・ミルク』では、アカデミー賞の長編ドキュメンタリー映画賞に輝いた。ジェフリー・フリードマンは、1951年生まれ。70年代に『エクソシスト』(73)や『レイジング・ブル』(80)といった作品の編集補助としてキャリアをスタートさせた。2人は、89年の作品でアカデミー賞の長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した『Common Threads:Stories from the Quilt』で初めてコンビを組み、その後も『セルロイド・クローゼット』(95)、『刑法175条』(00)といった数々のドキュメンタリー映画の秀作を共同監督で発表しつづけている。また、ビートニク詩人、アレン・ギンズバーグの若き日を題材としたジェームズ・フランコ主演『Howl(原題)』(10年)では初のフィクション・ドラマ作品にも挑戦し、話題を呼んだ。
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映画『ラヴレース』
2014年3月1日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー
1970年、21才のリンダ・ボアマンは、フロリダの小さな町で、厳格なカトリック教徒の両親と暮らしていた。ある夜、リンダは地元でバーの経営をしているチャック・トレイナーと知り合う。チャックの優しい言葉に惹かれ、彼とつきあい、すぐに結婚する。その半年後、バーでの売春容疑で逮捕されたチャックは、保釈金やあちこちへの借金で行き詰まり、妻のリンダをポルノ映画へ出演させるというアイディアを思いつく。
監督:ロバート・エプスタイン ジェフリー・フリードマン
出演:アマンダ・セイフライド、ピーター・サースガード、シャロン・ストーン、ジェームズ・フランコ、クロエ・セヴィニー、クリス・ノース ほか
脚本:アンディ・ベリン
撮影:エリック・エドワーズ
美術:ウィリアム・アーノルド
音楽:スティーヴン・トラスク
編集:ロバート・ダルヴァ、マシュー・ランドン
2012年/アメリカ/ビスタ/93分/R18+
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