映画『ダブリンの時計職人』より
もし自分が突然家を失い、ホームレス生活を余儀なくされるとしたら……。原題である『PARKED』の通り、この映画の主人公である中年男はのっぴきならない事態により海岸近くの駐車場で車上生活をすることになる。しかし、そこで描かれる生活には、悲惨さはさほど感じられない。むしろ、極めて制限された環境のなかでも身だしなみも整え、規則正しく暮らそうと努力する実直なフレッドの姿には、自身がこうした状況下に置かれたとしても、生きることに落胆せずにいることができるのではないかと静かなエネルギーを感じられるのではないだろうか。先が見えない現実に対し、決して闇雲でなくても、一歩一歩自分の歩幅で進んでいくこと。偶然出会う「隣人」カハルの存在に助けられながら、次第に心の扉を開いていくフレッドの表情の変化が、今作のいちばんのドラマと言えるのではないだろうか。
映画『ダブリンの時計職人』より
フレッドが恋をする未亡人ピアノ教師ジュールスがフィンランドからの移民という設定も、多くの移民を生んできたアイルランドを舞台にしながら興味深い設定だが、もうひとつこの『ダブリンの時計職人』の主人公と言えるのが、タイトルにもなっているダブリンの風景。都会・海辺・住まいなどから、様々なシチュエーションでこの国の澄み渡る空気と自然の美しさ、伝統を重んじる文化を感じることができるだろう。決して良いとはいえない経済状況をそのまま反映した物語だからこそ、この国の現実とともに、長きに渡りアイデンティティを守り抜いてきたアイルランドという国の片鱗を感じることができるはずだ。
映画『ダブリンの時計職人』より
映画『ダブリンの時計職人』
2014年3月29日(土)より新宿K's cineama、渋谷アップリンク他、全国順次公開
監督:ダラ・バーン
出演:コルム・ミーニイ、コリン・モーガン、ミルカ・アフロス
プロデューサー:ドミニク・ライト、ジャクリーン・ケリン
脚本:キーラン・クレイ
撮影:ジョン・コンロイ
美術:オーウェン・パワー
製作:Ripple World Pictures Limited, Ireland
2010年/アイルランド、フィンランド/90分
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