映画『ラッシュ/プライドと友情』より c2013 RUSH FILMS LIMITED/EGOLITOSSELL FILM AND ACTION IMAGE.ALL RIGHTS RESERVED.
ロン・ハワード監督が、F1の黄金期である1970年代に活躍したレーサー、ジェームス・ハントとニキ・ラウダというライバル同士の深い繋がりを描く『ラッシュ/プライドと友情』が2月7日(金)より公開される。『アポロ13』『ビューティフル・マインド』『シンデレラマン』などこれまでも実在の人物を主題に作品を手がけてきたロン・ハワード監督が、ダイナミックなレースシーンやふたりの関係をどのように描こうとしたのか。今回のインタビューでは、F1レースを題材にしたきっかけから、危険と隣り合わせだった撮影現場の様子までが語られた。
観客をF1マシンの運転席に座らせ、ドライバーたちの気分を味あわせる
──今作の物語については『フロスト×ニクソン』で仕事をした脚本のピーター・モーガンから最初に話があったそうですね。
脚本作りの早い段階で聞いて、すぐに興味を持った。「とても面白そうな物語だ。F1のファンではないし特に詳しいわけでもないが、その世界に興味があるし、今までにこういった映画を作った人はいない」と即答したよ。描かれている人物たちも素晴らしい。2人の魅力溢れる人物、観客の心を揺さぶる映画としての可能性と、「F1マシンの運転席に座り、ドライバーの気持ちになる」というこれまで味わったことのないリアルな感覚に、絶対に素晴らしい映画になると感じていた。
映画『ラッシュ/プライドと友情』のロン・ハワード監督
──当時はF1のファンではなかったそうですが、実際に見たことはあったのでしょうか?
ジョージ・ルーカスが大ファンで、7、8年前、フランスで彼に招待されてモナコGPを見に行った。生で見るのはその時が初めてで、本格的にのめり込んでいったのは、2年前のシルバーストーンでニキ・ラウダと一緒にテレビで観戦した時からだ。彼は解説の仕事のためにレースを見ていた。その時に彼が、各ドライバーが次にどんな行動をして、マシンがどんな状態なのかということを教えてくれたんだけど、彼はテレビの解説者よりも先にすべてを言い当てていた。本当にすごかったよ。立ち上がってトイレに行くこともできなかったほどだ。最先端のテクノロジーとスポーツの精神とすごいスピードを競い合う勇気が混ざり合うと、面白いドラマが生まれるということが分かってきたんだ。
──1970年代のジェームス・ハントとニキ・ラウダのライバル関係のことはご存じでしたか?
いや、知らなかった。後になって雑誌や新聞で事故の写真を見たのを覚えている。でもピーター・モーガンが素晴らしい脚本を書いてくれた。ジェームス・ハントとニキ・ラウダの敵対するだけの関係ではなく、2人の持つ魅力と感情の複雑さを掘り下げて描いている。彼は、どのようにすれば観客と登場人物の距離を近づけることができるかも把握しているんだ。
映画『ラッシュ/プライドと友情』より c2013 RUSH FILMS LIMITED/EGOLITOSSELL FILM AND ACTION IMAGE.ALL RIGHTS RESERVED.
──1970年代が舞台の映画ということも気に入った理由でしょうか?あなたにとって70年代とはどのような時代でしたか?
前後の10年と比べても、野性的で官能的な時代だったと言える。60年代後の改革期と80年代のエイズ時代の前は、性革命にブレーキがかけられた。60年代からの反動もあったし、新たに見つけた自由が決定的になったとも言える、いろいろなことが起こっていた時代だ。拡大し続けるメディアが、我々の考えるセレブやチャンピオン、そして我々自身の有り方を変えた。最高だったよ。束縛されることもなく、それゆえに大変な目に遭った人もたくさんいた。なぜならルールが変わり、境界線が広がったことで、人々がちょっとした未知の世界へ飛び出して行ったからだ。そうした記憶を呼び起こせるのは面白いと思った。
──ジェームス・ハントの酒と女に没頭する型破りな人生を観客に見せることについて、ハントにネガティブな印象を与えないよう気を配りましたか?
脚本の段階からそのことは考えていた。私とピーターは大勢の関係者にインタビューしたが、皆が彼のことを愛し、尊敬していて、悪く言う人はひとりもいなかった。だからこれは彼の生き方なんだということを理解し、尊重しなければならない。彼はサーキット上で自分自身を表現し、サーキットの外でもうひとりの自分を表現していたが、どちらの彼もそう違いのないものだった。そのことはとても興味深いよ。
一方のラウダも、チャンピオンになることを第一に考え、結果を残す模範的なアスリートの先駆けとして、非常に興味をそそられる人物だと思った。ジェームスの生き方を否定せずに、理解することが何よりも重要だった。それをやってしまうとせっかくの物語を不当に扱い、歪めることにもなりかねない。ジェームスが感情的な部分で苦しんでいたのは知っているし、ラウダも同様に自分の見た目の変化や感情的であることに悩んでいた。ふたりとも頂点を目指すという野心のために犠牲を払っていたんだ。
──そのような部分はジェームス・ハントを演じたクリス・ヘムズワースとニキ・ラウダを演じたダニエル・ブリュールの演技にも反映されていますか?
当時のF1レースは特に危険なスポーツだった。面白かったのはクリスとダニエルにはそのことを話していないのに、演技に反映していたということだ。映画で描かれている6年の間に、ドライバーたちの勇気と威厳、マシンを通して自分の存在を示すという行為に払う危険の度合いは増していき、暗くなる物語の中でふたりは成長していく。ジェームスでさえ、無謀だった過去の自分にすがろうとしているように感じられるようになる。プロとして何かの道を極めていくということは、生死をかけた問題になってくるのだと私は思う。ふたりのドライバーと同じように、ふたりの俳優がそれを見つけ表現しているんだ。
──クリスとダニエルはどのようにしてこの役を手に入れたんですか?
ダニエルはピーターの推薦だった。私も彼の演技は他の作品で見たことがあったし、気に入っていた。実際にダニエルと会い、ラウダとダニエルの写真を確認してニキの出っ歯と体型の問題をどうするか話し合った時に、彼は付け歯をするなど、そういった部分も含めて役作りすることを望んでいたし、ピッタリだと思った。
──クリス・ヘムズワースについては?
クリスは自分で役を勝ち取った。我々が候補者を考えていた時に、彼は『アベンジャーズ』の現場で作ったオーディション用の映像を送ってきたんだ。クリスはサーファーだが、ジェームスはそうではなかった。だがジェームスにはカリフォルニア特有のカッコよさが漂っていたんだ。クリス自身が持つ雰囲気としぐさを持っていたし、ジェームスのインタビュー映像を見てオーディションのために役作りまでしていたことには本当に驚かされたよ。彼は「ジェームスになるために体を絞ります、見ててください」と言い、体重を13キロ~18キロ落としてきたんだ。
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ドライバーの精神状態という観点からレースを撮る
──レースのシーンについては、どのような構想をもとに撮影したのですか?
『ビューティフル・マインド』の撮影にあたり、数式を用いて理論的な数学者たちと話をしたことで、彼らには奥深い感性があることが分かった。さらに『シンデレラマン』のときは、シュガー・レイ・レナードといったボクサーたちと話をして、反射神経が求められるスポーツ選手は誰もが、大抵の人がその価値を理解できないような対象物に対し、体や心が適応できており、非常に高い関係性を築けていることに気づいた。そして今回、ラウダと話をした時に、彼は「マシンに乗った時の自身との一体感」を述べていた。私は「ちょっと待てよ。これは他にも何かあるな」と思ったんだ。そこで私は他のドライバーたちに運転中に何が見えていたのか?何を感じていたのか?を聞き始めた。マシンやコースに対して、ドライバーの感覚でしか分からない“いい日”と“悪い日”があるということに気づき始めた。私はレース中のドライバーの精神状態という観点からレースを考えてみようと思い始めたんだ。
そのアイデアを実現させるために、撮影監督のアンソニー・ドッド・マントルと編集のダニエル・P・ヘンリーとマイク・ヒルに考えを伝え、彼らのアイデアと合わせて少し変わった方法でレースのシーンを撮ることになった。
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──サーキット上では具体的にどのようにして撮影を行ないましたか?例えば観客に臨場感を与えるためにはどのようにカメラを配置したのでしょうか?
撮り始めた時はもっとたくさんCGを使おうと思っていたんだ。マシンは普通に撮影し、マシン同士が接近し追い抜いたりする危険なシーンはCGにしようと考えていた。だが最初のテスト撮影でニュルブルクリンクに行った時、歴史に名を残す名ドライバーたちが数百万ドルの価値があるマシンをスピンしながら本気で操っているのを目にした。そして彼らと話をし、追い抜きのシーンを撮らせてもらったんだ。彼らはスタントドライバーではないので、無茶なお願いはできなかったけれど、その次にレプリカの車を運転していたドライバーたちのテクニックを見せてもらった。彼らは接触させることも、スピンさせることも、追い抜くこともできる。その時に、実際にカメラで撮ろうと思ったんだ。現場に来る前の“危ないことはせずに安全に撮ろう”というリラックスした気持ちから、“これならすごい映像が撮れる、気を抜かずにやろう”という気持ちになった。幸いなことに大きなトラブルはなかったけれど、雨の日の撮影時に予定にないスピンをしてしまったシーンの1つが映画の中で実際に使われている。何事もなく撮影が終わってよかったよ。
──あなたもF1マシンに乗ってスピンしたんですか?
そう。運転が必要になる役者たちを連れてドライビングスクールに行ったんだ。彼らにも経験させたかったしね。そこでドライバーが操れるパワーのすごさに驚いたし、公道を走っている高性能の車とは、加速力、シャーシの軽さ、ハンドルの感度など何もかもが違うということを知った。しかもその時に乗っていたのは練習用のマシンでレース用ではない。誰かが「サラブレッドに乗っているようだ」と言っていたよ。完全にコントロールすることはできないんだ。小さな動き1つで車はその方向に向きを変えるように設計され作られている。たとえ何もない真っ直ぐな道でもコントロールできない。サーキット上で思い通りのラインを走ること自体がすごいことなんだ。
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──クリスとダニエルは可能な限り自分たちで運転しようとしていましたか?
もちろん、車同士の距離が近づくような危険なシーンの運転はしないものの、ピットストップのシーンは自分たちで運転ができるようになっておく必要があった。ヘルメットのバイザーを上げた時に、彼らの顔が見えるシーンを撮影したかったからね。そして再びバイザーを下ろしコースに戻っていく。それだけでも周りには大勢の人がいるから危険だった。そして、レーサーとしての雰囲気を出す必要があったんだ。レース中のシーンは、彼らをグリーンスクリーンの前にある実物大のマシンに座らせてカメラで撮影し、それをCGではめ込む。だが実際に彼らが運転しているシーンもかなりあって、観客が後ろに映る直線のシーンではマシンにカメラを乗せて撮っているから、本当に彼らが運転しているということが分かると思う。
──撮影された映像と当時のレース映像を混ぜていますが、どのような試みだったか説明してもらえますか?
観客に今見ている映像は1976年のものだと思い込ませるために、映画製作の最新技術を用いて何でもやった。記録映像、CG、実写、本物のマシン、レプリカのマシン。『フォレスト・ガンプ』と同じ手法を使っているところもあるよ。グリーンスクリーンの前に置いたマシンを撮影し、それを過去のレース映像に混ぜ込む。背景はそのまま使い、細かい部分に修正を加えるんだ。
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非日常を身近にする楽しさを観客に与えたい
──ニュルブルクリンクでのラウダのクラッシュのシーンにも、当時の映像が入っているんですか?
あのシーンは完璧に再現している。当時撮影された8ミリカメラの映像を映画の他の場所で使っているんだ。そこにも編集を加えたり、絵コンテを描いてシークエンスをデザインし、とにかく細心の注意を払って作っている。
──ラウダが事故から復帰し、76年のチャンピオンになるまでの経過も、ありのまま描かれています。
病院のシーンを撮っている数日は気持ちが落ち込んだ。ケガの特殊メイクの出来が素晴らしくて見るのも怖いくらいだったんだ。本物の病院で撮影をしたが、病院はいつでも怖い場所だね。これは皆が楽しくなる映画だけど、あの3日間だけは皆の気持ちも落ち込んでいたと思うよ。
──この映画はF1ファンとそうでない人と、どちらに観てほしいですか?
私の目的は最初から変わっていない。F1のことを知らない人や好きじゃない人も、登場人物たちが織りなす人間ドラマに魅了されること。彼らがどのような人生を生き、彼らを愛する人たちがどのような人生を生きたのか。そして当時のF1はどんな感じだったかを楽しんでほしいね。そしてF1が好きで詳しい人には、そういったドラマチックな要素に加えて、F1がどれだけ愛されていたのかということと、あの年の真実がリアルに描かれているということを感じてほしい。
──『ラッシュ/プライドと友情』は、『アポロ13』と同じように専門的な分野の話に焦点を当てながら人々を楽しませる魅力がある作品だと思います。
そうだね。さらに、『バックドラフト』のような“危険”も含まれている。『アポロ13』と『バックドラフト』を合わせた感じだ。『バックドラフト』の物語はフィクションだがリアリティを追求した。この3作品には共通点があって、炎の中に飛び込むこと、月に行くこと、さらにF1マシンを運転するという、非日常的なことを身近にし、人々を楽しませ夢中にさせる何かがある。空想の物語も好きだが、ドラマで夢中になると、そこで起きていることがまるで自分に起きたように驚いてしまう。私はその感覚を観客に与えることを望んでいるんだ。
(オフィシャル・インタビューより)
ロン・ハワード プロフィール
1954年、アメリカ生まれ。子役として芸能活動を開始し、青年期には『アメリカン・グラフィティ』(73)などの作品に出演して活躍していたが、1976年にコメディ『バニシング IN TURBO』(76)で監督デビュー。その後、『コクーン』(85)、『バックマン家の人々』(89)、『バックドラフト』(91)などの作品が興行的にも批評的にも成功し、一流監督の仲間入りを果たす。アカデミー会員からの評価も高く、95年には『アポロ13』(95)がアカデミー賞9部門にノミネートされ、同作は編集賞と音響賞を受賞。01年には『ビューティフル・マインド』(01)で初めてアカデミー賞監督賞を受賞し、この映画は他に作品賞、脚色賞、助演女優賞も獲得した。
映画『ラッシュ/プライドと友情』
2014年2月7日(金)よりTOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー
1976年、F1黄金時代。世界を熱狂させた二人のレーサーがいた。ドライビングテクも私生活も情熱型のジェームス・ハントと、レース運びも人生も頭脳派のニキ・ラウダだ。シーズンはラウダの圧倒的なリードで幕を開けた。チャンピオンが確実視されたその時、全てが変わった。壮絶なクラッシュ。ラウダは瀕死の重傷により再起は絶望的だった。事故の一因は自分だ、との自責の念を払いのけるかのように、残りのレースに全霊をかけたハントがチャンピオンの座に手をかけた時、ラウダは再びサーキットに戻ってきた。変わり果てた姿で。ポイント差僅か、最終決戦の地富士スピードウェイで、ライバルを超えた絆を胸に二人は限界の先へとアクセルを踏み込む。
監督:ロン・ハワード
出演:クリス・ヘムズワース、ダニエル・ブリュール、オリヴィア・ワイルド、アレクサンドラ・マリア・ララ
脚本:ピーター・モーガン
配給:ギャガ
提供:ギャガ、ポニーキャニオン
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