映画『KILLERS/キラーズ』より ©2013 NIKKATSU/Guerilla Merah Films
インドネシアと日本初の合作映画として、2014年1月20日、第30回サンダンス映画祭にてワールドプレミア上映された『KILLERS/キラーズ』が2月1日(土)より日本で公開される。東京とジャカルタを舞台に、殺人とネット上のスナッフ・ヴィデオにのめりこむふたりの男の攻防を描く今作。アジア映画界のなかでもとりわけホラーのジャンルで注目を集めるインドネシア発のスピード感溢れる編集や映像感覚、そこに『冷たい熱帯魚』などに代表される日本映画が持つ細やかな心理描写とスプラッター的効果が融合。これまでにないエンターテインメント作品に仕上がっている。監督のモー・ブラザーズことティモ・ジャヤントとキモ・スタンボエルに日本とインドネシアの混成スタッフによる製作環境について聞いた。
主人公・野村は社会を超越した神
── ではまず、プロジェクト発端の経緯から教えてください。
キモ・スタンボエル(以下、キモ):企画の経緯は、2009年にすでにモー・ブラザーズで作っていた『マカブル 永遠の血族』がサンダンス映画祭で上映されたときに、脚本の牛山拓二さんが 「スプラッター映画を作ろう」 と声をかけてくれたのが始まりでした。
ティモ・ジャヤント(以下、ティモ):二人の男性がマスクをつけてお互いが殺人を犯し、撮影をし、競い合うという内容ですが、キャラクター重視の映画をという提案の上で、物語をつくりあげていきました。
キモ:共同製作なので、両国からの出資を集めは苦労しましたね。
ティモ:2年半かかりました。プロデューサー千葉善紀さんと西村信次郎さんに会い、日活とインドネシアから資金を集め、2012年から本格始動しました。
映画『KILLERS/キラーズ』のティモ・ジャヤント監督(左)、キモ・スタンボエル監督(右)
── 東京を舞台に、殺人の工程を撮影しネットにアップロードする男・野村と、その映像をジャカルタで偶然目撃し、異様な世界にのめり込んでいく男・バユというそれぞれのキャラクターをどのように作り上げていったのか教えてください。
ティモ:北村一輝さん演じる野村は、社会から生まれたキャラクターではあるけど、モンスターなんです。社会を超越した神であり、自分以上の存在はいない、と思っているキャラクターです。そして、モンスターはただのモンスターであるという思いが込められています。一方、ジャカルタのバユは、良き人間として生きようとします。ジャカルタは実際にバイオレンスに溢れた街ですから、生きようとすればするほど抑圧されてしまうという、野村とは対照的なキャラクターにしました。
映画『KILLERS/キラーズ』より ©2013 NIKKATSU/Guerilla Merah Films
── 初めての日本とインドネシアとの合作映画ということで、二つの国の製作現場を経験していかがでしたか?
ティモ:日本の古典的な撮影方法については尊敬に値します。ただ私の持っているアイディアはクレイジーなものが多いので、はじめのほうは心配しました。結果的に日本のスタッフとうまく合致したので、満足しています。
── 日本の映画システムの手法のなかで、インドネシアの映画製作に取り込んだら、と思うところはありましたか?
ティモ:ひとつ例を挙げるとすると、今回の編集を担当したのはインドネシア人で、彼はインドネシアで撮影したシーンも日本で撮影したシーンも両方編集したのですが、なぜか日本のシーンだけ先に上がってきたのです。どうしてか聞いてみたところ、日本人の役者はどのカットも同じテイクを繰り返すことができる。しかしインドネシアの俳優は毎回テイクによってアクションや演技が異なるので選ぶのが難しい、というのです。インドネシアも、一貫して同じ演技ができる日本の俳優の演技は、学ぶべきところかもしれないですね。
映画『KILLERS/キラーズ』より ©2013 NIKKATSU/Guerilla Merah Films
── 野村を演じた北村一輝さんとの撮影はいかがでしたか。
ティモ:野村は、殺人鬼を演じながらもカリスマ性を放つ、独特の魅力のある俳優が必要だと感じていました。そこで紹介されたのが北村一輝さんでした。第一印象は三池監督作品に出演する北村さんの印象が強く、どんなふうに野村を演じるのか想像がつきませんでした。北村さんの役はモンスターであり、嫌なやつ。しかし、それだけではなく、カリスマ的で見入ってしまうキャラクターです。北村さんのカリスマ性を感じていました。
キモ:お会いした瞬間、求めていた資質と魅力を備えた役者だと確信しました。実際に北村さんは野村のようなクレイジーではないですが、野村が見えるんです。過去の出演作も拝見し、役者のなかでも監督のビジョンを演じ切る、すごい才能を持った役者です。
── では、ジャカルタのジャーナリストを演じたオカ・アンタラについては?
キモ:北村さんは個性的で強い顔をしているので、バユ役にはバランスをとって、俳優としても素晴らしいオカさんにしました。
ティモ:オカさんはガタイがいいので体重を減らすように、北村さんにはスマートに今の身体をキープしてくださいとリクエストしました。
映画『KILLERS/キラーズ』より ©2013 NIKKATSU/Guerilla Merah Films
バイオレンスをそれが当たり前として描かないこと
── 野村、そしてバユともに、ストーリーが進むにつれて精神的に追い詰められていきますが、その精神状態をどのように演出しようと思いましたか?
ティモ:役者を苦悩させるのも一つのやり方です。50%は俳優のキャスティングにかかっています。体験していない感情を想像するのは難しいので、経験豊富な方をと思いました。いい例はオカさんです。自分自身の立場に置きかえ、役に入り込んでくれました。
男性の映画作家はセックスとバイオレンスに惹かれてしまう傾向にあると思います。バイオレンスを扱うときに気を付けるのは、それが当たり前として描かないこと。まるで暴力があった後に対価が描かれていないのは映画監督として無責任だと考えています。自分の身に起こるとすれば大きな痛みを伴うことを踏まえた上で、どのような結果になるのか描くということに気を付けています。
映画『KILLERS/キラーズ』より ©2013 NIKKATSU/Guerilla Merah Films
── 日本映画で影響を受けた作品や監督について教えてください。
ティモ:映画監督になるきっかけは、黒澤明の『赤ひげ』を観たときです。強く映画監督になりたいと思いました。
キモ:ホラー映画としては、『リング』に多大なる影響を受けました。同じアジア人として、日本の文化に共鳴しますね。
── アクションシーンもふんだんに盛り込まれていますが、撮影現場で危険はありませんでしたか?
ティモ:インドネシアでの撮影開始から1時間後、車でバユが引かれるシーンを撮りました。ところが、ぶつかる手前でブレーキを踏まなければいけないところを運転者が忘れてしまい、本当にぶつかってしまったんです。大きなけがはなかったのは幸いでした。
ティモ:ラストシーンを15階建ての廃墟で撮影しましたが、実はここは安全基準を満たしてない建物。エレベーターも機能していなく、15階まで階段であがるのが大変でした。
── 監督がおっしゃるように、手加減のないバイオレンス描写の先に、暴力と社会の関係性を考えさせられる作品だと思います。
ティモ:北村さん演じる野村はバイオレンスを謳歌したキャラクター。一方、インドネシアのバユは、バイオレンスのスパイラルから逃げられない。二人とも人生においてバイオレンスが鍵となるキャラクター。日常生活でもバイオレンスは関係しています。人にとってバイオレンスとは何なのか?人生にどういう影響を与えるのか?と、考えるきっかけになればと思います。
(オフィシャル・インタビューより)
モー・ブラザーズ (ティモ・ジャヤント/キモ・スタンボエル) プロフィール
ティモ・ジャヤント、キモ・スタンボエルという実は血縁ではない親友二人組。2002年オーストラリアで通ったSCHOOL OF VISUAL ARTS映画学校で出会い、コンビを結成。2003年「ALONE」そして2007年「DARA」という異色スラッシャー短編で映画業界の脚光を浴びる。2009年、シンガポールの出資を受けて、スラッシャーの合作映画『マカブル 永遠の血族』を完成し、同年の韓国プチョン映画祭で最優秀女優賞をはじめ、シッチェス映画祭など数多くのファンタスティック映画祭に招待された。『マカブル 永遠の血族』は世界10カ国以上で劇場公開が決まり、北米の配給は『冷たい熱帯魚』のセイレント・メディアが担当した。
映画『KILLERS/キラーズ』より (C) 2013 NIKKATSU/Guerilla Merah Films
映画『KILLERS/キラーズ』
2014年2月1日(土)よりテアトル新宿ほか全国公開
東京──。無機質な「処刑室」で、今日もまた1人の女が無残に殺された。鈍器で殴られた頭から鮮血がほとばしり、肉体が痙攣しながら動かなくなっていくさまを、じっくりとビデオカメラで撮影する野村。彼はその一部始終を捉えた映像を編集し、インターネットの動画サイトにアップするのを習慣にしていた。ジャカルタ──。フリー・ジャーナリストのバユは、正義感に溢れる勤勉実直な男。だが、町の有力者ダルマの汚職事件を追求したことから卑劣な罠にはめられ、取材を断念。忸怩たる思いを抱えながらも、別居中の妻・ディナと娘・エリへの愛を支えに、灰色の日々を生き抜いていた。だが、あるときパソコンを開いていたバユの目に、日本人の若い女性が惨殺されるスナッフ・ビデオの映像が飛び込んでくる。
出演:北村一輝、オカ・アンタラ、高梨臨、ルナ・マヤ、黒川芽以、でんでん、レイ・サヘタピー
製作総指揮:ギャレス・エヴァンス
脚本:ティモ・ジャヤント、牛山拓二
監督:モー・ブラザーズ
製作:日活、ゲリラメラフィルムズ
協力:ポイント・セット
配給:日活
©2013 NIKKATSU/Guerilla Merah Films
2013年/カラー/HD/シネスコ/5.1ch/日本・インドネシア/138分/原題『KILLERS』/R-18+
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