映画『メイジーの瞳』より ©2013 MAISIE KNEW, LLC. ALL Rights Reserved.
ニューヨークを舞台に、離婚した両親と、ふたりの間を行き来することになった子どもを巡る人間関係を、親に翻弄される6歳の少女の視点から描いた映画『メイジーの瞳』が1月31日(金)より公開される。「ねじの回転」「デイジー・ミラー」などで知られる作家・ヘンリー・ジェイムズの小説を脚色、父役にスティーブ・クーガン、母役にジュリアン・ムーア、そして母の新しいパートナーをアレキサンダー・スカルスガルドと演技派が参加。さらにタイトルロールの少女メイジー役のオナタ・アプリールの、まさに瞳で語るような抑えた演技とその存在感、そして最後に下した「決断」が忘れられない余韻を残す作品だ。今作のスコット・マクギーとデヴィッド・シーゲル両監督に制作の経緯について聞いた。
希望の見えるストーリーに描きたかった
── 最初に、ヘンリー・ジェイムズの小説を現代の設定で映画化しようとしたきっかけは?
デヴィッド・シーゲル(以下、デヴィッド):脚本は私たちが書いたわけではなくて、もともとナンシー・ドインとキャロル・カートライトによって何年か前に書かれていたものでした。ですので、ヘンリー・ジェイムズの小説を現代の設定で映画化しようとしたのは私たちのアイデアではありませんでした。ですが、この脚本を読んだときに、非常にデリケートな視点で描かれているというところにとても興味を持ち、これをぜひ映画にしたいと思いました。6歳の子供の視点からストーリーが語られるというところにとても惹かれたのです。
ふたりの脚本はニューヨークを舞台に設定されていて、そこに少し手を加えたりしていきました。もともとの原作は悲観的に描かれていて、メイジーがシニカルに育っていく話だったのですが、映画は希望の見えるストーリーに描きたかったのです。
スコット・マクギー(以下、スコット):実はヘンリー・ジェイムズの原作「メイジーの知ったこと」もメイジーの視点から書かれているという、とても実験的な小説になっています。原作の時点から子供の視点というコンセプトは始まっているんです。
映画『メイジーの瞳』のデヴィッド・シーゲル監督(左)とスコット・マクギー監督(右)
── メイジーの視点から見た日常生活がとてもリアルに描かれていると感じました。
スコット:映画を制作する上で役に立ったのが、私たちが「プログラム」と呼んでいる、いわゆるコンセプトのことです。制作のうえで何かを決めるときに、それを元にして決めようという強いプログラムがあります。今作においてそれは「あらゆるものを子供の視点から見たい」ということでした。
例えば、撮影スタッフとは照明を温かい色合いで子供のイノセントな感じが出るようにしようとか、楽天的な感じが出るようにということで、色合い、セットデザイン、壁の色に至るまで細かく相談しました。登場人物の衣装も明るい感じを心がけ、特にメイジーの洋服にはその楽しさが出るようにしたいと衣装担当のステイシー・バタットと話をしました。カメラワークやストーリーテリングについても、必ずしも肉体的なメイジーの視点ということに限らず、メイジーの心理的な空間を画で語ることができるようにしました。つまり、メイジーがいま何に注意しているのか、それがデザインに表れるようにしてきました。あるいは逆に彼女の表情を映す事によって、彼女が感じていることを見てとってもらようにしたり、そうした方法を組み合わせて撮影していきました。
映画『メイジーの瞳』より ©2013 MAISIE KNEW, LLC. ALL Rights Reserved.
── メイジー役にオナタ・アプリールを起用した理由を教えてください。
デヴィッド:自らの内面あるいは自分が何を考えているのかということを非常にシンプルに伝えることができる能力がるということだと思います。それがカメラを前にして自然にできること、これは6歳に限らずどんな年齢の役者でもなかなかない、特別な才能だと思います。彼女には圧倒的な存在感と注意力がありました。演技学校に行っているいわゆる子役ではなく、自然な演技ができる子を探していたのです。
映画『メイジーの瞳』より ©2013 MAISIE KNEW, LLC. ALL Rights Reserved.
── そのほかの出演キャストについて、母親スザンナ役のジュリアン・ムーアにはどのような印象を持っていますか。
スコット:私たちが脚本を読んだ時に、既に彼女は脚本を読んで今作に興味を持っていたということを聞いていました。正直なところジュリアン・ムーアが興味を持っているということで、私たちもこの脚本に関心を寄せるようになったのです。というのは、いちど彼女と仕事してみたいと思っていたからです。彼女はアメリカでも、とても得がたい特別な女優だと思います。幅広く面白い役柄を演じてきた多彩な人であり、数多くの映画に出てきました。そして私たちが尊敬しているのは、とても難しい複雑な役柄を立体的に表現できるということ。どんな難しい役でも、かならず人間性を表してくれるので、その役どころがたとえとっつきにくくても観客はどこかで共感することができる。今作のスザンヌ役には、特にそういう才能が大切だと思いましたので、ジュリアン・ムーアはパーフェクトな選択だと思いました。
── スザンナの新しいパートナーになる男・リンカーン役のアレキサンダー・スカルガルドについては?
スコット:実は私は、アレキサンダーがこれまで出演していた作品を知りませんでした。ですが、ロサンゼルスで彼と会ったときにすごく性格のいい人だなと思いました。そこで感じた、温かさや非常にシンプルな優しさを、撮影現場にも持ちこみ、キャラクターにもそのクオリティを吹き込んでくれたのです。彼がこれまで演じてきたのは、どちらかというと陰のある役で、そうした優しさを持つ役で有名な人ではありませんが、実はそうした温かさが彼自身の人柄の中にあるのです。
映画『メイジーの瞳』より ©2013 MAISIE KNEW, LLC. ALL Rights Reserved.
親が自分の欲望や野心を横に置くことができずに子供を横に追いやってしまう
── 本作を通じて、監督は、子育てには何が一番大切だと思われますか?
デヴィッド:その質問は、この映画のテーマの範囲を越えているかなと思いますね(笑)。メイジーの瞳の中で起こっていることは、子育てのうまくいかないケースが出ていると思うんですね。つまり、父親と母親が社会における自分の欲望や野心を横に置くことができないために自分たちの子供を横に追いやって、メイジーのように子供が孤立感を覚えたり、傷ついたりしている。そういうことは良くないと思います。
映画『メイジーの瞳』より ©2013 MAISIE KNEW, LLC. ALL Rights Reserved.
── スコット監督は高校生の頃、滋賀県に留学されていたそうですね。日本の好きな監督や映画を教えてください。
スコット: 18歳の時から留学で日本に来ているので、日本の文化は私の人格形成に非常に大きな影響を与えたと言ってもいいと思います。とても若い時に形成された、自分の世界観を形作ってくれたのも日本だと思っていますので、日本文化、日本人のユーモア感覚、そしてもちろん日本の食べ物を非常に近しく思っています。ですので、日本に来るたびに自分が若い時に影響を受けたものと再びつながることができてとてもうれしく思います。実は、日本の映画は大学生になるまであまり観たことがありませんでした。ですが、その後大学院で60年代の日本の映画を勉強しました。好きな映画はたくさんあります。私とデヴィッドが1作目『Suture』(1993年)を制作するときにとても影響を受けたのが勅使河原宏監督の『他人の顔』です。他にも鈴木清順監督や、野村芳太郎監督など挙げればリストは長くなります。黒沢清監督、是枝裕和監督も好きです。
── 最後に、あらためて今作のここを観てほしいというポイントがあれば教えてください。
デヴィッド:この映画は6歳の子供の視点から見た映画ですが、その6歳の感じている経験を、そして彼女の内面を観客のみなさんに感じていただければと思っています。そして観ていただいた方が、自分の中の本質的な、非常に原始的なところに触れて、心を動かされればいいなと思っています。この映画の中になにか普遍的なものを感じていただければ嬉しいです。
(オフィシャル・インタビューより)
スコット・マクギー & デヴィッド・シーゲル プロフィール
マクギーは、アメリカ、カリフォルニア州で生まれ育ち、コロンビア大学で学士号を取得し、カリフォルニア大学バークレー校で映画理論と日本映画史を学ぶ。シーゲルは、ニューヨーク州で生まれ、カリフォルニア大学バークレー校で文学士号を、ロードアイランド造形大学で美術学修士号を取得する。1990年に初めて二人で短編映画の製作を始めて以来、チームとして常に一緒に活動している。1993年、長編映画デビュー作『Suture』がサンダンス映画祭で絶賛され、インディペンデント・スピリット賞新人作品賞にノミネートされ、注目される。続いて、主演のティルダ・スウィントンが、ゴールデン・グローブ賞にノミネートされた『ディープ・エンド』(2001)、リチャード・ギア、ジュリエット・ビノシュ共演の『綴り字のシーズン』(2005)、ジョゼフ・ゴードン=レヴィット主演の『ハーフ・デイズ』(2009)を監督する。瑞々しい才能が世界各国の映画祭で高く評価され、今最も期待されている監督チームである。
映画『メイジーの瞳』
2014年1月31日(金)TOHOシネマズ シャンテ、シネマライズほか全国順次公開
NYに暮らす6歳のメイジー。アートディーラーの父とロック歌手の母が離婚、彼らの家を10日ごとに行き来することになった。メイジーは自分のシッターだったマーゴが、父の新居にいることに戸惑うが、元々仲良しだった彼女にすぐに打ち解ける。母が再婚した心優しいリンカーンも、メイジーの大切な友だちになった。自分のことに忙しい両親は、次第にそれぞれのパートナーにメイジーの世話を押し付け、彼らの気まぐれに我慢の限界を超えたマーゴとリンカーンは家を出て行く。母はツアーに向かい、メイジーは独り夜の街に置き去りにされてしまうのだが──。
監督:スコット・マクギー、デヴィッド・シーゲル
原作:ヘンリー・ジェイムズ
製作:ダニエラ・タップリン・ランドバーグ、リーヴァ・マーカー
衣装デザイン:ステイシー・バタット
出演:ジュリアン・ムーア、アレクサンダー・スカルスガルド、オナタ・アプリール、ジョアンナ・ヴァンダーハム、スティーブ・クーガン
原題:WHAT MAISIE KNEW
2013年/アメリカ/99分/カラー
配給:ギャガ
©2013 MAISIE KNEW, LLC. ALL Rights Reserved.
公式サイト:http://maisie.gaga.ne.jp/
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