映画『アイム・ソー・エキサイテッド!』より ©EL DESEO D.A.S.L.U
スペインのペドロ・アルモドバル監督の最新作『アイム・ソー・エキサイテッド!』が1月25日(土)より公開となる。機体トラブルで空中旋回を続ける旅客機を舞台に、オネエのキャビン・アテンダントやパイロットをはじめ、SM女王や謎の警備アドバイザー、不祥事を起こした銀行頭取など、ビジネスクラスの乗客たちが起こすセックス、アルコール、ドラッグまみれの騒動を描いている。原点回帰とも言えるポップでブラックな笑いに満ちた群像劇を完成させたアルモドバル監督に聞いた。
80年代の自由へのノスタルジー
── 最初に、あなたが映画を制作するうえでのプロセスを教えてください。
私は脚本を書き終わるまでその作品が気に入るかどうか分からないので、映画化を念頭に置いて脚本を書くことはない。元々のアイディアはずっと頭のなかにあって、脚本にするつもりではなく、数ページのアイディアノートのようなものを書き溜めていた。そこから興味を持ったものを書き進め、クライマックスまで書いたときに自分自身に問いかけるようにしている。これから先もこの物語を描いて行きたいか、どうかと。その答えがイエスなら、脚本にしていくんだ。
映画『アイム・ソー・エキサイテッド!』のペドロ・アルモドバル監督
── では、この『アイム・ソー・エキサイテッド!』を作ろうと思ったきっかけを教えてください。
いつでも、これが最も難しい質問なんだ。最初に5ページくらいのものを書き連ねていて、それは脚本にする以前に楽しんで書いていたに過ぎなかった。つらつらと、ストーリーラインやキャラクターについて書き連ねていた。80年代のマドリードにあった、アンダーグラウンドマガジンに短編を書いていた頃のように。とてもワイルドで、セックスやアルコール、そしてドラッグなど何でもアリだった時代のように。これが『アイム・ソー・エキサイテッド!』の原型になって、アイディアが膨らんで行った。自分自身でも気づかないうちに、あの自由だった時代へのノスタルジーがあったんだと思う。そして、スペインが現在置かれている状況について思いを馳せた。80年代にはある種の自由があり、それ以来スペイン国民はその自由を味わっていないような気がした。それがノスタルジーの元だったんだと思う。
映画『アイム・ソー・エキサイテッド!』より ©EL DESEO D.A.S.L.U
脚本を書く時には、批評眼を持たなくてはならない
── オネエのキャビン・アテンダントや彼らに翻弄されるパイロットとともに、新婚カップルや銀行頭取、落ち目の人気俳優、SM女王、自称・警備アドバイザー、超感覚を持つと言い張る女性といった乗客まで、どうやってこの映画のとてもユニークなキャラクターを作り出したのでしょうか。
脚本の最初の10ページでは、コックピットとギャレーで起きることを描いた。3人の客室乗務員たちのとてもおもしろく、ナンセンスなシーンだ。そしてそのトーンを映画全体で共有したいと思っていた。3人の客室乗務員が映画のMCのように。そしてもしこれを映画化するのだったら、乗客が必要だ。この乗客のキャラクターを生み出すのが最も難しいところだった。コックピットとギャレーと関わりを持ち、3人の愉快な客室乗務員とも関連づけなくてはいけないのだから。7、8人の乗客について書いてみたけれど、あまり気に入らなかった。そして一度、脚本を書き進めるのを諦めて傍らに置いておいたんだ。脚本を書く時には、批評眼を持たなくてはならない。最初に書いた乗客のキャラクターは、あまりコメディにふさわしいものではなかった。弟や他の人たちに脚本を読ませたところとても評判が良かったんだけど、結局2年ほど棚に寝かせておくことになった。
映画『アイム・ソー・エキサイテッド!』より ©EL DESEO D.A.S.L.U
そして2年後に改めて見直してみたときに、とてもフレッシュな視点で脚本を読むことができて、新しい乗客のイメージも沸いてきた。そして、映画にすることにしたんだ。2年前に脚本を書き終えないで棚にしまっておいたのが良かったのだろう。そしてこの2年間にスペインの状況は激変し、それも脚本を書き進めるために役立った。例えば、この映画を撮影した空港はラ・マンチャのシウダ・レアル空港という実在した空港だが、地元銀行による資金と公的資金で作られたものの、不況の煽りを受けて現在は閉鎖中だ。乗客の上流階級のマダム、ノルマの役も、現在スペインで起きていることを反映させている。現在のスペインが置かれている危機的状況を現しているんだ。コックピットとギャレーのシーンは私の最初のひらめきによって書かれ、そのほかの乗客などは現在のスペインの状況を踏まえて書き加えていったんだ。
映画『アイム・ソー・エキサイテッド!』より ©EL DESEO D.A.S.L.U
── 原点回帰とも言われていますが、なぜ今、コメディ映画を撮ろうと思ったのでしょうか。
私自身も、その時代に戻りたかったのかもしれない。だが、これは現在を描いた映画であって、ノスタルジーを描いたものではない。スペインの現在がメタファーになっている。30年前、私はこういった短編小説をたくさん書いていた。だからこういう物語も私のキャラクターの一部なのだ。過去の自分に戻ることは、リフレッシュメントだと思う。だからといって、これから先もコメディばかり作るというものではない。『オール・アバウト・マイ・マザー』は私の映画の中でも最もダークな作品だが、あの作品を作ったときも2本の脚本を同時に書いていた。全く違う種類の脚本を2本同時に書き進めるのは、とても健康的なエクササイズになっている。スペインでは今でも、私はコメディを多く作る映画監督として知られている。だがスペインの外での評価やレビューでは、99年の『オール・アバウト・マイ・マザー』のようなダークなドラマを作る監督として認識されているという違いがあるからね。
(オフィシャル・インタビューより)
ペドロ・アルモドバル プロフィール
1949年、スペインのラ・マンチャ生まれ。一般企業に勤める傍ら短編小説や漫画を描き続け、独学で映画を学ぶ。70年代に自主制作で短編映画を撮り始め、『Pepi, Luci, Bom y otras chicas del monton』(80、日本未公開)で長編デビュー。セシリア・ロス、アントニオ・バンデラスが主演した『セクシリア』(82)『バチ当り修道院の最期』(84)『マタドール』(86)『欲望の法則』(87)と作品を発表し続け、ベネチア映画祭で脚本賞を受賞した『神経衰弱ぎりぎりの女たち』(88)が大ヒット。99年の『オール・アバウト・マイ・マザー』はアカデミー賞外国語映画賞、02年の『トーク・トゥ・ハー』がアカデミー賞脚本賞、06年の『ボルベール <帰郷>』はカンヌ映画祭脚本賞、そしてペネロペ・クルスら6人の女優たちに主演女優賞が授けられた。そのほかの主な監督・脚本作品には『ライブ・フレッシュ』(97)『バッド・エデュケーション』(04)『抱擁のかけら』(09)『私が、生きる肌』(11)などがある。
映画『アイム・ソー・エキサイテッド!』より ©EL DESEO D.A.S.L.U
映画『アイム・ソー・エキサイテッド!』
2014年1月25日(土)新宿ピカデリー他全国公開
ペニンシュラ航空2549便はマドリッドのバラハス空港を発ち、メキシコ・シティへ向かって飛行中、機体トラブルから着陸用の車輪の片方が機能しないことが判明。機長のアレックスと副機長のベニートは管制官に緊急の着陸要請を送り続けていた。エコノミークラスの乗客は筋弛緩剤入りの特別なドリンクを振舞われ、客室乗務員を含め全員爆睡状態。ビジネスクラスを担当するホセラ、ファハス、ウジョアのオネエ3人の客室乗務員は、乗客の不安を打ち消そうと躍起になる。乗客の中には、2人の愛人を抱える落ち目の俳優、SMの女王、超感覚を持つと言い張る女性ブルーナなどがいた。
監督・脚本:ペドロ・アルモドバル
出演:カルロス・アレセス、ハビエル・カマラ、ラウル・アレバロ、ロラ・ドゥエニャス、セシリア・ロス、ブランカ・スアレス
配給:ショウゲート
2013年/5.1ch/ビスタ/スペイン/90分/R15+
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