渋谷ヒカリエ/8COURTで行われたDVD『ふたりのイームズ:建築家チャールズと画家レイ』発売記念トークイベントの様子
20世紀のアメリカをデザインした夫婦の軌跡を描くドキュメンタリー『ふたりのイームズ:建築家チャールズと画家レイ』が2013年12月13日DVDリリース。それにともない、12月11日、渋谷ヒカリエ/8COURTにて発売記念イベントが開催された。当日はイームズのシェルチェア100席を有する8COURTで『ふたりのイームズ:建築家チャールズと画家レイ』上映の後、BEAMSクリエイティブディレクターの青野賢一さんとgroovisions代表・デザイナー伊藤弘さんが、このドキュメンタリーと20世紀のデザインに大きな影響を与えたイームズの魅力について語った。
視認性の高いデザイン、時代のアイコンになりうる存在
最初に、家具、建築、映像作品と多岐にわたるイームズのデザインの独自性について、青野さんは「それと見てすぐ分かる視認性の高さは、大きなロゴがついていることよりも、圧倒的なオリジナリティ。ストレージユニットのパネルのモンドリアンのような色使いがすごく印象に残っています」と語った。また伊藤さんは、イームズについて「ものをシンボル化、アイコン化する天才」と表現。「プロダクトだけでなくデザイナーとしてもシンボルになっている。ふたりが写っている写真も、何気ないようでいて本当に計算し尽くされていて、時代のアイコンになりうる人」と、イームズ夫妻の存在自体が当時のアメリカの象徴としてシンボリックであった、稀有なクリエイターであると解説した。
映画『ふたりのイームズ:建築家チャールズと画家レイ』より ©2011 Eames Office, LLC.
シンボル化されたキャラクターといえば、伊藤さんのgroovisionsが生み出した代表的作品chappieもその代表だが、伊藤さんはイームズ作品自体よりも、その哲学や仕事への姿勢についてシンパシーを感じているという。
「クリエイターはふつう、家具を作る人は映像を作らないし、映像を作る人は展示デザインまでやらない。イームズの『なんでもやる』クリエイティブのあり方はすごく現代的だと思いました。なんでもやれるスタジオを作って、そのスタジオからいろんなものが生まれるクリエイティブな環境を作った。その点はかなり影響を受けているような気がします」(伊藤)。
DVD『ふたりのイームズ:建築家チャールズと画家レイ』発売記念トークイベントに登壇した青野賢一さん(右)と伊藤弘さん(左)
大量消費のなかでも残っていく強度
また青野さんも、当時IBMの企業PRを手がけるなど、ビジュアルコミュニケーターとして情報をデザインしたイームズの才覚について「今の時代にも通用するアプローチ」と評価する。
「企業や商品について課題を与えられて、それを、映画のなかで何度も言われているように『解決していく』ことを、彼らは様々なアプローチで行い、映像で伝えていった。いちデザイナー、いち建築家という範疇では捉えられない。箱を作るというよりは、箱の中身を考える方が好きな人という感じがしますよね」(青野)。
映画『ふたりのイームズ:建築家チャールズと画家レイ』より Photo courtesy of Quest Productions/Bread and Butter Films. Photo courtesy of First Run Features.
そのイームズの現代性には、イームズがアトリエを構えたカリフォルニアの地域性も関係があるのではないかとふたりは指摘する。
「ロサンゼルス、カリフォルニアはヒッピー発祥の地ですけれど、イームズのオフィスもある種コミューンというかコミュニティ的で、そうした自由闊達な空気のなかなにかを作っていく。そういう匂いはありますよね」(青野)。
「例えばアップル社がガレージから始まったインデペンデントなメーカーであったように、西海岸のシリコンヴァレーのイメージと、イームズの作っていた工房は、シームレスに繋がっていく」(伊藤)。
そして伊藤さんはイームズが古くならない理由として「素材もしっかりアップデートされながら、設計思想は残っている」ことだと語ると、青野さんも「作り続けられているところに高い価値がある」と同意した。
「ディスコンティニューにならないものってなかなかない。北欧だとアルヴァ・アアルトやウェグナーといったデザイナーの製品は、同じ設計思想、同じプロダクションでずっと作られていますが、イームズの製品は、アメリカの大量生産のただなかでで作られてきた。そういう大量消費のなかでも残っていく強度。そこが他のデザイナーにはあまり見いだせないところかなと思います」(青野)。
映画『ふたりのイームズ』より。 ©2013 Eames Office, LLC.(eamesoffice.com) ©Quest Productions/Bread and Butter Films ©First Run Features
使う人のことを考えた“もてなしの心”
『ふたりのイームズ』には、第二次世界大戦中に椅子の成型合板を作るために新たな装置カザム・マシーンを自ら考案し、その曲面が特徴的なフォルムを作ったことなど、その時代ごとに、できないことをできるようにするための不断の努力を続けてエピソードが数多く収められている。DJとしても活動する青野さんはアメリカのポップ・ミュージックに第二次大戦の影響が見え隠れすることを例に挙げながら、「物資の少ない時期を挟んでいるものの、より豊かな生活のために、使う人のことを考えたものづくりの姿勢は一貫している」と語ると、伊藤さんもイームズが全盛のミッド・センチュリーを「うらやましい」と答えた。
「社会の発展と素材や技術の発展とデザインが同時に進んでいた時代だから、いろんな素材に飛びついた人だと思うんです。ものを作ることに対する可能性は今よりもっと大きくて、なんというか、夢があったように思います」(伊藤)。
映画『ふたりのイームズ:建築家チャールズと画家レイ』より ©2011 Eames Office, LLC.
1975年の「フランクリン&ジェファーソン展」などで、現在のインターネットの世界を先取りしたかのような表現を試みたイームズ夫妻。「21世紀の世界でイームズ夫妻がいたら、どのようなものづくりをしていたか」という質問に、ふたりは次のように答えた。
「ものを作らないで、体験をデザインするみたいなことをやっていたのかもなぁと思ったりするんです。バーチャルの世界にたくさんの階層を作って、一度見たら全て分かるような作りにするかもしれないですね」(青野)。
「『パワーズ・オブ・テン』がグーグルアースみたいだ、という指摘があるように、インターネット時代の情報設計を先取りしていた人だから、きっと今の時代と相性がいい人のような気がします。何の無理もなく、グーグル的な発想でプロダクトを作ってしまえるような人なんじゃないでしょうか」(伊藤)。
夫妻の孫で現イームズ・オフィス代表のイームズ・デミトリオス氏が「イームズの作品の中心には常に人間があり、“もてなしの心”がありました」と語っているように、大量生産・大量消費のなかで生まれながら、そこに人の心をより豊かにしようというふたりの信念があるから、イームズの家具は使い続けられている。
ちなみにふたりのイームズの作品の所有については、青野さんは90年代のミッド・センチュリー・ブームに逆らって、ハウス・オブ・カード以外1つも持っていない、と語る一方で、伊藤さんは事務所のすべての椅子をアルミナム・チェアで統一しているとのこと。そんな青野さん、伊藤さんそれぞれの視点から、イームズの作家性と現代まで続く影響力があらためて感じられるイベントとなった。
なお今回のDVD化にあたり、映像特典として、イームズ夫妻がアトリエ901スタジオのあるカリフォルニアをドライヴしながら巡るシーンを収録。本編でも描かれたチャールズとレイの正反対のキャラクターが色濃く現れているので、ぜひそちらも観てみてほしい。
(2013年12月11日、渋谷ヒカリエにて 取材・文:駒井憲嗣)
DVD『ふたりのイームズ:建築家チャールズと画家レイ』
特装版(初回限定生産)
発売中
監督:ジェイソン・コーン、ビル・ジャージー
ナレーター:ジェームズ・フランコ
出演:ルシア・イームズ(チャールズの娘)、イームズ・デミトリオス(孫)、ポール・シュレイダー、リチャード・ソウル・ワーマン(建築家、グラフィックデザイナー、TED創設者)、ケビン・ローチ(建築家)、ジェニーン・オッペウォール(元イームズオフィス・デザイナー)、デボラ・サスマン(元イームズオフィス・デザイナー)、ゴードン・アシュビー(元イームズオフィス・デザイナー)
制作:アメリカ/2011年/英語/カラー&モノクロ
日本公開日:2013年5月11日
日本語字幕:額賀深雪
商品仕様:本編84分+特典24/本編=5.1ch/特典=ステレオ/吹替えなし
品番:DABA-4529
定価:5,670円(税込)
◆映像特典 : オリジナル予告編、日本版劇場予告編
◆封入特典
・オリジナルメモパッド
・越前伝統工芸のブランド"Hacoa"とのコラボマグネット
・ブックレット
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▼『ふたりのイームズ:建築家チャールズと画家レイ』予告編