骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2013-09-20 19:45


うつ病当事者の知られなかった日常を淡々と描いた貴重な記録『マイク・ミルズのうつの話』

10/5(土)マイク・ミルズ監督がスカイプでトーク出演する先行上映イベントVACANTで開催
うつ病当事者の知られなかった日常を淡々と描いた貴重な記録『マイク・ミルズのうつの話』
『マイク・ミルズのうつの話』のマイク・ミルズ監督 ©Sebastian Mayer

『サムサッカー』『人生はビギナーズ』のマイク・ミルズ監督が「うつ」をテーマに日本で撮影したドキュメンタリー『マイク・ミルズのうつの話』が10月19日(土)より渋谷アップリンクで公開。うつとともに生きる普通の人々の日常とともに“心の風邪”といううつ病啓発のキャッチコピーに着目したミルズ監督の視点について、そして、うつのために使われる薬の危険性について、杏林大学保健学部教授で精神科医の田島治氏が解説する。

なお今作公開にあたり、マイク・ミルズ監督がスカイプ出演する先行上映イベントが10月5日(土)原宿VACANTで開催される。作品プロデューサーである保田卓夫氏も登壇し、制作の経緯やエピソードなどを聞くことのできる貴重な機会となる。

現代日本のうつ病患者の縮図を映し出すドキュメンタリー
田島治 杏林大学保健学部教授(精神科医)

誰もがかかり、しかも治るはずの「心の風邪」といううつ病啓発のキャッチコピーとは裏腹に、新規抗うつ薬であるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)が広く使われるようになった今、10年、20年と回復せず、普通の生活が送れない人が増えている。専門家はなかなか治らないのは、うつ病には様々なタイプがあり、もともと良くなったり悪くなったりを繰り返し、生涯付き合っていく必要がある病気だと主張する。うつは心の風邪ではなく、時には命にもかかわる心の肺炎なのだという。それに対して、科学的根拠のないうつ病の診断をして、元々効果のない抗うつ薬を長期に飲ませていることが原因だ、精神科医や精神医学が悪いという非難の声も高まっている。

現在、日本ではおおよそ100万人がうつ病・躁うつ病と診断され治療を受けている。うつに悩む人が世の中に溢れるようになったのは、マイク・ミルズが主張するように、抗うつ薬を販売する欧米の製薬企業の陰謀なのだろうか。2002年から2005年まで、4つのバージョンで流された、日本初のうつ病の疾患啓発の30秒のTVコマーシャルが大成功し、若者の受診の敷居を下げて、抗うつ薬に対する抵抗感をなくし、うつ病を世の中に知らしめることに至ったのは事実である。なかでも「うつは1ヶ月」、「悩んだらお医者さんへ」は、映画のなかでも、登場する人たちから好意的に語られている。

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映画『マイク・ミルズのうつの話』より

彼らは製薬企業の巧みなマーケティングの犠牲者なのだろうか。この映画でマイク・ミルズが主張するように、うつ病患者の急増について欧米の製薬企業陰謀説を唱える専門家もいるが、多くの主流の精神科医はこうした意見に拒否反応を示す。90年代まで年間150億円程度であった抗うつ薬の売り上げは、現在では1000億円を越えている。なかでもパキシルの売り上げは600億円前後にもなった。単なる人生上の落ち込みが、うつ病という病気にされ、薬の消費者にされてしまったのだろうか。これは日本特有の問題、日本だけの出来事なのだろうか。

欧米でも国を挙げてのうつ病啓発の大々的なキャンペーンは行われ、「うつ病は精神医学における風邪」というような比喩は使われていた。パテントが切れる前のSSRIの年間売り上げは2兆円以上にも達していた。こうした巨大な市場が、科学の衣をまとったグローバルなマーケティング戦略のもとに行われ、それが日本で大きな成功を収めたことは否定できない。

一見うつ病には見えない人たち、すなわち好きな活動のときは元気になる、仕事を休むことに抵抗がない、自責感に乏しく他責的である人たちは、どこまでが病気なのか、生き方の問題なのかわからないということで、現代型、未熟型、逃避型のうつ病などと呼ばれ、その特徴からディスチミア(慢性的な気分の不調のこと)親和型うつ病などと総称される。マスメディアでは新型うつ病と呼ばれ、元々の本人の性格的弱さが問題と指摘されるが、果たしてそうであろうか。

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映画『マイク・ミルズのうつの話』より

それは一面の真実であり、生きにくい現代社会で落ち込んで仕事や生活に支障を来たした人たちが、うつ病という共通のレッテルで、医療の枠組みに取り込まれるようになったのであろう。さらに、いつでも、どこでも専門医を受診して薬がもらえる日本の医療制度と、真面目に通院して服薬する国民性が、この映画に登場する人たちのように、薬を欠かさず飲むのに治らない患者を増やした可能性はある。

しかしそこで用いられる抗うつ薬や、睡眠薬、抗不安薬、抗精神病薬、気分安定薬などの、脳に作用して精神機能や行動に顕著な影響を及ぼす向精神薬が、それを処方する医師の想像以上に、服用する人の気分や行動に強く影響している。病気の症状と思っているものが、実は長期に服用している薬のせいかも知れないのである。しかしいったん服用すると、少しでも減らそう、止めようとすると、特有の強い薬の切れた症状が出るため、そう簡単には止められないことが大きな問題である。またそのリスクを、薬を出す医師の側も十分に認識していない。

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映画『マイク・ミルズのうつの話』より

映画に登場する人たちは、よく喋り、食べ、新聞も読み、外出もし、多少の仕事もして、一見うつ病にはみえない人たちばかりであるが、日本の四季とともに描かれる彼らの日常や、当惑する母親の姿をみると、その苦悩と、困難が次第に実感される。一見元気にみえるタケトシが11年も治療を受け、しかも2年間もの入院生活を体験している。多少のバイトもするミカは長期に服用するパキシルの副作用で喜怒哀楽などの感情が鈍くなっていると訴えているが、それに対処すべき医師は無頓着である。

新しいタイプのセロトニンの働きを強力に高める抗うつ薬が気軽に使われ、誰もが身近にうつ病に悩む人をみるような時代になったが、当事者の生活実態はほとんど知られておらず、その日常を淡々と描いたこの映画は貴重な記録といえよう。

彼らが悩むのは虚無感、希望のなさ、落ち込みであり、寝込み、時には自殺未遂もする。自己断薬の試みによる薬の離脱症状の体験も描かれている。脳がかゆいような感じ、激しいめまい感、吐き気、ふらつきなどであり、なかなか薬と縁が切れない現実が描かれている。薬を飲むようになり異常に肥ったケース、几帳面に生活リズムを記録する患者、これはまさに、現代の日本のうつ病患者の縮図といってよい。薬や医者と縁が切れ、ごく普通の生活が送れるようになることが、今ほど望まれている時代はない。自らに対する愛を見失っている人たちに、今こそ回復の希望が必要なのではないだろうか。

(映画『マイク・ミルズのうつの話』劇場パンフレットより)



マイク・ミルズ監督スカイプ出演!
『マイク・ミルズのうつの話』先行上映イベント
2013年10月5日(土)原宿VACANT

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マイク・ミルズ監督 ©Sebastian Mayer

開場15:30/開演16:00
料金:前売/当日1,500円
<トークゲスト>
マイク・ミルズ(『マイク・ミルズのうつの話』監督)*スカイプ出演
保田卓夫(『マイク・ミルズのうつの話』プロデューサー)
http://event.hutu.jp/post/60167588505

【ご予約方法】
件名を「マイク・ミルズのうつの話」とし、本文に「お名前/人数/ご連絡先」を記入したメールをbooking@n0idea.comまでご送信ください。
*万が一、2,3日経っても返信がない場合は、03-6459-2962(VACANT)までお電話ください。




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映画『マイク・ミルズのうつの話』
2013年10月19日(土)より、渋谷アップリンク他全国順次公開

監督:マイク・ミルズ
撮影:ジェイムズ・フローナ、D.J.ハーダー
編集:アンドリュー・ディックラー制作:カラム・グリーン、マイク・ミルズ、保田卓夫
出演:タケトシ、ミカ、ケン、カヨコ ダイスケ
配給:アップリンク
宣伝:Playtime、アップリンク
原題:Does Your Soul Have A Cold?
84分/アメリカ/2007年/英語字幕付
公式サイト:http://uplink.co.jp/kokokaze/
公式Twitter:https://twitter.com/uplink_els
公式Facebook:https://www.facebook.com/kokokaze.movie

▼映画『マイク・ミルズのうつの話』予告編

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