『ビザンチウム』のニール・ジョーダン監督
1994年にトム・クルーズ、ブラッド・ピットを迎えた『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』で現代に生きる吸血鬼の葛藤を描き、その後の多くの〈ヴァンパイアもの〉に影響を与えたニール・ジョーダン監督がふたたびこの題材に取り組んだ映画『ビザンチウム』が9月20日(金)より公開される。ひなびたイギリスの港町を舞台に、永遠の命を生き続ける少女エレノアと彼女を支える女性クララを主人公に、ふたりが生きた時代と彼女たちを取り巻く人間関係をスタイリッシュなビジュアルで描写しながら、ふたりの絆そして運命がどのように翻弄されるのかに迫っている。20年ぶりにヴァンパイア映画に挑んだジョーダン監督に聞いた。
伝統的なヴァンパイアとは異なる少女
── この作品はあなたが監督した『狼の血族』『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』のプロデューサーであるスティーヴン・ウーリーが脚本家モイラ・バフィーニの舞台劇『A Vampire Stor』を読んで映画化を決め、あなたに監督を依頼したそうですね。あなたとスティーヴン・ウーリーによる3部作の完結編とも言える内容ですが、送られてきた脚本を読んで、どのように感じましたか?
スティーヴンが脚本を送ってきてくれたとき、僕は信じられなかった。本当にすばらしい、複雑で繊細な脚本だったからだ。それに奇妙なことに、僕が他の映画で取り組んできた多くの問題点がここに書かれていた。物語の中の物語、物語についての物語、そして絶え間なくシフトする語り手。舞台は陰気なリゾートタウンだ。ただ今回の舞台はアイルランドではなくイギリスだった。そしてヴァンパイア伝説の新たな幕が開く。僕は心を躍らせたよ。
2世紀にまたがる物語だというところが気に入った。それに年齢が非常に近い母と娘がいる。ふたりは姉妹のように見える。その関係が僕をこの映画に引きつけた理由だった。この映画のヴァンパイアは、固い絆で結ばれたふたりの女性だ。彼女たちは十字架を背負って生きてきた。彼女たちをリアルに描くことで、ヴァンパイアに再び命をもたらせるすばらしいチャンスだと思った。それはリアリズムに根差し、実際にありえることだと感じさせてくれる物語だったからだ。
映画『ビザンチウム』より (C) Parallel Films (Byzantium) Limited / Number 9 Films (Byzantium) Limited 2012, All Rights Reserved
── ヴァンパイアを主題にした映画では、不老不死や吸血能力、弱点や身体能力など、その設定が重要なポイントだと思います。これまでも様々なアーティスティックな手法でヴァンパイアを描いてきましたが、今作におけるヴァンパイアが生きるシチュエーションとはどのようなものですか?
この映画の女性ヴァンパイアたちは日光の中も出歩けるし、鋭い牙を持っていない。当初モイラ・バフィーニは、彼女たちに長くて薄いナイフで人間を殺させていたが、僕は彼女たちがかぎ爪のように親指の爪を伸ばしているというアイデアを取り入れた。彼女たちはお腹が空くと、その爪を使って犠牲者の喉をかき切る。彼女たちは伝統的なヴァンパイアとは異なるクリーチャーなんだ。
映画『ビザンチウム』より (C) Parallel Films (Byzantium) Limited / Number 9 Films (Byzantium) Limited 2012, All Rights Reserved
想像上のクリーチャーと世界を
リアルな状況の中で描く
── 舞台となる街は、海辺の寂れた保養地で、浜辺の桟橋や遊歩道、遊園地など印象的な風景がいたるところに現れてきます。ふたりが住むこの街についてはどんなムードを求めていましたか?
この映画には取り憑かれたような感じが漂う、衰退した港町の雰囲気がほしかった。イギリス南東部のマーゲート、ホーブ、ブライトンといったいくつかの町を見に行ったが、ヘイスティングズには何かに取り憑かれたような雰囲気があった。今でも海岸では漁業が行われているが、たくさんの閉鎖された宿泊施設がある。そこでこの映画のインテリアに使用したすばらしいホテルを見つけたんだ。そこには、もはや存在していない過去に取り憑かれたような感覚が漂っていた。
映画『ビザンチウム』より (C) Parallel Films (Byzantium) Limited / Number 9 Films (Byzantium) Limited 2012, All Rights Reserved
── 現代での「ビザンチウム」というネオンサインが輝くゲストハウスや、19世紀に遡っての娼婦の館の猥雑な感じなど、200年という時間軸のなかでリアリティと耽美な印象を織り交ぜた映像世界が特徴的です。
『ビザンチウム』での衣装と美術の物理的な美しさは、現代文学というよりもまるでおとぎ話のようだ。撮影監督は、『ひかりのまち』(マイケル・ウィンターボトム監督)や『SHAME-シェイム-』のショーン・ボビットに依頼した。彼の撮影はシネマヴェリテ形式のドキュメンタリー調ではないが、手持ちカメラで光と動きを捉える撮影方法を用いている。非常に豊かで練り上げられた映像は、強くて明確なんだ。撮影は大いに楽しんだよ。僕は空想の産物が好きだ。想像上のクリーチャーとその世界。そういったすべてのものが目に見えないところでうごめくリアルな状況の中で物事を設定し、撮影を行うのが好きなんだ。この映画はそれを実践する大きなチャンスを与えてくれたんだ。
映画『ビザンチウム』より (C) Parallel Films (Byzantium) Limited / Number 9 Films (Byzantium) Limited 2012, All Rights Reserved
── エレノア役には、『つぐない』『ラブリーボーン』『ハンナ』などに出演するシアーシャ・ローナンが選ばれています。またクララ役を、『アリス・クリードの失踪』『007/慰めの報酬』『アンコール!!』のジェマ・アータートンが務めています。可憐なイメージのエレノアと、妖艶なクララという対比が生きていますが、このふたりの女性の描き方については?
クララはものすごくセクシーで緊迫感があり、暴力的でありながら守る者でもある。一方、エレノアはずっと知的で、罪の意識に苛まれている。彼女たちはある意味、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』のルイ(ブラッド・ピット)とレスタト(トム・クルーズ)に少し似ているんだ。
(公式インタビューより転載)
ニール・ジョーダン プロフィール
1950年、アイルランド生まれ。アイルランド国立大学ダブリン校で学び、脚本家として映画界でのキャリアをスタートさせる。『殺人天使』(82・未)で監督デビューを果たし、「赤頭巾ちゃん」の物語にホラー・テイストの新解釈を加えた『狼の血族』(84)、中年男とコールガールの切ない関係を見つめた『モナリザ』(86)で多くのファンを獲得。ストーリー上の衝撃的な“ひねり”が大反響を呼んだサスペンス映画『クライング・ゲーム』(92)は、その年の賞レースを沸かせ、アカデミー賞では6部門の候補になり脚本賞を受賞した。続いてアン・ライスの小説「夜明けのヴァンパイア」を映画化した『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(94)は世界中でヒットを記録。その後もヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞作『マイケル・コリンズ』(96)、グレアム・グリーン原作の痛切な恋愛映画『ことの終わり』(99)、女の子の心を持つ青年の人生を紡ぎ上げた『プルートで朝食を』(05)などで賛辞を獲得している。最近では、2011~2012年のTVシリーズ「ボルジア家 愛と欲望の教皇一族」で監督、製作総指揮、企画を兼任した。
映画『ビザンチウム』より (C) Parallel Films (Byzantium) Limited / Number 9 Films (Byzantium) Limited 2012, All Rights Reserved
映画『ビザンチウム』
2013年9月20日(金)、TOHOシネマズ 六本木ヒルズ他全国ロードショー
海辺の寂れた保養地にたたずむゲストハウス“ビザンチウム”にふらりと身を寄せた16歳の少女エレノアは、神秘的なまでに謎めいた美しさと孤独の影をまとっていた。8つ年上のクララに連れられ、見知らぬ街から街へと移り住んできた彼女は、決して他言できない秘密を抱えながら永遠の時を生き続けている。そう、エレノアは不老不死の血を吸う魔物、ヴァンパイアなのだ。その呪われた運命を受け入れたはずの彼女が、難病に冒されて余命幾ばくもない若者フランクと恋に落ちた。それはたったひとりの肉親であるクララと交わした血の掟に背く行為。やがてエレノアとクララの固い絆が揺らめくなか、遠い過去からの追跡者の魔手がふたりに迫っていた……。
出演:シアーシャ・ローナン、ジェマ・アータートン、サム・ライリー、ジョニー・リー・ミラー、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ
監督:ニール・ジョーダン
脚本:モイラ・バフィーニ
配給:ブロードメディア・スタジオ
(C) Parallel Films (Byzantium) Limited / Number 9 Films (Byzantium) Limited 2012, All Rights Reserved
公式サイト:http://www.byzantium.jp/
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▼映画『ビザンチウム』予告編