骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2013-09-07 15:09


『モテキ』『恋の渦』をデジタルで撮影した大根仁監督「次作は16mmで撮る予定」

映画『サイド・バイ・サイド:フィルムからデジタルシネマへ』ブルーレイ発売記念上映会トークレポート
『モテキ』『恋の渦』をデジタルで撮影した大根仁監督「次作は16mmで撮る予定」
『サイド・バイ・サイド:フィルムからデジタルシネマへ』ブルーレイ発売記念トークに登壇した大根仁監督

キアヌ・リーブスがホスト役となり、マーティン・スコセッシ、ジョージ・ルーカス、ジェームズ・キャメロン、デヴィッド・フィンチャー、デヴィッド・リンチ、クリストファー・ノーランほか、当代きってのハリウッドの大物監督や、撮影監督、編集技師、カラーリスト、特殊効果技師をはじめとする映画制作者たちのインタビューを通じて、フィルムが消えつつある現在の映画業界を検証するドキュメンタリー映画『サイド・バイ・サイド:フィルムからデジタルシネマへ』。昨年12月に日本公開され大きな話題を呼んだ本作の華特典映像付きブルーレイが、8月23日(金)に発売となった。

その発売を記念したスペシャル上映会が、渋谷アップリンクで9月2日(月)に開催された。トークゲストに、ミュージックビデオ、CM、ドラマ、映画と多岐にわたる分野で活躍する大根仁監督を招き、本編上映後、ブルーレイ映像特典に収録された未公開インタビューの一部を観ながら、自身の撮影術などについて話を聞いた。


── 『サイド・バイ・サイド』をご覧になっていかがでしたか?

僕はそれほどフィルムかデジタルかの選択をつきつけられた環境にいるわけではありませんが、技術的なことはいろいろ考えながら観ました。ただ、これは主にアメリカの話なので、ここにヨーロッパの監督、たとえばレオス・カラックスやケン・ローチといった監督たちが入れば、また話がちょっと違ってくるのではないでしょうか。あとはアメリカの監督だったら、ウディ・アレンにも話を聞いてみたかったです。それと、ルーカスが出てくるのに、スピルバーグが出てこないのが残念でした。ハリウッドの監督でスピルバーグとノーランが「デジタルだよ」と言ってしまえば話の決着は早いですよね。その二人がフィルム派であることが、この問題を複雑化している気がします(笑)。

── 大根監督が最初に映像のお仕事をされたのは、やはりビデオ撮影ですか?

テレビやミュージックビデオの仕事からスタートしているので、必然的にビデオからでした。昔から不思議に思っているのは、CM、映画、テレビで比べると、15秒、2時間、連続ドラマが12時間として、枠に対する予算の比率では短いほど予算があることです。CMは予算があるので、昔はフィルムで撮るのが常識でしたね。今はデジタルカメラが主流ですが。特にブラウン管の時代においては、フィルムで撮ったものをビデオに変換するテレシネという作業をしていましたが、これがめちゃくちゃきれいなんです。

── 今の4Kのカメラでは再現できない?

できないですね。なぜ皆がフィルムを忘れがたいかというと、美しいからです。この映画の後半でも説明されていますが、光の表現の幅、主に暗い部分のグラデーションの幅が、デジタルよりフィルムの方が広いんです。

── 公開中の大根監督の新作『恋の渦』は、デジタル一眼レフカメラ[キヤノン“EOS 60D”2台と“5D”1台]で撮影されていますね。フィルムには劣りますが、昔のビデオカメラに比べたら、今のデジカメは被写界深度が圧倒的に良くなり、素人でもきれいな映像が撮れる時代になりました。ただし、映像がきれいだからといって“良い映画”ではないですね。

きれいな絵でも粗い絵でも、5分たてば目が慣れますからね。そこから何で惹きつけるかといえば、脚本と芝居じゃないですか。

── そういう意味で、この映画は最後にミヒャエル・バルハウス[『グッドフェローズ』や『ギャング・オブ・ニューヨーク』の撮影監督]の「情熱と愛情を持って何かをするなら、手段は関係ない」という言葉で終えていますね。画質や技術よりも上回ることがある、と。

本当にいいコメントで締めていますよね。これまで1時間半見せられた議論はなんだったのか(笑)。あの言葉につきますよ。面白ければ人は観るという。でも、じゃあ何でもいいのかと言ったらそうではないし、予算と話の題材に合ったカメラなり、最終的にどういった“ルック”がこの作品に相応しいかを考えるのが僕たちであって。

── ここで、今回発売されたブルーレイ特典映像の中から、スティーヴン・ソダーバーグの未公開インタビューの一部を上映します。ソダーバーグは新作『サイド・エフェクト』[日本公開9月6日]で映画界を引退すると明言していますが、このインタビュー撮影当時の2011年にすでにテレビの方が冒険的だと語っています。


『サイド・バイ・サイド』ブルーレイ特典映像より、スティーヴン・スダーバーグの未公開インタビュー。©2012 Company Films LLC all rights reserved.

── TVドラマと映画を作られている大根監督は、ソダーバーグが『チェ』を映画ではなくテレビドラマにしたかったと語るのを聞いてどう思われますか?

彼がそう言っているのは、ゲバラの良いところも悪いところも描くには、映画ではおさまらなかったという意味だと思います。僕は『チェ』は公開時に観て、いい映画だと思いましたが、たとえ前後編にしたとはいえ、映画にするとゲバラの人生のダイジェストでしかないような、トピックをひろってつなげた伝記本みたいな印象にどうしてもなってしまうんですよ。きっとソダーバーグもいろいろ調べた上で、人間としてゲバラを描くとしたら、華々しいトピックだけではなく普段の暮らしも描きたかったんじゃないかな。革命だけをやってたわけじゃないですから。

── 大根監督の『モテキ』は、ドラマから始まって映画になりましたよね。

そうですね。ドラマは4人のヒロインを30分12話の6時間かけて描いたわけですが、映画も絵面的にドラマと同じ4人を登場させてくれと言われて。2時間にするということは単純計算で、やれても1.5人か2人かなと数字的な判断をしましたが、案の定、観た人から「真木よう子にいたっては、エキストラみたいな扱いじゃないか」という感想もありました(笑)。やはり足りなかったなという思いは今もあります。題材によりますよね。ドラマの方が向いているものあるし、ボーイ・ミーツ・ガールの話をやろうと思ったら、2時間の中では1~2人までしか描けません。

──『恋の渦』は演劇の舞台を映画化したものですね。

劇団ポツドールの三浦大輔が2006年に作った『恋の渦』という傑作の戯曲があって、予算的にもできそうだと思いやってみたんです。もともとの舞台のセットは二階建てで4つの部屋があって同時進行します。あちこちでセリフをしゃべってるんですが、誰かの悪口を言えば、次にそいつがしゃべり出すみたいに、微妙にシンクロしているんですよ。それをスクリーンでは、『24』をイメージしてもらえればわかりやすいですが、同時刻においてこっちの部屋ではこんなこと、というふうに時間経過で見せていくようにしました。

── それでは次に観ていただくのは、ジェームズ・キャメロンの未公開インタビューの一部です。


『サイド・バイ・サイド』ブルーレイ特典映像より、ジェームズ・キャメロンの未公開インタビュー。©2012 Company Films LLC all rights reserved.

── キャメロンは「デジタル一眼で映画作りは大衆化されたけれど、配給システムにはのらないので公開されない」と話していましたが。

僕は、なかばファンタジーとして観ていました(笑)。100億円規模の制作環境の中でのデジタル化フィルムかという議論は、僕にとっては夢の中の話で。

── キャメロンは、恐竜みたいな映画作りしかやってこなかったんだろうし、ヨーロッパやアジアの予算の少ない映画を想定していないんでしょうね。『恋の渦』は予算が100万円以下だったとか?

現場の製作費が10万と言われて、最終的にポスプロも含めて60万くらいです。キャメロンは『タイタニック』にしても『アバター』にしても、映画的評価が低いじゃないですか。だから一生懸命、自分を正当化しようとしているとしか見えなかったです。あと、キャメロンに聞くなら、ゼメキスにも聞いてほしかったですね。スピルバーグとルーカスは別格として、ゼメキスとキャメロンは80年代以降、新しい技術と共に映画を進歩させてきた監督なので。ゼメキスのCG使いって上品なんですよ。『フライト』は今のところ僕の今年のベストですが、素敵なヒューマンドラマでもありながら、CGの使い方がかっこいいんです。『フライト』はフィルム撮影かなと思いながら観ていたらREDでしたね。

── 次はデヴィッド・フィンチャーのインタビュー映像です。フィンチャーも大根監督と同様に、映画の世界に入る前に、ミュージックビデオやCMを多数手がけていました。


『サイド・バイ・サイド』ブルーレイ特典映像より、デヴィッド・フィンチャーの未公開インタビュー。©2012 Company Films LLC all rights reserved.

── 大根監督はフィンチャーをどう評されていますか?

フィンチャーは最も好きな現役監督の一人です。

── このインタビュー映像でフィンチャーは『ドラゴン・タトゥーの女』の演技指導について語っていますが、俳優に相当なプレッシャーをかけますね。

フィンチャーはいつもそうですね。僕はフィンチャー作品の中では『ソーシャル・ネットワーク』が一番好きで、劇場で6回くらい観て、DVDでも何回も観ていますが、そのDVD特典のメイキングが非常によく出来ていておもしろいんです。それを観ても役者への追い込みがすごいです。冒頭の男女の会話のシーンも30テイク以上撮っていましたよ。

僕がこのフィンチャーのインタビューの中で一番同調するのは、「DVDで何度も観直すことを前提に映画を作っている」という発言です。もちろん、映画館で観ることを想定して作りますけれども、一方でソフトで観る人もたくさんいるわけです。映画版『モテキ』は200万人くらい動員しましたが、それでもレンタルDVDやiTuneで観た人の数の方が多いんです。映画館という環境向けに作るのか、家でソファに寝そべりながら観る環境向けに作るのかは、大いなる違いです。DVDを買う人というのは、最も高いお金を払う、一番いいお客さんじゃないですか。

── 映画館の一般料金1800円より、DVDの方が高いですもんね。

だからその人たちのことは考えますね。自分自身、ドラマも映画もDVDでかなり買うので、作り手としてより客としての意識の方が高いかもしれない。僕は東宝に『モテキ』をDVD用に編集しなおしていいか聞いたぐらいですから(笑)。当然ながらダメでしたけど。


場内からの質問(1)

ソダーバーグが新しい映画館の使い方として、名画座を復活させる、テレビドラマを上映するなど、いくつかアイデアを語っていますが、大根監督は何か案はありますか?

「午前10時の映画祭」(※映画演劇文化協会主催の、週替わりで外国映画を10時からフィルム上映する特集上映。2010年2月6日~2011年1月21日に開催された第一回は全国のシネコン25館で上映。動員数58万6千人を記録した)は、客層の変化による企画の一つとして、すごくいい企画だと思いました。それと、ちょっと思ったのが、1日券を買えば何本でも観られるというのはどうかなと。3000円くらいで、朝から晩までどれを観てもいい。

── いいですね。アップリンクもそうしようかな。

『モテキ』のとき、地方のシネコンを見てまわったんですが、どの映画を観るか決めずに来る人が多かったんですよ。そうすると定額制やポイントカード制があってもいいんじゃないかと思いました。劇場に来てもらわないと始まらないですからね。


場内からの質問(2)

デジタル一眼レフで撮影したきっかけは?

デジイチで撮ったのはドラマの『モテキ』が初めてだったんですが、まず一つは予算がなかったこと。まともなムービーカメラを使う予算があったら、他にまわしたかったので。それと、ちょうどデジイチのムービー機能がすごく良くなってきた時期でもあり、自分で撮影しようと思っていたので、腰があまり良くないから重いカメラは担ぎたくなかったんです。

── ご自分で撮るのは、一番良い構図が分かるからですか?

いや、チーフのカメラがいて、僕はサブとして撮るんです。プロが撮れないサイズで撮っておくと、編集のときに良いマジックが起こることが多いので。個人的な好みの話ですが。テレビの現場でも、演出しながらサブのカメラを回しています。


場内からの質問(3)

デジイチのほかに、今後使ってみたいカメラは?

デジイチだけ使っているわけではなくて、映画『モテキ』はソニーのF3、『まほろ駅前番外地』というドラマはキヤノンのC300というムービーカメラで撮影しました。デジイチで撮ると音が収録できないから、後の作業が面倒くさいんですよ。このあいだマキシマム ザ ホルモンの「予襲復讐」のPVを撮ったときに、夜のシーンばかりだったんでダークがきれいに出るカメラがいいと思ってREDのEPICを使いましたが、優秀なカメラでしたね。あとは、やっぱりALEXAを使ってみたいかな。

── ご自分ではどんなカメラをお持ちですか。

これ[iPhone]くらいですね(笑)。プライベートではまったく撮らないので。ドラマでも映画でも、準備に入るとカメラマンと「どういうルックにするか」「どのカメラをチョイスするか」という話になります。予算に余裕があるときは、カメラをいくつかテストします。

── 今後どんなプロジェクトが控えていますか?

年末に撮るドラマと、来年撮る映画を準備しています。

── それらもデジタルの撮影になるわけですね。

『サイド・バイ・サイド』でも出てきたとおり、フィルムよりデジタルの方が安いというのが常識なんですが、実は日本は今、不思議な構造になっていて、16mmのカメラがすごく安い。リース屋にたくさん眠っていて、タダ同然で貸してくれるんです。35mmはさすがに高いですが。だからドラマについては16mmで撮ることを検討しています。プリント代はもちろんかかるんですが、ボディのレンタル代はほとんどタダなので。ビデオ時代からフィルム画質に見せるやり方を追及してきましたが、今、ドラマで16mmの映像ってさっぱり見ないなと思って。題材的に合いそうなので、プロデューサーとその予算を詰めているところです。

(聞き手:浅井隆)



大根 仁(おおね・ひとし) プロフィール

1968年東京都生まれ。演出家・映像ディレクター。『まほろ駅前番外地』『モテキ』『湯けむりスナイパー』などのテレビドラマ、フジファブリック『夜明けのBEAT』マキシマムザホルモン「予襲復讐』などのMV、ロックミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』などの舞台演出を手掛ける傍ら、ラジオパーソナリティ、コラム執筆、イベント主催など幅広く活動する。監督・脚本を手掛けた映画『モテキ』が2011年に公開し大ヒット。映画監督第二作目となるインディーズ映画『恋の渦』は、連日上映劇場のキャパシティーをオーバーする人気を博し、拡大公開中。

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『サイド・バイ・サイド』
豪華104分特典映像付ブルーレイ

監督:クリス・ケニーリー
プロデューサー:キアヌ・リーブス、ジャスティン・スラザ
撮影監督:クリス・キャシディ
制作国:アメリカ(2012年)
ディスク:2層
本編:99分
特典:約140分(マーティン・スコセッシ、ジェームズ・キャメロン、デヴィッド・フィンチャー、スティーヴン・ソダーバーグ、ラナ&アンディ・ウォシャウスキー、ダニー・ボイル、ウォルター・マーチの未公開インタビューを収録)
音声:本編5.1ch 特典ステレオ
発売:アップリンク
販売元:角川書店
価格:5,800円(税抜)
品番:DABA-4475

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