映画『わたしはロランス』のグザヴィエ・ドラン監督
シンメトリーな画面構成やカラフルな色使いなど個性的なビジュアルのセンスを持ち、独自のストーリーテリングの才能を発揮するカナダはケベック出身のグザヴィエ・ドラン監督の『わたしはロランス』が9月7日(土)より公開される。デビュー作『マイ・マザー』も11月9日(土)より渋谷アップリンクで公開されることが決定したドラン監督について、フランス在住の映画ジャーナリスト佐藤久理子さんがフランスでの評価、そして注目を集める秘密について分析した。
フランスで10万人以上の動員を記録
いまでもよく覚えているのは、2012年カンヌ映画祭のラインナップを発表する記者会見がパリで行われた際、『わたしはロランス』がある視点部門に入ったとわかったときの会場の“動揺ぶり”だ。選ばれたことがサプライズだったのではない。王道のコンペティションではなく、ある視点部門だったことが驚きを招いたのだ。発表の際、ジェネラル・ディレクターのティエリー・フレモーは言い訳のように、「彼はまだ若いから、今後いくらでもコンペに入る機会はある」と付け加えた(※カンヌではまず併設部門に入選し、何作目かでコンペに昇格するというのが一般的とされている)。会見が終わった際、監督の地元ケベックのラジオ局のジャーナリストはまるで一大事が起きたかのように、「ドランがコンペじゃなくある視点部門になったのは予想外です!」と電話でリポートしていた。つまりそれぐらい、カナダとフランスにおける彼の評価は高いということなのだ。『胸騒ぎの恋人(原題:Heartbeats)』に出演したケベック出身のニルス・シュナイダーはこう語る。「彼はケベック映画界のスター的な存在だ。この映画が作られたときは、ほとんど毎日新聞に彼のニュースが載っていた。ちょっとトゥー・マッチなぐらいにね(笑)」。
映画『わたしはロランス』より、グザヴィエ・ドラン監督が登場するワンシーン
監督、脚本、編集、ときには主演と、ほとんどすべてをこなしてしまうグザヴィエ・ドランは、デビュー当時から神童と称された。俳優兼シンガーの父を持ち、5歳から子役として活躍。小学生時代にすでにクラスで一目置かれる存在になっていたという。だが、カメラの前にいることだけでは飽き足らず、19歳にして半自伝的な長編『マイ・マザー(原題:I Killed My Mother)』を自主制作で監督(兼主演)。いきなりカンヌの監督週間部門に入選する。その刺を持った独特のコメディ・センスと緩急織りまぜた演出は、カンヌで上映されると大受けし、カメラドールこそ撮らなかったものの、その年の映画祭でもっとも話題を振りまいた作品の一本となった。
翌年、二本目の作品『胸騒ぎの恋人』で早くもカンヌのある視点部門に選ばれる。友人同士の男と女が同じ男性に恋をするものの、あくまで頭のなかだけでいろいろなシチュエーションを夢想する、というストーリーを、幻想的な場面を織り交ぜながら描写。その実験的なスタイルと自由な感性が、ヌーヴェル・ヴァーグと比較されたりもした。フランスの公開の際にはマスコミがこぞって特集し、興行にもっとも影響力を持つと言われる硬派なTV週刊誌TELERAMAは、「彼はその才能を証明した」と絶賛。10万人を超えるヒットを記録した。弱冠21歳の監督の二作目にしては破格である。
映画『わたしはロランス』より
三作目に当たる『わたしはロランス』は、そんな状況のなかで満を持して作られた。主演に抜擢されていたルイ・ガレルが撮影直前に降板するというハプニングはあったものの、フランスの大手配給会社MK2が共同制作に入り撮影にほぼ半年を掛けるなど、規模も大きくアップ。フランスで再び10万人以上の動員を集めるに至った。
どんなレッテルも張られることを嫌う
こうした成功はおそらく、彼のチャーミングなルックスや若さとも無関係ではないだろう。実際ドランに会うと、その回転の速さやスマートさに舌を巻く。ゲイであることをカミングアウトしている彼はまた、その出で立ちもファッショナブルだ。こうした点が、監督としての才能のみならず、存在自体が新しい世代の象徴のように受け止められているのである。尤も、本人は若さばかりが取り沙汰されるのをあまり快く思わないようだ。
「“若手”監督という形容によって、僕の映画に対するイメージが限定されてしまうのは嫌なんだ。ヌーヴェル・ヴァーグともよく比較されるけれど、じつはそれほど彼らの作品を観ていない(笑)。ゴダールやトリュフォーは好きだけど、ヌーヴェル・ヴァーグならすべてが素晴らしいわけでもないだろう? 僕の映画がどんなレッテルも張られないことを願うよ」。
すでに本作の後、またも主演・監督作を撮り終えている。メルヴィル・プポーはドランを評して「つねに生き急いでいるようなところがある」と語っているが、今年24歳を迎えた彼が今後どんな活躍を見せてくれるのか、期待せずにはいられない。
(『わたしはロランス』パンフレットより転載 文:佐藤久理子)
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■AndAとのコラボアイテム発売、POP UP STOREオープン!
映画『わたしはロランス』と、ファッション・デザイン・アート・音楽などのジャンルをクロスし、グローバルな視点で刺激ある新しいスタイルやカルチャーを発信するコンセプトショップAndAとのコラボアイテムが発売、新宿フラッグス店では『わたしはロランス』のPOPUP STOREがオープン!
今回販売されるアイテムは4種で『わたしはロランス』のファッショナブルでエモーショナルな部分がフィーチャーされたアイテムとなっている。
*公式 HPキャンペーンページはこちら
http://www.uplink.co.jp/laurence/campaign.php
●Tシャツ(価格:¥5,250/サイズ:XS,S/色:白、青、グレー)
●パーカー(価格:¥8,400/サイズ:1サイズ/色:白、紺、グレー)
●ブレスレット(価格:各¥1,680/全7色)
●トートバッグ(価格:¥3,990)
映画『わたしはロランス』
2013年9月7日(土)、新宿シネマカリテほか全国順次公開
モントリオール在住の小説家で、国語教師のロランスは、美しく情熱的な女性フレッドと恋をしていた。30歳の誕生日、ロランスはフレッドにある秘密を打ち明ける。「僕は女になりたい。この体は間違えて生まれてきてしまったんだ」。それを聞いたフレッドはロランスを激しく非難する。2人がこれまでに築いてきたもの、フレッドが愛したものが否定されたように思えたのだ。しかし、ロランスを失うことを恐れたフレッドは、ロランスの最大の理解者、支持者として、一緒に生きていくことを決意する。
監督:グザヴィエ・ドラン
出演:メルヴィル・プポー、スザンヌ・クレマン、ナタリー・バイ
2012年/168分/カナダ=フランス/1.33:1/カラー/原題:Laurence Anyways
配給・宣伝:アップリンク
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/laurence/
公式twitter:https://twitter.com/Laurence_JP
公式facebook:https://www.facebook.com/laurenceanywaysJP
▼『わたしはロランス』予告編