映画『サイド・エフェクト』のスティーヴン・ソダーバーグ監督
スティーヴン・ソダーバーグ監督が「これが最後の劇映画」と、今後はテレビ製作などの分野に専念することを公言した『サイド・エフェクト』が9月6日(金)より公開。製薬会社や薬剤の蔓延という社会的なテーマをはらんだこの心理サスペンスについて、製作のきっかけや俳優たちとのコンビネーションについて語った。
薬理学と法律がどんなふうに相互作用し始めたのかリサーチした
──面白い題材です。抗うつ剤、製薬会社、非常に興味をそそるテーマだと思いました。あなたのまとめ方が素晴らしかった。製薬会社を攻撃して社会論評を繰り広げるわけではなく、とても楽しめるサスペンススリラーを創り出しています。まず、この薬という題材をテーマとして使用することをいつ思い付かれたのですか?
スコット・バーンズがこの脚本を数年前に書いていた。スコットと僕は別の2作品で一緒に仕事をしたことがあったんだ。『インフォーマント!』(09)と『コンテイジョン』(11)だ。僕はこの脚本のことを知っていたし、映画化の計画についても、ずっと彼に尋ねていた。最初彼は自分でこの脚本を扱うつもりだったが、僕は彼を説得し手に入れることに成功した。社会問題を利用するこのコンセプトが、この場合、まさに現代のアメリカ文化の最前線に位置する中心的なアイデアだと思ったからだ。薬の問題や僕たちが経験する可能性のあるどんな問題も、もし僕たちの脳内化学成分が少し調整されれば、解決できる。サスペンスの中に置く口実としてそれを取り上げて使ったスコットのアイデアはじつに賢い。薬理学と法律がどんなふうに相互作用し始めたのか、この映画でリサーチし、その歴史を学ぶのは面白かった。アメリカで起こっているように君の文化で起こっているかどうかはわからない。君の国では抗うつ剤に関わる人は多いの?
映画『サイド・エフェクト』より (c) 2012 Happy Pill Productions.
──多いです。事実、2007年には『Does your soul have a cold?』(『マイク・ミルズのうつの話』というタイトルで10月日本公開)というドキュメンタリーもありました。ドキュメンタリー性が強く、エンターテイメント性はありませんでしたが、素晴らしかったです。キャスティングについて、以前にも仕事をしたジュードとキャサリンを、この2つのキャラクターにぴったりだと思われたのですか?
以前にも仕事をした俳優は多い。ジュードの場合、『コンテイジョン』で彼と素晴らしい経験ができたことで、この役の候補になった。キャサリンとチャニングとは、これが3度目の作品になる。だからルーニーが初めて組んだ女優だったが、全く初めてとは思えなかった。僕は友人のデヴィッド・フィンチャーのオフィスの編集室を借りていた。だから『ソーシャル・ネットワーク』(10)と『ドラゴン・タトゥーの女』(11)で彼女とデヴィッドの経験を間近で見ていたんだ。それにデヴィッドを通して彼女と親しくなったこともあって、全くの他人という気がしなかったし、デヴィッドと彼女の仕事ぶりにも感銘を受けた。僕たちは非常に心地良く、リズムにもすぐに乗れたんだ。
映画『サイド・エフェクト』より (c) 2012 Happy Pill Productions.
あまりリハーサルをするのは好きじゃない
──オリジナルタイトルは「ビター・ピル(苦い薬)」でしたね?
じつはオリジナルタイトルが「サイド・エフェクト」だったんだ。それから「ビター・ピル」に移って、「サイド・エフェクト」に戻った。
映画『サイド・エフェクト』より (c) 2012 Happy Pill Productions.
──映画を作り終えて、物語はどのくらい変わりましたか?脚本と違ったか、それとも正確でしたか?
最大の変化は最初の34分間だ。最初の3分の1が正しく機能するように、その部分に編集時間の大半をかけ、書き直し、少し撮り直した。彼女がトラブルに巻き込まれてからは、脚本に忠実だ。
映画『サイド・エフェクト』より (c) 2012 Happy Pill Productions.
──セットでのジュードとルーニーの相性はいかがでしたか?リハーサルはあったのでしょうか?
多くはない。僕はあまり好きじゃないんだ。人々が動いたり座ったりする、シーンの肉体的な行動は知りたい。それにスタッフがどこで何をするのか確認しておきたい。でもできるなら、僕はカメラを回すまで演技をとっておきたいんだ。だからあまりリハーサルをするのは好きじゃない。僕たちの準備が整うまで、演技の最終版は見せてほしくない。ジュードとルーニーは多くの意味で似通っている。準備万端だし、まさにプロだ。準備に関して何も問題ない。監督が望む物を提供したいと思う俳優だ。二人との仕事は非常にやりやすかった。無駄な会話で時間を費やすことのない、非常に賢い人たちだよ。
映画『サイド・エフェクト』より (c) 2012 Happy Pill Productions.
──インサイダー取引で大金を失うプロットは、とてもタイムリーな話題です。それは最初から脚本にあったのですか?
もちろんだよ。製品の株価を操作することで、その製品に付随する犯罪が起こる。誰かが薬に対して良くない反応をする。それが公となり、刑事事件となる。実際に起こっていることだ。そして製薬会社の株価が下落する。スコットのアイデアをとても面白いと思った。それを誰かが金儲けに利用する。株が下がれば賭けができるし、賭けて実際に株が下がれば、相手は君が支払った元値を払わねばならない。とても興味深いよ。
(『サイド・エフェクト』オフィシャル・インタビューより転載)
映画『サイド・エフェクト』より (c) 2012 Happy Pill Productions.
スティーヴン・ソダーバーグ プロフィール
1963年、ジョージア州アトランタ生まれ。中学時代に自主映画を作り始め、ハリウッドで編集者として働いたのち、地元に戻って脚本執筆やドキュメンタリー製作に取り組む。初の長編映画『セックスと嘘とビデオテープ』(89)はカンヌ国際映画祭に出品され、史上最年少の26歳の若さで最高賞パルムドールを獲得。同作品はサンダンス映画祭観客賞にも輝いた。2000年には『トラフィック』『エリン・ブロコビッチ』の2作品が共にアカデミー作品賞、監督賞にノミネートされる快挙を達成し、『トラフィック』で監督賞を受賞した。また『アウト・オブ・サイト』(98)、『イギリスから来た男』(99)といったユニークな犯罪映画で評価を高め、ジョージ・クルーニーやブラッド・ピットらのオールスターキャストを揃えた『オーシャンズ11』(01)は、その後2本の続編を生み出すスマッシュ・ヒットとなった。2008年には革命家チェ・ゲバラの人生を映画化した2部作『チェ 28歳の革命』『チェ 39歳別れの手紙』を発表するなど、型にはまらない創作活動を展開。『コンテイジョン』(11)、『エージェント・マロリー』(11)、『マジック・マイク』(12)といった近作も好評を博している。『サイド・エフェクト』以降の新作として、TVムービーでありながらカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された「Behind the Candelabra」(13)、クライヴ・オーウェン主演のTVミニ・シリーズ「The Knick」(14)などが控えている。
映画『サイド・エフェクト』
9月6日(金)より、TOHOシネマズみゆき座他全国ロードショー
精神科医のバンクスはなかなか症状のよくならない患者エミリーに新薬を投与し始める。みるみる症状が回復するが、副作用として夢遊病に悩まされるようになる。ある日遂に、無意識状態のまま、エミリーが殺人を犯してしまう。果たして、裁かれるのは主治医バンクスか、患者エミリーか。バンクは一夜にして社会的地位を失い、家族も離れていってしまう。しかし、これはほんの始まりに過ぎなかった。新薬を薦めたジョイ、新薬を飲みたがる患者、被害者の母、それぞれの思惑が拮抗する中、バンクスは自らの名誉のため真相を究明していく。謎が謎を呼び、その先には想像し得ないさらなる陰謀が渦巻いていた……。
監督:スティーヴン・ソダーバーグ
脚本:スコット・Z・バーンズ
音楽:トーマス・ニューマン
出演:ジュード・ロウ、ルーニー・マーラ、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、チャニング・テイタム
2013年/アメリカ/106分/DCP/カラー
配給:プレシディオ
協力:松竹
公式サイト:http://www.side-effects.jp
公式Twitter:https://twitter.com/sideeffectjp
▼映画『サイド・エフェクト』予告編