骰子の眼

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東京都 渋谷区

2013-09-02 15:40


「監督と同じことを考えているかどうかを確認するために、質問を怖がらずにすることがとても大切」

女優ナタリー・バイが、グザヴィエ・ドラン監督と『わたしはロランス』の魅力について答える
「監督と同じことを考えているかどうかを確認するために、質問を怖がらずにすることがとても大切」
9月7日より公開『わたしはロランス』に出演するナタリー・バイ(撮影:荒牧耕司)

これまでの作品3作すべてがカンヌ国際映画祭出品を果たし、2014年フランスで公開予定の最新作『Tom à la ferme』がベネチア国際映画祭に出品されるなど話題を集めるグザヴィエ・ドラン監督。9月7日(土)より日本公開となるドラン監督『わたしはロランス』は、80年代のモントリオールを舞台に、女になりたいという葛藤を抱えた主人公ロランスと恋人フレッドとの愛の行方を描いている。この作品でロランスの母役を務めるナタリー・バイがドラン監督の作品の魅力について、そして自身の演技への取り組みについてインタビューに答えた。

年齢や経験に関係なくドラン監督は天才です

── 最初に、この作品にすることになったいちばんの決め手は?

まずドラン監督によるシナリオでした。とてもよく書かれていたので、読んだ段階でこの女性像が理解できましたし、感じることができました。そして、ドラン監督の前の2作『マイ・マザー』(原題:I Killed My Mother)』『胸騒ぎの恋人』(原題:Heartbeats)を観ていてとても好きだったので、監督に会って、ちょっと単純かなと思われるような質問もいろいろ投げかけました。監督と同じことを考えているかどうかを確認するために、質問を怖がらずにすることがとても大切なのです。そして、あらためて彼と一緒にやりたいと思いました。18歳のときに『マイ・マザー』を作って、20歳のときに『胸騒ぎの恋人』を作って、今回の『わたしはロランス』の撮影中に23歳を迎えた、とても若い監督ですが、年齢や経験に関係なく彼は天才です。

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映画『わたしはロランス』より

── あなたが演じるジュリエンヌの登場シーンは決して多くはないものの、シーンごとに息子のロランスとの関係に変化が起き、母親として息子に接する態度も変化していっています。その演技の変化については、ドラン監督と具体的にどのような話し合いをしたのでしょうか?

母親というのは、自分の子どもがうまくいっているかどうか心の奥底で感じるものだと思うのです。ジュリエンヌは、息子との関係がうまくいっていないこと、そして、息子もなにかは分からないけれど問題を抱えている、と感じている。そして、息子がようやく「僕は実は女になりたい。自分自身になりたい」と言って、実際にそのための行動を起こしていくことで、母親としてすごく楽になり、自分らしくなって、息子との関係も良くなっていくのです。

── シナリオのなかに既に書かれていた演技と、現場で考えた演技との割合はどのくらいでしたか?

この映画については、とにかく脚本が良かったので、シナリオ通りに演技をしました。監督とたくさん話をすることで、彼が望む通りの役の理解をするように、そして自分で感じることが演技できるようになりました。ですので、質問はたくさんしましたが、私が変えた部分というのはありませんでした。

── ドラン監督は多彩な才能がありますが、監督と一緒に仕事をして彼の天才ぶりが分かったことがあれば教えてください。

ドラン監督はほんとうに特別です。若いのに既に3作手がけていて、シナリオもちゃんと書けて、衣装も自分で手がけて、私に80年代の服をバービー人形のように着せ替えてくれました。ヘアもやりますし、俳優への指導も上手です。1、2作目は俳優として出演もしています。映像と音楽の編集も編集者を使わず、自分でやってしまう。ウォン・カーウァイの影響を受けた監督、とよく言われますが、確かにウォン・カーウァイの作品は観ていたようですが、様々な映画祭に行った席でいろんな監督の名前が出てきても、巨匠たちの作品を観ていないくらい若いんです。監督のなかには、技術者としての経験を活かす方もいますが、私は、ゴダール、トリュフォー、シャブロルのような、飛んで行くような感覚を持った方と仕事がしたい。彼もその一人です。次回作に呼ばれたらすぐにオッケーを出します。

ひとつの役に閉じ込められるのが嫌なのです

── これまで数多くの作品に出演されてきましたが、今までで印象深い作品、そして特にに日本の観客に観てほしい作品は?

私は初期のキャリアとして、フランソワ・トリュフォーやジャン=リュック・ゴダールやモーリス・ピアラといった大家の作品に参加しましたが、14歳からロシアバレエの学校に通っていたので、最初の仕事は実はダンサーでした。あるとき、友人と芝居の学校に行って授業を見たときに「演技こそが私自身になれるものだ」と分かって、フランス国立高等演劇学校に通い始めました。そして幸いなことにトリュフォーの『映画に愛をこめて アメリカの夜』に出ることになり、映画の世界で活動するようになりました。

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映画『わたしはロランス』より

そうした巨匠たちの作品だけでなく、『エステサロン/ヴィーナス・ビューティ』のようにすんなり観ていただける作品もありますし、私が好きな作品としてはフレデリック・フォンテーヌ監督の『ポルノグラフィックな関係』。モーリス・ガルシアの『2週間ごと』やクロード・シャブロルの『悪の華』も面白いですよ。グザヴィエ・ボーヴォワの『若き警官』は4つ目のセザール賞を取ることになったので思い出深いです。それからコメディも好きで、レア・ファゼール監督の『一緒に暮らすなんて無理』では、常軌を逸した家族の母親を演じました。ベルトラン・ブリエ監督『真夜中のミラージュ』では、アラン・ドロンと共演しましたが彼の演技は素晴らしかった。原題は『Notre Histoire』(私たちの物語)なんですけれど、日本語のタイトルのほうが詩的ですね。

私は閉所恐怖症なんです(笑)。ひとつの役に閉じ込められるのが嫌なのです。日本の俳優さんでも、この人は悲しいドラマ向き、とかコメディだったらこの人、悪役はこの人、と決まっていると思いますが、いろんな映画に出たいと思っています。

── 観客として『わたしはロランス』を何回ご覧になりましたか?観客の視点からロランスとフレッドの関係をどのように感じましたか?

撮影チームのための上映のときと、カンヌ国際映画祭の上映のときに観ました。『わたしはロランス』は、素晴らしい愛の物語ですが、それはかなわないこともある。男女が一緒に住んでいて、男性が突然「自分は実は女になりたい」と言った場合、女性の側はけっしてシンプルには捉えられないと思うのです。彼女も彼を愛し続けていくけれど、他の人や家族の目といったいろいろな問題があって、一緒には住めない辛さがある。ですが、お互いに体は別れていても、このふたりは、心はずっと愛し合うと思います。私もこの映画を観て初めて分かったのですが、女になりたいと思う人のなかでも、ロランスのように性は変わっても性の嗜好は変わらない人もいる。女になってもずっと同じ女の人を愛し続けていく人もいるのです。

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(撮影:荒牧耕司)

「壊れたら直す」家族のほうがいい

── 80年代から90年代を舞台にしていますが、監督は自分が子供だったこの時代をなぜ描こうとしたのでしょうか。

私が考えるに、肩がいかつい服などファッションをはじめとした80年代の美的な感覚をドラン監督は好きだということ、そして80年代だと女になりたいと悩む主人公という設定がより深刻になるということ。そうしたセクシャルマイノリティに対して、2000年代よりもさらに厳しい目で見られたということがあると思います。現在のフランスでは、昔に比べると、今の考え方はわりとオープンにはなってはいますが、私の表現で言えばまだ“シャイ”な状態です。タブー視されていないものの、多くの人々には不都合な状態が続いています。私にはセクシャルマイノリティの友人が多くいます。彼らの中には家族の中で病気扱いされることを恐れて、そのことを隠したまま生きている人たちもいました。だんだんと明らかになって、ロランスのように本当のことを語れる状況になったら良いと思います。

── 家族のあり方というものをすごく考えさせられる映画でした。日本ですと結婚すると死ぬまでパートナーと一緒にいることが多いですが、フランスは日本より家族のあり方がより自由で多様だと思います。ナタリーさんが考える理想の家族というのはどんなものでしょうか?

私はむしろ日本のあり方がひとつの基準ではないかと思います。こんなメールを受け取りました。美しい言葉が書いてあったので、それをご紹介しましょう。老人のカップルの写真があって、そこに写るふたりに「65年もどうして一緒にいられるんですか」と聞くと、おばあさんがこのように言いました「今は壊れたら代りを探す時代ですが、私たちの時代は、壊れたら直す時代だったのです」。私も、壊れたら直す方が、結束した家族が可能であれば、そのほうがいいと思います。

(取材:駒井憲嗣)



ナタリー・バイ プロフィール

1948年7月6日生まれ、フランスのマネヴィル出身。代表作にはフランソワ・トリュフォー監督の1973年『映画に愛をこめて アメリカの夜』 1978年『緑色の部屋』、ジャン=リュック・ゴダール監督の1979年『勝手に逃げろ/人生』、1985年『ゴダールの探偵』など。近年の出演作に、クロード・シャブロル監督の2003年『悪の華』、ギョーム・カネ監督の2006年『唇を閉ざせ』、グザヴィエ・ドラン監督の2012年『わたしはロランス』などがある。 受賞歴は1980年『勝手に逃げろ/人生』でセザール賞の助演女優賞、 1982年『愛しきは、女/ラ・バランス』ではセザール賞の主演女優賞、1999年『ポルノグラフィックな関係』でヴェネチア国際映画祭女優賞を獲得。娘は、フィリップ・ガレル監督の2008年『愛の残像』などの出演で知られる ローラ・スメット。




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■『わたしはロランス』公開記念キャンペーン第3弾!
こんなものを恋人にプレゼントしたい、してほしい!

『わたしはロランス』で、女になると告白したロランスに対して恋人のフレッドは、戸惑いながらも受けとめる努力をしようとし、複雑な気持ち抱きながらボブヘアーのウィッグをプレゼントします。
アンケート第3弾は、「こんなものを恋人にプレゼントしたい、してほしい!」です。応募者の皆さんとビジュアルをシェアしたいのでプレゼントの画像を添えて投稿してください。

◆プレゼント
【1等賞】UPLINKのカフェレストラン"タベラ"お二人で1万円相当のディナー 1名様
【2等賞】UPLINKのカフェレストラン"タベラ"にて、ご飲食の際にワインフルボトル1本 5名様
*当選者の方には、メールでご連絡を差し上げ、新宿シネマカリテでタベラでのご利用券をお渡しいたします。

◆応募方法
Twitter or facebookで応募できます。
◎Twitterでの応募方法
手順【1】『わたしはロランス』のTwitterアカウント(https://twitter.com/Laurence_JP)を“フォロー”!
手順【2】ハッシュタグ「#ロランスC」をつけて<第3弾:こんなものを恋人にプレゼントしたい、してほしい!>の回答と写真をツイート!

◎facebookでの応募方法
手順【1】『わたしはロランス』のfacebookアカウント
https://www.facebook.com/laurenceanywaysJP)を“いいね”してフォローする!
手順【2】キャンペーンページ(http://www.uplink.co.jp/laurence/qanda.php)を“シェア”して、コメントにハッシュタグ「#ロランスC」をつけて<第3弾:こんなものを恋人にプレゼントしたい、してほしい!>の回答と写真を入力!

◆応募期間
2013年9月4日(水)午前10時まで
詳しくはこちらキャンペーン特設ページへ
http://www.uplink.co.jp/laurence/qanda.php




■AndAとのコラボアイテム発売、POP UP STOREオープン!

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映画『わたしはロランス』と、ファッション・デザイン・アート・音楽などのジャンルをクロスし、グローバルな視点で刺激ある新しいスタイルやカルチャーを発信するコンセプトショップAndAとのコラボアイテムが発売、新宿フラッグス店では『わたしはロランス』のPOPUP STOREがオープン!
今回販売されるアイテムは4種で『わたしはロランス』のファッショナブルでエモーショナルな部分がフィーチャーされたアイテムとなっている。

*公式 HPキャンペーンページはこちら
http://www.uplink.co.jp/laurence/campaign.php

●Tシャツ(価格:¥5,250/サイズ:XS,S/色:白、青、グレー)
●パーカー(価格:¥8,400/サイズ:1サイズ/色:白、紺、グレー)
●ブレスレット(価格:各¥1,680/全7色)
●トートバッグ(価格:¥3,990)




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映画『わたしはロランス』
2013年9月7日(土)、新宿シネマカリテほか全国順次公開

モントリオール在住の小説家で、国語教師のロランスは、美しく情熱的な女性フレッドと恋をしていた。30歳の誕生日、ロランスはフレッドにある秘密を打ち明ける。「僕は女になりたい。この体は間違えて生まれてきてしまったんだ」。それを聞いたフレッドはロランスを激しく非難する。2人がこれまでに築いてきたもの、フレッドが愛したものが否定されたように思えたのだ。しかし、ロランスを失うことを恐れたフレッドは、ロランスの最大の理解者、支持者として、一緒に生きていくことを決意する。

監督:グザヴィエ・ドラン
出演:メルヴィル・プポー、スザンヌ・クレマン、ナタリー・バイ
2012年/168分/カナダ=フランス/1.33:1/カラー/原題:Laurence Anyways
配給・宣伝:アップリンク

公式サイト:http://www.uplink.co.jp/laurence/
公式twitter:https://twitter.com/Laurence_JP
公式facebook:https://www.facebook.com/laurenceanywaysJP

▼『わたしはロランス』予告編



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