骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2013-08-30 23:05


どんな状況であれ明日を生きていくことを描いた普遍的な娯楽映画

小林政広監督が仲代達矢を迎え描くこの国の歪み─映画『日本の悲劇』クロスレビュー
どんな状況であれ明日を生きていくことを描いた普遍的な娯楽映画
映画『日本の悲劇』より (c) 2012 MONKEY TOWN PRODUCTIONS

2010年の『春との旅』では、徳永えり扮する孫娘とのやりとりを笑いとペーソスを交え元漁師の老人を演じた仲代達矢が、再び小林政広監督とタッグを組んだ。ほぼ木造平屋の家のなかだけで繰り広げられるのは、肺ガンの手術の後退院し、先に旅立たれた妻の遺影の待つ自宅へ帰ってきた男と、職を失ったことでうつ病となり、父親の年金で食い繋いでいる息子の感情を剥き出しにしたぶつかり合い。未来が見えないことへの不安と、今日をどう生きていくかさえ窮する経済的状況は『ワカラナイ』(2009年)のあのメロンパンをむさぼる少年を思い出さずにはいられない。舞台の二人芝居のようにミニマルな設定を通して、日本の縮図というべき「行き止まり感」が皮膚感覚で伝わってくる。

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映画『日本の悲劇』より (c) 2012 MONKEY TOWN PRODUCTIONS

息子を演じる北村一輝の諦念をはらんだ佇まいと、父親の決意を泣きじゃくりながら制止する姿には、抗しがたい説得力がある。「弁当2つで1日の食事を切り詰めてきた」というセリフなど、具体的なニュース性をはらんでなくとも、研ぎ澄まされた会話を通して、政治や社会の歪みを確かにこの薄暗く湿った日本の家屋のなかに描き出す。いつか自分もこの家族のようにバラバラになってしまうのではないかという不安に震えながら、小林政広監督がその長回しのなかに日本の現実を映しこもうという執念に圧倒される。「骨太の作品」と形容するにふさわしい、ずしりとした余韻が残るはずだ。

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映画『日本の悲劇』より (c) 2012 MONKEY TOWN PRODUCTIONS



映画『日本の悲劇』
8月31日(土)よりユーロスペース、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

出演者:仲代達矢 北村一輝 大森暁美 寺島しのぶ
脚本、監督:小林政広
製作:小林直子
プロデューサー:小林政広
撮影:大木スミオ
照明:祷 宮信
録音:福田 伸
美術:山﨑 輝
編集:金子尚樹
製作:モンキータウンプロダクション
助成:文化芸術振興費補助金
配給:太秦
配給協力:一般社団法人コミュニティシネマセンター
2012年/日本/カラー・B&W/35㎜(DTS)/DCP(5.1ch)/101分

公式サイト:http://www.u-picc.com/nippon-no-higeki


▼映画『日本の悲劇』予告編


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