骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2013-06-20 23:30


縦・横・斜めの3つの方向から可能性を考え未来を見ることが大事です

田中優氏が語る映画『世界が食べられなくなる日』、そして多国籍企業とTPPに負けないための方法
縦・横・斜めの3つの方向から可能性を考え未来を見ることが大事です
『世界が食べられなくなる日』公開記念のトークイベントに登壇した田中優氏[2013年6月10日、渋谷アップリンク・ファクトリーにて]

原子力エネルギーと遺伝子組み換え作物の関連を描くドキュメンタリー『世界が食べられなくなる日』が上映中。公開を記念して渋谷アップリンク・ファクトリーで環境活動家の田中優氏によるトークイベントが行われた。自ら岡山に移住し、電力会社からの電力を使わずに生活する田中氏から、これからの安全な暮らしへの提言が語られた。




日本もこういう映画を作ってほしい

──まず『世界が食べられなくなる日』の感想からお願いします。

みなさん既にご存知ですか、モンサントがヨーロッパをギブアップしたというニュース。それに繋がったのがこの映画で実証した内容なんじゃないだろうかと思っています。今回の映画は、そうした実証的なことを描く一方で、実際にいろんなものが食べられなくなっていくということを中心に、放射能の問題も合わせて出してくる。日本ではあたかも大丈夫であるかのような話ばかり出てきますが、先日岩手県の子どもたちの尿のなかの放射能量を調べたら、子どもたちの体の中に、体重1キログラムあたり、だいたい7ベクレルくらいの放射能が入っている結果になっていました。子どもたちが心臓の不整脈が出ないギリギリのラインは5ベクレルくらい。それを超えているので、ぼくは危険だと思う。ところが、残念ながら日本政府そして推進派の人たちはこれを大丈夫だと言いまくっている。

チェルノブイリの経験を日本に当てはめてみると、数年後に放射能により特に心臓・血液関係の病気は90パーセントくらいに上ってしまうんですけれど、その時期は2017年頃になるんです。ところが2013年時点で出てきた甲状腺がんを否定して、挙げ句には他の病気が出る前ですから、それをいいことに人々を20ミリシーベルト/年間被ばくするようなところに人々を送り返すことを始めているわけです。これはまるっきり逆方向なので、日本がこういう映画を作って、その参照にモンサントの遺伝子組み換えの話が出てくるという、中心が逆転するようなものを作らなきゃいけないなと思います。

──田中さんがこの映画に寄せていただいたコメントは下記でした。このエネ(ルギー)・カネ(金融)・タネ(食糧)の関係性についてお話ください。

覚醒か、惰性か
人々が必要とするものを独占すれば、世界支配も不可能ではない。その手段がエネ(ルギー)・カネ(金融)・タネ(食糧)だ。しかしそれは自給もできる。上から下への支配か、下から上の自給か。これを観れば私たちの今いる位置が確認できる。
覚醒して生き延びるか、惰性に滅ぶのか、それが今の私たちの選択肢だ。

大手の企業は上から下へのピラミッドを作っているんです。例えば電力、みなさんのなかで東京電力以外から電気を買っている方はいないわけで、家庭は100パーセント電力会社の独占ですから、電力会社から電力を買う以外方法がない。そうした上から下の仕組みだと、ひとり1円だけ値上げしただけで、1億2千万円入る。だからいちばん儲けやすい方法は、そのがんじがらめのピラミッドのなかに人を追い込んで、上から下に支配してしまうことなんです。その支配の構造は、エネルギーそして金、そしてタネに進もうとしている。タネ自体が既に壊されていて、その壊されたタネを使わなければ農業ができないというところに追い込んでいけば、タネ業界の勝ちです。でも一方で下から上へ進むための転換期に今ちょうど私たちはあるのです。

ぼくは今日のトークを頼まれたときに、未来についてこんなことが現に可能だということを出したいと思ったんです。話を聞いて映画を観て暗くなって終わってしまったら次に進めない。やっぱりこんなことをやれたら楽しいという、ワクワク感が最後に残るようなトークができたらいいなと思っています。

──タネの支配というのは、遺伝子組み換えもそうですが、F1種などが農業の世界に深く根付いていますよね。

F1というのは、異なる種を配合してふたつの遺伝子を合わせたときにできる種の第一世代のことで、F1種は優秀なんだけれど、そのタネを作って使って次の田植えなり作物を作ろうとすると、次はダメになるんです。だから、永遠にF1種を買わなくてはいけない。ぼくが今住んでる岡山の農家では、みんなタネを自分で採ってそのタネを代々使って栽培してます。だから「それはなんという種類のタネですか」と聞いても「分からない」と言うんです。そんな暮らし方が一方であったのに、今の時点ではF1が中心で、2世代目はダメになるので、必ず買わなくてはいけない。そのようにしてタネについての支配が起こってきた。

しかもそこに、ラウンドアップ(=皆殺しという意味の名前)の除草剤をかけると、それ以外の草はぜんぶ死ぬんだけれど、その遺伝子を組み替えられたラウンドアップ・レディだけが残るようになっている。これはタネを通じて完全な支配のピラミッドのなかに農業もすべて組み込んでしまえ、ということです。


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映画『世界が食べられなくなる日』より

農薬業界は構造的にあってはいけない

──この映画で描かれるセラリーニ教授の実験については、ラットに4ヵ月以降から異常が見られたという報告がありました。

そうして期間を限定して実験するのは、意図的に4ヵ月目から腫瘍が出るという結果を隠そうとしているからです。実は日本にもチェルノブイリ事故のときに放射能の雨が降ったんです。そのときに、食べものについて放射能を測っていたんですが、1ヵ月で調査を止めたんです。1ヵ月経つと今度は内側から汚染されるんです。例えば牛乳だと、牧草が1ヵ月経って汚染され、それを牛が食べたことによって、牛乳が汚染するのは1ヵ月後なんです。だから、わざわざ1ヵ月の手前まで調査して、そこで止めたんです。今回の実験も似ています。

安全性の試験といっておきながら、安全じゃないことを立証するその寸前のところで寸止めをして大丈夫だというデータを出してくる。しかし今困ったことに、遺伝子組み換え作物でアメリカでも許可されていないものが日本で許可されていますから、ほんとうに今日本が好き放題やりたい放題の状況になってきてしまっているんです。それはパブコメを募集しますなんて出てくるんだけれど、読んだって分かりやしない。書いたって、いい加減な数字にしか反映されてこない。そういうものをきちんと立証してくれたのが今回の映画の重要な点だと思います。

──実験に対してはいろんな意見がありますが、この実験をやり遂げて科学誌『Food and Chemical Toxicology』に発表したことはとても大きな力になっていると聞きました。先ほどのモンサントがヨーロッパをギブアップしたというように、大きな力になっていくためには私たちひとりひとりどういう風にできるでしょうか。

ネオニコチノイドという世界中でミツバチがいなくなった原因の農薬がありますが、これを今年の年末からEUが使わせないようにして、その間にチェックをして、最終的に止まることになる、という状況なんですが、日本ではうなぎのぼり。実は日本は単位面積当たりの農薬の使用料が世界一なんです。

農薬が多すぎるだろうということになって、特別栽培米というものが出てきています。減農薬というものです。ところが減農薬にはネオニコチノイドを使う。金沢大学の山田先生がデータを集めたところ、もっとも薄いレベルの水田の水を取ったものでも、すべて蜂の巣が崩壊したんです。山田先生は研究結果を発表したんですが、それに対して三井化学アグロ社が批判しているんです。これを我々が減農薬と受け止めていてはだめですね。

農薬での闘いはいたちごっこなんです。永遠にそれに対する耐性を持った虫が出てくる。モンサントはもともと日本では三菱と組んでいました。ところが、最近既に耐性を持った雑草が出てきてしまい、次の農薬に耐性を持った遺伝子を入れる必要があるために、住友と組んだのです。こういう業界は、程度問題ではない。止める、という方向に進まなければならない。構造的に、あってはいけない業界なんだと思います。

──日本は遺伝子組み換え作物の大量輸入国で、トウモロコシをアメリカより1,600万トン輸入していて、アメリカの大半のトウモロコシが遺伝子組み換えということで、私たちの食卓にいろいろなかたちで入っています。

日本の食料自給率は低いと言われますが、39パーセント(平成23年度)というのはカロリーベースなんです。他の貿易統計はすべて価格ベースなのに、数字を低く見せるためにこうしている。価格ベースですと7割自給できています。そのなかで多い輸入は飼料なんです。動物を経由して人間が食べるから、動物のほうに影響が出たとしても人間は食べないからだいじょうぶなんじゃないか、ということになっている。だから、遺伝子組み換えを避けたかったら、肉を避けたほうがいい。でも困ったことに、日本のなかの肉って、放射能がほとんど出たことのないのは、豚肉、鶏肉、卵なんです。なぜかというと配合飼料ばかり与えていて、アメリカ産のエサだからです。牛肉と牛乳に放射能が出るのは、日本のなかの飼葉を与えている比率が大きいから。ですので、日本の場合、現に「食べられない日」になっています。


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映画『世界が食べられなくなる日』より

生きた証は、その人が意見を言ったことでしか立証できない

──(観客からの質問)TPPに交渉参加ということで7月に参議院選挙があって今度自民党が勝ったら、原発も遺伝子組み換えも拒否できないと思います。

その通りなんだけれど、ではどういう風に我々はやっていったらいいのか考えると、我々にできることって3通りだと思っているんです。その1つ目が「縦」方向。政治家を変えるなり、自分たちが政治家になるなりして、社会を下から上に、上から下に変えていく動きは重要です。もうひとつ重要なのは、「横」方向の動き。ヨーロッパではネオニコチノイドでも遺伝子組み換えでも、数十万人規模のデモが行われているんです。そんなレベルでデモをやられたら、政府もそのままではいられなくなる。署名やデモで「横」方向に人々が伝えていくことで、社会を変えていこうとする動きも重要です。そして、「縦」と「横」では絶望的な状況になってしまっていても、まだできることがあります。それが「斜め」の方向。日本語でいえば第三の道、英語でいえばオルタナティブ。別なやり方で社会を変えていく、新しい方向を作ることです。この3つのなかの1つの可能性として、今回の選挙はすごく大きな意味を持つと思います。

選挙を分析してみると、自民党の得票率は毎年減っている。なのになぜ勝つかというと、投票率が下がっているから。若い人が投票しないおかげなんです。ということはこれをひっくり返したかったら、若い人に投票に行け、といえばいい。でも若い人たちはモラトリアムをしないと生きていくのが危険だと思っている。例えば自分は反TPPとか反原発だと言ったら就職できない。それが怖いので誰に何を言われようとはっきりさせないでおこう、その習性のせいで、何についても自分の意見を持たない方が無難だという生き方をしてきた。

なので、若い人に質問を突きつけるべきなんじゃないかな。その人が生きた証ってその人が意見を言ったことでしか立証できないんだから。一生自分の意見を持たなかったら、その人なんて存在した意味が見えないでしょう。アウトプットしてなんぼなんだと思います。あなたはこれについてどう思うの?ということを突きつける社会が必要なのかなと思う。

若者の投票率ですが、アメリカも以前は低かったんです。ところが、今は8割くらいに上がっている。ロック・ザ・ボートという運動をやって、「選挙行かないなんて、おまえ意見持ってないのかよ」とロックのコンサートをやりながら若者に訴える、かっこいい活動にしていった。投票率を上げようというのは、どこの自治体でも必ず言っている話だから、その選挙予算をちょっとください、我々が上げてみせるから、とロック・ザ・ボートやったらいいし、いろんなところと組んで投票率を上げるために、若い人たちに人気のあるロック・ミュージシャンを呼んで「こんなイベントやりませんか」と運動として定着できればいいと思います。

ドイツが原発を止めることにしたら、スウェーデンの原発メーカーから訴えられたんです。原発を輸出した側から、なんでお前止めるんだ、そのせいで企業が損したじゃないか、金返せ、とISD条項によって国が訴えられてしまっている。そうすると、日本も原発を止められなくなる。アメリカのGEとかが「どうしてくれるんだ」と賠償を求めてくる。その賠償が怖いから原発を止められない、という構図になってしまう。
明治時代、私たちの祖先が飲まされてきた不平等な条約をぜんぶ撤回させていったんです。それを自分から呑みにいっているのが今回のTPPだと思うので、独立心を持て、自分の国のことは自分で決めろよ、そんな不平等な条約を受け取るな、と感じています。


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映画『世界が食べられなくなる日』より

新しい可能性「菌ちゃん農法」

佐世保で「大地といのちの会」をやってる吉田俊道というぼくの友人が、いま「菌ちゃん農法」というのをやっている。微生物の菌で土を豊かにすることが農業の9割だと、子どもたちと残飯を堆肥にさせるんです。細かく踏んで土に混ぜ込んでビニールシートをかけて完全な堆肥を作る。残飯だけだとC/N比といってチッ素が多すぎて腐敗に向かうことが多い。そこで彼は草を加える。草を刈って濡れた状態で土の上にかぶせて、残飯を加えてビニールシートを載せて3ヵ月経ってみると見事な土になる。その土で育てた野菜は虫がつかないんです。虫って弱い個体を滅ぼすために存在する。カブトムシを見つけたかったら、弱ったクヌギの木を探せばいい。その土が貧相で、野菜が病的だと虫が寄ってくるけれど、土が豊かだと、虫がつかないんです。だから、無農薬だと虫がついていて当たり前、というのは間違いです。

そして、そこでできた野菜は抗酸化力が強いんです。アンチエイジング効果とかガンの抑制や放射能の予防効果などがある。彼が作った人参をジュースにしてみると、市販の人参のジュースはあっという間に酸化して色が変わってしまうけれど、全然色が変わらない。子ども子どもも自分で野菜を作ると愛着があるので食べるようになった。いま、子ども子どもたちの半数が病気の温床となる低体温症なんですが、子ども子どもたちにそうした野菜を食べさせると、低体温症がほとんど消えてしまいました。病気をしなくなって、保育園の登園率が上がって、病気してもすぐ回復してくる、というのが実証されてきて、彼の野菜の作り方がいよいよ知られることとなったのです。


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映画『モンサントの不自然な食べもの』より

別な解決策と仕組みを出していくことで、原発を進められなくする

──(観客からの質問)こんなにみんなでがんばって、若い人たちに選挙に行こうと発信したりしても、なかなか結果が出ずにときどき心が折れそうになるんです。優さんはそんなときどうしているんですか?

ぼくは基本的な考え方は、自分一人で社会は変えられないと思っているんです。みんなが変わっていくから社会が変わっていくのであって、誰かひとりがその社会を変えるとしたらファシズムです。ファシズム社会で良い方向に向かっても、必ずひっくり返されてしまう。だから、みんなで納得づくで動かなければ解決しないんです。

そして、ぼく自身フェイスブックやフィード購読や無料・有料のメルマガその他で、3万人に伝えることができる。みなさんも1万人くらいはすぐ作れると思うんです。意識的にやったら、この会場だけで、100万人くらい伝えられるでしょう。そういう仕組みがどんどん作れる時代になったので、そこは昔と比べたらずっといい方向に進んでいる。それを感じながら、心折れないようにする、というのがまずひとつめ。

それからもうひとつは、ぼくの家は太陽光発電パネルとパーソナルエナジーという電気をコントロールする装置を購入して、100パーセント電気を自給にしました。それでも暮らせるし、みなさんも暮らせるんです。そういう状況になっているのに、なぜ私たちが支配がされるのを当たり前だと思い込んでいるのか。今や時代が変わって、自給が可能な時代になってきたのに、思考のほうが追いついていない。支配されるのが当たり前だと思い込んでいる。この端境期に我々がいて、その先に何を見るのか、というのが重要だと思っています。

晴れの日は電気が発電されすぎて、バッテリーがいっぱいになったあとはロスしていくんです。それがもったいなくて、やたら電気製品が増えて、電動草刈機とか電動のこぎりとかが増えて、有り余った電気を一生懸命使うんです。そういう暮らしが一方ででき、雨が3日以上続くと、バッテリーが足りなくなる。そういうときのために発電機を買ってきたのですが、ガソリン式のいちばん安いのは3万5千円ですよ。みなさんが携帯買うお金で発電機が買えてしまう。その発電機で自給することが可能です。3日以上雨が続いたらその発電機を動かしてしまえばいい。その発電機を入れて電気なしで自給できる仕組みを作ってから、中国電力に電話して、送電線を切りにきてもらいました。

みんな逃げちゃえばいいんです。今はバッテリーが高いから、太陽光発電は合計で500万円かかってしまいますけれど、今後下がっていくだろうし、そして誰かが最初に買わないと安くならない。だからそそっかしいけど、今から買うという人が現れないと次の時代は生まれていかない。実は東京電力の利益の91パーセントは一般の個人と小さな商店からとっているんです。電気をものすごく消費している大きな企業からは、9パーセントしか利益を取っていません。不都合なコストはみなさんの家庭のうえに乗っているんです。家庭に乗せようとしたとたんに、東電は今後3倍値上げをするつもりですから、そのときに「私はもういいです、自給しますから」と言えたら、その社会は変えられます。だって利益の9割を占めている家庭に逃げられてしまうんですから。

別な解決策と仕組みを出していくことで、原発を進められなくすればいい。もし政治に負け、署名活動に疲れ、となったとしても、もうひとつの方法で勝つことが可能です。「縦」「横」「斜め」の3つの方向のなかでいまどれがいちばん可能性があるかを考えながら、未来を見ることが大事だと思います。


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映画『世界が食べられなくなる日』より

自然のかしこさをうまく利用した循環に入っていけばいい

──(観客からの質問)最近、支配のなかで入りたくないという思いを実現するために畑をやろうと自給をしようとやりはじめたのですが、雑草や虫の脅威を実感することができました。ホームセンターでタネを買ったんですが、ああやって売っているタネはどうなんですか?

基本的には、遺伝子組み換えではないが、野口種苗以外はF1だと思ったほうがいいと思います。だけど、F1は4回か5回タネを採ると先祖帰りするんです。だから自分のところで採るものというスタイルにしていけばいいんじゃないかと思います。

荒れた土地に生えた稲科の草は土を豊かにするために生えている、そこの場所に切ってビニールシートの下で発酵させると、どんどん土が豊かになっていく。そこの土に足りないものを作るために雑草が生えてくる。雑草は味方なんです。ナウシカの世界のように、そこに育ってくる生き物にはそれなりの役割があるのに、それを見いだせずに殺せばいいとやってきてしまったから、こんな悪い状態になってしまった。そこにある環境を味方にしていくことが大事。そして、味方につけていくときには、気が長くないといけない。農業は若いうちから始めないといけないです。1年に1回しか経験できないから。弱った土を完全に回復させるには年数がかかります。だから長い年月を見ながらそこに生きている生き物を応用することで農業はなりたっていくものです。今年や来年がうまくいかなくてもあきらめないことが大事かなと思います。

ぼくが住んでいる岡山県和気町の集落は農薬を使う農家が一軒もなくて、小学校の給食は完全無農薬なんです。そしてネオニコチノイドも使わないから、うちのツツジが咲いたときはミツバチだらけ。そしてもうひとつ大事なのは、マルハナバチというおとなしいハチが飛んでくるのですが、これがホタルと共生している。そのおかげで、うちの周りでたくさんホタルを見ることができる。

岡山は災害が少ないんです。地震がなく、台風がこなくて、そうした災害がない地域は助け合うことがあまりない。そのおかげでお互いに関係性が薄く、あえてベタベタの関係を作らないんです。独自の生き方をしている人が多いので、そのおかげで東京から引っ越してきた私でも居心地がいいんだけれど、「なんで農薬を使わないんですか?」と聞いてみたら、「だって一度も使ったことないから」と当たり前に言って、周りの人が使っているから、ということを思わないんです。

そんな岡山のJAが、『奇跡のリンゴ』で知られる木村式自然栽培の米を作りはじめた。農薬で儲けているJAが農薬を否定した農法を実験しているんです。これはたぶん全国的にここしかないと思います。木村秋則さんは堆肥があれば堆肥を入れればいい、なかったら入れなければいい、と言う。土のなかにチッ素が不足するとそれを補填するバクテリアが住み着く。実は自然の循環のほうがはるかにかしこいんです。それなのにモンサントがそこに手を出すのでダメになっていく。ぼくは次の農法が現実にあるので、それを広めていくことの方が、モンサントに反対とか言うよりもいいんじゃないかと思っています。

こういうやり方があちこちに増えてきて、無農薬のものから売れていくと、こっちの方が得だからと変わっていく。しかも吉田俊道の農法だと簡単だと分かってくる。自然のかしこさをうまく利用した循環に入っていけばいいのです。

──最後にもういちど、『世界が食べられなくなる日』が来ないために私たちができることをお話いただけたらと思います。

「縦」「横」「斜め」の方向で考えて、自分にどれが向くか、どれが最適な方法か考えてもらって、それをアウトプットしてほしい。そのときに、誰もが文章を書けばいいというものではない。自分に向いた表現でやっていってほしい。例えば音楽で表現したり、マンガにしたり。日本のなかで学術論文だったら40人くらいしか読まないけれど、マンガだったら1万人が読むでしょう。そしてぼくは、人が存在するというのは常に何らかの自分の意思を持って、それを表現するから存在の意味があると思う。意識的にアウトプットしていきましょう、みんながそれをしていったら、明らかに世界は変わります。上から下の社会から下からの上の社会へ変わる寸前まで来ています。一気にひっくり返して、「電力会社?昔そんなものがありましたね」と言えるような社会に変えてしまいましょう。それをやっていくことが大事かだと思います。

(2013年6月10日、渋谷アップリンク・ファクトリーにて 構成:駒井憲嗣)



田中優 プロフィール

1957年東京都生まれ。地域での脱原発やリサイクルの運動を出発点に、環境、経済、平和などの、さまざまなNGO活動に関わる。現在「未来バンク事業組合」「天然住宅バンク」理事長、「日本国際ボランティアセンター」理事、「ap bank」監事、「一般社団法人 天然住宅」共同代表を務める。立教大学大学院、横浜市立大学の 非常勤講師。
公式HP 田中優の持続する志




映画『世界が食べられなくなる日』
渋谷アップリンクにて公開中、ほか全国順次公開

2009年、フランスである動物実験が極秘に開始された。それはラットのエサに遺伝子組み換えトウモロコシ、農薬(ラウンドアップ)を、いくつかの組み合わせで混ぜて与えた長期実験だった。分子生物学者のジル=エリック・セラリーニ教授が行ったこの世界で初めての実験は、2012年9月に専門誌に発表され、フランスをはじめ世界中に大きな波紋を投げかけた。セラリーニ教授は警告する「20世紀に世界を激変させたテクノロジーが二つあります。核エネルギーと遺伝子組み換え技術です。これらは密接に関係しています。米国エネルギー省は原爆につぎ込んだ金と技術者を使って、ヒトゲノムの解析を始めました。そこから遺伝子組み換え技術が誕生しました」。『未来の食卓』『セヴァンの地球のなおし方』のジャン=ポール・ジョー監督が、遺伝子組み換え作物と原発の危険性に迫るドキュメンタリー。

監督:ジャン=ポール・ジョー
製作:ベアトリス・カミュラ・ジョー
ナレーション:フィリップ・トレトン
パーカッション:ドゥドゥ・ニジャエ・ローズ
原題:Tous Cobayes?
2012年/フランス/118分
配給:アップリンク

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▼『世界が食べられなくなる日』予告編


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