骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2013-06-07 18:04


どの街にもあるチェーン店ばかりになってしまった、それが渋谷で感じるグローバリゼーション

映画『世界が食べられなくなる日』とともにTPPそしてフェアトレードを考える
どの街にもあるチェーン店ばかりになってしまった、それが渋谷で感じるグローバリゼーション
『世界フェアトレード・デーに考える』より、左から吉澤真満子さん(APLA事務局長)、鈴木隆二さん(ぐらするーつ代表)、鶴見済さん(フリーライター)

遺伝子組み換え作物と原発、そしてグローバル企業の関連を考えるドキュメンタリー『世界が食べられなくなる日』の公開記念として、5月の第2土曜日である5月11日に『世界フェアトレード・デーに考える 未来を生きるために知っておきたいTPPのこと』が渋谷アップリンクで開催。NPO法人APLA事務局長の吉澤真満子さん、フェアトレードショップ・ぐらするーつ代表の鈴木隆二さん、フリーライターの鶴見済さんによるトークが行なわれた。日本が交渉に参加するTPP(環太平洋パートナーシップ協定)により、私たちの暮らしはどうなるのか、そして世界にどのような影響がでるのか。私たちがこれからできることについて、フェアトレードの現場から語られるイベントとなった。

原発や遺伝子組み換えとTPPは構造としては同じ(吉澤)

── 最初に『世界が食べられなくなる日』の感想からお願いします。

吉澤真満子(以下、吉澤):遺伝子組み換えと原発を技術というところで繋げていますが、企業が推進して利益を上げていこうとすることが、いろんなかたちで自分の命や食べものに浸透して、いつのまにか自分の体や子供たちの体が汚染されていくことをあらためて感じました。

鈴木隆二(以下、鈴木):僕は家にテレビのない生活をしているので、福島の原子力発電所の爆発の映像を大きな画面で観たのが初めてだったんです。すごいことが起きたんだなとあらためて思い起こされました。フェアトレードの生産者は多くが手を使って仕事をしている方々なんですが、「手仕事がなくなってしまう日」と「世界が食べられなくなる日」はイーブンな感じがしました。

鶴見済(以下、鶴見):我々日本人がいちばん食べているんじゃないかというくらい、放射能と遺伝子組み換え作物を食べてしまっている。この映画はフランス人監督により作られていますが、日本の私たちはこの映画に出てくるような遺伝子組み換え作物に対する知識ってほんとうに知ってるのか、というと知らないことばかり。いかに私たちの周りの情報空間が、こうした映画ができる国と違うのか、ということは恐ろしいと思います。

── 日頃フェアトレードの現場で活動されているみなさんの見地から、TPPとフェアトレードの関連についてお聞かせください。

吉澤:今日(5月11日)は世界フェアトレード・デーです。このフェアトレードを考える日に、今日本がTPPに加盟するかどうかと言われるなか、フェアトレードをやってきた私たちも一緒に考えたいとトークをすることになりました。映画のテーマである原発や遺伝子組み換えとTPPは違う問題に見えるし、個別の問題として取り上げられがちだけれど、構造としては似ているのではないかと思います。日常的に食べる食べ物に大きな影響を与えること、そして企業の利益拡大を助長することが共通していて、こうした枠組みをさらに強化していくのがTPPなのではないかと危惧しています。自由貿易や大量生産・大量消費をベースとする私たちの暮らしが、見えないところで他の国の人の生活を脅かしていたり、人権を侵害していたり、環境を破壊している。そうではない貿易の方法として、フェアトレードがあると思います。

TPPにはISD条項(投資家対国家間紛争処理)が盛り込まれていますが、企業にとって不都合な規制がある国を、企業が訴えることができる。その訴訟により規制が緩和され、食べものや医療など、自分たちの生活に直接関わることが脅かされるかもしれない。生きていくことに関しては自分たちで決めていける、ということを守れる世の中にしていきたいと考えています。

webdice_Tous Cobayes135
映画『世界が食べられなくなる日』より

鈴木:フェアトレードに関わる者として、貧しいといわれる国々の生産者の方々の生活や人権、あるいは作り手を取り巻く環境を大事にしながら、僕らも一緒に生きていきたいというところから始めてきました。ぐらするーつの活動を始めて18年くらいになるんですけれど、フェアトレードを通して世の中がどれくらい変わってきたのかというと、実はそんなに変わっていないんじゃないかと思うことがあります。でも、TPPというものがこの先の世の中を変えていくとしたら、生産者の人たちにもいろんな不利益を被らせることになる。そして僕らの住んでいる地域や社会の有り様も変えてしまう。この先世の中はどうなってしまうのかという獏とした不安があって、不安に思うのであれば、ちょっとみんなで考えようよ、という時間や機会を持っていきたいと思います。

鶴見:私からは自由貿易がここ数十年の間に進んできた経緯を説明します。戦後やその前の植民地時代から搾取的な状況は続いていたけれど、80年代くらいから新自由主義という規制緩和をする方向の政策がとられはじめ、世界的に自由貿易が押し進められた。例えば94年にアメリカとカナダとメキシコの3国の間で関税を撤廃するというNAFTA(北米自由貿易協定)が結ばれた。そうすると、メキシコにアメリカから安いトウモロコシがたくさん流れてきて、メキシコのトウモロコシ農家200万人が離農しなければならなくなってしまい、メキシコはその後世界第2位のトウモロコシ〈輸入国〉になってしまった。第1位は日本なんです。トウモロコシはそもそもメキシコが原産なのに、そこで育てることができなくなったなんて、どう考えてもおかしい。私にとって自由貿易というのはこういうイメージなんです。日本で米を作ることができなくなって、カリフォルニアから米を輸入するようなものでしょう。そういうことを考えると自由貿易というのはほんとうにやばい。遺伝子組み換え作物は、安くて大量に作れる農産物の代表なんです。

だから、環境に悪いなどいろいろな理由があるけれど、農家の方々は、自分たちが負けてしまうという切実な気持ちがあって反対していると思う。同時に、工場をアジアや南米に持っていって安く作って輸入したり、第三国に輸出したり、そういうこともやりやすくなってしまって、そうした自由貿易に対して2000年代に世界的な反対運動が起きている状況です。WTO(世界貿易機構)という全体を統括する貿易の話し合いの場が作られていても、その機能が失われているなかで、TPPという部分的な貿易協定に、我々は反対していかなければいけないと思っています。

日本の食べ物の自給率は40%、服の自給率はさらに4%しかない(鶴見)

── NAFTAに関連して、アメリカの国民はどう考えているのでしょうか?

吉澤:世界フェアトレード・デーの今日、米国のワシントン州でもワシントンフェアトレード連盟(Washington Fair Trade Coalition)がTPPに関して反対の声を上げる集会があるということです。その仲間のカナダからも「NAFTAから20年経っているけれど、市場や企業のビジョンのみを地域に押し付け、持続的かつ公正な経済という選択肢が凍結されてしまった。自由貿易の時代を終わらせて、人びとのための貿易の時代を作ろう」というメッセージがありました。こうした声はすごく勇気づけられます。TPPについては他の加盟国でも反対の声が上がっていることはあまり報道されませんが、実はいろんなところでそうした動きが起こっているのです。日本だと、自分の国がTPPに参加するかしないか、それで利益があるのかどうかという見方が多いけれど、加盟している国の普通に生活している人々すべてに対しての影響を、もう少し広い視点で考えていくことが必要ではないかと思います。

webdice_sekaisub1_s
映画『世界が食べられなくなる日』より

── グローバリゼーションがわたしたちの生活にどういった影響があって、これから私たちにどんなことができるでしょうか?

鈴木:渋谷で十何年仕事をしていて、渋谷で感じるグローバリゼーションというのがあるんです。ぐらするーつを作った当初は、やりたいことをやりたいようにやる、そんなお店が多かったんです。それが、古いビルがなくなって、新しいビルが建つなかで、小さなお店がどんどんなくなっていって、どこにでもあるお店が入ってくる。自分で仕込みをやっているお酒を飲めるお店がほとんどなくなってしまって、やりたいことをやっていこうと考えている人にとっては肩身の狭い街になっている感じがします。渋谷に限らず街ごとに顔色って違っていていいはずなのに、どの街でも同じような居酒屋があってスーパーやデパートがある。実はそれがグローバリゼーションのひとつの結末なんじゃないかと思っています。

鶴見:食べ物の自給率は40%くらいしかないというのはよく聞きますけれど、服の自給率についてはご存知ですか。4%しかないんです。でも1990年ごろには50%あった。輸入品の8割は中国から来ていますが、ユニクロのような企業が中国に工場をもっていって、安く作って持ってくる、という植民地主義的なことで私たちの服はできている。中国の労働者は団結権や団体交渉権がないので、非常に劣悪な環境で作らされている。これがグローバル化のメリットとされていますが、こうしたことをもっと言っていかなければいけない。こうした企業が各国に出ていきやすくするために、企業からの圧力を政府が受けて、自由化、規制緩和が行われているのです。

吉澤:25年前から、フィリピン・ネグロス島の小規模農民から直接農薬を使わず栽培されたバナナを買って持ってくることを始めています。1980年代半ばにネグロス島で起こった飢餓に対する救援活動から、ネグロスの人びとの自立した生活を創るための経済的仕組みを作ろうとバナナの交易を継続してきました。これを私たちは民衆交易と呼びますが、始まった当時、日本ではスーパーで売られているバナナを子供に食べさせない人たちもいました。ミンダナオ島にあるバナナプランテーションで栽培され、たくさんの農薬や化学肥料を投入して作られていたからです。ネグロス島から届けられるバナナを食べることは、ネグロスの人をサポートするだけでなく、食べたいバナナを食べられるという、オルタナティブな意味も込めて続いてきました。現在のミンダナオ島でも日本で食べられるバナナがたくさん作られていますが、より糖度が高いバナナがブランド化され売られています。こうしたバナナは、高地を切り崩し木を切り倒して畑が作られ、使われる農薬による地下水汚染の問題で住民との問題が起きたりしています。日本ではそういうことはまったく知らされず、高地バナナのほうが美味しいという認識になってしまう。グローバル化というのは私たちが見えない間にこうした構造に組み込まれていってしまうことであり、知ろうとしない限り知ることができないことが、グローバリゼーションの怖さだと思っています。

手仕事をする生産者がいることに思いを巡らせることで、僕らの生活のありようも変わっていくんじゃないか(鈴木)

── 鶴見さん、環境についてこの作品を通して思ったことを教えてください。

鶴見:日本の農業もものすごい農薬を使っていて、単位面積あたりの農薬使用量は日本が一番なんです。原発をみても、いちばん危険な仕事をする人の汚染度がいちばん高くなる。世界中で、周辺や下層にそうした仕事が押し付けられている。ただ環境を破壊しているだけでなくて、たいてい安くあがってよかった、と言っている陰では人間を搾取したり足蹴にしている構造も隠れているのです。

webdice_main_s
映画『世界が食べられなくなる日』より

── 最後に、世界が食べられなくならないために、市民ひとりひとりがフェアトレードできることについて教えてください。

吉澤:例えば280円の牛丼があって、材料として使われる牛や米がどう作られたのかを知らずに、安いから食べるという現実がある一方で、今の日本ではそういうものしか食べられない人がいるのが現実なのではないかと思います。そのこと自体が良いとか悪いとかではなく、そういう状況にあること自体がグローバル化の結末なのではないでしょうか。フェアトレードは南北の格差を前提にその解決の方法として進められてきましたが、格差は南北だけではなく世界で横断的に生まれてきていると感じています。そういうときにフェアトレードが、相手を尊重しお互いに共存して生きていく方法のひとつであっていいと思っていて、これまで通り世界の人たちと関わり続けると同時に、これからは日本国内の人たちとも繋がっていきたいと思っています。大きな企業が世の中を独占する社会ではなくて、それぞれの地域でがんばって暮らしている人たちと交換・交易をしていく。これがもうひとつのフェアトレードのかたちであっていいのではないかと、その方向を模索していきたいと思っています。

鈴木:僕が被っている帽子はネパール製なのですが、日本にも洋服を糸と布から手で作るという人がいたはずなんですけれど、今は仕事というよりもこうした手仕事の商品はアーティストが作っている。そういうことも不思議だなと思います。でも、そうした手仕事をする生産者がいることに思いを巡らせることで、僕らの生活のありようも変わっていくんじゃないかなと思っています。

鶴見:我々が日常的に使っているものって誰がどこで作っているかよく分からないけれど、フェアトレード品だったら、例えばコーヒーを作った人の顔写真や言葉が載っている。そうしたことって、いま私たちは分からなさすぎるんですよ。食べものや着るものだけじゃなく、紙や木材、金属がどこから来ているのか、全部分からない。セメントが全部国内産だということも普通は分からない。誰がどこで作ったものか分からないものに囲まれて生きているなんて、こんなこと人類史上始めて。だからなんでも捨ててしまったり、粗末にしてしまう。作っている人の側も誰が着るのか分からず作っている。だから繋がりを思い出すことが必要で、みんなが健忘症になっている状態を、フェアトレードから見直していけば、それが起爆剤になると思っています。

(2013年5月11日、渋谷アップリンク・ファクトリーにて 取材・構成:駒井憲嗣)



映画『世界が食べられなくなる日』
6月8日(土)より渋谷アップリンクほかにて公開

監督:ジャン=ポール・ジョー
プロデューサー:ベアトリス・カミュラ・ジョー
ナレーション:フィリップ・トレトン
パーカッション:ドゥドゥ・ニジャエ・ローズ
原題:Tous Cobayes?
2012年/フランス/118分
配給:アップリンク
協力:福島農民連、農民運動全国連合会、大地を守る会、生活クラブ生協、ビオ・マルシェの宅配、食と農から生物多様性を考える市民ネットワーク、パルシステム生活協同組合連合会、ナチュラル・ハーモニー

公式サイト:http://www.uplink.co.jp/sekatabe/
公式twitter:https://twitter.com/uplink_els
公式FACEBOOK:http://www.facebook.com/sekatabe




『世界が食べられなくなる日』公開記念「食べもの映画祭」
6月8日(土)~6月28日(金)
渋谷アップリンク

『モンサントの不自然な食べもの』(2008年/フランス、カナダ、ドイツ/108分)
『パーシー・シュマイザー モンサントとたたかう』(2009年/ドイツ/65分)
『Life running out of Control 暴走する生命』(2004年/ドイツ/60分)
『セヴァンの地球のなおし方』(2010年/フランス/115分)
『未来の食卓』(2008年/フランス/112分)
『ブルー・ゴールド 狙われた水の真実』(2008年/アメリカ/90分)
『フード・インク』(2009年/アメリカ/94分)
『ありあまるごちそう』(2005年/オーストラリア/96分)
『PLANEAT』(2010/イギリス/72分)
『よみがえりのレシピ』(2011年/日本/95分)
『ファン・デグォンのLife is Peace』(2013年/日本/75分)

http://www.uplink.co.jp/movie/2013/12323

▼『世界が食べられなくなる日』予告編



レビュー(0)


コメント(0)