骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2013-05-30 22:55


「スタジオからの多くの要求が刺激となり、ワンランク上の作品に仕上げることができた」

『イノセント・ガーデン』パク・チャヌク監督が語るハリウッド映画のシナリオのヒミツと撮影の裏側
「スタジオからの多くの要求が刺激となり、ワンランク上の作品に仕上げることができた」
『イノセント・ガーデン』のパク・チャヌク監督

『オールド・ボーイ』のパク・チャヌク監督が、ミア・ワシコウスカやニコール・キッドマンらを迎えハリウッドで完成させた『イノセント・ガーデン』は、広大な庭と自然に囲まれた屋敷を舞台に、事故で父を亡くした少女と母親、そして突然姿を現した叔父の3人を巡り起こる奇妙な事件の連続をサスペンスフルに描いている。日本公開にあたり来日した監督に、自身が惚れ込んだという脚本について、そしてハリウッドと韓国映画界の制作現場での違いについて聞いた。

ト書きの少ない脚本が想像力を呼び覚ませてくれた

── まず、今回監督をするに至った経緯を教えてください。誰から連絡があったですか。あなたは、ハリウッドにエージェントはいるのですか?

実はエージェントもいますし、マネージャーもいるのです。今回はそもそも、マネージャーがこの脚本を手に入れて、読んで、アメリカのプロデューサーは誰なのかを調べて、「これをやってはどうでしょう」と提案したんです。プロデューサー(スコット・フリー・プロダクション社長のマイケル・コスティガン)は「もちろん彼がやってくれたら嬉しいけど、パク監督は自分の脚本じゃないと撮らない人なんじゃないですか」と言うんです。でもマネージャーが「そんなことはないです、いい作品があれば探してますよ」と答えると「そう ですか、では」ということで話がまとまりました。

この作品はスコット・フリー・プロダクションと製作の話がまとまっていたので、スコット・フリー・プロダクションだけでなくスタジオ(フォックス・サーチライト)側にも話を繋げて同意してくれないといけない。でも実は、以前『渇き』でカンヌ国際映画祭に行ったときに、そのスタジオの方と会ったことがあったんです。その時点では「いい作品があったら一緒にやりましょう」という話をしていたんです。そうした経緯もあって、今回マイケルが私の名前を挙げてくれたところ、スタジオも歓迎してくれました。

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『イノセント・ガーデン』より (c)2012 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

── 監督はそのマネージャーの審美眼を信頼しているのですね。

もちろんそれもありますし、私も目を通して素晴らしい作品だと確信しました。

── 今回は、俳優ウェントワース・ミラー(『プリズン・ブレイク』)が変名で書いた脚本を気に入って映画化したとのことですが、ハリウッド流の脚本と韓国映画の脚本を比べて、どのような違いがありますか。

書き方や中身はほとんど同じなんですけれど、使っているソフトが違うんです。ソフトの名前を忘れてしまったのですが、アメリカでは、シナリオを書くためのソフトがあるんです。みんなそれを使っているので、見た目はどの脚本も同じなんです。制作の組み立てもしやすくて、それを使うと、1ページが1分の計算になるので、100ページだと100分の映画だと予測することができる。昼間のシーン、夜のシーンと時間帯ごとのリストや場面ごとの一覧も出すことができるんです。日本にはそうしたソフトはないんでしょうか?韓国にもないんです。

── ヤン・イクチュン監督が以前、韓国映画の脚本は分厚いと語ってくれましたが?

日本の脚本は読んだことがないのですが、アメリカの脚本は相対的に、韓国の脚本よりもト書きが詳しいんです。もちろん作家によってはそうでない方もいますし、今回の脚本はそれほどまでにト書き詳しくなかったんです。むしろそれが想像力を呼び覚ませてくれて、私はとてもいい印象を受けたのです。

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『イノセント・ガーデン』より (c)2012 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

蜘蛛のシーンを巡るスタジオとの論争

── ハリウッドに進出した監督には、制約が多すぎて二度とハリウッドでは撮影しないという監督と、そうでない監督がいますが、今回はプロデューサーからの注文は多くありましたか?

今回はプロデューサーよりも、スタジオからの要求がありました。それは私に限らず、新人監督でも巨匠でも、外国の監督でもアメリカの監督でも問わず、常にスタジオ側は監督に様々な要望をしてきます。私はその経験が初めてだったので、非常に戸惑いました。しかしフォックス・サーチライトは今まで素晴らしい作品を撮ってきたという誇りがありますし、実際に仕事をされているのも見る目がある方たちなので、まったく理にかなっていない要求ではないのです。ですから私も多くの討論を重ねることで良い面を生み出すことができたと思います。最初は、やりとりをするのが大変でした。ところが、だんだんスタジオからの注文が映画の助けになることが分かり、逆にこちらもその要求を利用して良い映画を作ることができるのだ、という気持ちに変わりました。今にして思えば、スタジオから「勝手に撮ってください」と言われれば、今よりも良い結果は出せなかったと思います。たくさんの意見を言ってくれたことは、常に私を刺激してくれました。「新しいものは他にないのか」「もっといいアイディアはないか」と考えるようになり、最初の自分の思いよりも、さらに上のレベルのクオリティの作品に仕上げることができました。

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『イノセント・ガーデン』より (c)2012 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

── そのスタジオからの要求で、いちばん刺激的だったことはなんですか?

蜘蛛を例に挙げましょう。最初の脚本では、冒頭で蜘蛛がピアノの上にいて、インディア(ミア・ワシコウスカ)の足元に降りてきて、彼女がそれを踏み潰す、という場面があったのですが、私は「そのシーンは外したい」と伝えました。あたかも予想できそうなシーンですし、最初から彼女が強いキャラクターであるということをスタートの時点で見せていいものだろうか、と思ったのです。しかしスタジオは「このシーンは良いものになるから入れたい」という意見で、しばらくの間論争が続きました。そこで私は、その中間の策として、蜘蛛は登場するけれど、踏み殺すのではなく、彼女のスカートの中に入り込む、そして冒頭からではなく、もう少し後に入れる、という新しい案を提案しました。そうするとスタジオも気に入ってくれました。さらにそのシーンを加えたことで、新たに、映画の後半で蜘蛛を再び登場させるシーンが思いついたのです。ですので、蜘蛛のシーンをなくさないでよかったと思いました。スタジオが「ダメだ」と言ったことに私が素直に聞いていたら、その後半のシーンは撮れなかったでしょう。

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『イノセント・ガーデン』より (c)2012 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

── 撮影監督のチョン・ジョンフンとあなたが韓国人で、他はアメリカのスタッフだったのでしょうか?

VFXのスタッフは韓国人でしたね。

── アメリカのスタッフから学んだことはなんでしょうか?

やっている仕事はアメリカでも韓国でも似ていますので、特にそうしたことはなかったですが、アメリカに新しい家族を作って帰ってきた気分です。それくらい親しくなることができました。今回の作業については全員が満足しています。そのなかで一つ発見があったのは、テンプ・ミュージック・エディターという仕事があるということです。映画音楽をお願いした作曲家が本編に使う楽曲を書き終える前の段階で、編集作業は進めなければならない。そのときにテンプ・ミュージック・エディターは、既存の過去の映画音楽から探してきて、そのシーンにふさわしい曲を用意してくれるのです。それが驚くほどぴったりはまっているんですよ。もちろん監督と相談した上でですが、こちらとしても音楽があることでいろんなことが想像でき、映画のリズムを把握することができて、すごく良かった。アメリカではプレビューというものがあり、映画が完全に完成する前に少数の人に観せて意見を聴くことをするのですが、そのときにも音楽があることが役に立ちましたね。

(インタビュー・文:駒井憲嗣)



パク・チャヌク プロフィール

1963年、韓国、ソウル生まれ。映画監督、脚本家、プロデューサー。現代の映画界に欠かせない逸材の一人として高く評価されている。 ソガン大学哲学科在学中に映画クラブを設立、映画評論に取り組む。2000年、『JSA』で当時の韓国歴代最高の興行成績を記録する。 2003年には、『オールド・ボーイ』でカンヌ国際映画祭審査員特別グランプリを受賞、世界にその名を知られる。 続く『親切なクムジャさん』(05)では、ヴェネツィア映画祭のコンペ部門で受賞、ヨーロッパ映画賞にノミネートされる。 2009年、『渇き』でカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞する。 2011年、全編をアップルのアイフォンで撮影した短編『Night Fishing』(原題:Paranmanjang)で、ベルリン国際映画祭金熊賞(短編部門)を受賞する。 その他の監督作は、『復讐者に憐れみを』(02)、オムニバス映画『もし、あなたなら ~6つの視線』(03)の『N.E.P.A.L. 平和と愛は終わらない』、オムニバス映画『美しい夜、残酷な朝』(04)の『cut』、『サイボーグでも大丈夫』(06)など。




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『イノセント・ガーデン』より (c)2012 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

映画『イノセント・ガーデン』
2013年5月31日(金)TOHO シネマズ シャンテ、シネマカリテ他 全国ロードショー

外部と遮断された大きな屋敷で暮らし、繊細で研ぎ澄まされた感覚を持つインディア・ストーカー(ミア・ワシコウスカ)は、誕生日に唯一の理解者だった大好きな父を交通事故で亡くしてしまう。母親(ニコール・キッドマン)と参列した父の葬儀に、長年行方不明になっていた叔父のチャーリー(マシュー・グード)が突然姿を現し、一緒に暮らすことになるが、彼が来てからインディアの周りで次々と奇妙な事件が起こり始める……。

監督:パク・チャヌク
脚本:ウェントワース・ミラー
製作:リドリー・スコット/トニー・スコット/マイケル・コスティガン
出演:ミア・ワシコウスカ/ニコール・キッドマン/マシュー・グード
2012年/アメリカ映画/99分/PG12
配給:20世紀フォックス映画

公式サイト:innocent-garden.jp
公式facebook:"https://www.facebook.com/innocentgarden.jp
公式twitter:https://twitter.com/Innocent_Garden




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