遺伝子組み換え食品と原発
文:天笠啓祐(ジャーナリスト)
この間、遺伝子組み換え(GM)食品を用いた動物実験で、安全性に疑問が出されるケースが増えている。この映画で紹介されている、フランス・カーン大学分子生物学及び内分泌学者セラリーニなどの研究チームが行った動物実験も、その一つである。
しかし、従来の実験と異なり、画期的な点が多い。まず、実験を始める前から結果が出るまで、映画でその過程を公開しており、このようなケースは初めてである。また客観的評価に耐えうるように、独立した資金で行われた点も画期的である。しかも、実験の方法が緻密である。
実験には、モンサント社の除草剤耐性トウモロコシ「NK603」と、それに用いる除草剤ラウンドアップが用いられた。ラットは200匹(雄・雌100匹ずつ)で、通常実験に用いる数十匹程度に比べて多い。しかも通常の実験期間が90日であるのに対して、2年間というラットの寿命の長さで、長期の影響を見た点でも画期的である。また、こまめに観察が行われ、検査項目も多い。
ラットは細かく分けられ、それぞれ雄・雌10匹ずつが用いられた。ラウンドアップをかけていないGMトウモロコシを与えた集団、ラウンドアップをかけたGMトウモロコシを与えた集団、ラウンドアップを含んだ水を与えた集団で、それらが投与群である。それぞれ飼料でのGMトウモロコシの割合や農薬の割合が変えられている。そして通常の動物実験同様、対照群としてラウンドアップもGMトウモロコシも含まない飼料を与えた集団と比較された。
この実験の結果を簡略に述べると、投与群は、対照群に比べて、それぞれ少しずつ違いはあるものの、低い暴露でも影響があることが分かった。量依存による変化が見られなかったが、対照群との間には寿命の長さやがんの発生で大きな違いがあった。
また雌と雄では寿命でも、腫瘍などでも健康被害の出方が異なっていた。とくに雌での影響が顕著で、投与群の早期死亡率が高く、大きな腫瘍の発生率も高く、その大半が乳がんだった。雌では他に、脳下垂体の異常が多かった。雄では肝機能障害と腎臓の肥大、皮膚がん、消化器系への影響がみられた。生化学的データでも、腎臓の異常を示す物質の増加がみられた。
その原因として、GMトウモロコシに関しては、除草剤に耐性をもたらすために生じる酵素が、がんなどへの抵抗力を弱めているのではないか、ラウンドアップに関しては、内分泌系に悪影響をもたらしたのではないか、そのため低いレベルでも影響が出たのではないか、と研究者は指摘している。
この映画のもう一つの特徴は、福島第一原発事故を取材し、核と遺伝子の共通性を示している点にある。事実、両者には共通点が多い。極小のところに本質があり、一方は物質の本質ともいえる原子核を分裂させ、他方は生命の本質ともいえるDNAを操作している。
また、放射能汚染にしても、遺伝子汚染にしても目に見えず、感じることもできない。多くの人が気づかないうちに、手遅れになる大きな被害を引き起こす危険性を持っていることも共通している。
両者とも、国が推進する大型プロジェクトとして、多額の予算がつく国家戦略として、開発が進められてきた。それとともに、原子力村、バイオ村ともいうべき、利益共同体が形成されてきた。少しでも問題点を指摘する科学者がいると、その共同体が一致して攻撃を始めるところも共通である。
もともと分子生物学は、原爆開発を進めてきた物理学者が、大量に参入して形成された分野である。それは原爆開発が一段落して、目標を見失った物理学者が、生命に興味を持ち、物理学の世界で生命を紐解こうとして成立した学問である。20世紀を核の世紀とするならば、21世紀は遺伝子の世紀になる可能性がある。作物以外にも、iPS細胞やゲノム解析、遺伝子医療などが無限の可能性と危険性を併せ持って開発が進められてきた。しかし、この実験で、遺伝子を操作することは原発同様、大変にリスクが大きいことが示されたといえる。このような技術に依存している限り、放射能汚染と同様に、世界から食糧が奪われてしまう、といっても過言ではないようだ。
映画『世界が食べられなくなる日』より
映画『世界が食べられなくなる日』
6月8日(土)より渋谷アップリンクほかにて公開
監督:ジャン=ポール・ジョー
製作:ベアトリス・カミュラ・ジョー
ナレーション:フィリップ・トレトン
パーカッション:ドゥドゥ・ニジャエ・ローズ
原題:Tous Cobayes?
2012年/フランス/118分
配給:アップリンク
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