骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2013-05-23 18:33


ブランドン・クローネンバーグ監督「セレブを崇拝する今の風潮を写し出したアンチテーゼ」

近未来ではなく現代を描いたという初長編作『アンチヴァイラル』について語る
ブランドン・クローネンバーグ監督「セレブを崇拝する今の風潮を写し出したアンチテーゼ」
『アンチヴァイラル』のブランドン・クローネンバーグ監督 ptoho:AI IWANE

ブランドン・クローネンバーグ監督の初長編監督作『アンチヴァイラル』が5月25日(土)より公開される。セレブリティのウィルスが闇で売買されるという世界を舞台にした今作。『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』で注目を浴び、グザヴィエ・ドラン監督(『わたしはロランス』)の新作『Tom à la ferme』(原題)にも出演するケイレブ・ランドリー・ジョーンズを主演に、彼の父であるデイヴィッド・クローネンバーグ監督の『コズモポリス』『危険なメソッド』に出演する女優サラ・ガドン、そして名優マルコム・マクダウェルも加わり、この異様な世界観を作り上げている。

ジャンル映画としてスタートしたわけじゃないが、
創っていく間に強烈なSFホラーの要素を帯びた映画に発展していった

── この映画は、とてもユニークなアイデアを持っていると思います。ウィルスをテーマに取っているところがそもそもおもしろいのですが、そこにセレブリティに夢中になる現象や、違法コピーという今日の社会情勢まで盛り込んでいますね。どうやってこの構想を考えついたのでしょうか?

このストーリーを思いついたのは2004年、24歳のことだ。ライアソン大学映画学科に通い始めたばかりの頃、インフルエンザにかかってね。その時、熱に浮かされて夢を見た。他人から何か菌のようなものをうつされて、それが体中を冒していくという夢だ。そして、自分の体が誰か別人の体になってしまうのではないかという奇妙な想像を描き始めたんだよ。いったい何が僕の身体に感染しているのか? 僕の細胞は誰かほかの人からもらったものなのか?そしてその相手に対し、一種の親近感を覚えてるんだ。そこから 熱狂的ファンがセレブと病気を共有し一体感を得たがるという構想が膨らんだ。とくに、セレブリティにみんなが執着する今の世の中では、興味をもちそうなアイデアではないかと思い始めたのさ。

僕は、熱心なファンがどうして魅力を感じる対象物に対してつながりを持つのか、その理由を理解し始めた。例えばアンジェリーナ・ジョリーに風邪をうつされて喜ぶといった感じさ。そしてそのつながりの親密性は、セレブリティへの執着心を掘り下げるうえで、いい基本骨格になりそうだと思った。そういったアイデアが僕の大学1年目のプロジェクトだった脚本執筆のベースになり、まずはその脚本のワン・シーンから短編映画『Broken Tulips』(2008年)を作ったんだ。これは決して大げさな話じゃない。セレブを崇拝する今の風潮を写し出した一種のアンチテーゼなんだ。そして、今の社会にすでにあるほかの現象も、誇張し、皮肉りつつ入れたんだ。

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映画『アンチヴァイラル』より (C) 2012 Rhombus Media(Antiviral)Inc.

── この映画独自のSFの世界観を作る上で、何か参考にしたものはありますか?

いや、とくにないな。この映画に強烈に影響を与えた過去の映画を特定することはできない。この映画は日常的な制限と、すばらしい驚きから生まれたんだ。もちろん無意識のうちに影響を受けたものはあるだろうけど。たぶん、知らないうちに多くの人の影響を受けているだろうな。でも、僕がやりたかったのは、現代社会の誇張したバージョンだったんだ。現代のトロントを少し誇張して描く作品になるはずだった。僕らが生きるのとは違うバージョンの。一応トロントの風景は出てくる。でもトロントだということを強調しないようにはした。特定の都市だということにはしたくなかった。

30以上の草稿を繰り返して最終的な脚本にしたから、作品は大きく進化している。アイデアは全部そのままだが、昔の探偵物語のようなプロットを見つけるのに時間がかかった。ミステリー性が観客を引き込んでくれる。観客は主人公と一緒に情報を発見していくんだ。この企画はジャンル映画としてスタートしたわけじゃない。でも創っていく間に、強烈なSFホラーの要素を帯びた映画に発展していったんだ。

血の色が飛び出して見えるように、
真っ白なセットデザインにした

── キャスティングについて、主演にケイレブを選ぶまでに、どれくらいの時間がかかったのでしょうか?それからサラは『コズモポリス』にも出ていますよね。あなたはサラを『コズモポリス』で気に入ったからキャストしたのですか?

ケイレブに会う前に、何人かには会った。ほかの俳優ともちょっと時間は過ごしたけれど、彼に会った時に、彼しかいないと思った。サラと会ったことはなかった。『危険なメソッド』で見てはいたけれどね。本作では すばらしい存在感を放ってくれたし、いろいろ話し合う機会もあった。彼女の根性には脱帽さ。

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映画『アンチヴァイラル』より (C) 2012 Rhombus Media(Antiviral)Inc.

── 撮影現場の様子は?

撮影の間は完全にパニック状態だった。長編映画を作るのは短編よりも強烈な経験だけど、僕の家族の多くがこの業界にいるから映画製作の構造には慣れている。ひょっとすると人々から、父親に仕事をもらってカメラの後ろにいるような奇異な目で見られるかもしれないと思った。でも僕の映画作りに反対する人はいないだろう。僕は引っ込み思案だから、60人もの人たちと1日12時間も仕事をするようなポジションにいるのは、自分の機能体系にとって大きな衝撃だったんだ。

撮影現場では、意図的にケイレブとサラをあわせないようにした。彼らはどちらも、別々に僕に同じことを言ってきた。相手に会わないほうがいいんじゃないかと思う、お互いのことを知らないほうが映画の中でふたりの関係を描く上でプラスになるんじゃないか、とね。それならそうしようと僕は思った。

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映画『アンチヴァイラル』より (C) 2012 Rhombus Media(Antiviral)Inc.

── ビジュアル面でも、とてもインパクトがあります。基本的にはシンプルで白っぽいバックグランド。そこに強烈な血が現れたりします。ビジュアルはどんなふうにデザインしたのでしょうか?

血の色、ビデオクリップ、写真の色が飛び出して見えるように、真っ白なセットデザインにしたかった。たとえば、クリニックの壁がシンプルな白だと、壁にある写真がより引き立つ。観客の目をそこに惹きつけさせることができる。血が出てきた場合もそうだ。後ろが白だと強くて際立つよね。それに、セレブリティとその他のコントラストもつけたかった。メディアが彼らをアイドルとして祭り上げているわけだけが、一般人のほうはやや汚いムードにして、対比したつもりだ。それに混沌とした中にも、バランスと構造的な調和のあるフレームがほしかったんだ。

僕たちは何をし、何をしないかというかなり厳格な数多くのルールから出発したが、結局そのルールを破っていった。“クローズアップは避けよう”と自分に言い聞かせたが、ケイレブの表情が面白すぎて避けきれなかった。また絶対に黄色い照明を使わないつもりだったが、ホテルの部屋にシドがハンナ・ガイストの血液サンプルを採取しに行くシーンでは、部屋の黄色い明かりを変更できなかったので、そのまま撮影した。

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映画『アンチヴァイラル』より (C) 2012 Rhombus Media(Antiviral)Inc.

24歳になるまで、フィルムメーカーになんて
絶対になりたくなかった

── あなたはアーティスト一家の出身で、クリエーターの家系ですね。具体的には どんな環境でどんな風に育ちましたか?それから、ご家族が映画に携わっている関係で現場を訪れる機会などはありましたか?カメラに触ったりは?

僕の育った環境はとても普通だったよ。平凡な子供時代だった。常識から外れた育ち方はしてないよ。うちは比較的良識のある家庭なんだ。確かに芸術家がそろってはいるけど、それ以外に取り立てて変わったところはないよ。子供の頃に現場を訪れたのは、ほんの数えるほどだが、父の作品の特殊効果チームに入ってた時期は別だね。監督になろうと決めてからは頻繁に顔を出したよ。実際の撮影を見られてすごくいい勉強になった。さまざまなプロセスを観察することができるし、現場の空気を肌で感じられる。

24歳になるまで、フィルムメーカーになんて絶対になりたくなかったんだ。本当になりたかったのは、レースカーのドライバーだ。あと、科学者にもなりたかった。科学には興味がある。父が映画を作るから、みんな僕も映画監督になるんだろうと思っていて、それが嫌だったんだ。だけど、24歳の時に、それが理由でやらないというのは、ばかげていると思ったのさ。

それまでは多種多様な“創作活動”にいそしんでたね。ビジュアル・アートもやってたし、小説家やミュージシャンを目指したこともあったよ。でも、やりたいことを絞らなければ何も達成できないと気づいた。何か1つに集中しようと思ったんだ。映画には美術や音楽など、僕の興味の対象が全て詰まってる気がした。だけど間違いだった。映画はもっと特殊なものさ。知れば知るほど、より面白くなっていった。

── 父親からアドバイスを求めることはありますか?

時々はね。でも、撮影中はないな。彼も忙しかったし。撮影の前にちょっと話したと思うけど、たいしたことではなかった。

── 父親が世界から尊敬を集める映画監督だということで、プレッシャーは感じますか?

いや、なかったんだけど、みんなが「プレッシャーがあるのでは」と聞いてくるから、今じゃプレッシャーを感じるようになったよ(笑)。でも映画作りには、いつだってプレッシャーがつきものだと思う。多くの人が関わるわけだし、お金も関係するし、良いものを作りたいという願望もあるからね。

(オフィシャル・インタビューより)



ブランドン・クローネンバーグ プロフィール

1980年生まれ。カナダを代表する鬼才デイヴィッド・クローネンバーグを父親に持ち、トロントのライアソン大学で映画を学ぶ。2本の短編映画『Broken Tulips』(08)、『The Camera and Christopher Merk』(10)を製作。『Broken Tulips』は2008年のトロント国際映画祭学生映画部門でプレミア上映され、エア・カナダのエンルート学生映画祭、翌年のトロント国際映画祭スプロケッツ祭で上映された。『The Camera and Christopher Merk』は2010年のトロント国際映画祭でプレミア上映され、同年のシネフェスト・サドベリー映画祭、ニューハンプシャー映画祭でも上映された。『Broken Tulips』では、エンルート学生映画祭の最優秀監督賞に輝き、HSBCフィルムメーカー賞最優秀脚本賞も受賞した。本作が長編デビュー作である。




映画『アンチヴァイラル』
5月25日(土)シネマライズほか全国ロードショー

監督:ブランドン・クローネンバーグ
出演:ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、サラ・ガドン、マルコム・マグダウェル
2012年/カナダ・アメリカ/108分/カラー/ドルビー・デジタル/原題:Antiviral
提供:カルチュア・パブリッシャーズ
配給:カルチュア・パブリッシャーズ、東京テアトル
(c) 2012 Rhombus Media(Antiviral)Inc.

公式サイト:http://antiviral.jp
公式twitter:https://twitter.com/antiviral_movie
公式facebook:http://www.facebook.com/antiviral.movie.jp

▼『アンチヴァイラル』予告編


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