骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2013-06-24 20:07


プログラムという檻から抜け出す「自由」を人が求め始めたとき、いったい何が起こるのか

仮想空間を散策しているように世界を描く土屋豊監督『タリウム少女の毒殺日記』クロスレビュー
プログラムという檻から抜け出す「自由」を人が求め始めたとき、いったい何が起こるのか
映画『タリウム少女の毒殺日記』より

今作で土屋豊監督は、様々なシステムに縛られている現代社会のわたしたちが、それをどう突破できるか、テクノロジーと人間の関係がどうなっていくかを、フィクションとドキュメンタリーの境をあいまいにしながら描いている。人間がコントロールしきれないものを、決して自然回帰ではなく、テクノロジーを拒否することなくコントロールするにはどうしたらいいか、そうした哲学的な命題をこの少女の生活を通して映しだしている。より複雑さを増していくそのシステムに対しての抵抗手段として、主人公の少女はGFP BUNNY(遺伝子を組み換えられた緑色に光るウサギのことであり、今作の当初の原題でもある)と同じように、自らを光らせようとする。

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映画『タリウム少女の毒殺日記』より

土屋監督は、誰もが携帯カメラを持ち観察し観察される側になり得る現代での映画の在り方を示す。物語性を抑え、身体改造アーティストや日本ラエリアンムーブメントの代表の証言から、Youtube、Google Earth、アバターなどウェブ上の事象までを横断しながら、タリウム少女が人間の進化をも振り切っていこうとするように疾走するラストシーンにたどり着く。ある種の清々しさとともに、それまではすべてを客観的にしか観察しようとしなかった彼女の、自由を求める新たな企みに加担しているような感覚を覚える。どうしても物語への愛着から抜け出せない人にこそ観てほしい作品だ。

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映画『タリウム少女の毒殺日記』より



映画『タリウム少女の毒殺日記』
7月6日(土)より、渋谷アップリンクにて“観察”開始!

科学に異常な関心を示す≪タリウム少女≫は、蟻やハムスター、金魚など、様々な生物を観察・解剖し、その様子を動画日記としてYouTubeにアップすることが好きな高校生。彼女は動物だけでなく、アンチエイジングに明け暮れる母親までも実験対象とし、その母親に毒薬タリウムを少しずつ投与していく…。さらに彼女は、高校で壮絶なイジメにあう自分自身をも、一つの観察対象として冷徹なまなざしで観察していた。
「観察するぞ、観察するぞ…」
≪タリウム少女≫は、自らを取り囲む世界を飛び越えるために、新しい実験を始める。

監督・脚本・編集:土屋 豊(『新しい神様』、『PEEP "TV" SHOW』)
出演:倉持由香、渡辺真起子、古舘寛治、Takahashi
撮影:飯塚 諒
制作:太田信吾、岩淵弘樹
チーフ助監督: 江田剛士
エンディング曲・挿入歌:AA=
日本/2012年/カラー/HD/82分
配給:アップリンク/宣伝:Prima Stella/デザイン:TWELVE NINE

公式サイト:http://www.uplink.co.jp/thallium
公式FACEBOOK:http://www.facebook.com/GFPBUNNY
公式twitter:https://twitter.com/GFPBUNNY




イベント情報

webDICE presents 『タリウム少女の毒殺日記』公開記念トーク
「10年代の幸福論」

カルチャーサイトwebDICEと映画 『タリウム少女の毒殺日記』(7月6日公開)とのコラボレーション企画。注目の論客たちと土屋豊監督が「10年代の幸福論」について語る先行上映イベントを2夜にわたり開催。

企業や組織に属さない自由や、自らが属するコミュニティの中に価値を求めていく在り方など、「幸せ」の在り方が多様化し、変化を遂げている現代。土屋豊監督は新作『タリウム少女の毒殺日記』で、管理社会の窮屈さを自らのケータイのカメラで軽々と飛び越えていく女子高生の視点から、「システムと人間」「プログラムと生命」について新たな考察を加える。本作を題材に、注目の論客たちが2010年代における「幸福」とは何かを語る。
女子校生の日常そして女子カルチャーに精通した朝井氏が、今作で描かれるタリウム少女の生活と彼女が感じる「幸福」をどのように観たのか。そして『不可能性の時代』で「現実への逃避」を論じた大澤氏が、タリウム少女の世界への眼差しと現代の若者が感じる希望をどう斬るのか。会場の観客を交えた刺激的なトークが期待される。

【PART1】2013年6月29日(土)
19:00開演『タリウム少女の毒殺日記』上映スタート/20:30トークスタート/22:00イベント終了予定
会場:渋谷アップリンク・ファクトリー
料金:予約・当日1,800円
出演:朝井麻由美(ライター・編集者)、土屋豊(『タリウム少女の毒殺日記』監督)
ご予約はこちら http://www.uplink.co.jp/event/2013/13282

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朝井麻由美 プロフィール
1986年東京生まれ、東京育ち。東京都立西高等学校、国際基督教大学教養学部教育学科卒業。 SPA!、DIME、サイゾーなどで執筆。体当たり取材を得意とし、トレンドからサブカルチャー/女子カルチャー、グルメや雑貨まで幅広いジャンルを手がける。 近著[構成担当]に『女子校ルール』(中経出版)。
https://twitter.com/moyomoyomoyo


【PART2】2013年7月4日(木)
19:00開演『タリウム少女の毒殺日記』上映スタート/20:30トークスタート/22:00イベント終了予定
会場:渋谷アップリンク・ファクトリー
料金:予約・当日1,800円
出演:大澤真幸(社会学者)、土屋豊( 『タリウム少女の毒殺日記』監督)
ご予約はこちら http://www.uplink.co.jp/event/2013/13287

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大澤真幸 プロフィール
1958年長野県松本市生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。社会学博士。千葉大学文学部助教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授を歴任。近著に『〈世界史〉の哲学』古代篇・中世篇(講談社)、『生権力の思想』 (筑摩書房)、『夢よりも深い覚醒へ』(岩波書店)。
http://www.sayusha.com/MasachiOsawaOfficial/

▼『タリウム少女の毒殺日記』予告編



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