骰子の眼

cinema

2013-05-11 00:13


『パワーズ・オブ・テン』ほかイームズ監督作品上映!

『ふたりのイームズ』5/11(土)公開、知られざる映画作家としてのイームズについて、ミルクマン斉藤氏が解説。
『パワーズ・オブ・テン』ほかイームズ監督作品上映!
映画『ふたりのイームズ』より。ARRIFLEXの映画用カメラを持つチャールズ・イームズ。©2011 Eames Office, LLC.(eamesoffice.com).

ミッドセンチュリー・モダンの旗手、イームズ夫妻の軌跡を辿るドキュメンタリー映画『ふたりのイームズ:建築家チャールズと画家レイ』が、5月11日(土)から公開となる。家具デザイナーとして有名なイームズが、映像クリエイターでもあったことはあまり知られていない。映像作家としてのイームズを、映画評論家ミルクマン斉藤氏が解説する。
また、公開を記念して代表作『パワーズ・オブ・テン』ほかイームズ夫妻の手掛けた映像作の上映も行われる。




全作品に通底する、明快な構成力、硬質にして繊細な色彩とデザイン、リズミカルな編集センス ───ミルクマン斉藤

ほんの十数年前まで、チャールズ&レイ・イームズが「映画作家」であるとは、ほとんど認識されていなかった。代表作『パワーズ・オブ・テン』以外、上映される機会が少なかったし、彼らの創作活動全般の中に占める映像の位置が判然としなかったせいもある。だが実際は、余技の範疇を遥かに超えていたのだ。その数、約120本。さらに未完成の断片が100本あまり残されているという。 いまデザイナーが映像を作るとなると、いわゆる「モーション・グラフィックス」的アプローチになりがちだろうが、イームズのそれはまさに「映画作品」というに相応しいもの。もっとも物語的なものではなく、動くデザイン・アートと呼ぶべきものではあるが。
残念ながらいまだに、とりわけ日本では「映画作家」としてのイームズに馴染みが薄いと思われる。そこで、例えばどんな作品があるのか傾向ごとに紹介してみるのも無駄ではないだろう(邦題を記した作品は2008年発売の『チャールズ&レイ・イームズ 映像作品集 DVD-BOX』[※発売元:IMAGICA TV/販売元:ジェネオン エンタテインメント]に準ずる)。


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映画『ふたりのイームズ』より。『おもちゃの汽車のトッカータ』(1957年)を撮影中のレイ・イームズ。©2013 Eames Office, LLC.(eamesoffice.com)

Ⅰ.「科学啓蒙映画」
公園で寝そべる男を出発点に、ミクロ/マクロの奇妙な相似と、アートマン/ブラフマンの一元性を暗示する哲学を、たった8分あまりで図示してみせる至高作『パワーズ・オブ・テン』(77年、原型作品は68年に完成)。数学や天文学の概念をアニメーションを用いて判りやすく解説した『IBMマスマティックス・ピープ・ショウ』(61年)、『ケプラーの法則』(74年)。ローマ帝国の興亡をヨーロッパ勢力地図の変遷でのみ図示した『版図』(76年)……など。

Ⅱ.「CF的映画」
『イームズ・ラウンジ・チェア』(56年)、『カレイドスコープ・ジャズ・チェア』(60年)、『ファイバーグラス・チェア』(70年)、『コンピュータ用語集』(68年)、『ポラロイド SX-70』(72年)……など。ただの商品宣伝ではなく、イームズ特有のグラフィカルでフェティッシュな視線が炸裂。Ⅰと同じく、理系映像好きは悶絶必至。


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『パワーズ・オブ・テン』(1977年)より。 ©2013 Eames Office, LLC.(eamesoffice.com)

Ⅲ.「プレゼンテイション映画」
新空港での乗客搬送プランをクールなアニメーションで図示した『空港の拡張』(58年)、ワシントンD.C.に建設予定だった大規模施設の紹介にとどまらず水の生態系が魅力的に語られる『国立漁業センター&水族館』(67年)……など。建築家や公的機関から依頼されたプレゼン用フィルムだが、総じてお洒落でグラフィック性高く、しかも知的好奇心に満ちている。こんなの持ち込まれたらクライアントはイチコロでしょう。

Ⅳ.「イヴェント用映像(あるいは記録の再構成)」
NYワールド・フェアでのIBM館の記録をコマ落とし多用で再構成した『IBM館』(65年)、建国200年記念「フランクリンとジェファーソンの世界」展の総括映画で、膨大な博物学的史料を駆使して建国の父ふたりの年表を横スクロール・アニメでどーっと見せるシーンが圧巻の『The World of Franklin & Jefferson』(76年)。あるいはイームズ・ハウスの記録写真をまとめた『ハウス:ケース・スタディ・ハウス#8:5年後の記憶』(55年)展など。


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『ポラロイド SX-70』(1972年)より。 ©2013 Eames Office, LLC.(eamesoffice.com)

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『カレイドスコープ・ジャズ・チェア』(1960年)より。©2013 Eames Office, LLC.(eamesoffice.com)

Ⅴ.「純粋映画」
夫妻のコレクションである玩具を用いて、色彩とフォルムと動きの面白さを捉えた『パレード』(52年)、『おもちゃの汽車のトッカータ』(57年)、『コマ』(69年)等のいわゆる「トイ・フィルム」。 アスファルトの校庭を洗浄する水と泡の流れを追った『ブラックトップ』(52年)、トランジスタのような多面体浮遊生物の接写とバッハが神秘的に結合する『小さな水クラゲ(ポリオーキス・ハプルス)』(70年)……など。

ただし、この区分は多分に便宜的なもので、それぞれ複数の要素を併せ持つものが少なくない。数多くの作品で協働するグレン・フレックによるイラスト&アニメーション、そしてエルマー・バーンスタインの音楽も素晴らしい。何より全作品に通底するのは、明快な構成力、硬質にして繊細な色彩とデザイン、リズミカルな編集センス。見事なまでに完成された独自性は、その時代の実験的映像作家を眺めてみても突出していて映像至上主義者にとってはまさに至福のフィルム群だ。


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『パレード』(1952年)より。©2013 Eames Office, LLC.(eamesoffice.com)

最後にイームズが関わった超有名作品を。夫妻は熱心な20世紀美術コレクターでもあった巨匠、ビリー・ワイルダーの親友だったけれど (このドキュメンタリー『ふたりのイームズ』中にも一瞬登場)、彼がリンドバーグの大西洋単独横断飛行を扱った異色作『翼よ! あれが巴里の灯だ』(57年)にはチャールズが“Montage by”としてクレジットされている。タイトル・デザイン界の開拓者ソウル・バスにも同様にクレジットされた作品があるが、これは監督が特殊な映像コンポジションを求め、いわばヴィジュアル・コンサルタントとして起用したことを意味しているだろう。例えば、機体を設計・製作するシークエンス、機が大西洋横断に飛び立つ際のメカニックへのこだわり(ワイルダーを敬愛する中平康は『紅の翼』(58年)でよりフェティッシュに模倣した)などを観れば、イームズの痕跡は瞭然である。


(映画『ふたりのイームズ:建築家チャールズと画家レイ』劇場パンフレットより転載)


ミルクマン斉藤(みるくまん・さいとう)

1963年生まれ。映画評論家。グラフィック・デザイン集団groovisionsの、唯一デザインしないメンバー。日本のクラブ・シーンにおけるVJのさきがけでもあり、ピチカート・ファイヴのステージ・ヴィジュアルを8年間手掛ける。1999年と2003年の「中平康レトロスペクティヴ」、’2001年の「鈴木清順レトロスペクティヴ STYLE TO KILL」ではスーパーヴァイザー的役割と予告編制作を務めた。著書に『中平康レトロスペクティヴ――映画をデザインした先駆的監督』(プチグラパブリッシング/2003年)、『至極のモダニスト 中平康』(日活/1999年)がある。月イチの映画トーク・ライヴ「ミルクマン斉藤の日曜日には鼠を殺せ」を大阪で主宰。




映画『ふたりのイームズ:建築家チャールズと画家レイ』
5月11日(土)渋谷アップリンク、シネマート六本木他全国順次公開

監督:ジェイソン・コーン、ビル・ジャージー
ナレーター:ジェームズ・フランコ
出演:ルシア・イームズ(チャールズの娘)、イームズ・デミトリオス(孫)、ポール・シュレイダー、リチャード・ソウル・ワーマン(建築家、グラフィックデザイナー、TED創設者)、ケビン・ローチ(建築家)、ジェニーン・オッペウォール(元イームズオフィス・デザイナー)、デボラ・サスマン(元イームズオフィス・デザイナー)、ゴードン・アシュビー(元イームズオフィス・デザイナー)
アメリカ/2011年/英語/カラー&モノクロ/HDCAM/84分
配給:アップリンク
宣伝:ビーズインターナショナル
協力:ハーマンミラージャパン

公式サイト:http://www.uplink.co.jp/eames/
公式twitter:https://twitter.com/EamesMovieJp




THE FILMES OF CHARLES & RAY EAMES
イームズ夫妻による映像作品37本を7日間限定上映!

『ふたりのイームズ:建築家チャールズと画家レイ』の公開を記念して、代表作『パワーズ・オブ・テン』ほかイームズ夫妻の手掛けた映像作品37本を7日間限定上映! 単なる広告映像でもなければ、ドキュメンタリー映画でもアート映画でもない、どんなカテゴリーにもあてはまらない映像作品の数々を、この機会にぜひお見逃しなく。

会場:渋谷アップリンク
料金:一律500円
トーク付上映のみ1ドリンク付きで1,000円

■プログラム1(87分)
1.パワーズ・オブ・テン 8:48
 Powers of Ten(1977)
2.パワーズ・オブ・テン:ラフ・スケッチ 8:01
 Rough Sketch of a Propsed Film Dealing with The Powers of Ten(1960)
3.ブラックトップ 10:49
 Blacktop(1952)
4.カレイドスコープ・ジャズ・チェア 6:32
 Kaleidoscope Jazz Chair(1960)
5.ハウス:ケース・スタディ・ハウス#8 5年後の記憶 10:45
 House: After Five Years of Living(1955)
6.おもちゃの汽車のトッカータ 13:30
 Toccata for Toy Trains(1960)
★特典映像★901:チャールズ&レイとイームズ・オフィス 45年の記憶 28:32
 Special Feature. 901: After 45 Years of Working(1990)

■プログラム2(54分)
1.デザインQ & A 5:27
 Design Q & A(1972)
◆IBM マスマティックス・ピープ・ショウ
 IBM Mathematics Peep Shows(1961)
 (5作品:エラトステネス、幾何学、シンメトリー、関数について、2のn乗)
2.エラトステネス 2:14
 Eratosthenes
3.トポロジー 1:57
 Topology
4.シンメトリー 2:38
 Symmetry
5.関数について 2:09
 Something about Functions
6.2のn乗 1:57
 2ⁿ
7.ポラロイド SX-70 10:49
 SX-70(1972)
8.コペルニクス 9:27
 Nicholas Copernicus(1973)
9.ファイバー・グラス・チェア 8:36
 The Fiberglass Chairs(1970)
10.「もの」について 6:25
 Goods(1981)
11.追いかけっこ 2:33
 The Chase(1975)

■プログラム3(57分)
1.コマ 7:36
 Tops(1969)
2.IBM館 7:31
 IBM at the Fair(1965)
3.コンピューター用語集 8:28
 A Computer Glossary(1968)
4.イームズ・ラウンジ・チェア 2:00
 Eames Lounge Chair(1956)
5.空港の拡張 9:25
 The Expanding Airport(1958)
6.ケプラーの法則 2:50
 Kepler’s Laws(1974)
7.パン 6:04
 Bread(1953)
8.小さな水クラゲ(ポリオーキス・ハプルス) 2:49
 A Small Hydromedusan:Polyorchis Haplus(1970)
9.コマ(「スターズ・オブ・ジャズ」より) 3:01
 Tops [from Stars of Jazz](1958)
10.黒船 7:40
 The Black Ships(1970)

■プログラム4(56分)
1.メキシコの祝日~死者の日 14:48
 Day of The Dead(1957)
2.S-73(ソファ・コンパクト) 10:35
 S-73 [Sofa Compact](1954)
3.ベバッジの計算機 3:33
 Babbage’s Calculating Machine or Different Engine(1968)
4.α 1:16
 Alpha(1972)
5.指数 3:01
 Exponents: A Study in Generalization(1973)
6.ソーラー何にもしないマシーン 2:11
 Solar Do-Nothing Machine(1957/edited 1991)
7.国立漁業センター&水族館 10:34
 National Fisheries Center and Aquarium(1967)
8.パレード 5:34
 Parade, or Here They Come Down Our Street(1952)
9.版図 4:57
 Atlas(1976)

◆上映日時
プログラム1(87分)
05/22(水)19:15~20:42 20:50~トーク開始 ※一律¥1,000(1ドリンク付き)
05/25(土)12:30
05/29(水)16:45
06/02(日)14:45

プログラム2(54分)
05/22(水)15:15
05/25(土)14:45
05/29(水)14:45
06/02(日)16:45

プログラム3(57分)
05/22(水)16:40
05/26(日)12:30
06/01(土)16:45
06/05(水)14:45

プログラム4(56分)
05/22(水)18:00
05/26(日)14:45
06/01(土)14:45
06/05(水)16:45

※なお、この上映はDVD『チャールズ&レイ・イームズ 映像作品集 DVD-BOX』(2008年発売)の上映となります。

http://www.uplink.co.jp/movie/2013/11632




▼『ふたりのイームズ:建築家チャールズと画家レイ』予告編


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