骰子の眼

cinema

東京都 中央区

2013-06-01 14:50


どうやっても抗えないことに出会った時、失うだけでもなく何かしら得るものもあると気づく

シャルロット・ゲンスブールの素朴で繊細な表情や佇まいに愛が溢れる映画『パパの木』クロスレビュー
どうやっても抗えないことに出会った時、失うだけでもなく何かしら得るものもあると気づく
映画『パパの木』より (C)photo : Baruch Rafic – Les Films du Poisson/Taylor Media – tous droits réservés – 2010

フランス人であるジュリー・ベルトゥチェリ監督が、本作でオーストラリアを舞台にした理由は、単に原作小説(ジュディ・パスコー著『パパの木』[原題 Our Father Who Art in the Tree]2002年/アーティストハウス刊)がオーストラリアの設定だったからだけではない。世界最古の大陸といわれるオーストラリアの大地は、原始的なパワーをこの映画に与え、感情を映し出す鏡として自然が見事に描き出されている。本作の主役ともいえる崇高な巨木は、2年かけて1000本以上もの木の中から見つけ出したという。

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映画『パパの木』より (C)photo : Baruch Rafic – Les Films du Poisson/Taylor Media – tous droits réservés – 2010

また、最愛の夫を亡くし、悲しみに打ちひしがれ周囲を遮断する妻は、在豪フランス人という設定である(原作小説ではオーストラリア人)。祖国を離れた外国人の孤独感と、夫と突然引き離された妻の心が、パラレルに位置づけられる。フランスとは地球の裏側にあたるオーストラリアが舞台となる必然性がここにもある。

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映画『パパの木』より (C)photo : Baruch Rafic – Les Films du Poisson/Taylor Media – tous droits réservés – 2010

現実と空想の狭間に立つ母娘が主人公でありながら、決して神秘的な描写に陥らず、物語はわずかな綻びもなく紡がれる。そしてこの映画をさらに高めているのは、母親ドーン役のシャルロット・ゲンズブールと、7歳の娘シモーン役のモルダナ・デイヴィスの、あふれる魅力を湛えた演技である。本作の脚本の執筆段階で、監督自身も夫を病で亡くし、しばらく作業がストップされたという。あまりに辛い偶然だが、人間の美しさとは、深い悲しみの淵にあっても、それをやがて創造的な力へと変えうる力強さである。




映画『パパの木』
6月1日(土)、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー

監督・脚本:ジュリー・ベルトゥチェリ
原作:ジュディ・パスコー
出演:シャルロット・ゲンズブール、マートン・ソーカス、モルガナ・デイヴィス、エイデン・ヤング
配給・宣伝:エスパース・サロウ
提供:新日本映画社
フランス、オーストラリア/2010年/100分
公式サイト:http://papanoki.com/

▼映画『パパの木』予告編



レビュー(5)


  • mkさんのレビュー   2013-04-03 18:47

    『パパの木』クロスレビュー:自然と人間の関わりについて

    庭の大きなゴムの木には、突然この世から去ってしまったパパが宿っている。 うそかまことか。それは秘密。 だって、信じた人にとってだけ真実となり得るのだから。 木にささやきかけ、かえってくる声に耳を澄ます。 表皮に体温を感じ、木の傍らで抱かれて眠...  続きを読む

  • minoruさんのレビュー   2013-04-04 21:44

    女と木が存在する:『パパの木』クロスレビュー

    【少女の想像力】 突然父を失くした少女は大きな木に父のささやき声を聞く。 木になった父は、宿題の答えも教えてくれる。 でもこれはファンタジーではない。 豊かで切実な想像力=イマジネーションは現実を超えて真実に触れる。 その想像力は空想=ファ...  続きを読む

  • munkuさんのレビュー   2013-04-08 22:58

    『パパの木』クロスレビュー:何かを失った時

    私はこの作品のように、身近な人を亡くしたことはありますが突然ではなかったし、子供の時の感覚も薄れているように感じます。 なので、この作品をきちんと理解できているのか自信がありません。  作中に出てくる大きな木は、二面性を表しているのではないかなと...  続きを読む

  • はやしさんのレビュー   2013-04-12 18:20

    『パパの木』クロスレビュー:生きるものに残された悲しみの姿

    一家を突如襲った父親の死。 のこされた娘は庭の大きな木に父親の声を聞く。 監督ジュリー・ベルトゥチェリは、映画の中でこれまでも家族という題材を扱っている。 長編デビュー作の「優しい嘘」では、グルジアで母子家庭に生きる祖母、娘、孫娘の親子...  続きを読む

  • とらねこさんのレビュー   2013-04-14 16:51

    『パパの木』クロスレビュー:喪失と再生の優しい時間

    言葉にならないほど美しい…。 ここで描かれている一本の大きな樹の美しさはため息が出るほど。 風に梢のそよぐ音、虫の声、やわらかな光。何の飾り気も無い、そこにあるがままの自然だけで素晴らしい音響効果。 心が折れてしまった時、思わず立ち止まってしま...  続きを読む

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