映画『パパの木』より (C)photo : Baruch Rafic – Les Films du Poisson/Taylor Media – tous droits réservés – 2010
フランス人であるジュリー・ベルトゥチェリ監督が、本作でオーストラリアを舞台にした理由は、単に原作小説(ジュディ・パスコー著『パパの木』[原題 Our Father Who Art in the Tree]2002年/アーティストハウス刊)がオーストラリアの設定だったからだけではない。世界最古の大陸といわれるオーストラリアの大地は、原始的なパワーをこの映画に与え、感情を映し出す鏡として自然が見事に描き出されている。本作の主役ともいえる崇高な巨木は、2年かけて1000本以上もの木の中から見つけ出したという。
映画『パパの木』より (C)photo : Baruch Rafic – Les Films du Poisson/Taylor Media – tous droits réservés – 2010
また、最愛の夫を亡くし、悲しみに打ちひしがれ周囲を遮断する妻は、在豪フランス人という設定である(原作小説ではオーストラリア人)。祖国を離れた外国人の孤独感と、夫と突然引き離された妻の心が、パラレルに位置づけられる。フランスとは地球の裏側にあたるオーストラリアが舞台となる必然性がここにもある。
映画『パパの木』より (C)photo : Baruch Rafic – Les Films du Poisson/Taylor Media – tous droits réservés – 2010
現実と空想の狭間に立つ母娘が主人公でありながら、決して神秘的な描写に陥らず、物語はわずかな綻びもなく紡がれる。そしてこの映画をさらに高めているのは、母親ドーン役のシャルロット・ゲンズブールと、7歳の娘シモーン役のモルダナ・デイヴィスの、あふれる魅力を湛えた演技である。本作の脚本の執筆段階で、監督自身も夫を病で亡くし、しばらく作業がストップされたという。あまりに辛い偶然だが、人間の美しさとは、深い悲しみの淵にあっても、それをやがて創造的な力へと変えうる力強さである。
映画『パパの木』
6月1日(土)、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
監督・脚本:ジュリー・ベルトゥチェリ
原作:ジュディ・パスコー
出演:シャルロット・ゲンズブール、マートン・ソーカス、モルガナ・デイヴィス、エイデン・ヤング
配給・宣伝:エスパース・サロウ
提供:新日本映画社
フランス、オーストラリア/2010年/100分
公式サイト:http://papanoki.com/
▼映画『パパの木』予告編