骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2013-04-05 21:00


モノクロームの写真で音を紡ぎ、人となりを映し出す写真家のパーソナルな部分をえぐる

『アントン・コービン 伝説のロック・フォトグラファーの光と影』クロスレビュー
モノクロームの写真で音を紡ぎ、人となりを映し出す写真家のパーソナルな部分をえぐる
映画『アントン・コービン 伝説のロック・フォトグラファーの光と影』より

U2のボノ、メタリカ、ルー・リードからジョージ・クルーニーまで、数々のスターが登場し、ひとりのフォトグラファーについて語る。しかし今作はその華やかな顔ぶれから想像されるセレブリティについての物語ではない。主人公アントン・コービンの、デラシネのように世界を飛び回り黙々とシャッターを切り続ける姿からは、ワーカホリックな状態でないと安心していられない、という心の影を感じとることができる。関係者や記者がごった返す、自らの監督作『ラスト・ターゲット』のプレミア会場にいてさえ、どこか所在なさをたたえた彼のたたずまいには、薄い膜のようなものがうっすらとまとわりついているかのようだ。

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映画『アントン・コービン 伝説のロック・フォトグラファーの光と影』より

どんな撮影の瞬間でさえ常に構図を意識し、産みの苦しみを厭わない彼の作品への姿勢は多くのミュージシャンから称賛を寄せられる。異なるアートフォームを持つアーティスト同士がどのようにコミュニケーションを取るのか、その現場をのぞき見ているような気にさせてくれるところも興味深い。そしてなぜ彼がアーティストを撮り続ける渇望の先に、「自己を表現に投影する」とはどういうことなのか、ということをあらためて考えさせてくれる。プロテスタントとしての出自も含め、彼のモノクロのカットに漂う〈死〉の匂いがどこから来るものなのか。もちろん、寡黙なひとりの写真家に、ここまでさらけ出させた監督クラーチェ・クラインズの手腕も評価すべきだろう。

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映画『アントン・コービン 伝説のロック・フォトグラファーの光と影』より




映画『アントン・コービン 伝説のロック・フォトグラファーの光と影』
4月6日(土)、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

監督:クラーチェ・クラインズ
出演:アントン・コービン、アーケイド・ファイア、ボノ(U2)、メタリカ、ルー・リード、マーティン・ゴア(デペッシュ・モード)、ジョージ・クルーニー
2012年/英語、オランダ/84分/ヴィスタ
配給:シンカ
公式サイト:http://www.antoncorbijn-movie.jp/
公式twitter:https://twitter.com/antonfilmjp
公式Facebook:http://www.facebook.com/AntoncorbijnMovie

▼『アントン・コービン 伝説のロック・フォトグラファーの光と影』予告編



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