映画『僕の中のオトコの娘』より (c)2012『僕の中のオトコの娘』製作委員会
社会との関わりに悩むひとりの若者が、女装を好む男性・女装娘(じょそこ)という現代日本独自の文化に傾倒していくことで、自己を確立していく様とそこでの葛藤を描く映画『僕の中のオトコの娘』。昨年12月のロードショーに続き、3月9日(土)より渋谷アップリンクでのアンコール・レイトショーが決定した。今回の上映では、受付で女装をしてきて申告すれば適用される女装娘割や、本広克行監督や細野辰興監督、女装美少年専門誌の編集長によるトークや、女装入門とも呼べるワークショップも行われる。
ゲイでもオカマでもなく、性的趣向は関係なく、趣味や選択として男子が女子の格好をする女装娘の世界。なぜ描こうと思ったのか、窪田将治監督に話を聞いた。
「初めて女装の世界に触れたのは今から7年前、偶然行った新宿三丁目の店が女装BARでした。女装娘やトランスジェンダーといった方々はその頃も多くいましたけど、当時は女装と言うカテゴリーがまだ浸透してない状況で、解りづらいという理由から映画化は見送られました。僕は、ゲイでもオカマでもトランスジェンダーでもない、曖昧というか“曖昧なんだけど芯がある”人間臭さ、その世界が非常に日本人らしいというか面白いと感じて、この映画の企画を立てたんです。いまやグローバルに情報が共有できる状況ですが、当時は違いましたよね。悩みも共有できるようになって、状況は一変したのではないでしょうか。人間は一人で生きれるほど強くないと思いますから」。
映画『僕の中のオトコの娘』の窪田将治監督
川野直輝が演じる『僕の中のオトコの娘』の主人公、足立謙介は父と姉との実家住まいをしながらも、社会生活になじめず、ひきこもってゲームやネットサーフィンにふけっている。隠れた自分を表現できる場、として女装娘に惹かれていくが、監督のなかで女装娘とはどんな存在なのだろうか。
「自分自身を女装と言う姿で表現したと言うような、一つの作品のように思います。1人で映画を撮って恥ずかしいから誰にも見せない人もいるでしょうし、YouTubeにアップする人もいれば出品する人もいます。女装も、自宅でひっそりやっている人もいるでしょうし、街中を歩きまわる人もいます。僕の中では映画と同じ、作品かもしれませんね。女装を追及している女装娘はやっぱり尊敬しますよ」。
映画『僕の中のオトコの娘』より (c)2012『僕の中のオトコの娘』製作委員会
女装バーやイベントといった女装娘たちの活動の場とともに描かれるのが、息子となかなか語る場を持とうとしない父親や、献身的に弟を支える姉など、現代の家族の在り方。監督は今作に登場する足立家のような「家族の誰かが何かを始めたら応援するような」家族が理想だと語る。
「僕はまだ独身なので、家族の一員としての家族観になりますが、仲間意識が強い家族が良い家族のような気がしています。『血は水よりも濃い』と言うくらい、家族の血の繋がりは強いですよね。良いことでも悪いことでも何か起こしてしまったら最終的には親兄弟が守ってくれると言う安心感はあります。ただ本当に難しい話なんですけど経済的にある程度の体力がないと、そうは言ってもままならない場合もありますよね。さっきの話ではないですが、情報が目に見えて共有できるような時代になったと思ったら、すぐ傍にいるはずの家族とのコミュニケーションが不足してしまったり、子を捨てる親がいる世の中ですから。そんな世の中でも、家族は必死にお互いを応援するような、今作の足立家のようなものであってほしいですね」。
映画『僕の中のオトコの娘』より (c)2012『僕の中のオトコの娘』製作委員会
今回の女装娘のほかにも、2009年の作品『スリーカウント』では女子プロレスをテーマにするなど、狭い世界で必死に生きようとする人たちに非常に惹かれるという窪田監督自身も、現在の社会に生きづらさを感じているという。
「映画を創る時は特に感じています。いまはご存知の通り、脚本から全てオリジナルの映画が創りづらい世の中ですから。しんどいですよ。でも結局は、何をやるにも自分自身に負けない事なんだと思います。手を抜こうと思えばいくらでもできるわけです。予算が無いからこれくらいでもいいかとか、これくらいのテイクが撮れればもう十分だろうとか。でも僕は諦めたり手を抜く人間は嫌いです(笑)。自分自身にプレッシャーをかけてやっていかないと、倒れ込んでしまいそうになることもあります。どうせ倒れるなら前のめりで倒れたいじゃないですか」。
映画『僕の中のオトコの娘』より (c)2012『僕の中のオトコの娘』製作委員会
女装娘の世界にのめり込むことで、家に閉じ籠っていたときには感じることのできなかった自由を感じることができた謙介はしかし、ある出来事をきっかけに、女装したままの姿で「自分が嫌いだ」とつぶやく。家族や女装BARのママたちとの関係を丹念に描いていく本作のなかで、静かではあるが最もエモーションを感じるシーンだ。
「あのシーンは謙介の本質だと思っています。自分自身の仕事への対応、家族を含め他人への興味など30年間、言わば戦わず過ごしてきたのだと思います。そしてやりたい事を見つけ女装の世界に飛び込んでみたものの性格なんか変わる筈も無く抱え込んでしまう。見た目は変わっても中身は変わらない。そんな自分が嫌だし嫌い。そんな謙介の心情を表現する為に何が必要かと考え出来たシーンですね。
僕自身もそうなんですけど誰にでもそう言った瞬間ってあるんじゃないでしょうか?「人生は切り開いていくもの」だとよく聞きますが、僕は『人生は切り開いてもらうもの』と思っています。今、僕は38歳ですけど自分の人生を振り返るだけでも〝出会い”がすべての転機になっているように思います。
僕は映画界と言う狭い世界で生きて、映画なんかやって馬鹿じゃないの?とか普通に働いたら?とか色々言われ続けていたわけです。今後も言われ続けるでしょうし(笑)。あまりにも言われ続けるとやっぱり不安になるんですよね。このままでいいのかと。やりたいのであれば不安なんかに負けずにやり続ければ良いのに。ただ一人でやるには辛すぎるんです。僕がやれているのは一緒に映画を創ってくれるスタッフやキャストと言った仲間がいて、そして何より応援してくれる親がいて兄弟がいる。誰かに出会い、物事に出会うことで自分の人生はどんどん変わっていっている。生かされている感じがしてならないです。
謙介もまた仲間や親兄弟の助けで一歩踏み出すわけです。今後、どうなって行くかは謙介自身の問題。まさにそれも僕自身と一緒ですね。この映画は〈はじまりの物語〉ですから」。
(構成:駒井憲嗣)
窪田将治 プロフィール
1974年、宮崎県出身。1997年日本映画学校卒業。在学中には脚本家・池端俊作氏、映画監督・細野辰興氏に師事。2006年に『zoku』で劇場映画デビュー。2009年には女子プロレスを題材にした映画『スリーカウント』で長編映画デビューを果たす。2010年の江戸川乱歩原作の映画『失恋殺人』、翌年の『CRAZY-ISM クレイジズム』そして今作『僕の中のオトコの娘』と3年連続でモントリオール世界映画祭“Focus on World Cinema”部門に正式出品され、海外でも高い評価を受けた。その他、テレビ番組の企画・演出・構成作家など多方面で活躍している。
映画『僕の中のオトコの娘』
2013年3月9日(土)より渋谷アップリンクにてアンコール・レイトショー
監督・脚本・編集:窪田将治
出演:川野直輝 中村ゆり 草野康太/河合龍之介 内田朝陽 山田キヌヲ 馬場良馬(友情出演) 柳憂怜/木下ほうか/ベンガル
エグゼクティブプロデューサー:菊池笛人、竹井佑介、三上靖史
プロデューサー:小関智和、斉藤三保
撮影監督:根岸憲一(JSC)
録音:田邊茂男
音楽:與語一平
製作:『僕の中のオトコの娘』製作委員会(マクザム,FAITHentertainment,NEXT LEVEL)
企画・制作プロダクション:FAITHentertainment
制作協力:トライアムズ
配給・宣伝:太秦
宣伝協力:ボダパカ
2012年/日本/カラー/100分/HD
(c)2012『僕の中のオトコの娘』製作委員会
公式サイト:http://www.boku-naka.com/
公式twitter:https://twitter.com/boku_naka
公式FACEBOOK:http://www.facebook.com/僕の中のオトコの娘/238607712927751
イベント情報
【オトコの娘サミット開催決定!】
上映終了後に下記イベントを開催!!■3月9日(土)本広克行監督 × 窪田将治監督トークショー!
■3月11日(月)≪オトコの娘・教育委員会 ~オトコの娘のイロハ教えます~≫
女装美少年総合専門誌「オトコノコ時代」編集長・井戸隆明氏による女装業界のムーブメント徹底検証っ!
■3月13日(水)細野辰興監督 × 窪田将治監督トークショー!
■3月14日(木)≪女装娘ワークショップ ~新入生歓迎会~≫
女装業界ナンバー1レンタルブティック「Leaf Style」女店長Mによる女装の秘儀と楽しみを徹底伝授っ!
■3月15日(金)松村克弥監督 × 窪田将治監督トークショー!
【パワーアップ女装娘割(じょそこわり)、実施決定!】
チケットカウンターにて、女装をしてきた状態で「女装娘です」と御申告いただくことで、通常料金1,300 円のところを 1000 円で御覧いただける特別サービス。『僕の中のオトコの娘』上映期間中、当作品についてのみ適用。ほかサービス、サービスデイとの併用はできません。
詳しくは下記より
http://www.uplink.co.jp/movie/2013/7525
▼映画『僕の中のオトコの娘』予告編