骰子の眼

cinema

東京都 中央区

2013-02-14 19:56


復讐という終わりの無い憎しみの繰り返しにどれほどの意味があるのか?と痛烈に問いかける

キャスリン・ビグローがビンラディンを追い詰めた女性分析官を描く映画『ゼロ・ダーク・サーティ』クロスレビュー
復讐という終わりの無い憎しみの繰り返しにどれほどの意味があるのか?と痛烈に問いかける
映画『ゼロ・ダーク・サーティ』より Jonathan Olley(c)2012 CTMG. All rights reserved.

キャスリン・ビグロー監督は、今作で描かれるトラボラでのビンラディン捕縛作戦の失敗を描くことを2006年、『ハート・ロッカー』完成の前に構想していたという。最終的に2011年5月1日のビンラディン殺害により、この『ゼロ・ダーク・サーティ』に着手することになったが、当事者たちへの綿密な取材を重ねることで、軍そして諜報機関の人間関係を捉えることに成功している。ビグロー監督が出来事を伝えることを重点に置いていることは、賛否両論を呼んでいる拷問のシーン、ジェシカ・チャスティンほか主要キャラクター以外は無名の役者を起用していることなどからも伺える。とりわけ、後半に用意されたステルス機能が搭載されたブラックホーク・ヘリコプターを用いての潜入シーンに関しても、2機急襲したうちの1機が不時着したことなど、エンターテインメントとしてのカタルシスよりも、観客が一緒にこの作戦に参加しているかのようなリアリティを重要視している。

1134604 - Zero Dark Thirty
映画『ゼロ・ダーク・サーティ』より Jonathan Olley(c)2012 CTMG. All rights reserved.

若き主人公マヤがなぜビンラディン捕獲への使命に燃えるのか、ある会話が交わされるシーンがあるが、彼女しかそれを遂行することができない理由があっけなく説明される。あえて観る者の感情移入を拒否するようなこうした細部のディティールにより、マヤという人物、ひいては人間の一筋縄ではいかない感情の複雑さ、あるいは空虚さを挿入することで、典型的な戦争を通したビルディングス・ロマンに仕上げていない点が、ビグロー監督の冷徹さであり慧眼であると思う。

1134604 - Zero Dark Thirty
映画『ゼロ・ダーク・サーティ』より Jonathan Olley(c)2012 CTMG. All rights reserved.




映画『ゼロ・ダーク・サーティ』
2013年2月15日(金)よりTOHOシネマズ有楽座他、全国公開

監督:キャスリン・ビグロー
脚本・マーク・ボール
出演:ジェシカ・チャステイン、ジェイソン・クラーク、ジョエル・エドガートン
提供・配給:ギャガ
原題:Zero Dark Thity
2012年/アメリカ映画/カラー/ドルビーデジタル/ヴィスタ/158分
公式サイト:http://zdt.gaga.ne.jp

▼映画『ゼロ・ダーク・サーティ』予告編



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