骰子の眼

stage

東京都 豊島区

2012-11-09 21:47


「お客さんの記憶と、芝居のなかの記憶がリンクするように観てもらえれば」

吹越満がロベール・ルパージュの戯曲を料理、『ポリグラフ 嘘発見器』の3人が語る
「お客さんの記憶と、芝居のなかの記憶がリンクするように観てもらえれば」

9月にリニューアルオープンした東京芸術劇場の新たな企画、3人芝居を3本上演する3×3シリーズの第一弾として、『ポリグラフ 嘘発見器』が12月12日(水)より行われる。世界的演出家、ロベール・ルパージュの初期の戯曲を、吹越 満が新たな演出で上演する。吹越は他者の作品の演出が初となる今作で、フィジカルシアター(身体と言語が融合した作品)に挑戦する。今回は彼とともに出演する森山 開次、そして太田 緑 ロランスに、稽古が始まったばかりのスタジオで話を聞いた。

それぞれの得意技が違うチーム(吹越)


── 最初にルパージュの脚本を読んだとき、どんな印象でしたか?


吹越 満(以下、吹越):お話が面白いというよりも、台本のト書きに「映画のように始まる」とト書きがすごく具体的に書いてあったので、それでピッときた感じはあります。オリジナルを正しく解釈できればいいし、間違えていてもいい。指定していることを「どういうことなんだろう?」と考えつつ、そこからどれだけ遠く離れられるか、あるいは離れないできちんとやるか、ということであれば、物語の舞台であるカナダのこともベルリンのことも知らない俺でも、やってもいいのかなと。


── 3人芝居ということで、森山さんと太田さんに声をかけられたのは?


吹越:『ポリグラフ』の登場人物の3人ということはもちろん、3人組のお芝居をやるグループとして、009とかゴレンジャーみたいに、僕のなかでは「ポリグラフズ」という名前がついているんです。3という数字はバランスがいいし、それぞれの得意技が違う、バラバラな人間がいたほうが逆にチーム感が出るんじゃないかと思って。『ポリグラフ』はフィジカルシアターというカテゴリーですが、どんなジャンルの舞台でも体は使うものですし、止まることも体を使うことのひとつだと思っています。今回は、僕と同じ世界じゃない、普段から体を使うことをやっていらっしゃる、セリフをしゃべる姿の予想がつかない方ということで森山さんにお願いしました。そして太田さんは、女優だから俳優としては僕とジャンルは一緒だけれど、身長が高いし、人造人間っぽい感じがある。ダンサーで人、俳優で人、女優なんだけど実はレプリカント、というバラバラさ加減を想像しました。

森山 開次(以下、森山)お話をいただいたとき、これは覚悟してやらないとな、という印象がありました。作ることが好きで、いろんな舞台をやってきて、戯曲を使って吹越さんが初めて演出をする、そのタイミングで一緒にできるというのは嬉しかったし、作ることで共有できることがたくさんあるんじゃないかと思いました。セリフをしゃべる、ということも含めていろんなチャレンジが必要で、踊りという部分を求められても、僕としてはいつもやっている自分のスタイルのダンスとはまた違う身体表現にチャレンジする機会だと感じています。いつもソロダンスの形態がベースなので、その世界のなかでわがままだったり、こういう風に動きたい、というのがあるので、周りと相まみえない。そうではなくて、もっと自分をいじってもらいたいんです(笑)。違う視点でやっていくと、自分ではなかなか演出できないこともできるんじゃないかと、楽しみです。

太田 緑 ロランス(以下、太田)まず台本が面白かった。それはお話の中身が面白い、というのとはまた違って、話の筋自体はシンプルなんです。過去のトラウマとそれに関わる人たちの物語であり、男女の三角関係であり、いろんなことに置き換えられるお話だと思うんです。ルパージュのその再構成の仕方、いったん物語を分断して、いろんなイメージを繋ぎあわせて、全く違う空間のものを同じ空間にドッキングさせるその構成がとても面白かった。それが実際に舞台化されたときに、どういうものになるか、映像ではなくて舞台だったらどう見せるか、というつくっていく作業がすごく大変だろうというのが想像できたし、それがすごく楽しそうだった。想像できないもののほうが面白いし、稽古のなかでもいろんな発見があるんじゃないかなって。

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左より吹越 満、太田 緑 ロランス、森山 開次

意見を出しあってやれる環境がすごく嬉しい(森山)


── シーンごとの断片的なイメージをどう形作っていくかと、それが全体としてどうまとめていくか、と双方で難しさがありそうですね。


吹越:繋がっていないようで、ここはこういうふうに繋がっている、この人とこの人がこの物を通して繋がっている、と思えたり、繋がっていないな、と思っても、後でそういうことだったんだとわかったり、時間的に行ったり戻ったりする脚本なんです。お客さんのお芝居を初めから観ていることの記憶と、僕らが芝居のなかでやる回想に入っていく記憶はリンクすると思うんです。「あ、このイメージさっき出てきた」って。さっきはわからなかったけれど、そこで繋がって「なるほど」と思えるし、その「イメージしてる」ということはどういうことなんだろう、ともう一度考えるようにして観ていく。そんな風に観てもらえれば一番いいと思う。体感時間がすごく短く感じられるんじゃないかな。


── まだ稽古は序盤ということですが、感触はいかがですか。


吹越:この台本をもとに、というよりは、せっかくだから初めてやるこの3人と違うやり方をみつけたい、という感じ。それが見つかってくることで、僕らのやり方でやりましょうというのが生まれてくるんじゃないか、今はそのちょっと手前ですね。

森山:意見を出しあってやれる環境がすごく嬉しいですね。

太田:ここまでワークショップっぽいとは思っていなかったんです。台本に入っていく作業じゃなくて、確かめる作業みたいな。いつもより台本と距離をとって、こねくりまわす作業なんだなって。


── 吹越さんはソロアクトを続けてこられたことをふまえ、3人だからできること、というのは考えましたか?


吹越:ひとりでやれないことをやれる、というのは最初から思っていたわけではないです。ひとり芝居でももちろん舞台はスタッフも裏方もいて、ものを動かすときに暗転していてもスタッフが何人も動いていることがある。でも僕はひとりで全部やりたがるんです。テーブルと椅子の位置を逆にするときに、テーブルを動かしてから椅子を動かすか、同時に動かすためにはどうしたらいいんだろう?これがムーヴメントになっていくんです。でも3人だったら1人余るじゃん!と思って。当たり前のようにいつもやっていることなんだけれど、うわっ!ていう発見がある。そうすると、わざわざ3人でひとつの椅子を持って動かす、ということ自体が面白くなってくるんだなと思って。そういう発見が、既に昨日の稽古でもありました。


── 3人の写真も、そのチーム感が出ていますね。


吹越:コンセプトがわからないことがコンセプト、というところと、翻訳ものだから和ものがないわけじゃない、というところで、日本でも外国でもない、今でも昔でもない、というほうが、僕らが持っている翻訳劇というイメージから離れられるかな、と思って。太田さんは『ブレードランナー』のレプリカント、レイチェルみたいだなと思っていたら、ほんとうにレイチェルみたいな髪型になって(笑)。

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『ポリグラフ』のポスタービジュアル(撮影:伊島薫)

── どんな舞台になるか、お客さんはいまはポスターのビジュアルから想像を膨らませる段階ですが、こちらはどのようなテーマで撮影されたのですか?


吹越:台本を読んで、台本の物語のキーとなるビジュアルと、それとちょっと距離を置いて「この3人がやります」という2つのイメージを考えました。デザイナーさんと「死体を大きいビジュアルにしたい」「血のついている女性の写真でいきたい」、という話になったときに、カメラマンは、女優さんたちが殺人現場で死体として撮影されるという『連続女優殺人事件』で知られる伊島薫さんがいいんじゃないかという話になりました。 実は伊島さんとは面識があって、zyappuという雑誌に連載されていた『連続女優殺人事件』シリーズに出たことがあるんです。広田レオナさんがウェディングドレスで砂浜で殺される、というテーマでの撮影のときに「吹越も死ぬ?」と言われて、フレームの向こうの方でピントが合ってないんですけれど、タキシードを着ておじゃまさせていただいたことがあって。それでお願いしてみたら、快諾してくださって、今回のポスターも伊島さんの『連続女優殺人事件』シリーズの新しい作品ということになります。
太田さんが横になってアングルが決まったときに、血糊を足していく作業で「行ったら戻れない」と言われて、すごく緊張したんです。だからどういう写真になるか、終わるまでわからりませんでした。

意外と泥臭いかもしれない(太田)


── このポスターができたことで、みなさんの作品へのビジョンが固まってきたところもありますか?


吹越:役作りというよりも、「ポリグラフ」という作品の持っている雰囲気を伝えたかった。翻訳ものだから、といって堅苦しいわけではない。でもすごくくだらなくて笑えるお芝居ということでもない。言葉でニュアンスを伝えることはできても、チラシやポスターで作品の雰囲気を伝えるって難しいと思うんです。それに自分の好みじゃないものを撒かれるのは嫌だ、ということがあって。翻訳劇は敷居が高いイメージがあるけど、映画だったらみんな外国のもの吹替や字幕で楽しんで観てるじゃないですか。だから映画っぽいものにしたかった。このポスターを見た人が「クエンティン・タランティーノの新しい映画のポスターみたいだね」と言ってくれて嬉しかったんです。「そうだよ、見に来てよ!」って言いやすいと思って。

太田:芝居のなかで私のルーシーという役は映画に出演しているんですけれど、そのなかで似たようなシーンがきっとあるだろうな、と。設定に近い部分で、ルーシーはこういう風に撮影をしてこういう気持ちになったのかな、と具体的に体感できてよかったです。

吹越:そうなんだよね。これが作品のなかに出てくる映画の殺人事件の現場の死体写真なのか、実際にあった殺人現場の写真なのか、ぼやかされている。そのどちらでもあるしどちらでもない。

森山:このビジュアルに向かっていった吹越さんとスタッフの思いがすごく伝わってきて、言葉ではうまく言えないですけれど、ここに取り組んでいくなかでのスタンスが、すごくわかりやすかった。チラシを作っていくなかで、持っていたテーマにひとつガイドをもらった感じがします。


── 公演まであと1ヵ月、楽しみにしています。


太田:今までいろんな人にチラシをお渡ししてきたなかで「すごくおしゃれな芝居になりそうだね」「顔合わせもアートな感じだね」という感想が多くて。でも、アートだと思っていたら、意外と泥臭いかもしれない。役者がやらないことをやるかもしれないし、役者がやることをやらないかもしれない。きっといい意味で、期待を裏切るお芝居になると思います。

森山:みなさん「フィジカルシアターってなんだろう」と思われていると思うので、ここに答えが見つかるんじゃないかと思います。

吹越:お子様からお年寄りまで(笑)。シンプルなわかりやすいお話ですし、だからこそイメージが広がりやすい。思ったよりポップになりそうな感じはしますし、ポップにしていきたいです。

(インタビュー・文:駒井憲嗣)



ロベール・ルパージュ プロフィール

1957年カナダのケベック州生まれ。優れた脚本家であると同時に、舞台に映像表現を取り入れた先駆者として一世を風靡。世界のアートシーンで目を離すことができない存在である。2007年には、かつてピーター・ブルックやピナ・バウシュも受賞した、Europe Theatre Prizeを受賞。

吹越 満 プロフィール

1965年生まれ。1984年、ワハハ本舗に参加、1999年に退団。1995年『贋作・罪と罰』、1998年『Right Eye』野田秀樹作・演出作品をはじめ、数々の舞台に出演。また、89年から継続している『フキコシ・ソロ・アクト・ライブ』では、俳優らしからぬ実験的な〈演芸〉を展開。ひとり舞台の可能性を追求する ソロ・パフォーマーでもある。映画やドラマにも多数出演。主な出演作に『冷たい熱帯魚』(園子温監督)、『警視庁捜査一課9係』(ANB)、『運命の人』(TBS)、映画『宇宙兄弟』(森義隆監督)などがある。

森山 開次 プロフィール

国内外で活躍する注目のコンテンポラリーダンサー。21歳でダンスを始める。2005年ニューヨークにて発表した」『KATANA』は「驚異のダンサーによる驚くべきダンス(米・New York Times紙)と評され、2007年ヴェネチアビエンナーレ招聘。ダンス公演のみならず演劇・映画・テレビ・写真作品への参加、絵画・映像作品の制作などジャンルを超えて表現活動を行っている。ミュージカル『ダンスオブヴァンパイア』、岡田利規作・演出『家電のように解り合えない』等の舞台や、映画で役者としても活躍中。2012年10月に新国立劇場にて新作『曼荼羅の宇宙』を発表した。

太田 緑 ロランス プロフィール

北海道出身。フランス人の父親と日本人の母親との間に生まれる。早稲田大学第一文学部在学中より、モデル、舞台、映画など、ジャンルを問わず活動開始。主な出演は、新国立劇場『城』(演出:松本修)、岩松了3本連続公演『センター街』(演出:倉持裕)、世田谷パブリックシアター『審判』『失踪者 AMERIKA』(演出:松本修)、アトリエ・ダンカンプロデュース『空中ブランコ』(演出:河原雅彦)、NODA・MAP『表に出ろいっ!』『南へ』(作・演出:野田秀樹)、日仏共同制作『Understandable』(作:前田司郎)、イキウメ『ミッション』(演出:小川絵梨子)、映画『偶然のつづき』、『夜のピクニック』、TVドラマ『ハゲタカ』など。




東京芸術劇場リニューアル記念 3×3-①
『ポリグラフ 嘘発見器』
2012年12月12日(水)~2012年12月28日(金)

会場:東京芸術劇場 シアターイースト(東京都豊島区西池袋1-8-1)[地図を表示]
[JR・東京メトロ・東武東上線・西武池袋線 池袋駅西口より徒歩2分。駅地下通路2b出口と直結]

脚本・構想:マリー・ブラッサール/ロベール・ルパージュ
演出:吹越 満
訳:松岡和子

出演:森山 開次、太田 緑 ロランス、吹越 満

料金:前売一般 5,000円/65歳以上 3,500円/25歳以下 3,000円/高校生割引 1,000円

お問合せ:東京芸術劇場ボックスオフィス 03-5391-3010(休館日除く10:00~18:00)

主催:東京芸術劇場(公益財団法人東京都歴史文化財団)
   東京都/東京文化発信プロジェクト室(公益財団法人東京都歴史文化財団)
助成:財団法人地域創造
後援:カナダ大使館、ケベック州政府在日事務所
東京芸術劇場公式HP:http://www.geigeki.jp/

【ツアー情報】
松本公演
2013年1月13日(日)~14日(月祝)
まつもと市民芸術館
http://www.mpac.jp/

宮城公演
2013年1月20日(日)
えずこホール
http://www.ezuko.com/

大阪公演
2013年1月26日(土)~27日(日)
シアター ドラマシティ
http://www.umegei.com/




『フキコシ・ソロ・アクト・ライブラリー吹越満【タイトル未定】
~このライブのタイトルはタイトル未定です~』

出演: 吹越満
監督: 丹羽貴幸
ULD-490
3,990円(税込)
発売・販売:アップリンク

2008年に下北沢で上演された吹越満のソロ・アクト・ライブ『【タイトル未定】~このライブのタイトルはタイトル未定です~』を映像化。

★作品の購入はジャケット写真をクリックしてください。Amazonにリンクされています。



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