『モンサントの不自然な食べもの』マリー=モニク・ロバン監督
現在渋谷アップリンクで公開中の『モンサントの不自然な食べもの』は、フランスのジャーナリスト、マリー=モニク・ロバンが、巨大多国籍企業・モンサント社の歴史と彼らの主張を多くの取材と資料により検証していくドキュメンタリーだ。
日本で加入の是非が問われているTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)により食の安全と貿易のルールが壊されてしまうことが懸念される現在、この映画は「1ドルたりとも、儲けを失ってはならない」という企業体質の犠牲となったアメリカ、インド、パラグアイ、イギリスなど各国の農家や研究者たちの言葉により、食をめぐる経済構造に疑問を呈する。ロバン監督は今回のインタビューにおいても、この映画を観て、GM(genetically modified 遺伝子組み換え)作物をボイコットすべきだ、と日本の観客に再度問いかけている。
さらにロバン監督は、遺伝子組み換え作物がほんとうに人体に影響がないことを証明するために、モンサント社は短期間ではなく、ラットの平均的寿命である2年間にわたり試験を行うべきだと強く提言した。
なお、世界各地の農民や消費者団体、NGOによるモンサントの暴挙を止めようという動きのなか、9月18日(火)には東京でも、世界同時アクション「OCCUPY MONSANTO」に呼応して、日本モンサント社前と首相官邸前で「STOP TPP」と同時に「NO! モンサント」を訴える特別プログラムが行われる。
産者と消費者の密接な関係こそがアグロビジネスに立ち向かう方法
── 既に世界42カ国の人が観て、ヨーロッパでのGM政策に大きな影響を与えたという今作ですが、日本でも9月14日、鳩山由紀夫元首相と、衆議院議員の川内博史氏がこの映画を観たことで、日本の遺伝子組み換え政策やTPPに対しても良い影響を与えることが期待されています。
この中で描かれる大企業の利潤の追求は、株式会社としてはあるべき姿だとは思いますが、モンサント社の利潤追求の暴走は、目に見えにくいだけ、より恐ろしく感じます。このような巨大企業の暴走を食い止めるには、どうしたらいいでしょうか。
大企業の犯罪的な利潤追求は世界中に蔓延しており、暴走しているのはモンサント社だけではありません。多くの会社が同じ違反行為を繰り返して、同じ被害を生んでいます。刑事的責任を追及する法律が必要ですが、損害賠償として民事的な請求をすることができても、多国籍企業の上層部を刑事訴訟することはできず、無罪となってしまいます。規制を管理している行政のなかでも情報開示がされず、透明性がない状況に対して、〈環境罪〉のようなものを作る必要があるのではないでしょうか。
日本企業における「天下り」に対して、アメリカでは「回転ドア」と呼ばれる、政府の要職や官僚スタッフが民間企業との間を行ったり来たりするシステムにより、自分たちの利益ばかりを追及する人たちをポストに据えることを行なっています。これは農業のみならず民主主義の根幹に関わってくる問題です。
モンサント社との闘いに勝つためには、私たち市民が食料などの消費しているものに対して常に意識を高めること、そして有機農作物を産地直送で買う方法があります。日本には提携という素晴らしいシステムがあり、素晴らしいモデルとして世界の人たちにインスピレーションを与え続けています。生産者と消費者の密接な関係こそがアグロビジネスの罠に陥らずに威厳を持って農業を続けていくことのできる方法なのです。
── 日本でTPPを推進している日本経済団体連合会(経団連)のトップは住友化学の代表取締役会長である米倉弘昌で、住友化学はモンサント社と提携関係にあります。両者の関係について知っていることはありますか。
直接的な情報は得ていませんが、何らかの関連のある可能性はあるでしょう。モンサント社は、国から助成を受けている大企業とその対極に、その企業に依存せねばならない小さな農家がある、という構図の代表格ですから。メキシコでNAFTA(北米自由貿易協定)の影響を調べましたが、モンサント社の遺伝子組み換えトウモロコシのせいで生産費よりも安く売られることになり、この20年で300万人の農家が自分の職業を放棄せずにはいられない状況に追い込まれています。そして、単一作物の大規模農業は地球温暖化に対しても悪い影響があります。
メキシコでは2007年に「トルティーヤの危機」と呼ばれることが起きました。モンサント社と提携している穀物商社カーギルがトウモロコシを2倍高く売りたいがために備蓄をストックしたのです。そのようにしてモンサント社は食物の生産の流れをコントロールして世界制覇をしようという野望があるのです。食物の元となる種を特許によってGM種子をすべて特許化することにより、遺伝子組み換え作物を生産している農家の人たちは、実を結んだ後、それを次の年にもう一度蒔くことができません。来年の種子は再度ロイヤリティを払って種子を買わなければならないのです。
映画『モンサントの不自然な食べもの』より
さらに、メキシコではGM作物の栽培は禁止されているのですが、密売によりGMOが育てられているという疑惑があります。そこにモンサント社が関わっている可能性が高いのです。モンサント社は、そうして自然交配を仕掛け、ある日「特許化されているGMOの種子があなたの畑で見つかりましたよ」と、特許料を請求するのです。
遺伝子操作がどんな結果を及ぼすかという正確な実験は行われていない
── 遺伝子組み換え作物を体内に取り込んだときの実際の危険性については、なにか情報を持っていますか?
問題は、この映画でマリアンスキ博士が語っているように、「実質的同等性の原則」を了解事項とすることによって、いかに巧妙にモンサント社がFDA(アメリカ食品医薬品局)に入って規制を牛耳っているか、ということです。それは科学的なデータに基づいたコンセプトではなく、政治的判断で決めてしまった。
実質的同等性とは、遺伝子組換え食品の安全性を従来の食品と比較することによって判断する考え方です。人類が長い間食べ続けてきて問題ない作物については、遺伝子組み換え作物でも、食べる部分についてその栄養成分組成や内容が従来の農作物と同じであれば、実質的に同じである、ゆえに安全であるという論理です。
この「実質的同等性の原則」により、GM大豆も在来大豆も一緒だと言い切ってしまえば、テストをする必要性をゼロにしてしまう。モンサント社には、検査をしてほしくなかったという思惑があるのです。アメリカで「実質的同等性の原則」が可決され、その後ヨーロッパでもそれを盲目的に受け入れる状況になりました。
私は、フランスの元環境相の首相で、緑の党の党員だった女性に会いました。彼女は、98年に遺伝子組み換えの作物の輸入協定にサインした人物で、なぜそんなことをしたのか聞いたのですが「アメリカのFDAを信頼できる機関だと思っていたので、当然サインをしてもいいと思った」という答えでした。しかし彼女は私の映画を観て、「事実がわかりました、私は騙されていました」と教えてくれたのです。
映画『モンサントの不自然な食べもの』より
ですから、遺伝子操作が人間の体にどんな結果を及ぼすのか、正確な実験は行われていないのです。確かに、ラットを使った試験は28日間行われましたが、長期スパンではない実験では意味がありません。独立した科学者がもっと試験を行おうとすると、みな職を失ったり団体から外されてしまいます。もしモンサント社が人体に影響がないと確信があるのであれば、当然、ラットの平均的寿命である2年間は、遺伝子組み換え作物の毒性を調べるための試験を行い、いちばん優秀な科学者を雇い、予算を出すはずです。そこでの2年間のテストで白だと証明されれば、モンサント社は潔白だと証明される。しかし彼らはそれを行わなかったのです。
アメリカ国民は、45年も遺伝子組み換えの大豆油、菜種油、トウモロコシを栽培し続け、GMの飼料で育てた牛や豚や鶏を食べ続けています。しかしそれに対するモニタリングはまったくされていない。様々な作物が混在しているので、それぞれの作物に対する独立した結果がでない、それはモンサント社にとって都合がいいのです。アメリカで遺伝子組み換え作物が使用されて以来、アレルギー症状を出す人たちが非常に増えている。それはGMを摂取したことによるものだということは、ひとつの仮説として考えられます。
まれな例として、スコットランドの科学者が、GM作物を食べたラットが異常をきたしたことを実験で発表しましたが、その科学者は解雇されてしまいました。調査が途中で頓挫してしまうこと、そしてそうした結果を追求しようとする姿勢がないことが問題なのです。
(取材・構成:駒井憲嗣)
STOP TPP!官邸前アクション Special Program
2012年9月18日(火)
16:30~17:00 銀座・日本モンサント株式会社で行動
18:00~20:00 首相官邸前でのアクション
http://notpp.jp/18S.html
http://stoptppaction.blogspot.jp/
映画『モンサントの不自然な食べもの』
渋谷アップリンク他、
全国順次ロードショー公開中
監督:マリー=モニク・ロバン
カナダ国立映画制作庁・アルテフランス共同製作
原題:Le monde selon Monsanto
協力:作品社、大地を守る会、食と農から生物多様性を考える市民ネットワーク
2008年/フランス、カナダ、ドイツ/108分
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/monsanto/
▼『モンサントの不自然な食べもの』予告編