映画『ソハの地下水道』より
脚本家のデヴィッド・F・シャムーンが目にしたカナダの新聞記事から構想を広げていったという今作は、真実の重みを感じさせる。1943年、戦時下のポーランドを舞台に、下水処理工の主人公ソハと、強制収容所行きを逃れるために地下水道に身を潜めていたユダヤ人グループとの関係をリアリティ溢れる筆致で描いている。極限状態が続く水道内という閉所での人間模様の身を切るような展開に息を呑む。そしてなんといっても、過酷な状況下で生きるためなら犯罪も厭わないソハの偽りのない人間性に魅了される。
映画『ソハの地下水道』より
当初は金目的で彼らをかくまっていたものの、彼らとの交流から次第にユダヤ人たちをどうにか地下から救い出すことはできないかと画策するようになる。自分と家族を守るために金は必要だし、非人道的な行為に晒されているユダヤ人たちもほおっておけない。その板挟みのなかで、ソハは決断を迫られる。彼の人間臭さこそが、この実話をベースにした物語がさらに共感を持って迎えられることになった要因であると思う。
<映画『ソハの地下水道』より
ヤン・ヨンヒ監督がwebDICEのインタビューで「ユダヤ人についての映画をはじめるときに、字幕の説明はいらない」と語っていたように、強制収容所にまつわる歴史は多くの人の脳裏に刻まれている。だからこそ、今作のような、単なる英雄譚でははく、人間の闇も光も同時に映し出そうとする作品の存在は貴重だ。
映画『ソハの地下水道』
9月22日(土)、TOHOシネマズ シャンテ他にて全国順次ロードショー
1943年、ポーランドの街ルヴフ(現在のウクライナ領リヴィウ)。下水修理と空き巣稼業で妻子を養っているソハが、強制収容所行きを逃れようと地下水道に繋がる穴を掘っているユダヤ人グループを発見した。ドイツ軍に売り渡せば報奨金を得られるが、狡猾なソハはユダヤ人たちを地下の隠れ場所に匿ってやり、その見返りの金を日々の生活の糧にしようと思いつく。ソハは複雑怪奇な迷路のごとき地下水道の構造を、この街で最も知り尽くした男なのだ。
脚本:デヴィッド・F・シャムーン
原作:ロバート・マーシャル 『ソハの地下水道』(集英社文庫)
プロデューサー:シュテファン・ロイター、パトリック・ニッペル、マルク=ダニエル・ディシャン、レアンダー・カレル、ユリウシュ・マフルスキ、エリック・ヨーダン、ポール・シュテファン
撮影:ヨランタ・ディレフスカ
美術:アーウィン・プリブ
編集:ミハウ・チャルネツキ
音楽:アントニ・コマサ=ワザルキェヴィチ
出演:ロベルト・ヴィェンツキェヴィチ、ベンノ・フユルマン、アグニェシュカ・グロホフスカ、マリア・シュラーダー、ヘルバート・クナウプ、キンガ・プライス
後援:ポーランド広報文化センター
配給:アルバトロス・フィルム、クロックワークス
2011年/ドイツ・ポーランド合作/ポーランド、ウクライナ、イディッシュ、ドイツ語/ビスタサイズ/デジタル5.1ch/145分
公式サイト:http://www.sohachika.com
▼『ソハの地下水道』予告編