骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2012-09-14 23:55


キアロスタミ監督の映画は「本来の人の姿、人のとらえ難さ」に忠実だと思う

日本人俳優を使い日本で作られた『ライク・サムワン・イン・ラブ』クロスレビュー
キアロスタミ監督の映画は「本来の人の姿、人のとらえ難さ」に忠実だと思う
映画『ライク・サムワン・イン・ラブ』より (c)mk2/eurospace

登場人物はロマンスグレーの元大学教授、デートクラブに出入りする若い女性、彼女の婚約者だという青年。この3人の会話を中心に、次第にその3者の関係が変わっていくさまを淡々と描いていく。言ってみればそれだけなの骨格だけのストーリーなのだが、キアロスタミの手にかかるとここまで緊張感とスリルに満ちた映画になる。キアロスタミ本人を投影したかのような大学教授の、少女を見る眼差しと、どこか上の空の当人の噛み合わなさ。強引に彼女に迫る男も、いわゆる「悪い男」のようには見えず、元教授を少女の祖父だと勘違いし、自分の思いのたけを語り始める。車を運転しながら、それを否定するでもなく聞く初老もまんざらではないような表情をしている。

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映画『ライク・サムワン・イン・ラブ』より (c)mk2/eurospace

奥野匡、高梨臨、加瀬亮の演技と感じさせない演技のアンサンブルから生まれる、不穏ではあるけれど、決して不快ではないその三角関係の空気。ゆっくりとしたテンポで流れていく、どこにでもある風景のなかに様々な暗喩を潜ませる(ように感じさせる)カットなど、キアロスタミ独自の演出法は、ここ日本を舞台にしても遺憾なく発揮されているようである。そして、唐突に目の前に現れるラストシーンに、観客はまんまと現実と虚構の境目を常に鋭くえぐるキアロスタミの術中にはまってしまったことの驚きとともに、顔をほころばすことは間違いない。

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映画『ライク・サムワン・イン・ラブ』より (c)mk2/eurospace



映画『ライク・サムワン・イン・ラブ』
9月15日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開

80歳を超え、現役を引退した元大学教授のタカシ(奥野匡)は、亡妻にも似た一人の若い女性明子(高梨臨)を、デートクラブを通して家に呼ぶ。整えられたダイニングテーブルには、タカシによってワインと桜海老のスープが準備されるが、まどろむ明子は手をつけようともしない。明子はむしろ、彼女に会うためにいなかから出てきた祖母と会えなかったこと、駅に置き去りにしてきたことが気にかかっている。 翌朝、明子が通う大学まで車で送ったタカシの前に、彼女の婚約者だというノリアキ(加瀬亮)という青年が現れる。ノリアキはタカシを明子の祖父と勘違いする。運命の歯車が廻りだす―。

監督:アッバス・キアロスタミ
出演:奥野匡、高梨臨、加瀬亮
撮影:柳島克己
編集:バーマン・キアロスタミ
美術:磯見俊裕
録音:菊池信之
製作:ユーロスペース+mk2
配給:ユーロスペース
2012年/日本・フランス共同製作/109分/DCP/1:1.66
公式HP:http://www.likesomeoneinlove.jp/

▼『ライク・サムワン・イン・ラブ』予告編



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