骰子の眼

東京都 千代田区

2012-07-17 17:10


「グリーンアクティブは緑のロビイストです」中沢新一氏インタビュー

日本でも「緑の党」結成が近いなか、そのネットワークの本当の目的を聞く
「グリーンアクティブは緑のロビイストです」中沢新一氏インタビュー
中沢新一氏

2012年2月に立ち上げ記者会見が行われて以降、その動向が注目されてきたグリーンアクティブ。ヨーロッパ諸国で環境問題の側面から政治に影響力を持つ「緑の党」が、「緑の未来」を中心に7月28日に日本でも設立されることが報道されるなか、webDICEでは中沢新一氏にあらためて、どんな戦略を持って現実の政治に影響を与えようとしているのか、インタビューを依頼。選挙期間中のネットの使用についても考えを聞いた。

グリーンアクティブは政治権力と関係のない政治性をもった運動体

──webDICEではグリーンアクティブの1月の脱原発世界会議でのステイトメントを取り上げ、2月の衆議院議員会館での記者会見も取り上げました。会見から5ヵ月経って、具体的な戦略をお聞きしたくて。

5月5日あたりに原発が全停止するということで、そこに向けて大きなうねりを作っていこうと加藤登紀子さんが言っていて、1、2ヵ月それに集中してしまいました。おかげですっかり左翼のレッテルを貼られてしまいました。でも、もとももとグリーンアクティブは反原発運動ではありませんし、もっと広い、緑の意識を可視化することが目的で、産業や農業、生物多様性の問題のほうが実は重要なんです。

これからシフトがはじまります。地方で活動してる人たちのネットワークを形成していくのは大きなテーマで、これはだんだんできていっています。例えば、福井の大飯原発の再稼働という問題をグリーンアクティブでどのように取り組んでいくか、というひとつの実験として、6月3日に「ニソの杜から日本の未来を考えるシンポジウム」を行いました。

エネルギー問題には都市と地方の問題が繋がっています。電力消費地である都市の人が脱原発を叫んでも、生産地のほうからは「俺たちの生活はどうなる」という声が挙がる。たとえ原発が停止しても、小浜も大飯も地域は決して滅びてはいかないという、産業と雇用の形態を準備しておかないといけない。そうでないと説得できない。

──グリーンアクティブは政治団体ではないのですか?

政治権力と関係のない政治性をもった運動体です。

──市民運動的なものと理解したほうがいいのでしょうか?

その市民という言葉の意味がよくわかりません。

──日本の市民ということであれば、日本で生活している人、ということでしょうか。

「市民」という言葉は、労組などが主導する運動ではなく、「ふつうの人々」による新しいタイプの運動という意味で使われはじめたんでしょうね。citizenという言葉はもともとcityが語源でしょう。市民運動ということになると、都市住民の意識が中心となります。その人たちは日本の自然とは触れていません。グリーンアクティブが大事にしたいのは、日本の自然ともう一度回路を作り直していくこと。若者がそういう回路に組み込まれてくることを目指そうとしている。そのためいわゆる従来型の市民運動とは一線を画すところがあります。

──政治に対する信頼がない現在、具体的に投票しようと思ったときに、民主党も自民党も同じ政策なっている事態に、政党支持をしない人が多いと思うんです。その受け皿に「緑の党のようなもの」あるいは「緑の党」の人たちがなるのではないかと思いました。

グリーンアクティブそのものはロビー活動に徹して政治状況に圧力をかけます。選挙にはもっと大きなネットワークを形成して挑戦していくことになります。

──AERAのインタビュー(2012年3月5日号)で、「政治的な人間でない私がこんなことを始めたことに驚いた人もいたと思います」と語っていますよね。

「政治」は広範に渡っています。グリーンアクティブの活動を政治候補を立てるのか立てないのか、という問題だけに集約することはできません。

いまどういう選挙の取り組みをしていくか、模索しています。実はグリーンアクティブで選挙に出たい、という若い人たちたちが現れてきています。選挙資金をネット調達して自分たちでやりたいという人たちです。この人たちを擁立して、グリーンアクティブとして選挙をやるか、それについては今模索中、と答えておきます。そうすると、緑の党が7月に結党します。彼らとの連携が鍵を握るでしょう。しかしそうなるといくつかの既成政党が打撃を受けることになるでしょう。たとえば共産党や社民党。この問題は調整が必要です。

──共産党が前都道府県に立候補者を立てる、と表明して、民主党の票が減るので、自民党が喜んでいると新聞に出ていました。

僕が韓国の人がやったような強力なネガティブキャンペーンを日本でもやろうと主張していますが、グリーンアクティブの「ブランディング」を考える人たちは反対しています(笑)。

しかし、脱原発を言っている候補者にグリーンシールを貼っていく戦略も決定的とは言えません。

──それはどういうところなのですか。

ほぼ全員が脱原発を言うだろうから(笑)。TPPの問題は非常に複雑だから、簡単に賛成反対だけで決定できないでしょう。いま原発と言えば、即座の脱原発か、それとも推進派という二極対立になっていますが、この問題も選択肢はグラデーションがあります。それを可視化するツールを作製中です。

はじめて投票に行く若者の投票先となる受け皿を作ることは、大変難しいですが、この可能性も探っているところです。

グリーンアクティブは政治権力と関係のない政治性をもった運動体

──僕は現実原則とは別のフィクションが人の心に与える力を、信じています。しかし、いくら映画の上映という人の感性に訴えかけることをしたところで、そこから何が変わるのかとも思うときもあります。ならば文化的な人たちが行う政治的なグリーンアクティブの運動に期待したいと思ったのです。

ひとりひとりがグリーンアクティブに変えていく方向に行こう

──グリーンアクティブから具体的なメッセージが発せられないので、これは何かに期待するより、自分で動け、というメッセージかなと深読みしてしまいました。

そのとおりだね。いま、どうしてこういう状況になってしまったのかというと、原発の問題もそうだけれど、人任せ、ということが日本の社会の隅々にまで行き渡ってしまってしまった。原発再稼働の問題にしても、住民と自治体、政府がおたがい完全に分離してしまっている。住民の意志が通じない。小浜の人だって若狭の人だって、再稼働はいやなんですよ。だけど、口に出して言えない状況を作ってしまっている。この状況が、日本全国でいろんなレベルで展開している。宮台(真司)さんも「これは民主主義を通じて、行政側との通路を作っていくためにいろんな会議をやらなきゃいけない」と言っている。都市市民だけじゃなくて、福島や福井といった難しい問題を抱えた地方の人々の声とパイプを作っていかなければいけないでしょう。

今までの左翼が失敗していたのは、外から「さあ動け」と言っていたから。それでは動かないんです。旗を振ったとたんに孤立して、自分がそこに住めなくなってしまうのが解っていますから。だけど、現状がいやだ、というのは国民に行き渡っている。となると、これを変えていかなければいけない状況になっているとしたら、あなたが言ったみたいに、ひとりひとりがグリーンアクティブに変えていく方向に行こう、という、その一歩を自分が踏み出してみるしかない、ということなんだろうと思うんです。

僕らはそのために立ち上がった。しかし今まで通りの政治運動をする人みたいな振る舞いをしたのではだめなんじゃないか。来年早々には解散総選挙となるでしょう。既存の政治パターンにはまってしまわないで、それにも参画するという離れ業を考えているんです。

──衆議院会館で記者会見をしていたので、具体的に政治活動をやるのかとつい錯覚してしまいました。

あれはなりゆきでしたから(笑)。でもあんまりクリエイティブに行動すると、浮いちゃうでしょ。この国では。

──有権者が自分たちの考える社会を作ってほしい代議士を選ぶ。グリーンアクティブにはその受け皿になるんじゃないかと期待があったのですが。

また、そう言って僕らをはめようとする(笑)。代議士はひとり、ふたり当選しても力はないんです。数に委ねていくということをすると、必ず従来のやり方に戻ってしまう。橋下さんたちの維新の会はたぶん伸びていくと思いますけれど、その先何が起こるかというと、あまり変わらないんです。それを変えていくためには、ふつうの人たちを一歩でも二歩でも現実のほうへ巻き込んでいけるような運動を作らなければいけない。それがグリーンアクティブの目指すところです。

ひとりひとりがグリーンアクティブに変えていく方向に行こう

──そうすると、映画の上映を行ったり、ミュージシャンがライブを行ったり、カルチャーの側面で人々の考え方や心のあり方を変えようとしているのと、大きくは変わらないということですか。

カルチャープラス産業が必要なんじゃないかな。特に一次産業ですね。カルチャーだけだとだめなんじゃないか。例えば音楽をやっていても、空間を作ってそこにタコツボのように入っていくのは、気持ちがいい。フェスの空間を作って、人を動員して集めてはいくんだけど、一時的に高揚してもそこで内部燃焼してしまって、少しも変わっていかない。それよりも、仕事を持たない若者と一緒に農業や林業をやったりして、人間と自然の関係の踏み込みをもっと深くしていって、作った作物を流通に乗せて、生産商品が動く構造を作って、そこへ音楽が組み込まれるとか。アジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)の後藤(正文)君とかミュージシャンでもこういうことに関心を持っている人は多いですから。そういうときに初めて、次の変化が出てくるんじゃないかと思うんです。もう「赤い政治」からの思考の脱却を図ろうよ。「緑の政治」はちがう道を探っているんだよ。

高円寺のデモなどは、たいへんユニークな取り組みです。なぜあんなことが可能になったのか考えると、阿佐ヶ谷や高円寺の飲み屋文化の歴史的背景も考えなくちゃいけないし、阿波踊りも背景にあると思う。ああいう動きを杉並や高円寺界隈の外に広がっていく状況をこれから作り出していかなきゃいけないでしょうね。

そういう実験を大阪でもこの夏に備えてやってみたいんです。原発を停止したままでこの夏を越えていかなきゃいけない(※このインタビュー大飯原発再稼動前に行われた)。そのためには関西の若い人たちの生活形態をエネルギーシフトした状態で前倒しで持っていかなきゃいけない。それは単に再稼働反対とか、何万人集めたとか、それだけではない、大阪や京都の若い連中の生活の仕方自体を、根っこのところを何センチでもいいから変えていく運動をグリーンアクティブでやろうと思っているんです。節電じゃなくて、むしろエネルギーシフトのライフスタイルを実践してしまうんだと。電力消費量を下げてしまうということを積極的にやっていく、しかもその表現方法はあのデモとよく似た形態になると思うんです。御堂筋を埋め尽くしていくような状態を作り出していきたいと思います。関西の人たちの協力によりますけれど。

ネットで選挙活動する作戦をこれから立てる

──今は公職選挙法で、選挙期間中ネットの更新を行えません。そこが変わるだけで、既成の立候補者たちをひっくり返す可能性はあると思います。例えば次の選挙のときゲリラ的に、ネットを使って選挙運動をやると、それが千人万人単位で動いていけば選挙違反として逮捕できないのではないでしょうか。

選挙期間中もネットを使用する運動もやりたいと思っています。やっぱり法律を変えるには政治が必要ですから。我々の考え方に賛同してくれる議員だったら、自民党でも民主党でも共産党でも緑の党でも僕らは推していきます。そのなかでいちばん有力なのはネットです。ネットで選挙活動できないという問題を突破するにはどうしたらよいか、この作戦はこれからみんなで立てていくしかないね。

しかし、ネットだけでもだめだというのがよく解ってきました。アートやカルチャーはひとつのカルチャーのなかでまとまってしまうでしょ。今のネットも、広がっていく状況よりもその中に人々の意志を溜めてしまうだけで、それを外側にアクティブに出していくという機構が十分に働いていない気がするんです。ネットを使った動員革命は、第三世界、エジプトやシリア、中近東で起きたことですけれど、もともとインフラは整備されていませんし、中国のように緻密なネット管制も敷いていないところでしたが、日本のネット利用状況を考えてみると、あのように人々を街頭に引き出す力がなくて、むしろネットの中でぜんぶ解決してしまっている。ただ、津田くんの『動員の革命』が言ってるのは、中東みたいに街頭に民衆を繰り出させるということだけではなくて、いろんなかたちで法律を変えていく。議員の立ち位置に制限を加えていく。こういう圧力を加えていく力になっていく、ということなのではないかな。

──ネットは多様なようでいて、使い方次第ですが、興味のある世界に奥深く入り込み、タコツボ化しているのはよく解ります。

それを横に繋いでいくためには、もう一歩上の考え方にそれぞれの集団が飛躍していかないと結びつかない。映画をやっている人は映画をやっている場でグリーンアクティブをしていけばいいし、いとうくんは文学をやったりラップをやりながらグリーンアクティブしていけばいい。津田くんだったら、外側にアクチュアライズしていかないネットを外に方向づけていくことも可能かもしれない。そうなったとき、選挙戦にも影響が出てくるでしょう。

政党政治を上から越えていく活動

──そもそも中沢さんは現実原則の政治の世界を信じて、そこで変えていこうと思っているのですか?

小さい現実から現実原則の世界と夢の世界を分離するな、相互に影響を与えあえ、というのがシュールレアリズムの宣言だったけど、その意味では僕はシュールレアリストに賛成するよ。現実世界の何かを変えていくには、法律を変えていかなければいけない。法律を変えるには、機能を果たす人たちがいなければいけない。だから、運動のエージェント、代理人は必要です。選挙は目的ではなくて、法律を変えていくための細々した積み重ねのための手段です。それはものすごい重要で、ひとつの法律を変えていくためには議員が必要で、その代理人は、それはどんな政党でも構わない。我々がそれに対して圧力を加えていくことができる勢力になれば、共産党でも構わないし、社民党でもいいし、緑の党でもいい。

──政党というよりは、自分たちがロビー集団となるということですか。

そうです。僕たちはロビイストです。緑のロビイストとなって、いろんな緑の意識を持った人々が集まるプラットフォームになって、その代理人として動いてくれる人々を集めようとしています。

アメリカのティーパーティーがそのロビイストの機能を果たして、いまちょっと変な方向に進んでいますけれど、最初に抱いていた政治に関するイメージは、緑系の、反TPPのティーパーティーでした。グリーンアクティブのなかには政党を立てたいという人もいますから、そういう人たちを抱き込んで進んでいますが、でも僕の考えはロビー活動ですね。

──では、ロビイストとして、どの法律を今いちばん変えたいと思っているのですか。

エネルギー関連は進み始めているんです。そしてTPPと自由貿易に関わること、これは非常に大きい問題です。日本の産業や暮らし全体の細々したことにいちばん影響力を及ぼすのはこの問題なんです。グローバリズムとどう日本人が対処していくかという問題、そのための代理人が必要だと思っています。

それからこれは僕の個人的なグリーンアクションなんだけれど、「原発アースダイバー」という行為をはじめるます。原発立地にすべてアースダイブしていく。そうすると、法則性が見えてくるんです。日本人がいったいそういうところにどのような意識で原発を設置してきたのか、その産業の構造がどうなのかを全て浮き彫りにしてみたい。これを文化と政治の問題の焦点のようなもので、読みものとしても面白いものを作っていきたいと思います。

──緑のティーパーティーというポジションは解りました。そこから先の具体的なことは保留ということですね。

いま議会政治、政党政治が行き詰まっていることは確かで、それをどう乗り越えていくか、ということで、いま出ている第三極が誰か、というのは、単に新しい政党政治のための器なんです。そうではなくて、議員はどこの政党でもいいです、我々の考え方に賛同して、法律を変える為の活動をしてくれる人だったら誰でも使いましょう、と政党政治を僕らはその上から越えていきたいんです。

──別の言い方をすると、議員をウォッチングする。

ウォッチングし続けるネット上のシステムを、津田大介さんたちは立ち上げようとしています。

──最後に、市民に変わる別の言葉ってあるのでしょうか。

コモンズのほうがだんぜんいいなあ。人間だけじゃなくて、地域に根ざして生きている主権者のこと。動物も植物もコモンズだよ。これは僕の夢に属することですけれど、動物の権利、植物の権利、そして人間の権利を含めてコモンズという概念を日本風に作りたいのです。市民って311以後の日本人の考え方にあまり対応していないという気がするんです。

──確かに東京に住む多くの市民は福島を切り捨てていますね。

311以降の日本人に浮上したものって、市民だけでこの日本は作られていない、という事実。そこをつかまえたいなあ。それはコモンズでもいいよ。いい名前があったら教えてください(笑)。

(インタビュー:浅井隆 構成:駒井憲嗣)



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