ズビグニエフ・カルコフスキー
ポーランド人音楽家、ズビグニエフ・カルコフスキーは現代音楽/コンピューター音楽のプロフェッショナルとしてオーケストラや室内楽の作品を数多く手がける一方で、30年にわたりノイズ/実験音楽のシーンで活動を続けているユニークな音楽家だ。現在東京に拠点を構えつつ、世界各地で作曲/演奏活動を精力的に展開する彼が、その移動の最中に出会ったアーティストたちと作り上げた映像作品を集めた上映会&ライブイベント『two degrees of freedom / back and forth』(二つの自由度/往復)を7月18日(水)に渋谷UPLINK FACTORYで開催する。
世界中のツアーをブッキングからすべてひとりでこなす
「日本に初めて来たのは1993年で、国立音楽大学と大阪芸大にアーティスト・イン・レジデンスとして招かれました。そこでメルツバウ、灰野敬二さん、大友良英さんなど多くのエクスペリメンタル・ミュージックのアーティストに出会えたことが大きかったですね。それで日本に移り住むことを考え始めました」。
ズビグニエフ・カルコフスキー
その後、1995年にはブリクサ・バーゲルト(アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン)のプロジェクト『The Execution Of Precious Memories』に参加し東京と大阪でライブを行うなど、海外と日本を行き来しながら、世界各地に点在するアヴァンギャルドな音楽家を繋ぐ橋渡し的な役目を担ってきた。東京を拠点にしているとはいえ、1年間に30から40回という数のパフォーマンスを世界各地で行なっている彼だが、マネージメントもつけず、携帯も持たず、自分のウェブサイトやフェイスブックでアピールしたりすることとにさえ興味を持たない。
「エクスペリメンタル・ミュージックのシーンはとても小さくてお互いが顔見知りだから、例えばヨーロッパで15ヶ所のツアーを行う、という場合でもいくつかメールを打てば6時間でブッキングできる。自分のホームページを作る必要性がないんだよ(笑)。ライブも、コンピューターをセットして電源を入れるだけなんだから、マネージャーも必要ない。
フェスティバルはフェスティバルの主催者がプロモーションしている。そこに自分が前に立って自分自身のプロモーションをしなくてもいい。プロモーションという仕事はフェスティバルであればフェスティバルの開催者が、レーベルであればレーベルがするものであって、自分自身のことを自分でプロモーションするのは傲慢ではないだろうか。自分にとってプロモーションはガマンする仕事でしかない。
ヨーロッパは、伝統的にアーティストへのサポートの基盤がある。アーティストを招聘したりする場合や、アップリンク・ファクトリーのような場でもどこで演奏していても、ヨーロッパでは政府が援助金を出しているから、その面ではベターだと思う。日本では文化大臣もいないからそうして施策もないから、全てをビジネスにしてサバイブしなくちゃいけない。でも、ヨーロッパも経済破綻の問題で助成金がどんどん削除されつつあるので、10年後にはヨーロッパの状況も日本と同じになるだろうね」。
本来のインプロビゼーションとは何か
東京にいるときは制作に没頭し、また国内・海外のアーティストとの交流を深め、そこで練り上げたものをもって世界各地でパフォーマンスを行う、ということを繰返してきた彼が今いちばんおもしろいと感じている場所はアジアだという。近々、中国、韓国、台湾、マカオ、インドネシア、タイ、マレーシア、シンガポールを巡るツアーを行うそうだ。そんな彼にとって、テクノロジーの進歩は音楽の自由度にどのような影響を与えているのか、聞いてみた。
「『音楽制作を行う上でデジタルのほうが自由か』とよく聞かれるけれど、いまデジタルでないものなんてないでしょう。ベルリンでも中国でも、どの国に行ってもマクドナルドやスターバックスがあるように、全ての人が同じように情報を受取ることができることは、デジタル・カルチャーとインターネットの恩恵でもあり、退屈なところでもある。むしろMax/MSPやスーパーコライダー、リアクターといった多くのソフトといったソフトウェアの自由度のほうが音楽にとっては重要なんです」。
『float』(Atsuko Nojiri & Zbigniew Karkowski)より
今回の渋谷アップリンクでのプロジェクトは、サンフランシスコのthe CompoundとRECOMBINANT MEDIA LABSで制作されたDVD『Continuity』(2007年)から派生したもので、カルコウスキーがAtsuko Nojiri(日本)、ジョージ・カストロ(アルゼンチン)、Moju(スイス)、ブライアン・オレイリー(アメリカ/シンガポール)といった世界各地の映像作家たちとコラボレーションし、彼の音楽による、完成させたばかりの四つの映像作品を上映する。上映終了後に行われるAtsuko Nojiri(映像)とカルコフスキー(演奏)によるライブについて話を向けると、彼はインプロヴァイザー(即興演奏家)と呼ばれることさえもやんわりと否定した。
「準備されたマテリアルを用いているので、純粋なインプロビゼーションとはいえないけれど、もちろんどのように構築していくかは、その場の雰囲気によってどんどん変わってきます。とはいえ、インプロビゼーションなんてただの言葉にすぎません。『インプロビゼーションをやってます』という人に限って、どんな場所でも同じ音を出しているものでしょう。中国にあるアディダスのスニーカー工場で働いている労働者が鳴らしているシュトックハウゼンのような音こそがほんもののインプロビゼーションではないですか(笑)」。
(取材:山本佳奈子[Offshore]、構成:駒井憲嗣)
「two degrees of freedom / back and forth」
(上映&ライブ・パフォーマンス:
Zbigniew Karkowski & Atsuko Nojiri)
2012年7月18日(水)
渋谷アップリンク・ファクトリー
料金:予約1,800円/当日2,000円(共に1ドリンク別)
上映作品
『float』(Atsuko Nojiri & Zbigniew Karkowski)
『tunneling』(Jorge Castro & Zbigniew Karkowski)
『microbend』(Moju & Zbigniew Karkowski)
『horology (for koji tano)』(Brian O'Reilly & Zbigniew Karkowski)
ライブ・パフォーマンス
Zbigniew Karkowski & Atsuko Nojiri『number crunching』(work in progress)
ご予約は下記より
http://www.uplink.co.jp/factory/log/004514.php
▼Zbigniew Karkowski & Atsuko Nojiri "Float" (excerpt)