骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2012-08-16 17:55


門の外は危険とすり込まれるのは現実社会でもあり得ること

家の中に閉じ込められて育つ子どもたちを描く「特殊」なホームドラマ『籠の中の乙女』クロスレビュー
門の外は危険とすり込まれるのは現実社会でもあり得ること
映画『籠の中の乙女』より (c)XXIV All rights reserved

抜けるような青空と銀色に輝くプール、清潔感に溢れた豪邸。そんな夢のような郊外の家庭のなかで繰り広げられる和やかな団欒。しかしそこに突然現れる、ふたりの娘たちと息子のどことなく一本調子の口調と、違和感の残る言葉遣い。「ギリシャ映画界の転機となる、個人的な動機で現代的な映画を撮る新人監督の出現」と称されたヨルゴス・ランティモス監督は、「家の中だけで家族を育てている家族」というシチュエーションのなかから、人間の心理状態を細やかに描写していく。父親が設けたルールに則り、外界から隔離された家族の人間関係は、どことなくユーモラスでさえある。生活が整然としていればいるほど、そしてそこに住む人々が無意識に規則を受け入れていればいるほど、そしてその世界に幸福を感じている表情であればあるほど、この物語の異常性が浮かび上がる。

webdice_IMAGE_ 012 copy
映画『籠の中の乙女』より (c)XXIV All rights reserved

あらためて言うまでもなく、このクリーンかつ不気味な家族の関係に現代社会の様相を投影しながら、ブラックな笑いのなかに真の家庭とは、という問題を突きつける。ストーリーが進行していくにつれ次第に均衡を崩していくファミリーのなかの関係のバランス。それが崩れたとき、なにが起こるか。とても些細な出来事ではあるけれど、その亀裂を極めてサスペンスフルな事件として演出し、観客を奮い上がらせる。第62回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門でグランプリを受賞など、世界から注目を集めているランティモス監督の手腕は確かなものだ。やみくもにセンセーショナルではないけれど、だからこそ強烈な印象を残す、これまで見たこともないラストシーンの余韻に、きっと言葉を失うだろう。


webdice_IMAGE_ 014 copy
映画『籠の中の乙女』より (c)XXIV All rights reserved



映画『籠の中の乙女』
2012年8月18日(土)より、シアター・イメージフォーラムにてロードショー

出演:クリストス・ステルギオグル、ミシェル・ヴァレイ、アンゲリキ・パプーリァ、マリア・ツォニ、クリストス・パサリス、アンナ・カレジドゥ
監督・脚本:ヨルゴス・ランティモス
脚本:エフティミス・フィリプ
製作:ヨルゴス・ツルヤニス
製作総指揮:イラクリス・マヴロイディス
製作補:アティナ・ツァンガリ
撮影:ティミオス・バカタキス
美術・衣裳:エリ・パパゲオルガコプル
編集:ヨルゴス・マブロプサリディス
録音:レアンドロス・ドゥニス
配給:彩プロ
宣伝:アステア
宣伝協力:Playtime
(2009年/ギリシャ/96分)

公式サイト:http://kago-otome.ayapro.ne.jp/




▼『籠の中の乙女』予告編



レビュー(5)


  • munkuさんのレビュー   2012-07-12 12:12

    『籠の中の乙女』:完璧な環境?

     柔らかくて暖かい映像とは裏腹に、衝撃的なシーンがいくつかあり、目を背けたくなる。 生半可な気持ちで観ると痛い目を見る。  試写の時に頂いた資料の中の監督のインタビューには、両親がなぜ自分の子供達をこんなにまで徹底して閉鎖的な環境で育てようと思っ...  続きを読む

  • kikoさんのレビュー   2012-07-16 10:54

    中味が濃く大変ハードな映画─『籠の中の乙女』クロスレビュー

    映画美試写室にて。 webDICE編集部さんのご招待で観賞致しました。 閉塞の中の偏見と悪意の中に育てられた子供は非情で暴力的にしかならない・・そんな恐ろしく気持ち悪い現実を想像させる映画。 不快なかつ独特の個性...  続きを読む

  • ミッチさんのレビュー   2012-07-17 01:54

    『籠の中の乙女』クロスレビュー:この子供たちはどこへ行くのか

     この映画を見終わった後、まるで知らない場所に放り出されたような不安な気持ちになった。いったい、この子供たちははどこへ行こうとしているのか、家族はどうなるのか。  子供を守るために外の社会と遮断するのは、シャマラン監督の「ヴィレッジ」のようでもあり...  続きを読む

  • ぐーぐーさんのレビュー   2012-07-18 04:56

    『籠の中の乙女』クロスレビュー:不思議な感覚

    『籠の中の乙女』・・ この可愛らしいロマンチックなタイトル(と思ったのは私だけ?)と、 ポストカードのようなカラフルな写真のフライヤーのイメージのまま鑑賞したら、 痛い目に合う作品です(笑)。 ある意味、私にとってはホラー映画でした。...  続きを読む

  • 益子信行さんのレビュー   2012-07-29 03:30

    ギリシャの国家を反映?『籠の中の乙女』クロスレビュー

    見たままで感想を述べると、よくわからない作品です。裏を読とろうとすると、ギリシャの国家なのでしょうか?国民は閉ざされた世界の中で、四面楚歌、経済破綻の只中にある。食料、そして国民の生活の中での快楽(余裕)は国外からの物資に頼らなければならない、その、...  続きを読む

コメント(0)