映画『籠の中の乙女』より (c)XXIV All rights reserved
抜けるような青空と銀色に輝くプール、清潔感に溢れた豪邸。そんな夢のような郊外の家庭のなかで繰り広げられる和やかな団欒。しかしそこに突然現れる、ふたりの娘たちと息子のどことなく一本調子の口調と、違和感の残る言葉遣い。「ギリシャ映画界の転機となる、個人的な動機で現代的な映画を撮る新人監督の出現」と称されたヨルゴス・ランティモス監督は、「家の中だけで家族を育てている家族」というシチュエーションのなかから、人間の心理状態を細やかに描写していく。父親が設けたルールに則り、外界から隔離された家族の人間関係は、どことなくユーモラスでさえある。生活が整然としていればいるほど、そしてそこに住む人々が無意識に規則を受け入れていればいるほど、そしてその世界に幸福を感じている表情であればあるほど、この物語の異常性が浮かび上がる。
映画『籠の中の乙女』より (c)XXIV All rights reserved
あらためて言うまでもなく、このクリーンかつ不気味な家族の関係に現代社会の様相を投影しながら、ブラックな笑いのなかに真の家庭とは、という問題を突きつける。ストーリーが進行していくにつれ次第に均衡を崩していくファミリーのなかの関係のバランス。それが崩れたとき、なにが起こるか。とても些細な出来事ではあるけれど、その亀裂を極めてサスペンスフルな事件として演出し、観客を奮い上がらせる。第62回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門でグランプリを受賞など、世界から注目を集めているランティモス監督の手腕は確かなものだ。やみくもにセンセーショナルではないけれど、だからこそ強烈な印象を残す、これまで見たこともないラストシーンの余韻に、きっと言葉を失うだろう。
映画『籠の中の乙女』より (c)XXIV All rights reserved
映画『籠の中の乙女』
2012年8月18日(土)より、シアター・イメージフォーラムにてロードショー
出演:クリストス・ステルギオグル、ミシェル・ヴァレイ、アンゲリキ・パプーリァ、マリア・ツォニ、クリストス・パサリス、アンナ・カレジドゥ
監督・脚本:ヨルゴス・ランティモス
脚本:エフティミス・フィリプ
製作:ヨルゴス・ツルヤニス
製作総指揮:イラクリス・マヴロイディス
製作補:アティナ・ツァンガリ
撮影:ティミオス・バカタキス
美術・衣裳:エリ・パパゲオルガコプル
編集:ヨルゴス・マブロプサリディス
録音:レアンドロス・ドゥニス
配給:彩プロ
宣伝:アステア
宣伝協力:Playtime
(2009年/ギリシャ/96分)
公式サイト:http://kago-otome.ayapro.ne.jp/
▼『籠の中の乙女』予告編