骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2012-08-08 16:47


人は「時間」によって大人にさせられているのではないだろうか

今泉かおり監督が11歳の少女の葛藤を描くベルリン国際映画祭受賞作『聴こえてる、ふりをしただけ』クロスレビュー
人は「時間」によって大人にさせられているのではないだろうか
映画『聴こえてる、ふりをしただけ』より

11歳の少女、サチを主人公に、今泉かおり監督は「ファンタジーというものがないと分かって、虚しさを知って、それで成長する子どもを描きたかった」と語る。突然の事故で亡くした母親が、魂となって見守ってくれている、という周囲の大人たちの言葉と、死後の世界を否定する考えを示す友人たち、そしてお化けを信じる転校生・希との関係を通じて、ゆっくりとサチの心境が動いていく様を捉える。ここには大人たちが想像し、期待する純粋で無邪気な子どもの姿はない。手探りながら世界のあり方を見つけようとする少女の、肉親の死を受け止める過程と、なかなかそれができないもどかしさを抱えて、それでもコミュニケーションを取ろうとするたどたどしさがとても誠実に描かれている。

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映画『聴こえてる、ふりをしただけ』より

二児の母であり、現役の看護師でもある今泉監督は、自らが子ども時代に味わった体験をもとに、そこに母親としての包容力を加えることで、少女に訪れる喪失感を決して押し付けがましくなく捉えることに成功している。サチが部屋の埃に気づくシーンや、父親が庭の花に水をやる場面、トイレでのサチと希とのやり取りなど、削ぎ落とされたセリフの間にあるひとつひとつのシーンが印象深く、何度も推敲を重ねたというシナリオが持つ強度により、大人がノスタルジーとして表現する子どもではなく、リアルな子どものとまどいを物語に昇華している。

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映画『聴こえてる、ふりをしただけ』より



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映画『聴こえてる、ふりをしただけ』
2012年8月11日(土)より渋谷アップリンク他にて夏休みロードショー

監督・脚本・編集:今泉かおり
撮影:岩永洋
録音:根本飛鳥、宋晋瑞
照明応援:倉本光佑、長田青海
音楽:前村晴奈
出演:野中はな、郷田芽瑠、杉木隆幸、越中亜希、矢島康美、唐戸優香里
配給・宣伝:アップリンク
2012年/日本/99分/16:9/カラー
公式HP:http://www.uplink.co.jp/kikoeteru/




▼『聴こえてる、ふりをしただけ』予告編



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