骰子の眼

music

2012-06-01 23:18


ロンドンは「自分は自分でええんちゃうの」という意識になれる

キング・ミダス・サウンドのメンバーとして来日するKiki Hitomiに聞く「UKでアーティストとして活動する方法」
ロンドンは「自分は自分でええんちゃうの」という意識になれる
キング・ミダス・サウンドのKiki Hitomi

UKの現在のベース・ミュージックのムーブメントの中心的存在であるレーベル・HYPERDUB(ハイパーダブ)の国内では初となるレーベル・ショウケースが6月8日(金)代官山UNITで開催。キング・ミダス・サウンドのメンバーとして来日するKiki Hitomiは、ダブを基調にしたユニットDokkebi Q(ドッケビキュー)の元メンバーであり、それ以前には人気スケートボード・ブランドHEROIN SKATEBOADSのデザイナーの経験を持つ。多彩な才能を駆使し、UKのシーンで気を吐く彼女に来日直前、スカイプで「UKでアーティストとして活動する方法」を聞いた。

アチチュードとしてのパンク

── どんななきっかけでUKで活動することになったのですか?

90年代にUKに渡ったのは、英会話をもっと上達したいなという気持ちで語学留学のために来たんです。子供の頃から絵を描いていたんで すが、別にアートを目指していたわけではなかったんですけれど、こっちに来てから、美術大学に行きたいなと思って、語学学校に行くかたわらカレッジに作品 を出したり、インタビューを受けに行ったりしていたら、サウスロンドンのゴールドスミス・カレッジのグラフィック・デザインに通うことになって。そこで以前の旦那さんと知り合ったんです。彼はロンドンのスケートシーンに携わっている方で、先に卒業して、スケートブランドHEROIN SKATEBOADSを始めたんです。90年代終わりはサイラス&マリアが爆発的にストリートスタイルとしてきていたので、私は学校を卒業してからもグラフィックをやりつつ、HEROIN SKATEBOADSや、そうしたスケートボード業界のブランドでやらせていただいて。なので、音楽はぜんぜんやっていなかったんです。

2006年からかな。その頃から本気で音楽をやりたい、と強く思い始めて。Dokkebi Qというバンドをこっちで知り合ったgorgonnという日本人の男の子とはじめたんです。それまではステージに立てるの!?というすごいシャイだったんですけど、音楽をやることになったのは、ほんま個人的な理由なんです。環境的にまず離婚をして、仕事も無くして、前に進めなくなったんです。同じ生活、ルーティーンで生きていかれへん!と思って。結局脳みそれは新しい刺激で上書きしていかへんかったら、辛い過去をリピートするのは無理だったんでしょうね。早く面白い刺激を入れて前に進まなといかんよ、って信号が出てきたんですよ。で音楽を始めたんですが、それがすごい面白かったんです。

そこで作った1曲が、ちょうどダブステップがロンドンで盛り上がりはじめていたときに取り上げられて。あれよあれよのうちにブッキングが入るようになって、めちゃくちゃガムシャラにやりました。その頃、日本でもブッキングしてもらって日本ツアーをやったり、SXSWにも呼ばれて、テキサスやNYでもプレーしたりと……。Dokkebi Qで音楽のベースを築いた感じです。

Dokkebi Qの2010年作『Hardcore Cherry Bon Bon』

私は昔からレゲエが、とりわけドライ・アンド・ヘヴィのリクルマイさんがすごい好きで、それも歌いたいなと思った理由でもあるんです。gorgonに知り合ったとき、彼もずっとひとりでブレイクコアやノイズをやっていたので、誰かと一緒にやりたいと言ってて、一緒にやる事になりました。

ダブステップはレゲエのサンプルを使ったり、イベントもデジタルダブの人とやったりというイベントも多かったので、レゲエとクロスオーバーするジャンルと文化がある。

それに、ダブステップは当時最新の音楽だった。70年代から90年代にかけてのレゲエも好きなんですけれど、それと同じのをまたやるのは抵抗を感じていました。私は新しいものを開発していく方が好きで、ダブステップってそういうエナジーがあって、音もそういうのが好きだったので、スルスルスルって引きこまれていったんです。

ボーカルというよりボイスパフォーマーとして、ダブを声で表現するのを私もやりつつgorgonnも私の声をエフェクトしてダブワイズしてくれる。サイケデリックな感じにオーディエンスは聴こえるのかな。パンクでしたよね。いまやっているキング・ミダス・サウンドはちょっとしっとりめなんですけれど、Dokkebi Qはハードコアダブパンクみたいな。パンクミュージックのパンクではなくて、アチチュードとしてのパンクでしたね。

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キング・ミダス・サウンド

色んな人種が助けあいがんばってるのがロンドン

── そのパンクな姿勢はアートをはじめた頃から続いていたんですか?

アートをはじめたときは、描いているものはそこまでレベル(反抗)的なパンク的なスピリットでは描いていなかったんです。けれど、私のなかのアートの解釈は、なにか疑問点があって、それをぶつけてみんなで一緒に考えよう、というのがアートだと思っているんです。それは、レイシズムであったり、第三世界の貧困を考えなおそうというものでもあったし、エコロジーもそう。

ロンドンといえばミックスカルチャーで、お金持ちのエリアに住んでいるわけではなくて、下町で、いろんな人種が混じって一緒に住んでいるし、毎日のように人種差別に直面する。日常生活の一部だから。そういうなかで、ステージ上に立ったり、歌詞書いてたりするときに、潜在意識としてパンクなアチチュードがあって、歌詞のなかにも織り込んだりすることもあったし。それは自然でしたね。私は半分韓国人なんですけれど、大阪に住んでたときは、今でこそ韓流ブームで韓国文化は超ポピュラーになってますけど、私が住んでたころはそんなこと起こるなんて予想もできなかった。日本での韓国人に対しての差別は、結婚するんやったら韓国人はむずかしいとかおばあちゃんの世代はあったけれど、ロンドンにいるよりはあからさまではなかった。ロンドンでは、白人の人が目の前で黒人を差別したり、私らはイエローなんで、黒人やパキスタン人から差別されたり白人からも差別されたりが日常なので。それでもみんなごちゃまぜになって色んな人種が助けあってがんばってるというのがロンドンなので、そういうスピリットが入っていますね。

── グラフィックでの表現より、歌の方がより開放的だった?

そうですね、私、器用貧乏で、洋裁とかもできるし絵も描けるし、何がやりたいのってなってたんです。でも歌は、辛くてもぜったいやっていきたかった。やっと見つかった、という感じです。今は歌と音楽がすごいしっくりきていますね。

── 90年代でひとりでUKにわたって以降、現在までひとりでアーティストを続けていくって並大抵のことではできないじゃないですか。

最初はもちろん両親のサポートがありましたけれど、色んな方々のサポートでなんとかやってきました(笑)。

── ブランドをやっていたときは?

スケートブームって10年くらいの周期でくるんです。90年代の終わりはすごいきていて、日本でも売っていたので、その時はいちばん潤ってましたね(笑)。

── 今はどの仕事の収入をベースに活動しているのですか?

グラフィックはあんまりやってないので、ほぼ音楽だけですね。

HYPERDUBはこんな人までリリースするの、という勇敢さがあるレーベル

── HYPERDUBの周辺というのはロンドンでも先端的な音を出している一派と言っていいんでしょうか。

そうですね、ダブステップからはじまったレーベルだけど、今はゴリゴリのダブステップをリリースしているレーベルではないんです。こんど一緒に来日するハイプ・ウィリアムスのディーン・ブラントとインガ・コープランドはぜんぜんダブステップではないですし。いつもボスのKODE 9に言ってるんですけれど「勇敢やね!この人リリースするの」みたいな、売れるか売れへんのかわからないようなエッジィな人をリリースしはるんです。それでも、どのアーティストも磨きがかかっていいとこいってる。ハイプ・ウィリアムスもキング・ミダス・サウンドも含めフリークスの集まりです(笑)。Scratcha DVAという一緒に来日するアーティストがこの間のインタビューで言ってたんですけれど「HYPERDUBは他で扱ってくれへんようなアーティストを受け入れてくれるところで、ちゃんとお化粧をしてきれいな服を着させてキャットウォークに出してくれる。フリークスをちゃんと表舞台に出してくれるところや」って(笑)。

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DVA
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ハイプ・ウィリアムス
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KODE 9

── Kikiさんは、音楽に限らず、いまのUKの状況をどのように見ていますか。

特にダンス・ミュージックでもロックでもそうなんですけれど、なんでロンドンってエッジィな面白い音楽が常に出ているのか考えると、ここの状況が、政治的にもやっぱり過酷だからだと思うんです。今またオリンピックが始まるので、すごい物価も上がっているし。天気も毎日悪いし(笑)、ストレスフルな街で暮らしていて、いい意味でストレスがあるだけに自分を貫いていかないといけない。いいアートやいい音楽が生まれる時というのは、ミュータンティック(突然変異)な感じで生まれる。いろんなものがごちゃまぜになって、新しいものが生まれるみたいなエネルギーを、90年代も2000年代もいまもすごい感じるんです。ガラパゴス諸島でミュータントがすごく生まれるのは、過酷な環境に対応していかなければならないからだそうです。変化していかないとやっていかれへん、そういうのをすごくロンドンで感じるんです。

音楽もそうなんですけれど、ベルリンに移るアーティストの方が多いんですけれど、またロンドンに帰ってくるんです。このストレスがアディクトになるというか、すごい刺激を与えてくれる街だと常に感じます。ジャングルが生まれたときもものすごかったし、ダブステップもそう。そんなエナジーを感じる都市です。去年の夏、うちの近所でもそうでしたけれど、イギリス中で若者による暴動が起きてたんです。今回またオリンピックがあるので、テロも予想されているし、このピリピリした暮らしが、アートや音楽とかいろんなものが生まれる理由なのかな。

── 逆に、自立心を持った、何かをやってやろうという若い人だったら、ハードな状況でもチャンスがある街だと言えるんでしょうか。

私も日本に2回ぐらいまた住もうと思って帰ったことがあるんですけれど、日本だとブレるんです。自分がやりたいと思ってることが、見えなくなってくる。こっちって個人主義的なところもあるし、それでも認められてるというところがある。単独で、周りも突き抜けてやってるアーティストが多いから、「自分は自分でええんちゃうの」という意識になれる環境なんですよね。でもそれはどこ行ってもそうで、自分次第だと思います。東京や大阪でもそうやってる方もいっぱいいるし。私はすごく感化されやすいので、ブレない環境で、というのでロンドンを選んでいるんですけれど。

テクノロジーの進化によって、これから音楽シーンはどうなるのか、 楽しみでもあり不安でもある

── ご自身のホームページ( http://www.hitomihitomi.com/ )でミックステープを発表してますけれど、DJプレイもやるんですか?

いろんなジャンルの曲が好きだし、DJもやりたいからこれから挑戦していきたいんですよね。DJもやって、歌って、ハイプマンもできるように今練習しています!

── 先日もベルベット・アンダーグラウンドのカバーをネットで発表したり、すぐにアップできますものね。

インターネット文化ですごく変わったじゃないですか、21世紀はほとんどコピーライトが幻になって来てて、そういうコンセプトも含めて、@プロジェクトというのでまとめて、ミックステープを使ってウェブ・インスタレーションを発表しようと思っていて。

インターネットによって作品を発表しやすくなっていますけれど、情報も別に雑誌にこれ取り上げてくださいって言わなくてもすぐにネタにしてくれるようになってきている。勝手に20分後に記事になってるみたいな。ツイッターのツイートで記事になってるとか、早いですよね。でも何でもフリーでダウンロードできるようになって、CDも売れなくなってきていたり、そういう悪い点もありますよね。テクノロジーの進化によって、これからどうなるのかな、と楽しみな部分もあるし、不安になる部分もあるし。

キング・ミダス・サウンドのシングル『Goodbye Girl』(2011年)

── キング・ミダス・サウンドの今後の新たな展開は?

キング・ミダス・サウンドシステムというのをはじめようかということになって。アンビエントな曲とかダウンビートな曲をかけつつ、私がラバダブみたいな、インプロでケヴィン・マーティン(THE BUG)がかける曲のなかでいろんな歌を歌ったりボイスパフォーミングをしたりするんです。レゲエのサウンドシステムみたいな感じではなくて、爆音なんですけれど、ダウンビートやドローンみたいなかたちでドープにやりたいなって。もっとアンビエントな感じを入れていきたいなとメンバーで言っていたので、次のアルバムのインスピレーションにもなるし、自然にそういう流れになってきていますよね。

(インタビュー・文:駒井憲嗣)



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HYPERDUB EPISODE 1
2012年6月8日(金)代官山UNIT

出演:KODE9、KING MIDAS SOUND、HYPE WILLIAMS (DEAN BLUNT AND INGA COPELAND)、DVA and more
開場/開演 23:00
料金:前売3,800円/当日4,500円
*20歳未満入場不可。入場時にIDチェック有り。必ず写真付き身分証をご持参ください。
お問い合せ:BEATINK 03-5768-1277
http://www.beatink.com




KING MIDAS SOUND『Without You』

発売中
BRHD009
1,899円(税込)
HYPERDUB / BEAT RECORDS

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▼Evian Christ (Thrown like Jacks) x Velvet Underground (Venus in Furs)


▼King Midas Sound Documentary Part 1 of 2 (Hyperdub 2011)


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