骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2012-05-25 15:00


「アーティストが現場で表現している世界観を使って面白い映像作品を作る」

ボアダムスやブッチャーズなど数々の音楽映像作品を手がける川口潤監督、渋谷アップリンクXで初の特集上映
「アーティストが現場で表現している世界観を使って面白い映像作品を作る」
川口潤監督

ボアダムスの『77BOADRUM』、bloodthirsty butchers『kocorono』をはじめ、数多くのミュージシャンの映像作品を発表してきた川口潤監督の特集上映が2012年5月26日(土)から7日間、渋谷アップリンクXにて行われる。ボアダムスのイベント「77BOADRUM」の映像化で劇場デビューし、その後もミュージシャンの映像記録、PV、DVD、ライブを中心に、音楽番組の演出も多数手掛けてきた川口監督に話を聞いた。

若い頃のほうが「俺だったらこう見せる」という気持ちは強くありました

── 初の特集上映ということで、これだけ濃いアーティストが並ぶと壮観ですね。

こういうことがないと、自分で作品を見返したりすることもないのですが、スペースシャワー時代のチベタン・フリーダム・コンサートのライブ・ドキュメンタリーは自分のルーツとして核のひとつだったので、今回上映したかった。全てのアーティストのクリアランスをとって、スペシャからマスターテープをもらって、CMのところだけカットしなければいけなかったので、久しぶりに観たんですが、めちゃくちゃ青臭かった(笑)。

でも、アーティストの許可が全ておりた後に、ビースティ・ボーイズのMCA(チベタン・フリーダム・コンサートの中心人物)の訃報のニュースが入って、偶然とはいえびっくりして。だからこそ今回上映することができてよかったなと思っています。

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『77BOADRUM』より
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『SPACE SHOWER TV PRESENTS "TIBETAN FREEDOM CONCERT 1999 IN TOKYO"』より

── そのスペシャの頃とくらべてアーティストを撮るときの心構えに変化はありますか。

まず自分がいいと思うアーティストをひとりでも多くの人にも観てもらいたいというのがあって。もちろん仕事なので、それだけじゃない部分もありますが、自分なりのミュージシャンとの接し方とか、撮る画といった部分で、僕とそのアーティストが一緒にやったらこうなる、というのは変わらずあるんです。でも若い頃のほうが、「俺だったらこう見せる」という気持ちは強くありました。今はそういう意識はなくなってきたかもしれないです。アーティストと当初交流のなかったアナーキーを別にすると、2007年のenvyの頃から、中身の面白さに重点を置いたり、自分の個性だけじゃない部分を作品に反映させたいという意識が出てきましたね。

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『transfovista』より
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『アナーキー』より

── 言ってみればenvyがターニングポイント?

この特集にあたって考えるとそうだったのかな。envyというバンドは、今は10年くらいの付き合いですけれど、このメンツのなかでは、いちばん関係が浅いところから制作がスタートした。それまではなかなか表に出ないバンドであったのですが、当時はバンド側も活動を凝縮して、映像を出したいという時期で、僕と一緒に撮影したりするようになったのと、バンド自身がより広く知られていくタイミングと偶然一緒だった。それは彼らなりのやり方だったと思うんですが、僕としてもなんとか彼らをもっと外に出せないかなという気持ちがありました。

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『歪曲巡礼』より

自分のスタンスを大事にしているアーティストを撮る

── 基本的には、川口監督がもともと仲の良いアーティストに、独自の距離感で撮っていくことが多いのでしょうか。

そうですね。もちろん撮ってほしいという第三者からのオファーもありますが、自分からは、ぜんぜん知らないけれどこのアーティストのドキュメンタリーを撮りたいというのはあまりなくて。

ドキュメンタリーって一歩間違うと、対決というか、ケンカでしかなくなってしまう。それが面白いか、そうではないかは、お客さんの判断なので、対決していても面白いかもしれないけれど、「そういう撮り方だったら最初から撮らせない」とアーティストに言われてしまうこともある。特に僕が好むアーティストは、自分たちのスタンスを大事にしている人たちなので。

でも、あらためて考えると、映像を撮りにくいアーティストのところにあえて行って、記録を残しておきたいということもあったのかもしれない。ボアダムスもイースタン・ユースも、なんでも許可してくれる人たちではないですし。

今回上映する作品については、他にもたくさん好きなアーティストがいるなかで、知り合うきっかけがあってタイミングよくライブに呼んでくれた人を撮ることができた、信頼関係があって作ることができたんです。

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『ドッコイ生キテル街ノ中』より

── アーティストの意外な表情を観ることができる、というのが川口監督の作品の魅力だと思うのですが、撮っている最中よりも、編集の段階でそれを気づくことが多いのですか。

バンドやメーカーからなにか映像をだそうと言われることはありましたけれど、ずっと撮っているなかで、自分から作品としてまとめましょうと言ったのはほとんどなくて。

77BOADRUMに関しては、ボアダムスはライブごとに常に進化をするけれど、ライブ記録をDVDで作品として残そうとかあまり頭にない人たちで。一方で、その頃僕は友人の劇場公開作品を観たりしながら「映画ってなんだろう」というのを考えていた時期だったので、密室で大音響で体で感じられるものが映画としてあってもいいんじゃないかと「映画館でやってみたいんです」とバンドに相談して、まとめることになったんです。

── それから『kocorono』が映画監督としては2作目になりました。

『kocorono』はプロデューサーの方から、はじめて映画監督として依頼があって、バンド側に媚びたものを作りたくないという気持ちがありましたし、プロデューサー側もそういうものじゃないと意味がないとおっしゃっていて、結果的にその緊張感によって制作するということで、いちばん苦しみました。映画監督としてどうの、というのはなかったですけれど、やってみて、できたものがいい作品かどうかというのは、まったくわからなかった。いまでもわからないですけれど、そういう意味ではすごくいい経験をさせていただきました。

── ドキュメンタリーでも撮る前に起承転結を考えている監督も少なくないと思うのですが、監督の場合は?

ぜんぜんないですね。あらかじめ決めてしまうと、自分がつまらない。最近気づいたんですけれど、ドキュメンタリーって編集しながら脚本を作っていくんだなと。ドキュメントのなかのストーリーは編集にあると思いました。撮り続けていると、偶然バンドのなかで予期してない出来事が起こるんです。あらかじめストーリーを決めないで撮ると、面白くない作品になってしまうリスクもものすごいあるんですけれど(笑)、でもそれを面白く見せる努力をするのが監督としての仕事なのかな。もちろんそれだけがドキュメンタリーだとは思っていませんけど。

── 川口さんの作品は、バンドと同じ目線で、信頼関係があってこんな画が撮れているんだというのを感じることができます。「こういうプライベートな場面は撮らない」とあらかじめ確認したりするんですか?

仕事ではよくあることですし、「ここは見せないでくれ」というのは普通のことだと思います。自分としてはなにがしらか決めているのかもしれないですが、アーティストが怒ってるとかケンカしてる場面に出会うと、回したくなってしまう。ブッチャーズに関して言うと、事前に「止めてくれ」という部分があったら言ってくれ、と伝えていたんですが、バンドが僕を信頼してくれていたのか、まったくなかった。これはすごく珍しいケースだと思います。

でも僕は、アーティストと近い、それだけが全てだとは思っていない。僕自身も予算があれば自分以外に確実にいい画を撮ってくれて、音声も撮ってくれるスタッフがいたらいいんですけれど、そういうチームを組んでしまうと、ブッチャーズのようなものは撮れなかったでしょうね。

撮影に関しても、自分の手持ちの画がぜったいいいとは思っていなくて、きれいな画も好きだから。音声さんだけでも入れることができればだいぶ違うのにな、というのはいつも思います。でも、僕個人だったら、ブッチャーズにしてもイースタン・ユースにしても10年くらい付き合いがあるけれど、そうするとバンドと僕と音声さんの関係をあらためて築かなければいけないので。

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『kocorono』より

── ドキュメンタリーには、個人を撮りながらそこに社会的な背景を写り込ませる手法というのもあると思います。監督のなかにはそのような意識はありますか?

逆に、そういうことは感じますか?

── 意識して排除はされていないと思うのですが、基本的には純粋にアーティストを追っかけているな、という印象があります。

そうですね。そういう社会的なことを表現するなら別のやり方や対象を選んだほうがいいし、自分をドキュメンタリー作家とも思っていないんです。横柄な意味ではなく、どれにもはまりたくないというのもありますし。ただ、音楽映像としては、それまでどこか一ヵ所のライブを単に収めたものだったり、ツアーの映像がただある、という作品が多かったなかで、ライブだけで、アーティストがライブの場所で表現している世界観で、作品の全体の世界を見せることができて、かつ面白い作品はなんだろう、というのはずっと追求してきました。入れようと思えば「音楽シーンに対して」とか社会的なテーマや背景もいくらでも入れることはできると思っているけれど、僕としては作品のなかでぜんぶやると詰め込みすぎてしまって、その部分の突っ込みも甘くなるだろうし。

そうじゃなくても、例えばブッチャーズの作品を観て「この背景にはCDが売れなくなってきた時代性もあるんだな」とか感じてもらえれば十分だと思いますけれどね。

音楽映像って、商業映画と比べると別のジャンルに見られることが多いじゃないですか。映画業界の人なんて見向きもしないというような。そういうなかで、面白いものをやりたいという意識はすごく感じています。

(取材・文:駒井憲嗣)



川口潤 プロフィール

1973年生まれ。SPACE SHOWER TV/SEP を経て 2000年に独立。SPACE SHOWER TV時代はブライアン・バートンルイス氏と共に「SUB STREAM」「MEGALOMANIACS」といった人気音楽番組を制作。独立後は親交のあるアーティストを中心に映像記録、制作に励み、ミュージックビデオ、DVD、ライブを中心とした音楽番組の演出も多数。07年にニューヨークで行われた野外イベント「77BOADRUM」のライブドキュメンタリー映画を劇場公開作品として2008年7月7日に発表。自主制作、自主配給で日本全国横断、海外上映を果たす。2008年12月に公開された80年代パンクバンド「アナーキー」のドキュメンタリー映画にリミキサーとして参加。劇場公開最新作はbloodthirsty butchersのドキュメンタリー映画『kocorono』(2011年2月公開)。




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『川口潤 監督特集』
2012年5月26日(土)~6月1日(金)連日21:00~
渋谷アップリンクX

※各日作品が違います。ご注意ください。
料金:当日1,200円
川口監督特集の作品の中のアーティスト グッツ(Tシャツ、缶バッチ等)を身に付けてご来場の方は200円割引

5月26日(土)
77BOADRUM『77BOADRUM』

出演:77BOADRUM(V∞REDOMS、Hisham Akira Bharoocha、David Nuss、Brian Chippendale、Jaiko Suzuki、Andrew W.K、David Grubbs、and more)
撮影:Chris Habib、unknown You Tube cameramen
(2008年、89分)

5月27日(日)
『SPACE SHOWER TV PRESENTS "TIBETAN FREEDOM CONCERT 1999 IN TOKYO"』

※本作品は川口潤監督がSPACE SHOWER TV所属時代に製作した番組です。
出演:AUDIO ACTIVE、BRAHMAN、BUFFALO DAUGHTER、忌野清志郎、 Hi-STANDARD、NAWANG KHECHOG、SCHA DARA PARR、高木完、Bryan Burton-Lewis 他
(1999年/107分)
Special Thanks: SPACE SHOWER TV

5月28日(月)
envy『transfovista』

(2007年/120分)

5月29日(火)
アナーキー『アナーキー』
*編集として参加
出演:アナーキー、Aggressive Dogs A.K.A. LYCAON Dog UZI-ONE、亜無亜危異親衛隊、アナーキッズ、石坂マサヨ(ロリータ18号)、イノウエアツシ(ニューロティカ)、遠藤ミチロウ、CAT(KOOL RODZ)、KYONO(THE MAD CAPSULE MARKETS)、甲本ヒロト、花田裕之、増子直純(怒髪天)、三宅洋平FROM犬式(A.K.A.Doggystyle) 他
監督:太田達也(『ノット・サティスファイド』)
リミックス:川口潤
製作:「アナーキー」製作委員会 配給:日本出版販売
(2008年/82分)

5月30日(水)
Shing02『歪曲巡礼』

出演:Shing02 (MC)、DJ A-1(Turntables)、山口元輝(Drums)、竹島愛弓(Violin)、Emi Meyer(Keys & Vocals)、CHIYORI(Vocals) 、西原鶴真(薩摩琵琶) 他
Graphics:鈴木ヒラク
(2009年/100分)

5月31日(木)
eastern youth『ドッコイ生キテル街ノ中』

出演:eastern youth(吉野寿、二宮友和、田森篤哉)
提供:バップ
(2010年/89分)

6月1日(金)
bloodthirsty butchers『kocorono』

主演:bloodthirsty butchers(吉村秀樹、射守矢雄、小松正宏、田渕ひさ子)ほか 出演:中込智子、谷口健、SEIKI、ヒダカトオル、上原子友康、蛯名啓太、小磯卓也、eastern youth、原昌和、磯部正文、Zack de la Rocha 他
音楽:bloodthirsty butchers
撮影・監督補佐:大石規湖 制作:アイランドフィルムズ
協力:リバーラン 製作:「kocorono」製作委員会(キングレコード+日本出版販売)
配給:日本出版販売
(2010年/116分)

【舞台挨拶、トークショウ決定】
2012年5月26日(土)21:00~ 川口潤監督 舞台挨拶
2012年5月27日(日)20:45~ 川口潤監督 × ブライアン バートンルイス トークショウ

▼77BOADRUM『77BOADRUM』予告編


▼Envy「Fading Vision」(『Transfovista』より)


▼アナーキー『アナーキー』予告編


▼Shing02『歪曲巡礼』予告編


▼eastern youth『ドッコイ生キテル街ノ中』予告編(第2弾)


▼映画『kocorono』予告編



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