骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2012-05-05 21:44


ポン・ジュノが絶賛した青春映画 『世界グッドモーニング!!』

5/26(土)渋谷アップリンクで一夜限りの上映決定!ライブや廣原暁監督と同世代の新鋭監督によるトークイベントも
ポン・ジュノが絶賛した青春映画 『世界グッドモーニング!!』
『世界グッドモーニング!!』より

一昨年、世界の国際映画祭に次々と招致され、数多くの賞を授賞した日本インディーズ映画と言えば、廣原暁監督の『世界グッドモーニング!!』だ。
第29回バンクーバー国際映画祭では、新人賞グランプリにあたるドラゴン&タイガー・ヤングシネマ・アワードを授賞、審査員だったポン・ジュノ、そしてジャ・ジャンクー監督らが「日本の社会問題を、若者の目線を介して新鮮に描く、革命的でクリエイティヴな手法に溢れた作品」と絶賛、「まだ世界では知られていない若者だが、真に有望な映画監督である」と太鼓判を押した。
きっと多くの人がスクリーンの中に、かつての自分の姿を見つけたのだろう。そして、「10代だった当時、この作品と出会えていたら、どんなに救われただろう」、そう思わず振り返らせる、そんな作品なのかもしれない。大学の卒業制作として撮った本作が長編デビュー作となり、作品と一緒に、文字通り、自分自身も世界へと羽ばたいた25歳の廣原監督。今年PFFスカラシップ監督に選出され、初の商業映画公開を控えている廣原監督に、デビュー作品が生まれた背景と、当時の想いについてを聞いた。

“人間”という存在の
ロードムービーを撮る

──大学の卒業制作と聞いて、そのスケール感に驚きました。作品制作はどのように始まったのか教えてください。

この作品の前に、大学時代に気合いを入れて撮った映画があるんですけど、出来上がってみたら、全然面白くなかったんですよ(苦笑)。撮っている最中は自信があったんですけど…(笑)、案の定、学内での評価も良くなくて。それで卒業制作は、「人間という存在のロードムービーを撮るんだ!」と意気込みました。

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『世界グッドモーニング!!』の廣原暁監督

──壮大なテーマですが、着想は何だったのですか。

調べ物をしていた時、警視庁のホームページで、身元不明者で亡くなった方のリストを見つけたんです。それで、すごい衝撃を受けて。身元不明の遺体情報が番号分けされていて、身長や手術の痕だとかの遺体の特徴や、所持品が書いてある。それが何百件って掲載されているんですよ。死んだら数字になっちゃうんだ、“生きている”という確実な証はなにもないんだってショックでしたね。
例えば、生前偉業を成し遂げて自分の銅像が立ったり、映画祭で大きな賞を獲ったとしても、銅像が壊されたり、その歴史が書き直されてしまったら、その人が生前どう生きたのか、そのこと事体も残らない。でも、形として残せるものなんて何もないならば、今、この瞬間何ができるかということを考えるしかないんじゃないか、それは決して絶望的なことばかりじゃないだろうという思いが、少しずつ芽生えてきました。

──廣原監督の“生死観”について、もう少し教えてください。

僕は小さい頃から、“死ぬ”ということがすごく怖くて、今でもすごく怖いんです。死んだ後のことをリアルに想像して、夜眠れなくなることがよくあって。最近はあまり考えないようにしていますけど、“死ぬのが怖い”ということと、“でも人間は必ずいつか死ぬ”という事実。それをどう乗り越えるのかということが、自分の中にずっとあります。
生きていればなんとかなるってこと、あるじゃないですか。つらいことも、時間が経てば何とかなる。でも死んだら何も残らない。それを考えると、ぞっとするんです。今まで生きてきて、いろいろやってきたことはどうなるんだって。死んだら全部、下らなくなっちゃうじゃないですか。一生懸命お金を稼いだり、映画祭で賞を獲ったりするのも、意味がなくなってしまう。“生きている間に自分の好きなことすればいいじゃないか”っていう考え方もあるけど、それもなんだか虚しくなるんです。
それが、そもそもの、始まりなのかもしれません。死ぬのが怖いから、映画を撮っているのかな。それは、“生きている間に何かを残したい”ということなのか、それとも、ただ、じっとしていられないからなのかは、わからないんですけど。

──主人公のユウタが、見るものすべてに名前をつけたり、テープレコーダーに日記を吹き込んだりする行動に重なる気がしますが、ユウタは、ご自身が投影されたキャラクターだと思われますか?

自分自身とは違うキャラクターですが、ある部分はそうかもしれません。高校生くらいの時って、なんて世の中はつまらないんだろうと思いがち。でも、今思うと、とても小さな世界しか知らないのに、“人生ってこんなもんだ”と思ってしまう。
僕の実家は、父親が銀行員で堅い方なので、美大に行くと決めた時に反対されたんです。でも、兄弟は結構やんちゃで、8歳離れた兄はドラマーで、姉は靴のデザインをしていて。兄が高校を卒業してバンドを始めた時、父が大反対して兄が家出したり、いろいろあって。そうやって、兄が道を作ってくれたんですよね。それがなかったら、僕は“人間というものは、普通に四年制の大学に行って就職するもの”だと思い込んでいたと思うし、美大に進む時も、兄のおかげで、親の理解も得られやすかったと思います。兄弟の存在は大きくて、兄と姉が自分の道を歩む背中を見て、自分の背中も押されました。映画の中では、最後に出てくる粗大ゴミ収集のお兄ちゃんが、ユウタを導いてくれる存在として、重なっていると思います。
そう考えると、僕自身も、兄がいなかったら(映画を)やってないと思うし、バンクーバーで賞をもらって、ようやく父にも理解をしてもらえました。だから、自分一人の力で何か映画づくりをやっているというよりは、環境によって、やらせてもらっているんだ、という感じがすごく大きいですね。そう気づいたときに、らくな気持ちにもなれたんです。

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『世界グッドモーニング!!』より

世の中のことを
まだ何も知らない

──先ほどのお話に戻りますが、“人間という存在”を描くために、はじめからロードムービーを設定していた理由はなぜですか?

ロードムービー、好きなんですよ(笑)。「どこかに行きたい、どこかに向かいたい」っていう思いがあるんです。
高校生まで、本当に狭い世界で生きていたんですよ。学校も徒歩で行ける距離だったので、他の同級生みたいに、帰りに渋谷に寄ることもなく、学校に行って部活に行って家に帰るという毎日で。この半径1キロの世界から飛び出したい!って(笑)、そういう気持ちがすごく抑えきれなくなって。ある日、旅にでようと思って、富士山のふもとに行ったんです。みんなが受験勉強に一生懸命になっている時期に、突然一人で。でも、まあ、行ったところで、別に何もないんです(笑)。新しい何かとか、発見とかを求めて行ったんですけど、特に何もなく、夜はホテルでテレビとか見て、これじゃ日常生活と一緒だっていう。何かを求めてどこかに行くっていうのは嘘で、向かった先には結局何にもない。それでもやっぱり、どこかに行くっていうのは、そのこと自体が楽しいし、結局何にもなくていいんじゃないかって、その時に思えたんですよね。

──最後のシーンがこの作品の最もよく語られ、評価を受けている部分ですが、ネタバレになるので、“ここから先は、読みたい方だけ読んでいただく”という前提でお聞きします。最後にユウタが気球に対面するシーンの表情が、とても印象的でした。気球には、どんな思い入れがあったのですか。

それは多くの人に指摘された部分です。最後のシーンは、はじめは決めていなかったんですよ。どうやって終わらせるかを考えていた時に、ちょうどテレビで、映画が発明されて最初に撮影された映像を放映していて、それが気球が飛ぶ映像だったんです。それを偶然見ていて、その映像自体が、自分の作品のテーマに合っているのではないかと思いました。
少し見方を変えれば、世界は変わる。でも見方が変わるというのは、決して明るい話だけではなく、そこには寂しさも悲しさもあるのだと思う。だから、この映画を見る人の感想は、2つに分かれるのだと思います。明るい青春映画だねと言う人もいるし、救いがない、寂しい話だねと言う人もいました。どちらも、わかるような気がするんです。
気球のシーンでは、僕はカメラマンとして、インストラクターの方と一緒に乗りました。気球って、地上から見ているとすごい勢いで上がっていきますが、乗っていると、まったく風を感じないんです。風に乗って一体化するので、無風。どこにいくかもわからない感じでふわふわした不思議な感覚でした。着地した時の衝撃で、初めて、すごい速度で飛んでいたんだって気づくんです。撮影時は、真上に上がって行くのかと思っていたら、真横に流れたので、ユウタ役の小泉君に走ってもらって、途中カメラを落としそうになりながら、夢中で撮影しました。

──この作品を撮ったことで、“死”に対する感じ方は変わりましたか。

それはやっぱり変わりませんが、映画に出会えてよかったと思うのは、自分の抱えているものを、そのまま映画という作品に出来る、ということですね。普通に会社勤めをしていたら、その考えや見方とどう向き合ってたんだろうなと思います。昔、姉にその話をした時に、「そんなの、仕事し始めたらすごく忙しくなって、すぐ忘れちゃうよ」って言われたんですけど、一時的に(死に対する恐怖を)忘れられることができても、仕事を退職して、70、80歳になった時に、また向き合うことになったらと思うと…。

──それは恐怖ですね。

地獄ですよね。だから、今はまだ若いっていうところに、甘えているところは大きいと思うんです。

──この作品に関しては特に、自分自身の一番の課題だった“死”と向き合うこと自体が、作品づくりの根幹にあるんですね。

そういうことになるのかもしれません。映画を撮りながら、わかることも多いです。ああ、自分はこんな風に考えていたんだなって。それから、自分は世の中のことを、まだ何も知らないんだなと、毎回思います。例えば、『世界グッドモーニング!!』では、ホームレスの方の描き方がよくないと反省したり…。だから、映画を作ることで自分がどう変わるのか、何ができるかわからなくても、それでも作り続けて行くのだと思います。

(インタビュー・文・写真:鈴木沓子)



廣原暁 プロフィール

1986年東京生まれ。武蔵野美術大学卒業。東京藝術大学大学院 映像研究科修了。2009年に制作した『世界グッドモーニング!!』が2010年PFFアワードにて審査員特別賞を受賞。さらに同年、第29回バンクーバー国際映画祭ドラゴン&タイガー・ヤングシネマ・アワードグランプリ受賞を皮切りに、第61回ベルリン国際映画祭など世界各国の映画祭にて上映される。最新作『返事はいらない』は東京国際映画祭 ある視点部門に出品された。 他作品に、『紙風船(第一話「あの星はいつ現れるか」)』(2010)、『遠くはなれて』(11)など。PFFスカラシップを獲得し、現在は新作映画の準備に余念がない。
http://www.satoruhirohara.com/




『世界グッドモーニング!!』

主人公のユウタは高校一年生で、母親と二人暮らし。あだ名ジャミラ。クラスではさえない方だけど、音楽が好きな、平均的な男子高校生。家と学校の往復だけの日々。ある日、ユウタは、ホームレスの鞄を盗んでしまう。特に理由なんてなかった。次の朝、こっそり鞄を返しに行くと、ホームレスの男性は死んでいた──。

監督・脚本・編集:廣原暁
撮影:小荒井寛達、廣原暁
音楽:ARTLESS NOTE
照明:丹山浩克 録音:高橋 玄、藤川史人
製作・美術:篠原彩子
出演:小泉陽一朗、新井美穂、泉 光典、森本73子ほか
(2009年/81分/カラー)

【映画祭出品歴】
第12回京都国際学生映画祭 準グランプリ・観客賞/第32回ぴあフィルムフェスティバル 審査員特別賞 第29回バンクーバー国際映画祭 ドラゴン&タイガー・ヤングシネマ・アワード(グランプリ)受賞/第61回ベルリン国際映画祭 フォーラム部門出品/ポートランド国際映画祭(アメリカ)出品/ブレダ国際映画祭(オランダ)出品/香港国際映画祭 アジアデジタルコンペ部門 国際批評家連盟スペシャルメンション授与/ブエノスアイレスインデペンデント国際映画祭 メインコンペ部門出品/第25回 高崎映画祭出品/第5回シネマデジタルソウル映画祭出品/INDIE2011国際映画祭(ブラジル)/ウラジオストーク国際映画祭(ロシア)/カメラジャパン映画祭(オランダ)




『オールモスト・フェイマス-未配給映画探訪』連動企画
『世界グッドモーニング!!』な夜
(ライブ出演:ARTLESS NOTE、トーク出演:木下雄介×森岡龍×廣原暁)

『世界グッドモーニング!!』が一夜限りの上映決定!本作上映だけでなく、同作品で音楽を担当しているARTLESS NOTEが一夜限りの特別編成で、映画の世界観に沿ったライブ演奏を披露するほか、廣原暁監督そして同世代の新鋭監督によるトークイベントも行われる。

日時:2012年5月26日(土)
会場:渋谷アップリンク・ファクトリー

(東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1F tel.03-6825-5502)[地図を表示]
料金:当日一般2,300円/予約2,000円/学生1,800円(ともに1ドリンク付)
上映作品:『世界グッドモーニング!!』(監督:廣原暁/81分)
ライブ出演:ARTLESS NOTE(『世界グッドモーニング!!』音楽担当)
トーク出演:木下雄介(映画監督)、森岡龍(俳優/映画監督)、廣原暁(映画監督)
イベントの詳細・ご予約は下記より
http://www.uplink.co.jp/factory/log/004437.php


▼『世界グッドモーニング!!』予告編


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