骰子の眼

music

東京都 渋谷区

2012-04-25 10:33


サイン波を操る中野テルヲが語る「電子音楽で生の質感を出すには」

新作『Oscillator and Spaceship』発表、4/29アップリンクで楽曲制作を解剖するイベント開催
サイン波を操る中野テルヲが語る「電子音楽で生の質感を出すには」
中野テルヲ(ワンマンライブが行われた高円寺HIGHにて)

元P-MODEL、LONG VACATIONで、現在ソロ活動を展開している中野テルヲがアルバム『Oscillator and Spaceship』をリリース、4月29日(日)に渋谷アップリンク・ファクトリーで「中野テルヲ流 音楽制作術」と題したイベントを行う。好評のため既に予約締切となっているこのイベントの直前、中野氏に話を聞いた。
超音波センサーや短波ラジオなどを駆使して楽曲を完成させる彼の最新作『Oscillator and Spaceship』は、2009年から活発となったライブ・パフォーマンスの影響が少なくないという。
「ライブでは、演者の動きと、照明や装置が光るのと、音と映像の全部がシンクロしている感じを大切にしていて、それが観る方にエンターテインメントとして伝わってくれればいいと思っています。前作『signal / Noise』(2011年)からCDJを取り入れています。声やサイン波のフレーズを取り込んでスクラッチしたりリバースしたりすることで、表現のバリエーションは広がっていますね。以前はコンピューターでブレイクビーツを打っていたんですけれど、今はCDJで生で叩くようにしているので、そのグルーヴ感の変化はあると思います。打ち込みやコンピューターを使っているけれど、ライブのグルーヴは常に意識していますし、お客さんと同期している感覚は感じます」。

多くのトラックメーカーがキーボードなどの楽器を使うところを彼は発振器を使う。ライブの回数が増えたことで、予期していない機材の動きがあったとしても、トラブルも楽しめるような余裕が出てきたという彼だが、実際に今作収録の『雪山』はライブで共演した狂言師とのコラボレーションから生まれた〈狂言ミーツ電子音楽〉と言えるナンバーで、和的な旋律と電子音の相性の良さに驚くことだろう。

「いつも使うのが、サイン波を使ってベーシックを作っていくやり方です。発振器のもとのクリーンな状態のサイン波で核となるものを作って、その上に肉付けしていくんです。サイン波の周波数の低い部分でビートを作って、音階的なフレーズやスケールを持ったものでメロディを作っていきます。声を使うことによって、メロディも含めて、ポップなものに聞こえるように意識しています。電子音だけだと表現しきれない気がするんです。歌詞に関しても、フレーズができたときに、韻が決まってきます」。

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他にも今作では、レゲエやダブ的要素が色濃く感じられるところも、より自由にアイディアとサイン波を融合させることによる結果だろう。

「『振動子』という曲は特にそうですね。レゲエのベースラインの下のほうの周波数の絡みは影響を受けています。何種類かに変化するエコーの使い方やイコライジングといった音響的な部分、それから裏を打っているビートとの組合せによるダブ的な手法は実際ライブでも取り入れていて、生でエコーをかけたり、ボーカルは細かいディレイの時間をその場で調整しています。私のライブは、もとから録音してあるものはほとんどなくて、ブレイクビーツも自分で叩いていますし、ボーカルや楽器のディレイもすべてステージ上でミックスしているんです。電子音楽といっても、生の質感が出ているのはそういう部分が大きんじゃないでしょうか」。

また、近年の電子音を多用したヒップホップのムーヴメントとのリンクも感じられるのが興味深い。

「たまたまDJ Qbertを聴く機会があって、電子音をスクラッチしているところを見て、すごい表現力が豊かだなと気にはしていたんです。今作では特に『Game『は意識的に韻を踏んだ言葉の置き方をしていて、ヒップホップの要素が感じられると思います」。

今回アップリンクで開催される、彼としてはほぼ初となる音楽制作のワークショップ的イベント「中野テルヲ流 音楽制作術」は、彼がステージ上でどんな機材の操作をしているのかをより詳しく客席から知ることができないか、という考えから企画された。

「サイン波を自分でサンプリングして、CDJに持ってきているんですけれど、どんな音をスクラッチしているのかを見せてしまったり、トラックをバラバラにして聞かせたり、種明かしみたいな内容ですね(笑)。私の音楽がどういう風に成り立っているのをわかってもらうと、ライブやCDを聞いてもらったときに違う理解で楽しんでもらえるかなと思っています」。

この日は、普段音楽制作に用いている各種発振器を会場に持ち込み、音楽制作の過程のレクチャーが行われ、またこの日のためだけに、発振器を前面に出したパフォーマンス、そしてミニライブも行われる。実験的なプロセスを立脚点としながら、極めてポップである、彼の音楽の魅力を新たな角度から知ることのできるイベントとなるだろう。

(インタビュー・文:駒井憲嗣)



中野テルヲ プロフィール

1963年8月12日東京生まれ。ミュージシャン。P-MODEL(1986~1988年在籍)、LONG VACATION(1991~1995年)を経て1996年、アルバム『User Unknown』でソロ活動を開始。超音波センサーや短波ラジオを駆使した演奏スタイルで独自の電子音楽を展開している。代表作:『Dump Request 99-05』(2005年)、『Pilot Run Vol.1』(2009年)、『Pilot Run Vol.2』(2010年)、『Signal / Noise』(2011年)。
http://www.din.or.jp/~teru-o/




「中野テルヲ流 音楽制作術」
2012年4月29日(日)
渋谷アップリンク・ファクトリー

17:30開場/18:00開演
料金:予約2,000円/当日2,300円(ともにドリンク別500円)
こちらのイベントは定員に達しました為、以降キャンセル待ちでのご案内となります。
http://www.uplink.co.jp/factory/log/004410.php




中野テルヲ『Oscillator and Spaceship』

発売中
DDCH-2330
価格:2,100円
ビートサーファーズ


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▼中野テルヲ「現象界パレット」(2011年6月4日、高円寺HIGHでのライブより)



キーワード:

中野テルヲ / P-MODEL / LONGVACATION


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