骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2012-05-22 21:40


登場人物たちのどうにもコントロールできない哀しみにほとほと疲弊した

媚びない映画を撮り続けたジョン・カサヴェテス レトロスペクティヴ『こわれゆく女』クロスレビュー
登場人物たちのどうにもコントロールできない哀しみにほとほと疲弊した
『ジョン・カサヴェテス レトロスペクティヴ』より『こわれゆく女』 (c)1974 Faces International Films,Inc.

ジョン・カサヴェテスが妻であるジーナ・ローランズを主演に、共演者に盟友ピーター・フォークを迎えたこの作品は、カサヴェテス監督の作風が端的に現れた、まさに代表作と呼んで差し支えない作品だ。まずジーナ・ローランズが演じる土木作業の現場監督の妻が次第に変調をきたしていく姿のあまりにリアリティに満ちた演技は、単に夫婦だから、というところを超えた監督と女優との信頼関係、そして結びつきを感じずにはいられない。こわれもののような妻の精神を落ち着かせようとやっきになる夫、不安にさいなまれながら献身する姿は、市井の人を描き続けたカサヴェテスの真骨頂だ。

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『ジョン・カサヴェテス レトロスペクティヴ』より『こわれゆく女』 (c)1974 Faces International Films,Inc.

夫婦の家に作業員たちが押しかけ食事をするシーンや、戻ってきた妻を大勢の仲間が出迎える場面でのドキュメンタリー的とも言える演出も、夫が妻への愛を不器用に求めながらすり抜けてしまうどうしようもなさに臨場感を与える。些細だけれど、ふたりにとってはかけがえのない人と人との関係を修復させるための闘いに、カサヴェテスはこだわり続けた。ひょっとして難解では?と敬遠している方も、この作品をご覧いただいて、少しでも興味を持っていただけたら、その他のカサヴェテスの作品を数珠繋ぎに体験してみることをお薦めする。そこに通底する作家性、というより、体を張って映画に人間関係の不安定さや機微を刻み込もうとした彼の軌跡から映画の楽しさをあらためて知ることができるだろう。

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『ジョン・カサヴェテス レトロスペクティヴ』より『こわれゆく女』 (c)1974 Faces International Films,Inc.



『ジョン・カサヴェテス レトロスペクティヴ』
5月26日(土)より、シアター・イメージフォーラム他にて全国順次公開

上映作品:
『こわれゆく女』1975年(プリント上映)
『ラヴ・ストリームス』1984年(プリント上映)
『アメリカの影』1959年(デジタル上映)
『フェイシズ』1968年(デジタル上映)
『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』1976年(デジタル上映)
『オープニングナイト』1977年(デジタル上映)
配給:ザジフィルムズ
公式サイト:http://www.zaziefilms.com/cassavetes/

『こわれゆく女』
精神のバランスを崩した妻と、土木工事の現場監督を務める夫。壊れかけそうな家庭を繋ぎとめようとする夫婦愛を描いたカサヴェテスの代表作の一つ。脚本はジーナ・ローランズ主演の戯曲として執筆。ゴールデングローブ賞最優秀女優賞(ドラマ)受賞。アカデミー賞最優秀主演女優賞、監督賞ノミネート。
監督・脚本:ジョン・カサヴェテス
製作:サム・ショウ
出演:ジーナ・ローランズ、ピーター・フォーク、マシュー・カッセル、マシュー・ラボートー
1975年/アメリカ/147分/カラー/ヴィスタ




▼『ジョン・カサヴェテス レトロスペクティヴ』予告編



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