骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2012-03-16 14:30


歴史から学ばなければ、また同じことが繰り返されてしまう

映画『プリピャチ』の舞台となった街に生まれたサーシャさんが伝えるチェルノブイリ事故
歴史から学ばなければ、また同じことが繰り返されてしまう
渋谷UPLINK ROOMで開催された映画『プリピャチ』のトークイベントに出演したプリピャチ・ドットコムのサーシャ・スィロタさん

チェルノブイリ原発から12年後、4キロの街に住む人々の暮らしを描いた映画『プリピャチ』を公開している渋谷アップリンクで、福島第一原発事故から1年となる3月11日、プリピャチ・ドットコムの副代表サーシャ・スィロタさんがトークショーを行った。プリピャチ・ドットコムは、映画の舞台となる街・プリピャチの現在の状況、そして原発事故の教訓を世界に発信するサイトで、この日は事故当日の街の模様を捉えた短編映像も日本で初めて上映された。

「事故が起きたその日に避難できていたら、もっと被害は少なかったかもしれない」

サーシャ・スィロタさんは9歳のときチェルノブイリ原発事故で被曝し、現在はプリピャチ・ドットコムの副代表を務めるかたわら、チェルノブイリ原発の見学者のためのガイドをしながら、この問題を世界に問い続けている。映画『プリピャチ』の上映後に登壇したサーシャさんは「この映画に出てくるのが、僕が生まれ育った街です」とプリピャチを紹介し、トークをスタート。2003年に開設したプリピャチ・ドットコムについてサーシャさんは次のように解説した。

「まだソーシャルネットワークが普及していないときでしたが、プリピャチに関わっていた人たち、そこにかつて住んでいた人たちを繋げるための、ネットワークを作ることが目的でした。各地で写真やビデオ、新聞の記事を集めることから始めました。最初はプリピャチ出身の人たちのためのサイトを考えていたのですが、それが拡大して、全世界の人が登録して、チェルノブイリに興味のある人たちが訪れフォーラムに参加しています。今はサイトに国や地域は様々な50,000人を超える人が登録していて、毎日5,000人がアクセスしています。活動が拡大していったので、2007年に団体を作り、国際的な活動を行なっています。また今回の作品のように、過去に撮影された映像を編集してサイトにアップすることも行なっています」。

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『忘れがたきこと』より

今回のイベントで日本初上映された『忘れがたきこと』は、35歳で亡くなるまでに多くのチェルノブイリ原発事故についての映像を残したミハイル・ナザレンコの手によるもの。事故が起きた1986年4月26日、そして翌日の27日の街の様子が監督自身のナレーションとともに収められている。発生したガンマ線により、フィルムにフラッシュのような光が写っていることが街の危険な状況を生々しく物語っている。この作品は3月17日(土)より渋谷アップリンクでの『プリピャチ』12:50の回上映で併映されることが決定した。

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『忘れがたきこと』より

観客とQ&Aでサーシャさんは、『忘れがたきこと』に記録された事故当日と2日目の政府の対応についても答えた。
「私の家から発電所まで直線で1.5キロくらいしかなかった。事故が起きたその日の時点でもし避難できていたら、もっと被害は少なかったかもしれません。誰かが決定し、告知されるまでの時間は遅かったと思います。当時共産党の官僚で決定権を持っていた人たちは、いまよくテレビに出て取材に答えているのですが、彼らは『準備はできていた』『対策を講じていた』と口々に言いますが、それは嘘だと思っています。いちばん適切な対策は、すぐに市民に『家にいて、ドアと窓を閉めて濡れた雑巾で窓を拭いて外に出ずに指示を待っていてください』と伝えることだったと思います。でもそれをしなかった言い訳として彼らは『パニックになってもっと犠牲が多くなるから、すぐには知らせなかった』と言っているのです」。

「いま福島の人々に大事なのは精神面でサポートすること」

現在のプリピャチについてサーシャさんは「器官がやられてしまうので、たばこを吸ってはいけない、長袖の服を着る、外で食べ物を食べないといったことを注意すれば、短時間いても問題ない」と報告。放射線量は下がっているものの、人が住めない状態であることは変わらず、皮肉なことに、ウクライナ有数の緑のある地域として知られるようになっているという。観光やサーシャさんのような研究作業のために入る人が少なくなく、放射能より建物が崩れる危険性のほうが高い。また事故後も稼働していた3号炉を2000年に停止したチェルノブイリ原発についても、「12年経った現在も廃炉にするために3,000人くらいの作業員が残って作業していて、管理が必要とされている」と語った。

プリピャチ・ドットコムは、プリピャチを博物館のように残し、訪れた人たちに、プリピャチとチェルノブイリで起きたことを知ってもらいたいと計画。そして「チェルノブイリから25年経っても昨年の福島で事故が起き、人は学んでいないのではないかという印象を受ける。世界で人間の愚かな活動による事故が起きないようにしていきたい。歴史から学ばなければ、同じようなことが起きてしまいます」と提言した。

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映画『プリピャチ』より

サーシャさんは、それまでは病院に行ったことはないほど健康だったものの、事故後1986年の5月に入院し、そのまま4ヵ月病院で過ごして以来、1996年まで毎年2ヵ月ずつ入院しなければいければならなかったという。入院していたとき、周りの子どもたちにいちばん影響が出ているのは胃腸や甲状腺、血液関係の病気で、サーシャさん自身、25年経った現在も心臓の薬を持って出歩かなければならない。

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映画『プリピャチ』より

日本でも心配されている内部被曝の問題についてサーシャさんは、「内部被曝について測定するのは難しいですが、食べ物や空気から体のなかに入る汚染は非常に危険です。私の知っている限り、発電所の事故を処理していた人たちや住民の人たちで、体に問題がない、という人がいない。何らかのかたちで被害を受けています。ただ、精神的なストレスの可能性もありますし、放射能の影響には個人差があって、大量の放射線を浴びるような発電所で働いていても、問題がないという人もいる。何が原因で体を悪くしたかを突き止めるのは難しいのです。でも食べ物や水についてはこれからも警戒していかなければなりません。そして大事なのは精神面でサポートすることだと思います。特に福島の人たちが暮らしやすいように、優しい環境を作るのがその人たちの健康につながるのではないかと思います」と訴えた。
サーシャさんはこの上映の後福島に赴き、現地での取材の模様はプリピャチ・ドットコムでレポートされることになっている。

(取材:駒井憲嗣)



映画『プリピャチ』
渋谷アップリンク新宿武蔵野館他公開中、全国順次公開

監督・撮影:ニコラウス・ゲイハルター
1999年/オーストリア/100分/HDCAM/モノクロ
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/pripyat/

3月17日(土)より12:50の回終了後
チェルノブイリ事故当日のプリピャチの模様を収めたドキュメンタリー『忘れがたきこと』を上映
(監督:ミハイル・ナザレンコ/約10分)

トークイベント開催

3月16日(金)19:30より トーク付き上映会
ゲスト:池田香代子氏(ドイツ文学翻訳家)

http://www.uplink.co.jp/factory/log/004336.php
以上、渋谷アップリンクにて開催




▼『プリピャチ』予告編



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