ベルリン映画祭本年度のジェネレーションKプラス部門で「子供審査員特別賞」を受賞した今泉かおり監督(中央)
現地時間の2月9日から開催されていた第62回ベルリン国際映画祭が2月19日に閉幕。審査委員長を務めるマイク・リー監督のほか、ジェイク・ギレンホール、シャルロット・ゲンズブール、フランソワ・オゾン監督、アスガー・ファルハディ監督が審査員を担当した今年の映画祭、最優秀作品賞である金熊賞にパオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ監督の『Cesare deve morire (Caesar Must Die)』(原題)が輝いた。
またベルリン映画祭の中で「コンペティション」「パノラマ」「フォーラム」に並ぶ正式部門として子供たちが賞を選出するというユニークな部門「ジェネレーション」のうち、11歳から14歳の11人の子どもの審査員によって選ばれる「ジェネレーションKプラス」で今泉かおり監督の『聴こえてる、ふりをしただけ』(今夏アップリンク配給により公開予定)が「子供審査員特別賞( Special Mention by the Children's Jury)」を受賞した。この賞はグランプリに相当する「クリスタル・ベア賞」(『ARCADIA』Olivia Silver監督)に次ぐ準グランプリに相当。本作は、本業が精神科の看護師であり、2人の子供の母親でもある今泉監督による初の劇場長編作。撮影は一児目を出産した時の育児休暇中に行われた。
今泉監督は受賞にあたり、「みなさんご存知のとおり、日本は昨年震災でたくさんの人が亡くなりました。親をなくした子どもたちも、たくさんいます。この映画は、母をなくした子供が悲しみを乗り越え、成長する姿を描いた作品です。このような賞をベルリンでもらって、日本にもって帰れることをうれしく思います。一番うれしかったのは、子供を描いた作品を、子供審査員の方々が選んでくれたことです」と喜びを語った。
そして、「私は、26歳で映画の専門学校に行き映画を作る事を夢見ました。映画監督としては遅い方かもしれませんがこうやってベルリン映画祭で上映される事ができとてもうれしく思います。ですので、ここにいる子供の皆さんも、やりたいことをあきらめずにやればきっとできると思うという事を忘れないで、夢を持ち続けて欲しいと思います」と客席へエールを送った。
今泉かおり監督
ジェネレーション部門は合計3回上映が行われ、各劇場とも1,000人規模のキャパであるが、客席は常にほぼ満席で8割を子供が占める。午前の会は、学校のクラス単位で授業に映画を鑑賞するプログラムがあるという。
上映会にて
上映会にて
上映会にて
午後は親が子供を連れて観にきたり、子供達だけで映画を観に来ている。上映後の質疑応答も大半が子供の質問で、映画の内容に深く突っ込んだ質問が多く、「で、結局主人公のサッちゃんは幸せになったと考えていいのでしょうか」という質問がある一方、ロビーでサイン攻めに会う監督に対して「ペットは何を飼っていますか?」というかわいい質問などもあった。
上映会にて
上映会にて
上映会にて
また、14~18歳が審査員を務める「ジェネレーション14プラス」では、平林勇監督が東日本大震災をテーマにしたアニメーション『663114』が審査員特別表彰を受けた。
そのほか、短編銀熊賞に和田淳監督によるアニメ『グレートラビット』が選ばれ、実験的・革新的な作品を集めたフォーラム部門にヤン・ヨンヒ監督の『かぞくのくに』がCICAE賞(国際アートシアター連盟賞)を受賞。今年のフォーラム部門には、他にも岩井俊二監督『friends after 3・11』、舩橋淳監督『ニュークリア・ネイション』、、藤原敏史監督『無人地帯』と、日本から3本の東日本大震災および福島第一原発関連の映画が出品され話題を呼んだ。なかでも『ニュークリア・ネイション』の上映時には、劇中音楽を担当した坂本龍一も挨拶で登壇した。
主な受賞結果は以下の通り。
金熊賞=パオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ監督『Cesare deve morire (Caesar Must Die)』
銀熊賞=Bence Fliegauf監督『Csak a szel (Just The Wind)』
審査員グランプリ=クリスチャン・ペツォルト監督『Barbara』
男優賞=Mikkel Boe Folsgaard(ニコライ・アーセル監督『En Kongelig Affare (A Royal Affair)』)
女優賞=Rachel Mwanza(Kim Nguyen監督『Rebelle (War Witch)』)
芸術貢献賞=撮影:ルッツ・ライテマイヤー(ワン・チュアンアン監督『Bai lu yuan (White Deer Plain)』)
アルフレート・バウアー賞=ミゲル・ゴメス監督『Tabu』
脚本賞=Nikolaj Arcel、Rasmus Heisterberg(ニコライ・アーセル監督『En Kongelig Affare (A Royal Affair)』)
特別賞=ウルスラ・メイヤー監督『L’Enfant d’en haut (Sister)』
短編金熊賞=Joao Salaviza監督『Rafa』
短編銀熊賞=和田淳監督『グレートラビット』
『聴こえてる、ふりをしただけ』
今夏アップリンク配給により公開予定
母親を亡くした11歳のサチ。「母親は魂になって見守ってくれている」と周囲の大人から言われるが、信じられずにいた。そんなある日、お化けを怖がる女の子が転校してくる……今泉かおり監督が自らの体験と記憶をもとに繊細に描く“目には見えない魂”の物語。
監督・脚本・編集:今泉かおり
撮影:岩永洋 撮影助手:戸羽正憲・倉本光佑 助監督:平波亘、増田和由
録音:根本飛鳥・宋晋瑞
録音助手:坂井晶子
音楽:前村晴奈
出演:野中はな、郷田芽瑠、杉木隆幸、越中亜希、矢島康美、唐戸優香里、工藤睦、木村あづき、山口しおり、芳之内優花、橋野純平、松永明日香、諸田真実
2012年/日本/99 分/16:9/カラー
今泉かおり プロフィール
1981年 大分県生まれ。看護師として働く一方、監督を志し、2007年ENBUゼミナールに入学。卒業制作の中編作品「ゆめの楽園、嘘のくに」は、2008年度の京都国際学生映画祭にて準グランプリを獲得。現在も看護師として働く中、長編第1作となる今回の作品は、長女の育児休暇を利用して作製されたもの。
今泉かおり監督『聴こえてる、ふりをしただけ』─観た大人を一度子供に戻し、その後大人にさせる映画(2011-09-30)
▼『聴こえてる、ふりをしただけ』予告編