骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2012-02-17 13:00


拉致してセックスして愛を告白するのも、ひとつの愛のかたち

問題作『世界最後の日々』遂に映画化!原作・山本直樹×内田英治監督インタビュー
拉致してセックスして愛を告白するのも、ひとつの愛のかたち
『世界最後の日々』より (c)2012「世界最後の日々」製作委員会

閉塞感に満ちた世界でうごめく愛とセックスを描き続け、連載中の『レッド』(講談社)をはじめ、『ビリーバーズ』『BLUE』などの問題作を発表してきた鬼才・山本直樹。その最高傑作とも言われる短編『世界最後の日々』が遂に映画化。2月18日(土)より渋谷アップリンクXでレイトショー上映される。公開にあたり、原作の山本直樹氏とメガホンをとった内田英治監督に今作で描かれる愛のかたちについて話を聞いた。
なお、初日となる18日の上映後には、山本氏と内田監督をはじめとするスタッフやキャストがトークに登壇。その他の日の上映にもトークショーが決定している。

ロックがすごく似合いそうな原作(内田)

──内田監督は山本さんの作品を愛読されていたんですか?

内田英治(以下、内田):初めて読んだのは、ある程度歳をとってからなんです。『YOUNG&FINE』というちょっと青春な話を最初に読んですごい衝撃を受けて、ずっと好きだったのでそれを最初に映画にしたかったんです。でもその後この短編『世界最後の日々』を読んでさらに衝撃を受けて、こちらの作品を映画化したいなと。『世界最後の日々』は先生の他の作品ともちょっと一風変わっていて、僕が好きな60~70年代アメリカのロードムービー調だし、感覚的に言うとロックがすごく似合いそう。読みながらギターの音が似合いそうという抽象的なところから入りました。

山本直樹(以下、山本):これは1999年の話ですが、80年代に最初に思いついたんです。世界が終わるという妄想に取り憑かれた少年がめちゃくちゃやるというのは、エロ展開もできるぞと。そうしたらソ連が崩壊してしまって、これはないなって。その後何年か経って「そういえば1999年があるじゃないか」って。それでそういう話にしたんです。世界が終わる、と思ったらけっこうなんでもできるじゃんっていう発想からはじまった。自分が死ぬんだったら何でもできるというのが『夏の思い出』という漫画のひとつの発想だったんだけれど、この『世界最後の日々』はそうなったら男子高校生はどうなるかっていう実験みたいに作ったんだけれど、だんだん描いていくうちに愛着がわいてきた。

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映画『世界最後の日々』の内田英治監督(右)と、原作の山本直樹氏(左)

──監督は撮るにあたって、こんな作品にしたい、ということを山本さんにお話されたんですか?

内田:もともとそんな、原作を映画化するからにはその世界観が好きでやってるわけで、そんなにまったく違うものにする方向は最初から考えていなかったのです。お会いして単純にやりたい!と。でも1999年は終わっていたので、そこは変えました。ただ僕が面白いと思ったのは、世界が終わると男の子が思い込んで、まず何をしよう、学園のマドンナである大好きな女の子とセックスをしよう、と考える。そこはすごくシンプルですけど、ぜったいそうだよなって(笑)。

山本:そうでしょう!

内田:例えばテレビドラマとか、普通の学園青春ものでも避けるところじゃないですか。好きな子を拉致するって、ある意味山本先生の核心というか、リアリティがある部分だなと思って。

山本:身も蓋もない部分ですね。

内田:通常の青春学園ものだとオシャレな恋愛が展開されるんだろうけど、山本先生の作品だからこそできる。

──映画化にあたっては原作のファンの期待に答えなければ、という意識はしましたか?

内田:山本先生のファンの方って、女性が多い気がして。一方的に男子目線じゃないようにしたいとは思いました。絵の美しさやストーリー性でしょうか?

山本:女の人が入っていける絵柄なのかもしれないです。

内田:学校のマドンナを拉致して連れていくんですけれど、好きだから、という部分は原作より強調して、ドラマチックな感じにはなっているかもしれないです。世界が終わっても君と一緒にいたいんだというような、そこはわかりやすく伝えたかもしれない。

山本:そのセリフを裵ジョンミョンさんの温度の低い声で言われると、また違う味わいがありますね。

内田:先生の作品を読んでいると特にそう思うんですけれど、何も「好きです」と言うのだけが男女の恋愛じゃない。この作品のように、彼氏を殺して拉致してセックスして愛を告白するのも、ひとつのかたちかなと。先生の作品は全部その愛のかたちが違うので、それはすごく勉強にもなるし刺激にもなります。

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『世界最後の日々』より (c)2012「世界最後の日々」製作委員会

主演の裵ジョンミョン君は温度の低い感じがいいですね(山本)

──主演のおふたり、裵ジョンミョンさんと、今泉ちえこさんをはじめ、キャスティングには苦労されたんですか?

内田:あのユミという黒髪で清純な感じの子は探しましたね。最近はみんなギャルなので(笑)。今泉は映画はほぼ初めてなんですけれど、うまくはまったなと思います。裵ジョンミョンに決めたのは、そもそも違う役者さんを見に行ったんですけれど、たまたまそこにいて、会った瞬間にこいつだな、と思いました。

山本:温度の低い感じがいいですよね。何考えてるかわからないところがあるでしょ。

──どんな演技指導や演出をしたんですか。

内田:彼はあの空気感があればいいんじゃないかと。普段もこの主人公みたいな奴なんで(笑)。だからドラマチックなユミちゃんとの正当的な芝居が必要とされるシーンは現場でやりとりしました。

山本:ボケっとして立ってるだけで様になりますよね。

内田:今泉は裵とは逆の方向性で、いろいろ話しあってけっこう詰めました。彼女は演劇出身なので、お芝居も正統派。それをもうちょっと山本ワールドに崩す方向で。あの役をやるには、それこそ愛と勇気が必要だと思うんですけれど、文字通り体当たりでがんばってくれました。

山本:この作品のなかでは唯一正気な人(笑)。彼女以外はどこかヘンな人ですよ。

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『世界最後の日々』より (c)2012「世界最後の日々」製作委員会

心理に直結した主人公の行動が魅力(内田)

──脇役も強烈なキャラクターばかりですが、山本さんの作画が常に頭のなかにあったんでしょうか。

内田:先生の作品からイメージするものプラスアルファですね。岩松さんであれば、コスプレおやじのキャラがあって、先生というと学生運動のイメージがあるので、運動家上がりの変態オヤジという、団塊の世代にも変態はいるでしょうから、そういう要素を足していくようにしました。

──山本さんは、描いているときはロードムービー的な流れというのは意識していたんですか?

山本:ロードといってもわりとすぐ終わっちゃうんだけれど、とりあえずこう進んでいったらどうなるんだろう、ということを考えていました。当時、香山リカさんの文章で「もっと続ければいいのに」と言われたりしたんだけれど、思いつかなかったのであの(短編の)サイズになったんです。

──撮影現場も見にいかれたんですか?

山本:いえ、映画化にあたってはコンビニ店員のシーンとかだけ「入れてもらえませんか」と、注文をつけさせてもらったんですが、そのぐらいですよ。自分は、映画は監督さんのものだと思うので、今までいくつか映画化になった作品はありますけれど、おまかせでお願いしているので、今回もそうです。それぞれの監督さんのカラーが出ていますよね。

内田:現実と幻想が入り乱れる作品なので、そこは今までやったことがなかったので、行動を見せるのか、悩んだかもしれないです。エンディングにしても、直感型の映画として作ったので、漫画では脇役だった演歌を歌う子をちょっとフィーチャーしてみたり、感じるがまま、先生の作品を読んだ僕の解釈で感じたことをそのまま脚本にしました。音楽も、アメリカン・ニューシネマを意識して、古いアメリカン・ロック的なギターのインストを使いました。そもそも先生の作品も答えがあるわけではないので。

ハッピーエンドの漫画が多すぎる(山本)

──「1999年が過ぎてもなにも変わらなかった」というようなセリフが出てきますが、その失望感のようなものは監督の実感なのでしょうか?

内田:それは1999年に限らず常に考えたりします。ある意味、ノストラダムスとかオカルトじゃなくて、日本が滅んでしまうんじゃないかと。でも「じゃあこうしたい」と不思議と何も思わないですよね。逆にこの主人公の行動というのは心理に直結していて、魅力だったのかなと思います。

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『世界最後の日々』より (c)2012「世界最後の日々」製作委員会

──主人公の嘉納に重ね合わせる部分は多かった?

内田:どうしてもハッピーエンドでよくできた物語というのだと「嘘つくなよ」と思ってしまうタイプ。こういう男の子の物語って少ないと思うので、すごく共感をしています。

──最後に、この映画をどう観てもらいたいですか。

内田:それこそ今60ぐらいで学生運動とかやっていて、普通のおじさんになっちゃった人たちや、あと裵ジョンミョン君みたいなネクラな青年とか、どう思うのかなと思います。

山本:このぐらいの年齢に鬱々としていて、青春を謳歌していなかった人はしていた人より多いと思うんだけれど(笑)、漫画で描いた頃も、周りがハッピーエンドの漫画が多すぎるなと思って、逆のことをやりたいと80、90年代描いていたけど、いまだにそうですよね。ハッピーエンドが悪いとは言わないけれど、多すぎるなと。ここはひとつ僕がバランスをとらないと、と思っているんです(笑)。

(インタビュー・文:駒井憲嗣)



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『世界最後の日々』
2012年2月18日(土)~3月2日(金)連日21:00
渋谷アップリンクX

とある田舎町の高校の授業風景。居眠りしている嘉納の机の上に、小さな「カミサマ」が現れる。中年のおっちゃん風のカミサマは「世界滅亡」を予言して消えてゆく。
どうせ世界が滅亡してしまうならと、死ぬ前に”やりたかったこと”をしようと決意する嘉納。まずは憧れの女子、学園のマドンナであるユミちゃんとのセックスだ。
こうして嘉納はユミちゃんの彼氏をバットで撲殺。そのまま誘拐して車を盗んで旅に出る。それは、愛とボーリョクの旅路であった―。

監督・脚本:内田英治
原作:山本直樹「世界最後の日々」
出演:裵ジョンミョン、今泉ちえこ、山本剛史、田中哲司、岩松了ほか
製作:東京さくら印刷/エイチ・ケイ・リミテッド/ミュージックシネマズジャパン/アジアンマイルストーン
2012年/16mm/96分
(c)2012「世界最後の日々」製作委員会

公式HP http://sekaisaigo.net/

トークショー決定!!

2月18日(土)
ゲスト:山本直樹(原作者/漫画家)、内田英治監督、今泉ちえこ、桑原麻紀
2月23日(木)
ゲスト:山本直樹(原作者/漫画家)、内田英治監督、裵ジョンミョン、今泉ちえこ
スペシャルゲスト:武田無我(ゲーム・アニメ脚本家/ストーリーライダーズ所属)
2月24日(金)
ゲスト:内田英治監督、裵ジョンミョン、今泉ちえこ、桑原麻紀
3月2日(金)
ゲスト:山本直樹(原作者/漫画家)、内田英治監督、裵ジョンミョン、今泉ちえこ、桑原麻紀さん
※各日上映後開催

▼『世界最後の日々』予告編



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