骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2012-02-06 10:40


「物語の情緒や画一化が嫌で実験映画を目指した」

三宅流監督のドキュメンタリー以前のモノクロ作品を16mmで上映、渋谷アップリンクOPEN FACTORY企画
「物語の情緒や画一化が嫌で実験映画を目指した」
『白日』より

渋谷アップリンク・ファクトリーが、クリエイター、映画製作者、イベンター、ミュージシャン、NPOなどの活動をサポートする趣旨で無料貸し出しする企画「OPEN FACTORY」。その第38弾企画として、最新作『究竟(くっきょう)の地 岩崎鬼剣舞(いわさきおにけんばい)の一年』が2月25日(土)よりポレポレ東中野にてロードショー公開となる三宅流監督による、過去作品の特集上映が行われる。

「三宅流-実験映画からドキュメントへ-」と題された今回のイベントは、『究竟の地』『朱鷺島 創作能「トキ」の誕生』と、近年では伝統芸能を取りあげたドキュメンタリーを連作している三宅監督のキャリアのスタートである実験映画をオリジナルの16mmフィルムで上映。さらに、実験映画とドキュメントを繋ぐエポック・メーキングな作品『面打/men-uchi』も上映される。

身体性にこだわる理由

「最近はドキュメンタリー作家みたいに思われているところはあったんですけれど、もともと実験映画を、身体性ということにこだわってずっとやっていて。たまたまドキュメンタリーという体裁になりはしましたが、自分としては根本的なところはそんなに変わっていないつもりです。ただ、向きあう対象が、自分のイマジネーションから、現実のものとどう向き合っていくか、いうあり方で身体性を出していこうというスタンスの変化はありました」。

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三宅流監督

三宅監督が実験映画にのめりこむきっかけは、学生時代のアンドレイ・タルコフスキー作品との出会いだった。

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「映画をやる人って映画が好きでやるようになると思うけれど、僕は19歳くらいまでは映画やテレビドラマのような作りこまれた情緒が、生理的に受け付けなかった。それで、たまたま『ノスタルジア』を知ってすごい衝撃を受けてしまった。タルコフスキーが『ノスタルジア』でやっていたことって、言語からもはみでるし、物語性からもはみでるような、物語性に置換すると、ぜんぜん成立しない。そこに言語におさまらないポエジーと可能性の広がりを感じた」。

『時間軸のゆらぎ』

今回上映される、『時間軸のゆらぎ』『神経節衝動』『蝕旋律』といった実験映画で、ダンスや舞踏の身体表現を、空間自体も身体性を反映させて作り込み、描いていくことに、三宅監督は物語性を超えた自由を感じたという。その後、ダンス的な身体を一切使わず人間の基本動作のなかにある身体性に意識をフォーカスした作品『白日』は三宅監督の転機となった。

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「立っていること歩くこと、座ることという日常の身体の所作をベースに、砂丘を舞台にして、砂や海、そこのものすごい風といった外部の強さと、内的なイマジネーションを侵食していくせめぎあいから新しいなにかが生まれてくるんじゃないかと思ったんです」。

『神経節衝動』

この実験映画期にこだわったモノクロ、16ミリというフォーマットについても聞いた。

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「当時は、フィルムでやることと、それがモノクロであることは同じくらい重要だった。人間の身体性と空間の身体性の輪郭を融解させたいという気持ちがあって、そこから感じるめまいというか。カラーと違い、モノクロだと人や物などすべての異なるものがひとつのトーンのテクスチャーに存在する。そこに鏡を用いることで、別の遠近法を持った空間をねじこんでいくことができるんです」。

『蝕旋律』

主体をずらして描くこと

そして、『白日』のアップリンクでの上映イベントがきっかけになり、22歳の若手面打、新井達矢を題材に制作された『面打/men-uchi』も、コンセプトは実験映画から連綿と受け継がれていたものだった。

「能面って、美術品というより能楽師に使われてこそはじめて活きる。単に面が完成するまでだと閉じた話になってしまうけど、その面が、ある公演に使われることが前提でこれから作られるとなると、そのプロセス自体が活きたものになるんじゃないか、おもしろいラインができるんじゃないかと思いました。彼が主人公のドキュメンタリーではなくて、木の塊から、木自体が能面師の手を使って自分の姿を現していくような、木のほうに主体性のある作品にしたかった」。

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『面打/men-uchi』

最後に、かたくなに物語性から離れようとする理由について、三宅監督はこんなふうに語った。

「主体をずらす、それから自分のこうあるべきという主体からずれた視点でいろんなものを眺めるという傾向は幼少期からの感覚としてあるかもしれない。物語性ってひとつ主体性があって、そのあるひとつの制度にいろいろな要素を画一化していくことじゃないですか。それにはすごく違和感を感じるんです。身体を描くにしても、『面打/men-uchi』のときのように頭にではなく、むしろ手の側に、手と木の塊との向き合いの方に強いある種の言語化されない意志性みたいなものがあるんじゃないかと思ったり。人間はひとつの思想があって、頭脳や人格に中心がいくけれど、主体をずらすことで、自我の主体性が頭にではなく、手元の側にある、そういう身体のありかたを描きたかった。

見ることって一方向しかない、ある種制度的で恣意的じゃないですか。実験映画をやりはじめた当初も『もっと原初的な感覚』と自分で言っていたんですけれど、外からみる形としての身体じゃなくて、内部の原始的な感覚、皮膚感覚みたいなものをどう視覚化するかということをずっと考えていたんです」。

ドキュメンタリー作品あるいは実験作品というカテゴリーを越えて、彼の作品に貫かれている眼差しをあらためて感じることができるイベントとなるであろう。

なお、OPEN FACTORYは現在、4月、5月の貸出を受付中。

(インタビュー・文:駒井憲嗣)



【関連記事】
ジーンズをはいた面打・新井達矢。木の塊から能面が生まれる瞬間を描いた『面打 / men-uchi 』(2009-03-30)




三宅流(みやけ ながる) プロフィール

多摩美術大学卒業。身体表現をモチーフにした映画を多く手掛ける。『蝕旋律』がイメージフォーラムフェスティバル、キリンアートアワードにて受賞。イモラ国際短編映画祭(イタリア)Mediawave2002(ハンガリー)等で上映される。『白日』はモントリオール国際映画祭ほか、フランスや韓国の映画祭で上映される。過去の作品は海外十数か国で上映され、いずれも高い評価を得る。伝統芸能を扱ったドキュメンタリー『面打/men- uchi』(06)、『朱鷺島 創作能「トキ」の誕生』(07)が話題となったのに続き、最新作『究竟の地 岩崎鬼剣舞の一年』が2月25日(土)よりポレポレ東中野にてロードショー公開。




UPLINK FACTORY

「OPEN FACTORY」企画第38弾
新作『究竟の地 岩崎鬼剣舞の一年』公開記念
映画監督・三宅流特集「三宅流-実験映画からドキュメントへ-」

2012年2月13日(月)19:00開場/19:30開演(22:30終演予定)
会場:渋谷アップリンク・ファクトリー

トーク出演:三宅流(映画監督)、石田尚志(美術家/映像作家)、金子遊(映像作家/脚本家)
料金:1,800円(1ドリンク付)
上映作品:『時間軸のゆらぎ』『神経節衝動』『蝕旋律』『白日』『面打men-uchi』
ご予約は下記より
http://www.uplink.co.jp/factory/log/004290.php

OPEN FACTORY今後の貸出日:
2012年4月9日(月)、4月10日(火)、4月30日(月)、5月1日(火)
応募締切: 2012年2月24日(金)
詳しくはアップリンク・ファクトリーHPまで
http://www.uplink.co.jp/uplinkinfo/open_factory.php




■リリース情報

『面打 men-uchi』
発売中

UPLINK
3,990円(税込)
ULD-451


▼『面打 men-uchi』予告編



キーワード:

三宅流 / 面打 / ドキュメンタリー


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