『イエロー・ケーキ』ヨアヒム・チルナー監督(左)とフリーライターの土井淑平氏(右)
23日、映画『イエロー・ケーキ~クリーンなエネルギーという嘘』のヨアヒム・チルナー監督の記者会見が自由報道協会の麹町報道会見場で行われた。
『イエロー・ケーキ~クリーンなエネルギーという嘘』は、原子力発電の燃料として使われるウランが、鉱石採掘の段階で処理不可能な放射性物質を大量に発生させている事実を、世界各地のウラン採掘現場への5年間に渡る取材により明らかにした作品。今回の記者会見には人形峠ウラン残土問題を追いかけているフリーライターの土井淑平氏も同席、今作のテーマになっているウラン採掘の日本での事情について言及した。
会見ではまず、小出裕章氏との著作『人形峠ウラン鉱害裁判―核のゴミのあと始末を求めて』(批評社)でも知られる土井氏が、鳥取県と岡山県の県境にあるウラン鉱床、人形峠鉱山で起こった〈核のごみ戦争〉について解説。「2000年には2つのウラン残土撤去の訴訟が起き、そのうち鳥取県湯梨浜町の方面(かたも)自治会が起こした訴訟は勝訴。最高裁の決定で、2006年に方面地区のウラン残土3,000立方メートルの撤去を完了し、原発関連の訴訟では日本で唯一の勝訴となった」と語った。
映画『イエロー・ケーキ~クリーンなエネルギーという嘘』より
その後の質疑応答で、本作に登場する原子力企業が採掘したウランが軍事産業にどれだけ供給されているか、という質問に対してチルナー監督は「オーストラリアとナミビアはイギリスのリオ・ティントというイギリスの鉱山を扱う多国籍企業の傘下の採掘会社があるが、オーストラリアは国で軍事利用が禁止されているので、あくまで平和利用ということで、原子力エネルギー産業にしか供給されていない。しかし、フランスのアレバ社や、カナダのウラニウムシティも、この映画に登場するヴィスムント(旧東ドイツにあったウラニウム鉱山)がなくなった後のアメリカの核計画の要となっているので、間違いなく軍事産業にも供給している」と答えた。
98時間に及ぶの映像素材から108分に編集したという監督は、残念ながら本編からカットせざるを得なかったエピソードとして、カナダのサスカトゥーンでの事件を挙げ、「環境問題を扱うごく少人数の団体がカナダのウラン鉱山会社カメコ社とアレバ社に対して訴訟を起こしたところ、第一審で勝訴し、ある鉱山を2年間採掘を阻止することに成功した。しかし、その土地にすむ所有者であるネイティブ・アメリカンから激しく抗議を受け、その後上級審で敗訴してしまった。実はその裁判の判事は、カメコ社の広報担当者の兄弟だった」と、鉱山企業が司法にまで影響力を及ぼしている実態と、企業とその土地の住民の生活問題との複雑な関係が明かされた。
また、日本では人形峠のウラン残土がレンガに焼かれ、一個90円で市販されていて、そのレンガは都内の参議院議長公邸敷地内や文部科学省の庁舎に使われている、という会場からの指摘について、チルナー監督は「素晴らしい解決策だと思います。もし議員宿舎で使われているのであれば間接的なテロ行為ですね」と苦笑した。
『イエロー・ケーキ~クリーンなエネルギーという嘘』は1月28日(土)より渋谷アップリンクにてロードショー公開される。
(取材・文:駒井憲嗣)
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ヨアヒム・チルナー プロフィール
1948年に旧東ドイツのヴィッテンベルクに生まれる。大学で美学と文化理論を専攻し、1975年にDEFA(1946年~1992年。旧東ドイツにあった映画製作会社)でドキュメンタリー映画の編集者としキャリアをスタートさせ、1980年から監督としても映画製作に関わる。ベルリンの壁崩壊後、1990年から1991年の間、映画・テレビ連盟の代表を務める。1991年に、彼を含むDEFAのアーティスティック分野の職員全員が解雇されたため、自主製作プロダクションUm Welt Film Produktionを設立。
『イエロー・ケーキ~クリーンなエネルギーという嘘』
2012年1月28日(土)より渋谷アップリンクにてロードショー
原子力発電サイクルの“川上”=ウラン採掘の裏に隠された真実を明らかにしたドキュメンタリー。オーストラリア・カナダ・アフリカのナミビア・旧東ドイツ等世界各地の採掘所を5年間に渡り丁寧に取材。処理不可能な放射性廃棄物の現状は見るものを驚愕させる。
監督:ヨアヒム・チルナー
撮影:ロベルト・ラーツ、ヤナ・マルジク、ラース・バルテル、フリード・ファイント、クリスチャン・マレツケ、アンドレ・グーツマン
編集:ヨアヒム・チルナー、ブルクハート・ドラクセル
ナレーション:ハンス‐エッカート・ヴェンゼル
歌:ヴェンゼル
音楽:フレッド・クリューガー
製作:Un Welt Film Produktionsgesellshaft GmbH
2010年/ドイツ/デジタル/108分
(c) 2010Un Welt Film Produktionsgesellshaft
日本版字幕:渋谷哲也
特別協力:東京ドイツ文化センター
配給:パンドラ
公式サイト:http://pandorafilms.wordpress.com/roadshow/yellow
▼『イエロー・ケーキ~クリーンなエネルギーという嘘』予告編