映画『プリピャチ』より
チェルノブイリ原子力発電所から約4キロメートルに位置する街、プリピャチ。1986年の原発事故の後、原発の周辺30キロメートルが立入制限区域「ゾーン」と呼ばれ、許可なく入ることができない「管理されたゴーストタウン」と化している。立入制限区域は有刺鉄線で覆われたフェンスで区切られ、兵士が区域内に入るすべての人々をチェックし、区域内からいかなるものも持ち出すことは禁止されている。
映画『プリピャチ』より
映画『プリピャチ』は原発や関連施設で働く人々や、許可を得て帰還した人々など、プリピャチの立入制限区域で生きる人々を、『いのちの食べかた』のニコラウス・ゲイハルター監督がナレーションや音楽を排し、モノクロの映像で記録していく。
「チェルノブイリで起こったことは世界中に知られ、記録されてきた。だが、たまたまその地域で生まれ生活していた人たちが事故の結果と実際に向き合い、どう折り合いつけざるをえないかということは、これまできちんと提示されたことがなかった。私の映画は後の世代にとってある種の年鑑のようなものだと思っている」。(以上、プレスより引用)
映画撮影のために監督たちは3ヵ月間《ゾーン》に滞在した。低線量の場所を選び、食物も外部から取り寄せたという。にもかかわらずオーストリアの放射線作業従事者の年間許容量を超える被曝をした。恐るべき危険な撮影だとこちらが息をのむ間もなく、監督は「その土地には線量計も持たず、外部から食料を取り寄せることもできず生活している人たちがいる」と指摘した。映画『プリピャチ』を見るという体験は、日常や社会通念が完全に食い違ってしまった2つの世界を往来することに等しい。郷土愛を語る言葉はまるで遺言のように響く。一方で「この土地には150年経っても人は住めない」という専門家の声は、10万年後というSF的な次元の話ではなく、今まさに人間の生活圏が壊れつつあるという現実を直視させる。『プリピャチ』のモノクロ映像は、《ゾーン》という領域がまさに不可逆的に生まれてしまった不条理を象徴しているのかもしれない。
──渋谷哲也(ドイツ映画研究)
チェルノブイリ原発事故の処理関連の仕事でこの立ち入り制限地区に入った人は、そこを平気で「ゾーン」と言う。
けれど、住み慣れたふるさとが外部からある日突然「ゾーン」などと命名されて、穏やかでいられる人はいない。原発建設とともにニュータウンに移り住み、今は外から発電所に通うかつての住民は、ずたずたの心をその饒舌にあらわにする。原発以前からの旧住民、それは仲のいい老夫婦なのだが、この二人は過酷な現実を威厳とユーモアではね返す。きのこや魚をとって食べるのは、貧しいからでも無知だからでもない。それが、祖先の知恵と努力が染みついたふるさとでの、誇り高い生き方だからだ。
モノクロの、人物を真正面から捉えたロングショットという話法は、ラストの老人の述懐に至って、叙事詩の作法だったと思い知る。寡黙きわまる映像にもかかわらず、それを追う者の内部にはおびただしい思念が渦を巻き、気がつくと深く心を耕されている。
──池田香代子(ドイツ文学翻訳家・口承文芸研究家)
映画『プリピャチ』より
映画『プリピャチ』
2012年3月3日(土)、渋谷アップリンク他、全国順次公開
監督・撮影:ニコラウス・ゲイハルター
1999年/オーストリア/100分/HDCAM/モノクロ
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/pripyat/
試写会に5名様をご招待
公開に先立ち、本作品の試写会を観て400~600字程度のレビューを書いて頂ける方、5名様をご招待します。応募方法は下記から。ご応募の際、webDICEのアカウントをお持ちでない方は新規登録が必要です。(※当選された場合に必ず試写会に参加でき、レビューを書いてくださる方の応募をお待ちしています)
『プリピャチ』試写会5名様ご招待
日時:2012年2月13日(月)14:30開場/15:00開映
場所:渋谷アップリンク・ファクトリー(東京都渋谷区宇田川町37-18トツネビル1F)[地図を表示]
【応募方法】
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■応募締切:2012年2月6日(月)23:00
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▼『プリピャチ』予告編